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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   次回と迷う逸品


真桜との初夜を迎えてから早数日。

俺達の生活や関係性に大きな変化は無い。

真桜自身、長く家族として一緒に居るからね。

そういう意味では当然と言えば当然だろう。

華琳達にしても「あら、漸く?」という感じで。

寧ろ、遅い位だったらしい。

…うん、真桜の場合、マジで気付かなかったな。

璃々達の好意には結構直ぐに気付けたんだけど。

やっぱり、長い時間、“距離が近過ぎた”のが恋愛感情に対して鈍くさせたのかもしれないな。


…ただまあ、何と言いますか。

「自分でシてる時は…」とか言う真桜です。

抑圧されていた欲求が弾けたと言いますか。

……うん、ぶっちゃけ、エロ過ぎです。

ちょっと時間や隙が有ると強請って来ますし。

まあ、可愛いからいいんですけどね。

原作の李典も積極的な娘では有ったんだけど。

宅の真桜はイチャラブ系のエロ娘です。

それが真桜の普段のキャラと違うので萌えます。


──なんて事を頭の隅っこで考えながら筆を滑らせ山積みの竹簡を片付けている。

ちゃんと集中はしていますよ?。

それはそれ、これはこれなんで。



「………じぃ~~~~~ぃ………」


「………………」



擬音を口にしながら仕事をする俺の事を机の反対で顔を上半分だけ出して見詰めてくる恋。

別に邪魔をする訳でも、何かを強請る訳でも無く。

ただただ、俺の事を見詰め続けているだけ。


普通なら、気になって集中出来無い所だろう。

しかし、この行動自体は実は昔から有る事で。

俺に限らず、華琳達を相手にも遣っている。

…まあ、回数的に見れば「御兄様とは違います」と華琳に言われる位には違うんだけどね。


書き仕事をしていると身体を固定してしまう。

その為、時折解す為に筆を置き、身体を動かす。

その際に恋の姿を見ると心が癒されるんですよ。

ほっこり、ほんわり、ほややや~ん。


………ただね、こんな風に擬音を口にしているのは俺の記憶に御座いません。

──となると、何かしらの理由が有るんだろうな。

取り敢えず、恋から話を聞く為にも集中して仕事を終わらせてしまわないとな。

中断して遅れてしまったら、恋の責任にもなる。

それは愛妹兄(紳士)としては看過出来無い。

さあ、燃えよっ!、叫べっ!、轟き猛ろっ!。

我が妹魂(シスコン)の前に遮る敵は無しっ!。




──という感じで、通常の十倍速で仕事を終えた。

「遣れば出来るんなら、普段から遣れよ」とか言う巫山戯た奴は出て来いやあっ!。

こういうのは普段以上に消耗するから出来る訳で、日常的に遣ってたら負担が大き過ぎるです。

………え?、「いや、特典(チート)が有るだろ?」って?。

はははっ…エ~、ナンノ事デスカ~。

ワタシニハ、判リマセ~ン。



「恋、どうかしたのか?」


「………兄ぃ、御仕事は?」


「急ぎの物が入らない限りは、今日は終わりだな」


「…っ!………他に約束、有るの?」



話し掛ければ、遠慮勝ちに仕事の確認をする恋。

この辺りは俺達の教育の賜だと言いたい。

脳筋でも、野生児でも、腹ペコ娘でも有りませぬ。


そして、仕事が終わりだと判っても、他の皆と何か約束が有る可能性を考慮し、訊ねてくる。

犬耳や尻尾が有れば、嬉しさにピンブン状態の筈。

その感情を自制してです。

空気が読め、気遣いの出来る優しい娘でごわす。


尚、恋の夜着には曾ての名残であるデフォルトした熊の着ぐるみパジャマが有ります。

私の力作でして、華琳達からも高評価を得ました。

ええ、可愛いは世界で唯一の正義ですから。



「ん~……今日は特に無いな」


