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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   廻り巡り絡みて


世の中には“雑草魂”という言葉が有る。

これは「踏まれても踏まれても挫ける事無く伸びて軈て硬い壁さえ貫き破って台頭する」といった様な意味合いで用いられる事が多いのだが。


さて、世の中の大多数の人々にとって“雑草”とは一体どの様な存在なのだろうか。

はっきり言ってしまえば“鬱陶しい邪魔者”だ。

勿論、雑草も植物なので、飼育する動物によっては餌にする事も出来る為、有用性は有る。

ただ、基本的には要らない存在だろう。

除草剤を使えば楽だが、有害な可能性も含む。

無害なのは地道な草取りを遣る事なのだが。

熱射病に脱水症状、虫刺されに感染病と。

昔に比べて危険性が増しているのも事実。

その為、雑草は更に疎まれる様に為っている。

「雑草なんて無くてもいいのに…」と。

そう思う人々は恐らくは多い事だろう。

そういう意味では、雑草魂は微妙だと言える。

“雑草=邪魔者”とするなら、社会不適合者だとか社会犯罪者の事を指す比喩とも言えるのだから。


ただ、それは偏り穿った見解でもあるだろう。

そういう意味合いを言葉に含めてはいない。

飽く迄も、ポジティブに、良い意味だけを。

雑草魂という言葉を使う際には意識している筈だ。


しかし、物事には善悪・表裏が存在するのが常。

言葉だけではなく、全てが内包している事。

「生まれながらの悪人は居ない」と言う様に。

善悪の肯定は自分ではなく、他者によって行われ、自分の意思とは関係無く評価される。

それを「社会性として当然の事だ」とするのか。

或いは、「勝手な評価の押し付けだ」とするのか。

明確な定義(答え)は出せないだろうが。

本の少しだけ、考えてみる事も意義が有る筈。



「──っと、これで最後か…」



両手に持っていた直刃の短剣を振り、付着していた血を纏わせていた氣を解くのと一緒に飛落させる。

狭い場所や乱戦だと短剣二刀流が殺り易い。

無手でも良いんだけど殺り慣れたくはないからね。

だから出来る限り、武器を使う様にはしている。

何しろ治癒行為の時は素手だからね。

その違いを客観的に見ても判る様に、という配慮な訳だったりするんですよ。

まあ、そう思い込ませて置いて敵の油断を誘う為の仕込みだったりもするんですけどね。


そんな事は置いておくとして。

今、俺が何処で、何をしているのか。

それには周辺に散らばっている永遠の別離を迎えた多数の首と身体、屍、血痕と血溜まりを見て貰えば一目瞭然ではないだろうか。

そう、俺は魚の解体・加工会社を設立したんだ。

──嘘です、暇潰しに北新城県の賊狩り中です。

直剣一本と短剣二本が装備ですが海賊ではないので未来の王様の御眼鏡には叶わないでしょう。

叶っても世界軸自体が違うので困りますしね。


でもね?、マジな話、水産加工業って上手く遣れば成功させられる自信は有ります。

流石に缶詰商品は作れませんけど。

乾物系で荒稼ぎ出来ると思うんです。

だって、まだ“旨味”の概念は有りませんしね。

華琳達には俺が教えてしまってますけど。

華琳達は此方等側の人間なので問題有りません。

何なら寝技と肉体言語で説得しますから。


いや、水産加工業の件は別の機会にするとして。

辛教の考え次第とは言え、丸一日は暇が確定。

其処で、俺単独と凪を隊長とした“御掃除死隊”を結成し、現在営業活動中なんです。

まあ、内容的には真っ赤な闇営業なんですけどね。

成果としては、白く出来るんで。

因みに、方城県を担当している凪隊には恋・流琉・季衣・元譲・公覆が参加しています。

