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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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    史礫を積む


「全ての膿みを出し切る」と。

そう言っている会見等の声を聞く事だろう。

不祥事が続けて発覚(・・)した後、責任有る立場の人物が多く用いる台詞の代表格。

不祥事を傷に例え、それ以上化膿(波及)しない様に綺麗に洗浄(是正)して()していく。

そういった意図で口にしているのだろう。


しかし、膿みが溜まるまで放置していた事実。

また、膿みる要因となった抑の原因に付いては。

一時だけ過熱する報道も含め、言及されはしない。


その結果、問題の根本は解決される事は無い。

問題の対象となった個人・組織・企業は体裁を整え問題を終息させはしているのだが。

同様の膿みを孕んでいる潜在的な予備軍に関しては何も対処されない場合が殆んどだと言える。

目先のリスクやコストを考え、動けない。

或いは、「まあ、大丈夫だろう」と動かない。

そういった“他人事”である心理が働き易い。


その理由の一つが、報道等による客観性だろう。

口コミ・噂話が確実性が乏しいにも関わらず何故か拡大・拡散し易い様に。

人間は“直接情報”を信じ易い傾向が強い。

だからこそ、“間接情報”である報道等への関心は一時的な好奇心に近く、実感し難いのだろう。


ただ、間接情報が悪いという訳ではない。

問題は人々が“起こり得る現実として”受け止め、危機感を懐いたり疑問視が出来無い事。

“具体性状況想像力”の低下にこそ問題が有る。

教育の根本的な見直し、社会性の変化への対応策、多様化する人間性の理解への遅れ。

まだまだ挙げられる改善すべき要因は有るだろう。

しかし、それらの解決には時間が掛かる。

そして、人々が本気で向き合わなくては不可能。

それでも一人一人が出来る事は有る。

悪を悪とし、自らを律し、正す事。

それこそが“改世”への第一歩ではないだろうか。



「いやー…見事なまでの“捨て駒”っぷりだな…」


「ああ、そうだな、捨て駒を絵に描いた様だ…

まあ、悲哀や憐憫の感情は湧かないけどな」



辛教の協力により、兵も糧食も物資も十分となった羊宣・朴雄の共同軍は中一日で戻って来た。

うん、間抜けにも程が有るだろう。

辛教に踊らされている自覚なんて無いんだろうね。

──とは言え、朴雄が前線で攻撃を、羊宣が後方で軍全体を見て指揮を執る、というのは悪くない。

辛教が限られた人員で適材適所に配置したのか。

或いは、上手く連携する様に仕向けたのか。

その辺りは定かではないが。


ただ、辛教の徴兵策は上手いと言えた。

二人の手勢を各々一万前後まで減らしておいたが、今は凡そ五万──辛教が三万を出している。

しかし、感心するのは三万を貸した事ではない。

その三万を揃えた方法に対してだ。

隠密の報告を聞いた白蓮の話では辛教が二人に貸し与えた兵達は賊徒や囚人達が七割近いらしい。

良郷県内は勿論、事前に方城・北新城の賊徒達にも接触して集めていたという事みたいだ。

俺自身もだが、凪達からも「賊徒が少ない様な…」という疑問の声が出ていたからな。

そういう意味では素直に納得出来る。

