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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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7話 果は少しずつ成る




拝啓、今は遠き異界に居る名を知らぬ幼女神様。

この世界へと転生をして、早一ヶ月が経ちました。

決して、悪くはなかったと言える平々凡々な人生を、今は少しだけ懐かしく思う今日この頃です。

特に、現代の文明の利器が今程に便利であったのだと痛感する事は有りません。

…今、切実にDIY工具が欲しかとです。

あと、出来ればコンビニを建てて下さい。

営業する日は半年に一回で良いですから。

嗚呼っ、幼女神様っ!。


P.S.今なら競争相手が居ないので市場独占です。

独禁法も有りませんから、ウハウハですよ?。

御一考下さい。  敬具。




──とまあ、愚痴を脳内で吐き出しながら、起床。

「…陽は出ているか?」と独り言を呟きながら静かに外へと出て行く。


右手を上げ庇を作りながら両目を細めて空を見る。

濃紺よりも深い暗い空。

其処に散りばめられていた星々(宝石達)は、一足早く夢から覚めたらしく大半が既に姿を消している。

それでも「あと5分…」と粘る猛者達も居る。

その抗う姿が俺には眩しい──という事は無く。

単なるポーズでしかない。

つまり、まだ辺りは薄暗く陽は昇っていない。


それは当然だろう。

だって夜明け前だもん!。


…………何なんだろうね。

曾ては「厨二病?、いや、アレは痛いって…」なんて言っていた俺、26歳。

しかし、こうして若返り、尚且つ“厨二病”的な事を誰も知らない状況に居ると──はっちゃけてしまう。

いえね?、「痛いな〜」と自分でも思ってるんだけど誰に批難されるでもなく、咎められる訳でもない。

それ所か、この時代でなら盗作し放題なんですよ。

何しろ、過去だし。

抑、異世界なんだし。

遣りたい放題、可です。


──なんて感じで下らない事を考えてしまう。

実際、覚えてるラノベ等を自分の作品として書いて、世に出せば売れる可能性は十分に有るとは思う。

しかし、問題も多い。

先ず、現代の知識や思想が前提条件として存在するが故に可能な物語な事だから其処をどうするのか。

次に、媒体となる紙。

今の世の中の製紙技術等の程度が判らない事。

紙自体は有るけど俺の中の認識とは違う。

それだけ質が悪い物なのに高級品らしいからね。

自費出版は困難だろう。

更に、作家という職業自体民間人には難しい世の中。

伝手も無しに遣る気だけで出来る仕事ではない。

時代が違うのだから。

何より──俺は子供だ。

そう、嘗められてしまえば印税──は無いだろうから利益としよう。

作品の利益を掠め盗られる可能性は有り得るのだ。


勿論、母さんを表に出してゴーストで遣るという手も考えてはみたが…うん。

色々と危なそうです。

素直に諦めました。

──と言うか、幾ら過去で異世界だとしても。

著作権侵害大好きな某国の先駆けには為りたくない。


でも、二次創作物は好き。

アレは可能性だから。




そんな事を考えている内に見慣れた場所へと到着。

深い森の中、険しい岩肌を見上げる様に存在している小さな広場である。

直径10m程の円形に近い平地には背丈の短い雑草がドーナツ状に生えている。

それも当然だと言える。

何故なら、中心部分は日々踏み付けられている為に、雑草が生えて成長する事が出来無いからだ。


一番判り易いのは野球等で使用する土のグラウンド。

毎日ではないにしても日々人の足が入る場所は大半が雑草は生え難い。

踏み付けられるだけでなく踏み固められる事も有り、自生し難いからだ。


そして、この広場にしても同じ理由からドーナツ状に為っていたりする。

当初は雑草が生えたい放題ボーボー状態だった。

それを先ずは刈りまくって綺麗にする所から始めた。

草刈りするのなんて本当に何年振りだったんだろう。

少なくとも十五年は遣った記憶なんてない。

下手すると小学生以来か。

