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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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51話 香い立つ純花


不運・不幸というのは誰にでも起こり得る事。

幸運・幸福との比率は実際には五分である。

けれども、その比率は全体では常に一定であっても個々で見れば揺らぎ、変動しているもの。

仮に、世界の全人口を百人とした場合。

百人の運を数値化し、知る事が出来るのだとすれば平均値は変動する事は無い。

しかし、個々で見た場合には変動している訳で。

当然、運の良い者・運の悪い者が出て来てしまう。

その変動が極端に偏り易い傾向に有る者も居れば、突発的に大きな変動のみが起こる者も居る。

そうして運の均衡は常に一定に保たれている。


それでは、実際に百人に自分の運の良し悪しの事を訊ねてみた場合、どうなるのか。

その場合、不運・不幸が明らかに多くなるだろう。

常に一定な筈なのに、である。

だが、それは何も可笑しな事ではない。

それは不運・不幸に対する印象の度合いが強い事、そして幸運・幸福の認識間違いに因るのだから。

不運・不幸というのは誰にとっても歓迎し得ない、忌避したい出来事であるが故に些細な事であろうと意外と記憶には強く残る。

対して幸運・幸福というのは余程の事ではない限り幸運・幸福だとは認識し難い。

その点が印象の矛盾を生んでしまっている。

不運・不幸を悪い事が起きる事だとするのであれば幸運・幸福は“何の変哲も無い退屈な日常”自体が既に幸運・幸福なのだから。


そう、愚痴る様に「俺って運が無いんだよな~」や「私、運が悪いから…」等と言っているが、実際は特に何も無い事自体が既に幸運・幸福なのだと。

そう認識出来ている人は圧倒的に少数派だ。


では、それは何故なのか。

答えは単純で、“人は幸運・幸福には慣れるけど、不運・不幸には慣れないから”である。

また、数値化したとしても運の良し悪しの概念には“中間点(±0)”は存在しない為でもある。


運という概念を数値化するのは実際には不可能で、個人個人の正確な運の良し悪しは計測出来無い。

だが、人々は疾うの昔に理解している事でもある。

だからこそ、占いや神頼み、験担ぎをする訳だ。


つまり、運とは人意の介さぬ領域の概念であるが、結局の所は、その人の主観・価値観に因る訳で。

不運・不幸が己が身に起きたとしても、その事実を如何様に受け止め、考えるのか。

それ次第で、自らの未来は変わってくる。

大切なのは不運・不幸を嘆く事ではなく、糧として自らを強く育む事ではないのだろうか。



「………あー……今日も空は青いなぁ…」



そう呟きながら見上げる空は腹立たしい程に青く。

「ハハッ、まるで今の君みたいじゃないか~」とかイケメン爽やかスマイルで言いそうな感じで。

叶うなら、その顔面に精一杯の鉄拳(感謝)を贈りたい。

空を殴るとか無理な話なんだけどね。


何故、そんな気持ちに為っているのか。

それは今、俺が居る場所に関係していたりする。

街外れの人気の少ない、自然公園みたいな空き地。

其処に有る巨木の幹に背を預けているのだが。

実は此処、最近、街の若者達の間で特に人気の高い“待ち合わせ場所”だったりする訳で。

ええ、まあ…そういう事な訳です。

……え?、「それなのに何で溜め息吐くんだよ?」ですか…まあ、普通に考えるとね。

いや、確かに客観的に見れば俺も「巫山戯んな!、贅沢な奴め!、俺と代われ!」とか思う筈。

そういう意味では、贅沢な悩みなんですけどね。

一夫多妻って色んな苦労・懊悩も有るんですよ?。



「──済みません、忍様(・・)、御待たせしましたか?」