ええ、オーバーキルな面子だとは思いますよ?。

ただね、分けたら、拗ねる娘が居る訳で。

参加していない面々からも参加希望者が出る事態が容易く予想出来ましたからね。

それも仕方の無い事、配慮なんですよ、ええ。



「それにしても…こうも賊徒っていうの何で似てる連中ばっかりなんだろうな…」



色違いなだけで使い回しの敵キャラのデザイン等に対する意見ではなくて、連中の性根が、だ。

理由や経緯は様々なんだろうし、想像に難くない。

だが、だからと言って連中の遣っている事を正当化出来る理由や理屈は残念ながら存在しない。

…いやまあ、「それが弱肉強食だ」と言われたら、それまでなんだけどね。

その場合は、俺達に狩られる事も、堕ちる要因も、全てを肯定し、受け入れて死んで逝かないとな。

無駄な抵抗や言い訳をしてる段階で矛盾するから。

それが判ってれば賊なんて遣ってないだろうけど。


そんな事を愚痴る様に考えながら地面に穴を掘り、賊徒の屍と藁や枯れ木、壊れた木材等を入れ点火。

賊徒の根城に有った油や酒を使い勢いよく燃やす。

放置は勿論、土葬も疫病の蔓延に繋がる一因。

だから、きっちりと焼いて処分をする。

それは凪達にも徹底させている事だからな。



「よし、これで十一箇所、と…

まあ、探索しながらだと、こんな物か…」



事前に賊徒の根城を把握している訳ではないから、移動しながら探知(サーチ)を掛けて、というスタイル。

手間と時間は掛かるが確実だからな。

しかし、村邑は愚か集落とも呼べない三十人以下の細々とし過ぎている人々──粗一族・一家だが──との区別が直に見ないと難しいので困る。

啄県・故安県では全く見掛けなかった光景であり、逎県でも五十人を割った集まりは無かった。

それらの状況と比べても、北新城県の治安の実態が如何に悪いのかが容易く理解出来てしまう。


それに対し、賊徒の方は最低でも五十は居る。

民と賊徒との戦力差が大きいから被害も減らない。

正に負のスパイラル、悪循環の実例だと言える。



「………平和な世の中、か…」



ポツリと呟きながら、自分の右手に視線を落とす。

華琳を、愛紗達を、何だかんだで守って来られた。

それは俺自身の意志と努力が有ったからなのは勿論態々言うまでの事ではない。

ただ、咲夜ではないが、特典(チート)無しだったら。

俺は何も出来ず、失い続けていたのだろう。

そういう意味では、ある意味では、“主人公”的な立ち位置に居るのかもしれない。

ただ、俺に勇者・英雄的な願望も思想も無い。

世界の平和?、平等な社会?、巨悪を倒す?。

正直、そんな事はどうだっていい。

俺は只、華琳達が笑顔で、共に幸せで居られれば。

それだけで十分なんだからな。


ただ、人は欲張りな生き物だ。

俺だって、華琳達だって、その例に漏れない。

だから、色々と望んでしまうんだよな。

その結果──少しずつ、守るべき存在(もの)が増える。

それが悪い事だとは言わないし、大切な事だろう。

ただ、背負い切れるのか。

己が身の丈に、器量に、見合っているのか。

それを見極める事だけは疎かにしてはならない。

分不相応な者には背負い切れないのだから。

無理をすれば、自他共に滅ぶのみ。

勿論、“自他共栄”の精神は素晴らしい事なのだが一方的に寄り掛かっても背負っても駄目だ。

支え合う事が何よりも大事だと言えるだろう。


しかし、それが難しいのも、また事実だ。

俺達は多くの民を背負う事は出来るだろう。

だが、本当に民が俺達を支え切れるのか。

その点に関しては期待値(可能性)でしか言えない。


──なんて事を考えている内に次の反応を捕捉。

視覚を強化し、接近しながら確認をする。

何の捻りも無い初期設定(ノーマル)のままの賊徒の姿に思わず失望の溜め息が出てしまう程に判り易かった。


