53話 日常に縁の一片
“免許”という許可・認可の制度。
最も代表的なのが運転免許証だろう。
身分証明書を兼ねる為、その必要性は高い。
その為、一般的に免許と言えば運転免許証を指す。
実際には免許というのは資格全般に存在している。
その中で運転免許証を大多数が思い浮かべるのは、それだけ運転免許証の存在が大きな為だ。
そんな運転免許証に関して近年は問題が続く。
様々な意見が飛び交う割りに決定的な解決までにはまだまだ時間が掛かる事だろう。
抑、そんな自体を引き起こす要因は生活文化の変化である事を理解しているのだろうか。
コンビニに代表される何時でも酒類を買える環境が飲酒運転の状況を増やし、AT車や自動運転によりドライバー自身の技量・モラルの低下、スマホ等の便利過ぎる技術の登場による弊害…等々。
車社会の抱える問題は技術の進歩が原因の一つ。
車を売る側にとっては“誰でも簡単に”を謳い文句として開発・普及を考えるのは当然の事。
しかし、販売する以上、本来は運転免許証の認定・発行は販売側が責任を持って行うべき事。
何故なら、車を最も理解しているのだから。
それが、車の製造・販売と車の運転免許証が分かれ連携が取れていないが為に生まれた間違い。
また、警察等との連携の少なさも原因の一つ。
事故や違反等の情報を共有していれば、何方等でも対応策・解決法の模索が出来るのだが。
問題が表面化しても尚、その辺りは動きが鈍い。
「いや、それ、此方は関係無いし…」的な考え方は共通している癖に、逆は出来無い。
それこそが根本的に正すべき点ではないのか。
分業・独立、大いに結構。
しかし、それで生じた隔たりが社会問題の解決への障害となるのであれば、しない方が良いのでは?。
或いは、“責任”の所在の擦り合い。
それこそ国が介入してでも纏め上げるべきでは?。
表面化した問題を考える前に、先ずは今の社会構造その物を見直すべきではないのだろうか。
全ての社会問題の根幹は社会構造に有るのだから。
「──忍様!、私も赤ちゃんが欲しいですっ!」
「…そうか……取り敢えず、経緯から頼む、穏
何をどう考えて、その結論に到ったのかな?」
仕事中の俺の執務室に駆け込んで来たと思ったら、そんな事を宣う穏を見ながら、一つ息を吐いてから筆を置き、某指令の様なポーズで訊ねる。
取り敢えず、訊かないと訳が判らないからだ。
これが白蓮達なら、「ったく、仕方が無いな…」と建前上の態度を取りながらも真剣に応えるが。
穏が相手な以上、その方向は現時点では無い。
だから、問題が起きているなら、その問題の把握を第一に遣らなければ始まらない訳です。
上っ面だけの即対応は遣りませんよ、俺は。
「咲夜さんから聞きました!
赤ちゃんは夫婦の、男女の愛の結晶…
“子は鎹”と言って、夫婦の絆を繋ぎ、より強く、より固く、より深くするのだと…
だから、私も忍様との赤ちゃんが欲しいです!」
「お前かあっ!」と此処には居ない元堕女神に対し胸中で掴み掛かり、怒鳴りながらシェイクする。
間違いではないから、「咲夜に騙されたんだ」とも言えないし、穏の真剣な眼差しが刺さる。
同じ歳の華琳とはしている訳ですからね。
だから穏の気持ちも理解は出来る訳です。
勿論、俺も政略結婚の意図が含まれているにしても穏の事は真剣に愛しています。
本当なら、きちんと応えて遣りたいんだけどね。
穏の場合、身体の事が有るから仕方が無い訳で。
それを穏自身も理解してはいるんですが…。
だからこそ、咲夜も他に言い方が無かったのかも。
そう思うと、咲夜を責め切れなくなります。
「…穏、気持ちは判るし、俺も穏との子供も欲しい
その気持ちに嘘偽りは一切無い
だけどな、穏の身体の事を考えると、まだ早い」
「ですが、私は……」
「それにな、氣や秘薬を使えば問題は解決出来るが産まれてくる子供への影響が無い訳じゃない
穏は自分と同じ様な業を背負わせたいか?」
「…………」
フルフルと、俯いたまま小さく首を横に振る穏。
今の自分、俺達との出逢いを考えたなら、その業が「辛くは有ったけれど悪い事ばかりではなかった」と言えるのだとしても。
出来る事なら、避けたい事なのも確かだ。
その辛さを、苦しさを、もどかしさを。
知っているからこそ、穏は直ぐに反省している。
