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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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6話 金の栗は小さい


そんなこんなで、二週間。

俺は今日も生きてます。


…え?、何が有ったか全く判らないから説明しろ?。

いや、大した事は無いよ。

普通に生活してました。

ただ、それだけです。

それでもまあ、自分の中で一番大きかった変化は──曹嵩さんを異性として見る事が出来無くなったという事だろうな。

…うん…非常に無念だ。


そう為った経緯──要因は実に単純な事だった。

「恕、今日から貴男は私の息子に為りました、だから私の事は母と呼ぶ事♪」と笑顔で言われて、納得し、「判りました」と了承して“母さん”と呼ぶ様にした事だったりする。

自己催眠の様な物かな。

そう呼ぶ事により、自然と抵抗無く塗り替えられた。

…母さんの計算という様な事は無いとは思うけどね。


ただね、思うんですよ。

あの時、俺は“義母さん”にしとくべきだった、と。

でもほら、そうした場合、曹操と結婚したみたいで…何だか複雑な家族関係へと発展しそうだったんです。

だから、素直に母親として認識しようと考えた訳で。

決して他意は無かった。


故に、想像していなかったというのが本音だ。

まさか、その些細な認識に引っ張られて曹嵩さんへの劣情(想い)が枯れ果てる事に為ってしまおうとは。

…まあ、そのお陰なのか、今では未だ気恥ずかしさは残ってはいるが曹嵩さんの抱擁(スキンシップ)に対し慌てる事は無くなった。

…嗚呼っ、偉大なる我等が(かみ)よ!、何故こんな試練を与えるのですか?!。

──という心境です。

いや本当に、俺の理想的な女性なんですよ?。

人妻・未亡人とは言っても全然気に為らないしね。

…戒律(教え)?、そんなの俺には関係無いですから。


──とまあ、そんな訳で、この母子三人での新生活は至って順調なんです。

曹操──操とは兄妹として馴染んでもいますしね。

初日の──正確には翌日の朝起きた時に見せた彼女の表情は忘れられません。

大人びた聡明な印象だった彼女だけど、寝惚けながら俺に自分から抱き着いて、その後に状況を把握するも母さんによるホールドにて離脱が不可能と判った時、羞恥心に真っ赤に為りつつ声を殺し上目遣いに涙眼で睨んできた事は。