捕まえた鳥や魚を焼き、山菜と奪った米を煮た汁。

それらを食べながら酒を呷り、下品に笑い合う。

何を話しているかなど、聞かなくても察しが付く。

ああ、それを否定しはしないさ。

だから──俺も、お前等も、同じ様に従うだけだ。

弱肉強食の理の下にな。


減速する事無く足場にした木を蹴って大跳躍。

走り幅跳びの様に賊徒達を目掛け、後は自由落下。

そんな俺の身体が小さな陰となって、賊徒の一人が酔っ払った顔で此方等を見上げた。

呆けた顔が訝しむ様に変わり、凝視する。

そして、人間()に気付いた。

──その瞬間に、俺の放った直剣が眉間を貫く。

叫ぶ間も無く絶命し、仰向けに倒れた。

その音に振り向く者が数名。

疑問符を浮かべながらも、仲間の死を理解する。

酔いが覚める様に慌て出し、場が混乱する。


そんな真っ只中に、俺は登場(着地)した。

投げた直剣を右手で回収し、左手には短剣を持って口上を唱える事も無く、虐殺(掃除)を始める。

手が、腕が、足が、首が、血が、次々と宙を舞う。

鮮血の飛沫(はな)が吹雪の様に乱れ飛ぶ。

氣で極薄の防護膜を全身に纏う俺は汚れない。

臭いも染みも出来ません。

さあっ、奥様っ!、貴女も御試し下さいっ!。



「──っ手前えっ!、動くんじゃねえっ!

武器を捨てねぇと、此奴を殺すぞっ?!」



──とか、馬鹿遣ってたら、フラグが立った。

──というか、見落としてたとは…ガッデムッ!。

まだまだ俺も未熟だな、精進しなくてはね。

「おいっ!、止めろっつってんだろがっ!」とか、叫んでるけど無視無~視。

だって、人質取ってる段階で力の差は歴然。

寧ろ、最後の一人になるまで奴は何も出来無い。

少……女だよね?、うん、少女だ、少女だった。

少女を人質にした賊徒の頭っぽい奴は叫ぶだけで、少女を本当に殺そうとはしない。

少女を殺したからと言って勝てはしないし。

生き残る為には少女の生存は男の切り札。

だから、此方が仲間を鏖殺していても何も出来ず、ただただ見ている事だけしか出来無い。

──で、殺り尽くした瞬間に、態と背中を向ける。

勿論、動きは把握してますからね、誘いです。

男は僅かに逡巡してから少女を俺に投げ付ける様に押し飛ばして、逃げ出した。

俺は少女を優しく抱き止めながら、逃げた男の背に振り向き様に直剣を投げ放っていた。

高々15m程で賊徒相手に外す訳が無く。

水平に回転しながら飛んで行った直剣は電動回転鋸の様に男の首を刎ね飛ばした。

七十程居た賊徒達は残らず血池に沈んだ。



「怖い思いをさせたな、もう大丈夫だ

怪我はしていないか?」


「……ぁ、は、はい…大丈夫、です…」



そう言った少女の様子に違和感を覚え、気付く。

この娘、眼が…古い傷痕だから此奴等が原因か否か定かではないが、意図的に斬られて、奪われた。

そう確信出来る程に。

“綺麗な”斬痕が顔に刻まれている。

気にはなるけど…此処で確かめる事じゃないか。



「此処には何時連れて来られた?」


「…えっと……多分、四日程前に…だと…

…話の内容から、何処かを襲った帰り道みたいな…

そんな感じの会話をしていましたので…」


「…という事は、連れ去られた訳じゃないのか?」


「…っ………はい、私は山中で遭遇をして…

何処かから連れて来られた訳では有りません…」



訊くべきか躊躇したが、聞いて良かったな。

近くの街や村に送り届けていたら頼る先も無くて、行き倒れていたかもしれない。

本人も自覚が有るから遠慮しそうだからな。


俺は右手で抱き寄せながら左手で少女の頭を撫で、出来るだけ先程と変わらない口調で話す。

こういう娘の場合、他の感覚が発達してるからな。

下手に気を遣うと見破られて逆効果になる。



「家族や親戚は居るか?」


「…っ…………いいえ…」


「そっか…なら、宅に来るか?