「……いや、気にする程じゃないよ」



そう申し訳無さそうに、少し乱れた息遣いのままに声を掛けてきたのは待ち合わせ相手の“紫苑”。

本当に息が乱れているのか氣を使えば直ぐに判るが──流石に、そんな無粋な真似はしない。

譬え、これが彼女の演技だったとしても、男ならば乗って遣るのも優しさの一つだろう。


──と言うか、俺よりは歳上でも、原作よりも若い紫苑と待ち合わせするシチュエーション自体もだが彼女の服装等が中・高生のデートっぽくて照れる。

いや、今時の娘達の方がディープかもしれないが。

まあ、そういう相手と付き合った経験は無いので、飽く迄も想像の話なんですけどね。


──いや、それは兎も角として。

公務中は勿論だが、普段の私服とも印象の違う姿に正直言って魅入ってしまいました。

白のワンピースを基本にコーディネートされた姿は正統派の御嬢様を思わせる清純さに溢れていて。

ポニーテールにして結い上げているだけでも普段と印象が違って見えるから不思議です。

本当に女性って化けますよね。



「………あの、似合いませんか?」


「ん?、そんな事は無いよ、よく似合ってる

普段の紫苑の好みとは違うから驚いだけど、これはこれで紫苑の魅力に合ってると思うな」


「っ!、そうですか、有難う御座います」



俺の視線に不安になったのか訊いてきた紫苑。

それに対し、意外と淀み無く言葉が出て来た。

…まあ、母さんに色々と教えられ鍛えられたので。

これ位は出来て当然だとは思いますけどね。

ただ、客観的に今の台詞を見ると──恥ずい!。

勿論、言葉は本音だし、喜んでいる紫苑の気持ちに態々水を差すつもりもないので出しません。

誉められて嬉しそうに笑う紫苑。

その笑顔は普段の大人びた余裕の有る笑みとは違い愛らしい少女の様に素直な屈託の無いものだから。


……と言うか、このコーディネートは紫苑一人でのチョイスではなく、華琳達(参謀)が付いている証だな。

ギャップ萌えや意外性を上手く突いている辺りが。

グッジョブだけど!。



「さて、此処で二人きりで話すのも悪くはないけど折角の機会なんだしな、行こうか」


「はい!」



然り気無く差し出した左手に紫苑の右手が重なる。

まあ、デートなんだから可笑しくはないんですが。

原作の印象が強い分、目の前の紫苑が可愛いこと。

何、この付き合い始めのカップル感は。

擽ったいけど、嬉し恥ずかしドッキドキです。

……ああ、そう言えば、デートより先に既成事実が出来てる展開が多いもんな、俺の場合は。

そりゃあ、ドキが胸々しますわ、うん。




人気の待ち合わせ場所な割りに人気が無いのだが、それは裏方が頑張っているからではない。

前世のデートとは違い、現世の若者達のデートとは仕事の無い時間に行うもので、基本的に自営業の為多くが休日という概念は薄いのが現実。

だって働いて稼がないと食べていけませんから。

文武官や兵士なら休日が有りますが。

それでも若い内──所謂新米や下っ端の間は休日にデートをする余裕は有りません。

経済的にも体力・精神力的にもね。

だから、俺達みたいに朝からデートしている若者は街中には先ず居ない訳です。

尚、身分や家柄の良い若者の場合、公の場で異性とデートするというのは稀だったりします。

その辺りは柵が色々と有る訳ですよ。


そんな訳で、活気の有る街中を紫苑と一緒に歩く。

適当な屋台で買って朝食を済ませながら。

うん、俺としては早くても昼前に待ち合わせをして昼食から始めても良かったんですけどね。

紫苑とデートの約束をした時に「それでは朝市から回って見ませんか?」と期待の眼差しを向けられ、否と断る事も出来無かった訳です。

まあ、紫苑も嬉しそうだからいいんですけど。



(それにしても……これは態とか?、態とだな?

これ、絶対に俺の事、誘ってるんだよな?)