残りの約三割も自軍内の不穏分子や問題の有る者を纏めて(・・・)投入している、という話だ。


「出来過ぎている」と勘繰るのは、知るが故か。

咲夜と密かに話し合ったが、答えは出なかった。

まあ、当然だと言えば当然なんだけどな。



「けど、動くのが半日(・・)遅かったな」


「まあ、半日早かったとしても大差は無いが…」



ちょっとばかり誇らし気な白蓮の一言。

挙げ足を取る気は無いが、事実は事実である。

現在、敵同盟軍と戦闘に入っているが、此方の軍を率いているのは愛紗と梨芹だったりする。

そう、一日も空いたから二人は間に合った。

そして、予想を外さない蹂躙を開始した。

恋や凪達も存分に戦えているのは我が家の誇る軍神二枚看板に因る所が大きいだろう。

そう、“お姉ちゃん”は偉大なんです。



「御兄様、準備が整いました」


「解った、さあ、俺達も往くとするか」


「ああ、下らない戦を終わらせよう」



華琳の報告に俺が白蓮に声を掛ければ力強く返る。

数ヵ月前であれば単なる強がりだっただろう姿。

しかし、今は名実共に民を統べ、導く者だ。

その謙虚ながらも自信に満ちた姿に惚れ直す。

「やっぱり、お前はいい女だよ」と。

そう言いたくなるが、華琳達の手前、我慢する。

ややこしくなるからね、色々と。


愛紗達が本隊()として表立って戦っている隙を突き、別動隊(本命)の俺達は此処には居ない辛教の首を狙う。

一緒に動くのは白蓮・華琳・咲夜の四人だけ。

連れて行く兵も精鋭中の精鋭で五十人。

目指すは、辛教が居るだろう居城。




馬を使わず、氣で強化した肉体で疾駆。

目立たない為だが、特に問題も無く目的地に到着。

兵に制圧を任せ、華琳と白蓮、俺と咲夜に分かれて辛教を探しに城内へと入った。

当然だが、意図的な組み合わせだ。



「成る程な…この違和感(・・・)が“歪み”の影響か」


「私には判らないけどね」



城内に存在する多数の氣。

その中で、唯一“何かが違う”感じがする氣の方に咲夜と一緒に迷わず向かって行く。

辛教が氣を扱える可能性も考えてはいたが…。

まあ、“今回は”その心配は要らないな。

城内に感知様の氣の網が仕掛けれている事も無く、罠らしい罠も無く、兵の強化もされていない。

そう、拍子抜けな位に簡単だ。



「──とか思ってたのがフラグだったかな~…」


「ちょっ、ちょっとっ、手っ…」


「非常時だ、我慢しろ」


「非常時なのは判る、けどっ…そ、そんなに乱暴に…もっ…揉まないっ、でよっ…」


「いや、揉んではいないからな?

お前が動くから、そう感じるだけで…あー…いや、出来る範囲では気を付けるから

取り敢えず、今は我慢してくれ」



辛教だろう、他とは違う氣の持ち主の居る部屋へと辿り着いて扉を開けて踏み入った瞬間に、一閃。

背後から来ていた咲夜を小脇に抱えて回避。

その際、愛紗を凌ぐ双丘の片割れを握ってしまう。

肘の内側辺りには押し潰された特大饅頭が。

いや~、役得役得っ!。

──ではなく、いや、確かに役得ではあるが。

突然の事に咲夜が軽くパニックって身動ぎした為、俺が揉んでいる様に感じてしまっただけ。

俺はただ咲夜を抱えているだけです。

不埒な気持ちは有りますが、流石に遣りませんて。


ある程度の距離を取り、咲夜を解放する。

距離が有り、視覚が十分なら、今の咲夜の実力でも回避が可能な程度(・・・・・)の攻撃だった。



「──で、アレ(・・)をどう見る?」


「……正直、作品が違わない?