「…っ!!………それじゃあ、兄ぃ、時間有るの?」


「ああ、十分に有るな

何処か行きたいのか?」



仕事も約束も無い。

それが判っても、俺を気遣う健気で可愛い恋。

だから、俺は今日は恋と過ごすと心に誓う。

溢れ出す妹魂(シスコン)を抑えつつ。


平静を装って恋に訊ねてみれば、顔を横に振る。

仔犬や仔猫の仕草の様に愛らしいじゃないの。

嗚呼もうっ、今直ぐに抱き締めて頬擦りしたい!。

だが、此処は堪えるべき場面。

兄としての面子?、威厳?、そんな物は捨てろ。

今必要なのは恋の心を優しく抱き締める愛だっ!。



「それなら、何か欲しい物でも有るのか?」



「何遣っとんのじゃっ!、この大馬鹿者めっ!」と心の中の爺や的な俺達が叫び、折檻してくる。

いや、確かに此処で“物で釣る”的な安易な方法を選択した俺は未熟者だと言える。

それ自体は決して否定はしない。

だが…言い訳ではないが…だがしかし、恋の胸中を知る為には一つ一つ可能性を潰すしかない。

勿論、恋から言ってくれれば楽なのだが。

それが言い易い雰囲気を作るのも、兄の務め。

だから、如何に叱責されようとも後悔など無い。


そんな俺の胸中漫才は放って置くとして。

恋は少しだけ悩んで、再び顔を横に振った。

いやぁ~んっ、もう、可愛いんだからぁ~ん。

────はっ!?、新しい俺が生まれ掛けたな…。

俺には其方側に踏み込む勇気も度胸も趣味も無いが今のはヤバかったな、かなり際どかった…。

だが、俺は踏み止まったぞ、恋。

俺は、兄を棄てはしなかった。

姉や“ネェ”には為らなかったぞっ!。


──とか遣ってると、上目遣いに恋が見詰めてきて俺のHP・MPをガリガリと削ってゆく。

アカァーンッ!!、それはマジでアカン奴やーっ!。



「………兄ぃと、一緒に居たい…」


「よし、それが恋の望みなら…さあ、おいで」



迷いも躊躇も逡巡も葛藤も思考すら不要だ。

俺は腕を広げ、恋を受け止める体勢を取る。

そう、仔犬や仔猫が御腹を見せるのと同じ様に。

俺は無条件で恋を懐に招き入れる。


恋も直ぐに笑顔になり、竹簡や筆を落とさない様に無駄に巧みな身の熟しで机を飛び越え、抱き付く。

マーキングする様に顔をこしこしする恋。

その頭を撫でながら自然と頬は緩む。

キリッ!、となんて出来ませぬ。

だって、可愛ぃんだもぉ~んっ!。






「──という事が有ったんだけどな…」


「それはアレでしょ、初期メンバーの中では恋だけ

“まだ”だから、無意識に溜まってるのよ

疎外感や孤独感によるストレスがね」


「いや、其処まで大袈裟な感じじゃあ…んむっ」


「…あのねぇ、言ったでしょう?、無意識だって

恋が貴男を慕っているのは確かだし、貴男から恋を求めれば恋は喜んで受け入れるでしょうね

でも、貴男から行くつもりは無いのよね?」



そう咲夜に言われながら、口に突っ込まれた試作のカレーまんを咀嚼する。

……うん、不味くはないが、具と皮のバランス面に課題が有り有りだな、これは。

やはり、肉まんやあんまんとは難易度が違うな。

カレー自体も今より専用に改良しなくては。

待っていろ、コンビニのカレーまん!。

きっと、お前の背中に追い付いて遣るからな!。


──という決意は置いておくとして。

翌日の執務室で咲夜に恋の事を相談している。

正確には愚痴っぽい惚気みたいな物だけど。

こういう事は華琳達には言えないからな。



「…んっくっ……まあ、少なくとも恋自身が望んで求めない限りは、な…

白蓮の時でも、その確信が有ったからだし…

恋の場合は……咲夜の言う様に、まだ自覚してない状態だろうからなぁ…」


「まあ、ちょっと狡い気もするけど…

その自覚と覚悟の有無は大きな違いだしね…」



こういう世の中、社会だからこそ。