繋いでいた筈の手は、気付けば腕組みへと進化。

左腕に感じるのは魔性と言うべき女の武器。

原作の黄忠であれば絶対に確信犯だと断言出来る。

しかし、宅の紫苑は………多分、素でしょうね。

いやまあ、自分の武器が有力な事は理解してても、抑として活かすだけの経験が彼女には不足。

腕を組んでいても楽しそうに笑って話す紫苑からは計算している様子は全く窺えない。

もし、これも全て計算上の演技だったとしたなら、俺は一生勝てる気がしませんよ。



(…まあ、紫苑は意外と天然っぽい部分が有るし、原作では母親だったというのも大きいだろうから、そう考えると今の姿は自然体なんだろうなぁ…)



何しろ、デートの約束をするよりも先に当然ながら真名の交換をした訳ですが、泣かれましたから。

正直、泣いて喜ばれる程だとは思いませんでした。

「ぅわぁ…重いって…」という感じで引く様な事は有りませんが、吃驚はしました。

そんな反応は今まで有りませんでしたから。

ポジティブに受け取れば、それだけ俺の事を好きな証だとも言えますからね。

…まあ、考え方によっては男女の真名の交換って、プロポーズみたいなものでしょうしね。

個人差も有るけど、それだけ重要な訳です。



「──ん?、へぇ…珍しい商人が居るな」


「何処ですか、忍様?」


「ほら、彼処だよ、アレって西の民族衣装だろ?」


「……あっ、本当ですね、確かに珍しいです

………ですが、何を売っているのでしょうか?」



屋台や露天商の並ぶ中に、前世でいうインドっぽい感じの民族衣装を着ている男性が座っていた。

露天商だろう事は目の前に広げられている木箱等を見れば一目瞭然ではあるが。

流石に此処からでは何を扱っているかは不明。

紫苑に視線で確認すれば「行って見ましょうか」と子供の様に好奇心を滲ませる。



謎・未知を前にして、期待感に胸を高鳴らせながら近付いて見るが、さっぱり判らなかった。

足を止めると三十歳前後だろう男が顔を上げた。



「こんにちは、西の人だよね?」


「いらっしゃい、そうだよ

彼方此方旅をしながら行商人の真似事をね」


「売る商品が無いみたいだけど?」


「売るのはコレ(・・)さ」



そう言って男は左手で力瘤を作った右腕を叩く。

成る程ね、つまりは自分の腕前を売るって訳だ。

そうなると何かを作る可能性が高いんだけど…。


そう思っていると男は木箱から縦横30㎝程の木の板、大小の壺を二つ出し俺達の前に並べて見せる。

小さな壺の傍に刷毛と規格の違う筆を置く。

蓋を開けた大きな壺の方には……砂だろうか?。



「………もしかして、“砂絵”?…」


「あれ?、お兄さん知ってるの?

ん~…驚くと思ったんだけど、残念だな~…」


「…あの…その砂絵というのは?」


「そうだな……遣って貰える?」


「っ!、へへっ、毎度有り~」


「じゃあ、此方に座って」


「え?、あ、あの…」


「いいから、いいから、座って座って」



男にだけ見える様に身体の陰で指で確認すれば俺の意図を察し、笑顔で筆と木版を手に取る。

俺は戸惑う紫苑を座席用だろう木箱に座らせると、その後ろに立って表情を作る。

紫苑も“絵”という事で自分達を描くのだろうとは察した様で恥ずかしがりながらも笑顔を作る。


普通の絵画と違い素早く描かないといけないから、十五分程で男は接着剤だろう水糊っぽい物を木版に筆で塗り終えると受け皿を兼ねている足元の木箱に木版を置き、壺に手を入れて砂を握ると派手に振りパフォーマンスとして魅せる。