そんな俯いている穏の頭を左手で優しく撫でながら諭す様に落ち着いた口調で語り掛ける。
「大体後一年もすれば、穏自身の健康が氣や秘薬に頼らずとも確かな物になる
そうすれば、先送りにしていた初夜も迎えられる
子供の事は、それからでも全然遅くはない
だから、今は焦らず、今しか出来無い事を遣ろう
それにな、例え子供が居なくても夫婦の絆を繋ぎ、強め、固め、深める事は出来る
こういう事の形は一つじゃないんだ
俺達は俺達らしく、俺達だけの絆を紡ぎ繋ごう」
「…はい!、忍様」
顔を上げ、笑顔を見せる穏。
左手を頭から頬へと移動させ、優しく引き寄せると唇を重ねて、愛しさを熱で伝え合う。
長過ぎず、短過ぎず、程好い感じで。
唇を離した時、「もう少し…」と思える位で。
不安が薄れ、機嫌の治った穏と昼食の約束をして、俺は再び筆を取って仕事へと戻る。
後で必ず、咲夜を見付け出すと心で誓って。
それはそれとして。
こういった部分には気を付けないといけないな。
俺が啄郡の太守となってから早半年が過ぎた。
新統治体制への移行はスムーズで問題らしい問題も起きてはおらず、俺の主戦場は机の前と閨の中。
まあ、要するに書類仕事と子作りな訳です。
一ヶ月前、白蓮・穏・璃々に華琳・愛紗・梨芹・凪・紫苑・祭・春蘭・秋蘭と祝言を挙げ、夫婦に。
勿論、穏と璃々とは初夜は迎えておりません。
前世で言えば、“婚姻届けを出したから、戸籍上は夫婦になっている”関係です。
“おあずけ”の理由は言わずもがな。
それでね、夫婦──いや、家族会議だけど。
少しばかり話し合った訳なんですよ。
将来的な事を考えると、子供を作るタイミングって本当に重要なんですよ、真面目な話。
だから、その辺りを色々と話し合ったんです。
現状で歩みを止めるなら話は別ですが。
まあ、誰一人として歩みを止める気は無くて。
俺に全郡制覇──即ち、此処、幽州を獲り、州牧に成る事を望んでいる訳でして。
その意志を尊重するなら、準備も必要な訳です。
それでまあ、年長である紫苑・祭・梨芹に白蓮とは避妊をしないで子作りをしている訳です。
勿論、華琳達とは避妊しながらですけど。
きちんと夫婦性活はしています。
性質上、俺の長子は白蓮に産んで貰わないと後々がややこしくなるので、白蓮とは特に多いです。
早ければ、そろそろ吉報が広まる事でしょう。
「俺が父親に、ねぇ…
正直、まだ実感は湧かないな」
「まあ、そうでしょうね
でも、貴男の場合、華琳達の存在が有るから子供の扱い方や育て方は心配要らないでしょ?」
「華琳を見て、そう言いれるのか?」
「アレは貴男達が義兄妹だからよ、親子なら大丈夫…………な筈よ………多分……恐らくは…」
「まあ、華琳も流石に其処は大丈夫だろうけどな」
「そうよ、信じてあげなさい
──という訳で、そろそろ降ろしてくれない?」
太い枝に結ばれた荒縄。
その先には蓑虫の様に簀巻きにされて、逆さで吊り下げられている咲夜の姿が有る。
言って置くが、遣ったのは俺ではない。
俺が見付けた時には既にぶら下がっていた。
どうやら、穏の件とは無関係らしいが。
ただ、咲夜は犯人や経緯に関しては口を噤む。
庇っている、と言うより、言いたくないのだろう。
それはつまり、「自業自得だから…」な訳だ。
それにしても…うん、奇妙な縛り方だな。
ぱっと見だと乱雑に巻き付けただけに見える。
極っているから抜け出せないんだろうけど。
少なくとも、俺の知る捕縛術ではない。
……まさか、スパイとか紛れていないよね?。
居たら、相当の腕前って訳だからな。
此方も警戒しないと危ない。
まあ、咲夜が裏切っていない限りは、その可能性は無いだろうし、裏切るとは思わない。
だから、この件の心配は要らない。
因みに、この荒縄は俺が造っていた試作品だ。
氣を使う者が俺達以外に居ない訳ではない。
だから、そういう相手を捕縛する為の手段として、氣を無力化──乱して使えない様にする作用を施し造ってみたのが、この“縛徒くん三号”だ。
…残念ながら、一号と二号は亡くなったがな。
試験と称して、愛紗を縛ったのが不味かった。
いや、拘束愛紗は大変美味しく頂きましたが。
尚、華琳達数名は意外とノリノリでした。
…数名って言っても、関係を持つ愛紗以外の妻達、という訳ですけどね。
「……ねえ、ちょっと…聞いてる?