………ああいや、学校等が主導でのボランティア的な清掃活動なんかの草取り・ゴミ拾い等は除いた上での話だからね。

そういうの入れると近年も遣ってましたから。

地域奉仕って奴です。


そんな久々の草刈りだけど中々に堪えました。

まあ、子供な分体力的にはキツいけど、腰とかにくる負担は軽かったかな。

背が低い分、姿勢の負荷は軽減されてますから。


しかし、草刈り用の手鎌が有るという訳じゃない。

勿論、無手で遣れる広さ・量でも有りません。

故に、道具は必要不可欠。

其処で俺が目を付けたのが錆びて刃毀れした曲刀〜♪──と、某未来の使者風に皆様に紹介致しますのが、本日の目玉商品です。

…まあ、アレです。

何も無いよりは増しだから探して使っただけです。

母さんから使わないというガラクタ扱いの物が色々と置かれていた倉庫みたいな場所をサルベージした末に見付け出したのが当の曲刀だった訳です。

現役の品は使えません。

──と言うか、子供の俺が下手に使ったりしていると怪しまれるだけですから。

その辺りは配慮しますよ。


因みに、その曲刀は見事に任務を全うし、殉職されてしまいました。

だが、功績は忘れません。

老兵は自らの命を賭して、次代の道を切り開いた。

素晴らしい生き様です。


今は遠き世(曾ての故郷)の政治家さん達。

これが貴方達の見倣うべき姿なんですよ?。

貴方達の仕事は国の、民の未来の為に身を粉にして、尽くす事なんです。

決して下らない議論をし、足を引っ張り合い、無駄に時間と税金を浪費するのが役目では有りませんよ?。

貴方達が、真に称えられる政治家に為るのは、何かを成し遂げた後の事。

今一度、鏡を見ましょう。

貴方達は本当に、国と民を背負う“政治家”だと。

民から言われますか?。

“自称”政治家の溢れ返る国に未来は有りますか?。

真面目に考えましょうね。




──と、関係無い方向へと逸れていく思考を放棄し、準備運動を始める。

“ラジオ体操”って、昔は面倒臭かったんだけどね、大人に為ると判るんだ。

アレは地味に凄いって。


そんな感じで身体を解し、じっくりと温める。

泳ぐ前・走る前の準備って物凄く大事ですから。

良い子の皆は、サボらずにしっかりと遣ろね!。


態々、森の中の広場を整え毎日の様に通う理由。

そう、秘密特訓だ。

……嘘です、すみません、只の秘密の鍛練です。

何故、秘密なのか。

それは当然の配慮。

だって、俺は七歳の子供。

流石に七歳が毎日、一人で鍛練しているのを見たなら誰だって怪しむでしょ?。

「お?、凄いな坊主」とか「あらあら、毎日欠かさず偉いわねぇ〜」なんて事を言うのは、そういう子供が居ても可笑しくない環境が社会的に認知されている為だったりする。


しかし、今は違う。

武術の達人である老師とか師事出来る相手が居るなら堂々と遣れるんだけど。

残念ながら、そんな人物は今の俺の周囲には居ない。

だが、前世が現代日本人の俺には紛い物っぽいけど、そういう知識は有る。

だから、一人でも出来る。

但し、見られた場合に俺は納得の行く説明をする事は出来無いだろう。

だって、紛い物だから。

正確な知識とは違う。

経験者でもないしね。

そう為らない様に母さんに秘密で鍛練をしている。


因みに母さんと操は意外に朝に弱かったりする。

俺にとっては好都合だから大歓迎なんだけどね。



「──っと、始めるか…」



準備運動を終えると肩幅に両足を開き、右足を引いて脇を閉めながら両腕を構え──右腕を付き出す。

しっかりと拳を止めてから元の状態へと素早く戻す。

それを何度も繰り返す。


所謂、正拳突き。

それを記憶を頼りに俺流で再現した物だから、正式な正拳突きとは違う可能性は否めなかったりする。

何度も言うけど、元の俺は一般人ですから。

そういった知識は漫画とか格闘技の番組とか、何かの特集や企画物の番組を見て何と無く覚えている。

その程度でしかない。

だから、経験者からすると可笑しいかもしれない。

だが、気にはしない。

今は見た目よりも実力。

兎に角、治安が悪い時代を生き抜く上でも自衛手段は必須なのだから。


何より、母さんと操を守る為に必要なんだからな。

変な拘りは捨ててるよ。

…だけど、一番問題なのは“生きている存在を殺す”覚悟を持てるか。