何よ、光って飛ぶ攻撃って」


「すまん、その条件なら氣で遣れます

流石に斬撃は飛ばせないけど、刀身に纏わせていた氣を飛ばす事なら出来るな、一応」



冷静に謝罪と指摘をしたら「一々細かいのよ!」と言う感じで睨まれましたとさ。

まあ、それは兎も角、氣でも飛ぶ斬撃(・・・・)でもない。

見切れる程度には遅いレーザー、という感じ。

まあ、照射されてる訳じゃないんだけど。



「アレも歪みの影響か?」


「……そうとしか思えないけど…有り得無いわ

だって、第一段階で、こんな………っ…まさか…」


「そのまさかかもな…

影響までもが歪んできてるのかもしれないな

前例や後の事は判らないが、コレ(・・)は異常だ

精神云々じゃない、明らかにもっと深くまで(・・・・・・・)影響が及んでると考えておいた方がいい



「……反論出来無いから、余計に最悪だわ…

だけど、その割りには随分落ち着いてるわね?」


「基本的に俺は期待は持っても、決め付けはしない事を心掛けてるからな

守るべき存在(もの)が有るんだ

二度と取り零し(・・・・)はしない」


華琳(あの娘)達、愛されてるわね」


「お前もだ、咲夜」


「──────ぇ?」


「お前の(おも)いも一緒に背負って遣る

だから、こんな所で躓いて俯いてる暇は無いからな

さあ、さっさと片付けて家に帰るぞ」


「…っ……ええ、判ってるわ…で、どうするの?」


「氣弾を適当な時間差で何発か撃ってくれればいい

当てられるのなら当ててもいいし、当たらなくても何の問題も無いから兎に角撃ってくれ

後は──俺が瞬殺す(仕留め)る」


「了解──さっきの御礼よ!、食らいなさいっ!」



一つ息を吐いて切り替えた咲夜は氣弾を撃つ。

まだ誘導追尾までは出来無いが、流石に軍師型。

元・女神の経験を活かし、巧みな思考誘導をする。


咲夜の攻撃に辛教が応戦している最中、俺は気配を消して静かに咲夜よりも後ろに下がった。

辛教とは互いに米粒大の大きさにしか見えない。

其処から、一歩(・・)で辛教の懐に入る。

辛教の瞳が胸より下に居る、深く沈み込んだ俺へと落ちた瞬間には既に俺の右手が心臓を捉えた。



「──五斗米道・秘奥義・心羅卍清(しんらばんしょう)っ!」


「─────────────────────」



俺の右手が眩しく輝き、辛教の身体を飲み込む様に光が包んでいって──蛍火の様に弾けた。

意識を失って床に倒れ込んだ辛教の氣を確認すれば感じていた違和感は綺麗さっぱり消失していた。

咲夜の話からして、この技なら遣れると思ったが…まさか本当に一撃だったとは…。

正直、俺の方が驚いてますもん。

だって消去出来無かったら殺るつもりだったし。

其方の意味で言ったんだもん、忍君も吃驚ぽんっ。



「…貴男、素でチートね」


「言うな…でも、努力有っての結果だからな?」


「其方じゃないわよ、縁よ、貴男の巡り合わせ

幾ら自分から探しに行ってたって、普通、逢えずに何年も費やすわよ?

それを考えたら、貴男の巡り合いは異常だもの

「御都合的だ」って言いたくもなる位にね」


「あー……それに関しては俺も思ってたけど…

お前が言うって事は仕様(・・)じゃないんだな?」


「違うわよ、あの時にも言ったでしょ?

私達は世界の在り方には干渉出来無いのよ

だから、貴男は天然の豪縁者(チート)なのよ」



ウワー……否定出来無いですネー。

心当たりが有り過ぎて涙が出そうっス。

………うん、よし、考えるの止めよ。


さあ、キリキリと御仕事御仕事っ!。

ワーカーホリックに為っちゃうカモよ~。




──とまあ、そんなこんなで辛教を捕獲。

居城も制圧し、羊宣・朴雄も愛紗達が捕獲。

楽しい楽しい、拷問(オハナシ)タ~イムッ!。

──によって、簡単に吐い(ゲロっ)てくれましたとさ。

もう少し頑張ってよ~っ!、つまんない~。


まあ、三人を処刑し、不合格者(粗大ゴミ)を処分。

啄郡(我が家)の中が、綺麗になりました。

はい、目出度し、目出度し。



「──の筈なんですけどね~…」


「御兄様、どうかなさいましたか?」


「なあ、我が愛しき妹よ

兄は疲れているので今日は休みたいのだが?