何か、身体に卑猥な視線を感じるんですけど?」
「ああ、それは無いな、例え全裸だったとしても、こんな格好の女に欲情する程飢えてはいない」
「くっ……実状を知っているから納得出来てしまう事が腹立たしいわ、このリア充っ…」
「まあ、男としては一応は勝ち組だろうしな」
「だったら、その余裕で早く降ろしてよ」
「そうして遣りたい所だけどな…
お前、自分が穏に何を言ったか、忘れたのか?」
「ぅっ…そ、それは………悪かったとは思うわ…」
「………ったく…」
「──へっ?、きゃあぁあっ!?」
懐から果物ナイフ程度の小刀を取り出すと一振りし縛徒くん三号を容易く断ち斬る。
勿体無いが、九割は再利用出来るしな。
頭から落下する為、悲鳴を上げる咲夜を抱き止め、抱えながら見下ろしてやる。
すると、自分の無意識の反応が恥ずかしかったのか外方を向いて視線を外した。
耳まで赤く為っているが…まあ、見逃して遣るか。
「さて、取り敢えず場所を変えるか」
「え?、ちょっ、ちょっと待って!
此処で斬ってくれたら済む話じゃない!」
「お前なぁ…俺が縛徒くん三号を一本綯うのに一体何れだけ掛かったか知ってるよな?」
「ぅぐっ…そ、そうだけどっ……でも!」
「喧しい、異論は認めません」
抵抗する咲夜を黙らせて適当な空き部屋を探す。
流石に周囲に目や耳が有る様な場所では誤解される可能性が有りますからね。
「それじゃあ、解くから、じっとしてろよ」なんてあからさまなフラグは立てません。
まあ、それはそれとして。
何故、縛徒くん三号が試作品だったのか。
答えは単純で、俺でさえ一本綯うのに一週間。
材料の加工に一ヶ月を要するからです。
俺以外だと、華琳や凪でさえ一本綯う一ヶ月近くを費やす事になりますからね。
ええ、量産不可能なのが判ったからです。
だから四号は存在せず、作製予定も有りません。
それ故に、唯一の生き残りの三号は貴重な訳です。
それを咲夜を助ける為に斬る?。
有り得ませんよね、そんな事。
勿論、此処が敵地だとか戦場なら話は別ですが。
そんな状況でもないですからね。
場所を移せば済むだけです。
「──という訳で解こうとしてみましたが…
どう遣ったら、こんな絡まり方で縛れるんだ?」
「そんな事知らないわよ!」
「助けて貰ってる身でキレるな
………まるで自然に──いや、自分で絡まった様な結び目や絡まり方だな……………おい、まさか…」
「──っ!?……………」
ふと思い付いた可能性。
それを確かめる様に咲夜を見れば俺の言いたい事を察したのか咲夜は視線を逸らした。
それにより俺は確信する。
何をしようとしたのかは知らないが、自爆らしい。
いや、“自縛”が正しいのだが。
「そんな趣味が有ったとはな…」
「無いわよっ!──って、何処触ってるのよっ?!」
「胸・乳・おっぱい・バスト・巨峰・豊丘等々…
何れが好みだ?」
「何れも同じじゃないのっ!
だから其処はァンッ!?、やっ、駄目ェっ…」
「我慢しろ、解けた時に我慢出来無かったら、後でしっかり処理して遣るから
──あっ、勿論、本番は無しでだから安心しろ」
「バッ、馬鹿ぁンんっ!?」