其処になるんだろうな。

俺の場合は特に、だ。




その必要性は理屈としては理解する事が出来る。

だが、簡単ではない。

漫画やラノベ、アニメ等でグダグダ言ってるキャラに「甘ったれるなよな…」と冷やかな視線を向けていた曾ての自分を思い出す。

そして、そんな視線で見たキャラに対して謝る。

その覚悟は、そんなに簡単には出来る事じゃない。

それが今なら解るから。


…まあ、グダグダ言う気は俺には無いんだけどさ。

それはそれ、これはこれ。

覚悟を求められている事に変わりはないからな。

そして、迷う理由は単純で“社会的な道徳観”に対し抵抗感を覚えているから。

ただそれだけでしかない。


だから、本当に必要となる場面に為れば、迷う事無く俺は人を殺すだろう。

それは正義ではない。

私利私欲による、傲慢だ。

だが、気にしない。

それが悪行だと言うのなら俺は罪業を背負おう。

俺は英雄ではない。

正義の味方でもない。

俺は──人間だ。

だから、聖人君子になんて為るつもりはない。

身勝手で、傲慢で、自己中我が儘な人間として。

俺は、俺の為に。

この身を血に染めよう。

失いたくはないから。

俺は戦う事を選ぶ。



「──って言ってても今は駄目駄目だからなぁ…」



そう呟いて溜め息を吐く。

仕方が無い事なんだけど、もどかしいのも確かで。

“必要となる場面”が何時現実となるか判らない以上焦る事は抑えられない。

それでも、焦っても直ぐに強くは成れない。

地道に、積み上げる。

それしか術は無いから。

だからこそ、こうして毎日鍛練しているんだからな。


ただ、こうも思う。

前世では、そんなにも強く誰かを想った事は無い。

家族は大事だった。

それでも、その死を悲しむ程度だったと思う。

もし、そういう場面に俺と家族が置かれていたとして大人の俺は戦う事を迷わず選べただろうか?。

……うん、それは無いな。

多分、そういった事は全て“然るべき専門家”に任せ何もしないだろう。

安全第一、自ら犯罪者へと為ろうとは考えないから。




鍛練メニューが一段落した所で大きく深呼吸する。

正直、俺はネガティブだ。

──と言うより、人並みに心配性なだけだけどね。


“もしも…”を考え出すと切りが無い。

際限無く、悪い状況ばかり思い浮かんでくる。

そして、その大半に対して俺は失敗してしまう。

情けない程、何度もだ。

…まあ、“最悪を想定して備える事が大事だ”という何処かの誰かが言っていた気がする言葉を信じるなら悪い事ではないんだけど。

気分的にはガタ落ち。

下手すると鬱になるかも。


それでも止まれない。

逃げ出す事、投げ出す事、目を背ける事、その何れも俺には出来無い。

だったら、俺に出来る事は一つしかないだろう。

愚直なまでに積み上げて、少しずつでも構わない。

前に進むしかない。

それしか出来無いのなら、それを遣るだけ。

そう、実に単純な事だ。



「……歴史、原作、か…」



だが、それと同時に思う。

果たして、この世界は俺の知る通りなのか?、と。

…いや、違う事は確かだ。

少なくとも、何方等からも外れた流れに在る。

それだけは間違い無い。


しかしだ、それは飽く迄も“現時点”での話。

“未来”は何方等かに沿う流れに為る可能性は有る。


静かに空へと伸ばす右手。

まだ夜の明けない空。

それは見通す事が出来無い未来を映すかの様だ。



「……それでも、掴むよ」



グッ…と握り締める掌。

未来を掴み取れるのなら、俺は強く成ってみせる。

英雄願望なんてない。

──と言うか、御免だ。

俺は平々凡々、嫁を貰って子供達に囲まれた一般的な幸せを謳歌するんだ。

その為に、頑張る。

操の歩む未来(みち)が何か今は判らないけど。

兄として、守ってやろう。

姫君を守る騎士が現れる、その時までは。


…簡単には認めないがな。




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[一言] 色物かと思いきや存外面白いです。
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