粗女所帯だからな、気楽だと思うぞ?」


「…………あの…宜しいのですか?」


「ああ、一応、俺が家長だからな

俺が来いと言う以上、余計な事は気にするな

お前が“誰かと一緒に居たい”と思うのなら…

理由なんて、それだけで十分だ」


「──っ……わ、わたっ、私はっ…」



くしゃりと顔を歪ませる少女。

数える程だが、何度も見てきたからな。

だから、隠そうとしても無駄だ。

悪いが、無理矢理にでも引っ剥がさせて貰うぞ。



「素直に、思ったままを教えてくれればいい

お前は、どうしたい?」


「………ぃ………っ……ぃ……です…

…一緒に居たいっ、もう独りは嫌ですっ!」


「なら、今日から俺達は家族だ、“おかえり”」



谺する嗚咽を森が優しく隠す。

簡単には癒えない傷痕も、軈て。





 夏侯淵side──


子瓏様達が賊徒討伐に出掛けられ、残った私は時を無駄にせぬ様に密かに動いていた。

主であり、妹も同然である穏が璃々殿と一緒に居る隙を狙って華琳様に接触している。

この場には私達に加え、白蓮殿と紫苑殿が居る。



「──という感じかしらね

私から言える事は一つ、確かに御兄様は雰囲気には流され易いけれど中々に難しいという事よ

少なくとも二人きりでなければ無理よ」


「…やはり、二人きりになる事が重要ですか…」


「まあ、それが難しい相手ではあるけどな」



華琳様の言葉に難しい顔をする私と紫苑殿。

そして、白蓮殿の言葉に深い溜め息を吐く。


そう、この集まりは“子瓏様に抱かれる為には”を経験者である御二人に御訊きする為。

因みに、賊徒討伐に参加している祭殿は協力者。

こうして時間を作る為には必要な事なのだから。

…姉者は……素で参加しているのだがな。

まあ、姉者自身も「子瓏様に…」と望んでいるが。

私達の様に“搦め手”は出来そうにないが。



「…あの、華琳様、子瓏様の女性の好みや理想は、どういった感じなのでしょうか?」


「残念だけれど、そういうのは逆効果よ

下手な演技等は御兄様に見抜かれるわ」


「普段は隙だらけな癖に、その辺は鋭いからな

まあ、私が言わなくても知ってるだろうけどさ」



「好みの女性に寄せれば…」と考える私の質問に、華琳様は苦笑され、首を横に振りながら却下。

白蓮殿も同意されながら、指摘される。

そうだ、確かに私達は知っている。

子瓏様の御慧眼は人智を超越する程なのだと。

…まあ、その御陰で私達は救われたのだがな。



(………待て、そう言えば、あの時の事は……………~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ…)



思い出した瞬間、身体が沸騰する横に熱くなった。

今まで考えなかったのが不思議な位なのだが。

よくよく考えると、子瓏様が“酔い潰れる”事など有る筈が無いと、今なら判る。

つまり、“あの時”、子瓏様は酔ってはいなくて。

私は子瓏様に………ああァあんな事をっ……。

いや、勿論、子瓏様に非は無い。

当時の子瓏様の立場であれば、私の動向から事情を探ろうとなさっていたのだから、仕方が無い。

仕方が無いが………私は子瓏様に……………っ…。

嗚呼っ、あの時に戻って遣り直せるのなら子瓏様に不埒な真似をする事など……………など……いや、どうせ遣り直せるのなら、あの時に子瓏様と……。


その先は未経験であり、想像も乏しい物だが。

自然と喉が鳴ってしまった。



「…秋蘭?、どうかしましたか?」


「──っ!?、ィ、いや、何でも無い…」


「ですが、顔が…」


「そ、それはっ……」


「紫苑、あまり追及する物ではないわ

色々と思う所が有るのは貴女も同じでしょう?」


「……そうですね、御免なさい、秋蘭」


「いや、私が紫苑殿の立場でも気にした筈だ

だから、そんなに気にしないでくれ」



そう言って話を終わらせ、どうにか誤魔化した。

だが、華琳様には見抜かれたかもしれない。

「フフッ、頑張りなさいね?」と言う様な意味深な笑みと眼差しを向けられてしまったのだから。


──side out



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