その様子からも男の腕前の高さを期待出来る。

木版を埋める様に砂を被せ──木版を取り出す。



「──まあっ!」


「うん、良く描けてるね」



紫苑の感嘆の声に、俺の称賛を受け、男は笑む。

木版を二~三度軽く叩いて余計な砂を落としてから仕上げに刷毛で保護剤っぽい透明な液を塗る。

乾いていたいた砂に上から水分が乗ると色濃くなりシンプルながらも味わいの有る絵画に為る。

まあ、砂絵って技法としては古いけど、時代を超え感動を与える芸術の一つだからね。

腕前が確かなら商売にもなるよな。



「はい、これで完成だよ

まだ“上糊”が乾いてないから気を付けてね

それとも乾くまで置いとくかい?」


「そうだな…なら、後で取りに寄るよ

それでいいかな?」


「はい、有難う御座います」



笑顔で同意する紫苑。

俺達に気付いた通行人が興味を示していた事も有り男にとっては宣伝にも使えるだろうしな。

商売とはいえ、良い絵を描いて貰ったからな。

まあ、それ位は此方もサービスしようか。

持ち歩くとデートの邪魔にもなるしな。





 黄忠side──


啄郡を実質的に統一化した事で変化が起きるのは、当然と言えば当然でしょう。

勿論、全てが良い事ばかりではなく、頭を悩ませる問題も少なからず出ては来ますが。

それも長い目で見れば、より良い統治を築く為には欠かせない糧となる事でしょう。


それはそれとして。

徐恕様──忍様と真名を交換して、二人で出掛ける事を約束した時には胸が弾けそうでした。

華琳様達に助言を頂いて、身支度を整えましたが…正直、慣れないが故に不安でした。

決して興味が無かった訳では有りませんが。

実際には必要な事ではなかった為、適当です。

ですから、忍様に誉められた時は嬉しかったです。

自分でも信じられない位に、です。

ふふっ…本当に恋心とは御せない物ですね。


忍様と二人で朝から出掛け、楽しみました。

行商人という西方の男性に描いて貰った砂絵という技法の私と忍様の絵は私の宝物です。


私自分の立場上、普通の娘らしい恋愛が出来るとは思ってはいませんでしたが。

今程、そうであった事に感謝した事は有りません。



「…んぅ……ぢゅっ、んっ……ぁん、ぁぁっ…」



忍様に唇を塞がれ、舌を弄ばれ、心が蕩ける。

唇が、指が、肌が、吐息が、触れ合う程に身体から熱が溢れ出してくる様で。

風邪を引いて熱に浮かされているかの様に。

けれど、貪欲な程に忍様を求める意識は強くなり。

心身が切なくて、可笑しくなってしまいそう。


乱れた寝着を脱がされ、忍様に下着を奪われる。

自分で脱ぐのとは違い、妙に恥ずかしくなる。

それなのに忍様は自分で脱がれるのは…少し狡い。

けれど、部屋に漏れ差す月明かりを頼りに目にした忍様の怒張に意識が飛び掛ける。

別に男性の物を見た事は立場上、少なくない。

勿論、特別な意味は無く、部下の怪我の治療の為、捕らえた犯人が武器を隠せない様に裸にする為。

だから、自分を女として求めている忍様の男を見て私自分の女としての本能が歓喜に打ち震えます。

忍様に蹂躙され、屈伏させられたい、と。


静寂の中、軋みを上げる寝台。

一糸纏わぬ姿に羞恥心は高まっていきます。

しかし、隠す事は出来ず──いいえ、不思議な事に隠そうとは思いません。

小さく息を飲んだ忍様に気付いたから。

だから頑張って誘う様に肢体を晒す。

それに応える様に忍様が身体を重ねて来られる。



「……行くぞ、紫苑…」


「…はいっ…来て下さいっ…」



見詰め合いながら忍様のものを受け入れる。

出逢ってから、ずっと待ち望んでいた瞬間。

破瓜の痛みは中和せず、しっかりと感じます。

この痛みは最初で最後、忍様に純潔を捧げる証。

だからこそ、忘れぬ様に刻み込みます。


ゆっくりと優しく始まり、そして次第に激しくなる二人の奏でる打肉の音色。

歌う様に自然と溢れる私の声に。

忍様の熱は更に増し、私達は融け合ってゆく。

更け行く夜は始まったばかりで。

新しい夜明けまでは、まだまだ早いのだから。



──side out



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