其処の所、判ってる?、判ってるよね?」


「はい、勿論です、御兄様

心地好い疲労(・・・・・・)は快眠の秘訣です」


「ああ、そうだな、そうだとも

──で、これは?、何故こうなってるのかな?」


「御兄様、信賞必罰は政の基本です」


「ああ、そうだな、勿論だとも

──で?、これは?、一体どうしてこうなる?」


「御兄様、私達は金品や地位は要りません

私達は御兄様の臣兵では有りませんから」


「ああ、当然だ、大切な家族だからな

──で?、これは?、どんな理由でこうなっ──」


「──忍っ、いい加減、現実逃避は止めろよなっ…

…こんな格好のままで待たせるなよ、馬鹿っ…」


「そういう訳です、御兄様

私達が欲しい一番の“御褒美”…

御兄様が判らない筈、有りませんよね?」


「…………………はあぁぁあぁ~~~~~っ………

判ったよ、だが、覚悟しろよ?

明日、足腰立たなくても治療しないからな?」


『はいっ♪』



妖艶に肢体を揺らして誘う愛しき妻達。

その誘惑は甘美であり、危険な愛の結戯(ゆうぎ)

望まれて、求められて、尚──否を貫き通せる?。

ええ、俺には到底無理な話でした。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.16

















 曹操side──




□月△▽日。

范陽県の県令・張洛の不審な動きに端を発した件は御兄様の御見事な采配により、無事に解決。

これにより、事実上、啄郡を御兄様が治める事に。

白蓮達は当面は県令を兼任。

しかし、そう遠くない内に後任に任せる予定。

何しろ、今のままでは啄郡の太守と成られた御兄様とは離れて生活する事に為るものね。

尤も、穏も璃々も“まだ”だけれど。

穏の方は時間の問題でしょう。

それに他にも……ふふっ、良い傾向だわ。

御兄様には支える妻が沢山必要だもの。

──とは言え、誰でも良いという訳ではないわ。

勿論、御兄様が本気で漁色されるのなら結構。

沢山、御子を成して頂くだけよ。

ただ、御兄様は基本的に警戒心が強く、目敏い。

だから、私も余計な心配はしていない。

まだだけれど、御兄様の周りには集まっている。

御兄様を私達と共に支えて行ける才器()が。

“案ずるより、生むが易し”かしらね。




御兄様が啄郡の太守となる為には郡内の県令達から過半数の承認を得なくてはならない。

しかし、白蓮達三人は兎も角、四県の県令は不在。

だから、何の文句も出ずに御兄様が太守に。

「先に県令を決めるべきだ!」と宣う馬鹿も不在。

何しろ、先に排除しているもの。

本当に…本気の御兄様は素敵です。

嗚呼…あの日の御兄様、物凄かったわぁ………。



「………ぁ、ぁの……で、出来ました…」


「そう、では見せて貰うわね」



ちょっと思い出して旅立ち掛けていた事など微塵も感じさせない凛とした態度で差し出された答案用の竹簡を受け取って採点を始める。

まだ流琉達が頭を悩ませている中、歳が上とは言え随分と早かった事には素直に驚く。

そして──満点だったという事にも。


私は答案を置き、目の前の少女を見詰める。

御兄様により失明していた視力は回復し、痛々しい傷痕も綺麗に消えている。

けれど、心の傷痕は簡単には癒えも消えもしない。

恐らくは、私には理解し切れない、その胸の内。

それでも、判る事も有る。

そう、同じ“女として”ね。



「…亞莎、貴女、誰かに学問を習っていたの?」


「…っ……は、はぃ……亡くなった御祖母様に…」


「そう、素晴らしい御祖母様だったみたいね

亞莎、よく出来たわ、満点よ」


「っ!、ぁ、有難う、御座いますっ…」



不安そうな表情が一転、可愛らしい笑顔(はな)が咲く。

御兄様が助けた少女は呂蒙、真名を亞莎と言う。

私達の一つ下で、御兄様とは三つ違い。

才器は本物、しかし、病的なまでの人見知り。

彼女の過去も一因では有るのだろうけれど。

“好き過ぎて”眩しくて御兄様を直視出来無いとか私も想定外も想定外だわ。

こればっかりは私達が頑張らなくては。

御兄様には頼り難いですから。



──side out



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