男である俺が決断はするが、意志を示すのは女性側でなければいけないと考えている。

決して、俺がヘタレな訳ではない。

極端な話、現状で俺が求めれば応じない女性の方が圧倒的少数派であり、殆んどの女性が応じる。

──というか、喜んで身を差し出すと言える。

勿論、今までの俺の言動等が有っての話だが。

人妻や彼氏持ちでも、拒む相手は少ない。

一度限りだとしても、それが利に繋がるなら。

その辺りは割り切って応じる事だろう。

…念の為に言って置くと、脅してではない。

飽く迄も、合意の上での話だから。

俺への信頼が有るから、だから。

……いや、実際には無いけどね。

原作キャラ(華琳達)以外とは肉体関係を持っていません。



「はぁ~…今はまだ、その程度だから大きな影響は無いとは思うけど…

恋の場合、一度対応を間違えば大怪我(・・・)よ?

それは貴男だって判っているのよね?」


「……ああ、それはな…」


「だったら、華琳達に協力して貰いなさいよ

要は貴男からアプローチするのは駄目だとしても、華琳達が動いて自覚を促すのは構わないでしょ?」


「それは………そうなんだけどなぁ……」


「…ったく……変な所で躊躇うんだから…

恋の為を思うのなら今のままな方が危ういわよ?

恋が貴男を嫌いになる事は無いでしょうし、貴男が恋を嫌ったり見捨てる事も無いでしょうから問題は恋が勘違いして傷付く事じゃない?

だったら、今の感情の綱渡りをしている様な状態は可能な限り早く脱却するべきよ

年齢や肉体的な問題は無いでしょう?

同い年の華琳に手を出している時点で」



「いや、華琳には喰われたんで…」と思わず咲夜に言い掛けてしまうが、事実は事実だ。

だから、言い訳はせず、沈黙を以て肯定する。


…確かに、華琳達によって自覚してくれるのなら…それは有りだと言える。

恋との関係が変わる事自体は問題じゃない。

何も思わない訳ではないが…咲夜の言っていた通り恋だけが違うという状態は孰れ溝を生む。

…真桜みたいに抑圧し、破裂しても困るしな。

関係の改善──いや、発展は必須だろう。

ただ……ただなぁ……う~ん。



「…本当に…恋みたいな可愛い娘を抱けるのよ?

男なら喜ぶべき場面でしょうに…」


「エロゲーでキャラ攻略してる時ならな」


「恋が自覚したら、何の問題も無いでしょ?

恋の意思で、そう望むんだから」


「………判ったよ、華琳達に相談してみる」


「それで良いのよ…まあ、その必要は無いけどね」


「……………は?」


「あのねぇ…貴男より華琳達の方が先に気付くとは思わないの?、女同士なのよ?

そして、あの華琳が静観していると思う?」


「…………………という事は…」


「もう動いているわよ、貴男が知らないだけでね

まあ、恋の気持ちを第一に考えているでしょうから事を性急に運びはしないでしょう

だから、貴男は恋が何時自覚してもいい様に、心の準備をして置きなさい

恋を悲しませたら……私達が赦さないわよ?」


「…はい、判りました…」



咲夜に睨まれ、俺は素直に了解する。

勿論、恋を悲しませはしないが。

万が一にも恋を悲しませようものなら………うん。

想像したくも有りません。

何をされるのか、何を遣らされるのか。

怖すぎますから。



「────しっ、失礼しますっ!」



咲夜の言葉に項垂れている所に駆け込んできたのは城内警備の兵士ではなく、軍属の兵士。

それも、秋蘭の直属部隊の兵士だった。

鎧等に特徴を付けて見分けられる仕様だからね。

顔を覚えなくていいから楽です。


それは兎も角として、秋蘭は現在、郡境の西部域の警備強化の為の視察に出ている。

他所から流入している賊徒の討伐も兼ねている為、二週間は帰って来れない予定だったのだが。



「どうした?」


「申し上げます!

漁陽方面より進軍する部隊を捕捉!

詳細を把握する為、妙才様が動かれてはいます

現時点で捕捉している兵数は…凡そ一万は下らない規模との報告が入っています」


「軍旗や装備に特徴は?」


「いえ、軍旗は確認出来てはいませんし、装備等に統一性や共通性は見受けられないとの事です」


「…判った、建公と一緒に伯珪達に報告を頼む

俺は直ぐに現場に向かう」



そう言うと席を立ち、壁に飾る様に安置されている直剣を手にして執務室を出る。

此方の事は華琳達に任せて置けば問題無い。

それ以上に重要なのが秋蘭の居る現場だ。


停滞・閉鎖していた世の中に、一石を投じ、波紋を生み出したのは間違い無く俺達だろう。

ただ、「せめて、子供達が無事に産まれるまでは、平穏な日々を過ごさせて欲しい」のが本音。

何処の馬鹿か知らんが覚悟しろ。





 other side──


節目節目に起こる、時代のうねり(・・・)

それは得てして後世になって歴史として見た場合に「これが時代の分岐点だ」と言うだけで。

それは現実に──その時に生きている者からすれば重要な事には変わらないけれど。

一つの大きな動きである事は確かでしょう。


啄郡で起きた内乱から、新太守の就任まで。

それは普段通り、他人事の筈でしたが。

その事件は大きな波紋となり、世を揺るがす程に、大小問わず燻る数多の火種を起こしました。

急激に燃え盛る事も有れば、じわじわと静かに。

けれども、確実に民の日常を脅かしてゆく。


その一石である啄郡の新太守。

その人が悪いという訳ではないのですけど。

愚痴の一つも打付けたくなってしまいます。

色々と事情が有っての結果なのでしょうけど。

煽りを受けた側としては複雑な訳です。



「────御嬢様…」



そんな事を考えていたら、馬車が止まっていて。

外から声を掛けられ、我に返ります。

小窓を開ければ、見慣れた男性の顔が有る。

見慣れているからこそ、その表情で察してしまう。

何か問題が起きた事を。

それが最悪である事を。

その事を表情や態度に出さない様にします。



「…っ……どうしました?…」


「…申し訳有りません…先回りをされました…」


「…っ………そうですか………他に道は?…」


「………有るには有りますが………恐らくは…」


「……そう…でしょうね…」



何しろ、一番手薄で、通り抜けられる可能性が高い道を選び抜いて、陽動も掛けて──これです。

他の道は確実に待ち伏せされている事でしょう。

……残念ですが、どうやら此処までみたいです。


そう思っていたら、馬車の扉が開けられました。

其処には跪き、短剣を差し出す皆の姿が。



「………御嬢様、此処から南に向けて山を下れば、郡境を越える事が出来る筈です

夜間で、しかも険しい山道ですが…

御嬢様御一人(・・・)であれば抜けられるでしょう」


「──っ!?、そんなっ、それでは貴男達が──」


「──御嬢様、貴女だけが我等の希望で御座います

どうか、民が戦禍に苦しまぬ様に…

未来を繋いで下さいませ」


「…~~~っ……………っ……判りました…

必ずや、民を、その未来を繋いでみせますっ…」


「御嬢様、我等、貴女様に御仕え出来た事…

これ以上無き、誇りに御座います

どうか、御幸せに」


「…っ……本当に…今日まで有難う御座いました

貴男達の勇姿、その気高き意志を、私は忘れません

貴男達は私達の……私の誇りです」


「勿体無き、御言葉です…

さあ、御嬢様、御急ぎ下さい」



馬車を下り、皆の顔を忘れぬ様に心に刻む。

溢れる想いを呑み込み、短剣を手に山へと入る。

間も無く日が落ちるでしょう山中は既に暗く。

洞窟の中へと踏み入っているかの様です。


暫くすると動き出した馬車の音が聞こえて。

自分の足音に、草木の鳴る音に、次第に掻き消され──遠ざかった馬車の音は、二度と聞こえない。


刺す様に胸が痛み、潰れる様に苦しくて辛い。

それでも、足は止められない。

決して止めてはならない。

託された未来を、その意志を。

私は背負って行かなくてはならないのだから。



──side out



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