ええ、大事な妹との思い出ですからね。


因みに、母さんは俺と操をくっ付けたい様子。

悪い気はしないけど。

色々と複雑ではある。

母娘だから操の将来性には期待大なのは確かですが、原作を知っている身として“不可能な可能性”が先に思い浮かぶのも事実。

あと、妹は妹ですから。

妹に手を出したら、それはシスコン(お兄ちゃん)失格ですからね。

…絶対とは言えない辺り、俺は半端者だけどね。

あと、ロリコンではない。

合法ロリとは違うから。

現在の操が相手だとアウト──じゃないか。

俺も子供なんだから。


精神と肉体のギャップってもどかしい問題だよね。

色々とややこしいし。




──といった事を回想し、よく晴れた空を流れて行く白い雲達を見上げながら、ゆっくりと息を吐く。

溜め息ではない。

単純に、言葉にする以上に二週間という間にも色々な事が起きていたから。

ただそれだけです。

それも仕方が無い事。

だって、俺の感覚としては“異世界”なんだから。

そうなりますよね〜。



「──御兄様」


「──ん?」



声の主は直ぐに判る。

そして、“誰の事?”──なんて思う事は既に無い。


いや、最初から、そういう意味での違和感は無くて、すんなりと受け入れられて兄としての自覚も持てた。

全ては可愛い妹の為だ。

出来無い理由など無い。

…ただまあ、逆に愛妹から「御兄様」と呼ばれる事に幸福感を覚え、その感動に浸ってしまうという反応を最初はしていた。

流石に“変な人”と妹から認識されたくはないので、早々に自重しました。

尚、“お兄ちゃん”と操に呼んで欲しいのは内緒だ。

言ったら怒るだろうしな。


そんな操の声に振り向くと小さな身体には似合わない倍近い大きさの竹篭を背に歩み寄ってくる。

身長差も有り、その中身が一杯な事にも気付く。

その瞬間、笑みが浮かぶ。



「おっ、大当たりだな」



そう言った俺に対して操は不満そうな顔をする。

まあ、そういう反応をする理由は理解出来る。

何故なら竹篭を満たすのは山菜でも川魚等でもない。

──というか、そんな物を竹篭一杯にして背負う事は今の操には難しい。

今の操は普通──かは俺も言い切れないが、幼い為に出来無いのは確かだ。


では、一体何を竹篭一杯に集めてきているのか。

それは──水鳥の羽毛だ。

ああ、一応言って置くけど俺にも操にも水鳥を仕留め捌くだけの技量は無い。

魚を捌くのとは違う。

だから抜け落ちている物を拾い集めていた。

近場に水鳥の大きな群れが住む場所が有る事を知って遣って来た訳です。

因みに、水鳥達は警戒心の高さから仕留めるのが結構難しいそうです。

今は関係無いけど、鶏肉は欲しいとは思います。

ええ、かなり、切実に。



「……こんな物、どうするつもりですか?」



そんな事を考えている俺に用途が判らない操は眉根を顰めながら、俺が脇に置く一杯に為った竹篭を睨んで拗ねた様に訊いてきた。

その反応も当然だろう。

知識が無いのだから。

だが、それ以上に此処には「母さんへの贈り物を」と言って連れ出して来た。

“子供だから…”と言って何も出来無い事に納得する操ではない。

だからこそ、俺の話を聞き乗ってきたのだ。


それなのに、コレだ。

不満に思って当然だろう。

だがしかし、そう簡単には教えてあげません!。

確かに母さんへの贈り物に間違いは無いんだが。

同時に、操への贈り物でも有るのだからな。

だから、今は内緒だ。

…嫌われる可能性は有るが今は堪えるべき時だ。

頑張れ、兄(俺)!。




しかし、拗ねてる顔も操は可愛いなぁ、もうっ!。


──という俺の萌え(心)の叫びは置いておいて。

操の機嫌を直す為に今から頑張らないとね。



「さて、それじゃあ今日も始めようか!」



元気良く、子供らしく。

楽しそうな笑顔を浮かべて遣る気を見せてみる。

しかし、操は聡明だ。

其処等辺の普通の子供とは才器が違う。

生半可な演技では見抜かれ更に不機嫌に為るだけ。

つまり悪循環である。


では、どうするのか。

フフフフッ…それは至って簡単な事だよ、助手君。

…コホンッ…演技などせず真っ向勝負するんです。



「一度でも操が勝ったら、どんな御願いでも一つだけ聞いてあげるよ?」


「──っ!、さあ、今日も遣りましょう、御兄様!」



そう言った途端、一転して遣る気を見せる操。

そう、“餌で釣る”、だ。

…今のは駄洒落じゃない。

駄洒落じゃないからね?。


まあ、要するに如何に操が聡明でも、万能ではない。

細やかで小さな御願いでも叶わない事は多い。

それには“子供だから”が理由な場合も少なくない。

だが、逆に“子供だから”叶う事も有る。

その辺りのジレンマは仕方無い事だと思う。

子供に限った事ではなく、誰にでも言える事だから。

だからこそ、叶わない事を叶えられる可能性が有れば飛び付いてしまう。

それが親い者が相手なら、“自分を害する事は無い”という無意識下の無防備で根拠の無い信頼に因って。


まあ、俺に操を害する気は全く無いんだけどさ。

これも一種の人心操作術と言えるんだろうな。

物凄い幼稚な方法だけど。


そんな事を考えている間に操は慣れた動きで丸太へと乗っている。

それを見て、俺も同じ様に並行に置いた丸太へ上がり操と向き合う様に立つ。

そして、静かに見合う。



「発気用意──」


「──残ったっ!」



俺の声に続く、操の一言で勝負は開始される。

身体の真横より前に置いた相手の掌を目掛けて自分の掌を当てに行く。

所謂、“手押し相撲”だ。


普通は小さな台の上に乗り行われるが、今の時代では子供の遊び道具程度に対し手間を割く事は少ない。

日々の生活だけで手一杯な状況なんだからね。

そこで、乗っても大丈夫な倒木の幹を二つに割って、丸太を二本並べて使用。

敢えて転がる様にしている辺りは子供的な発想だ。

難易度が上がるからね。


因みに、今日までの戦績は58戦58勝である。

そう、兄は偉大なのだ。




──とまあ、そんな訳で。

64戦64勝に俺は戦績を伸ばして、戦いを終えた。

いや〜、また今日も中々に良い汗を掻いたな。


は?、手加減してやれ?。

はぁ…何を甘ったれた事を言ってるんだ同士諸君!。

妹が愛しいのであればこそ妹魂(我々)は時に憎まれる事が有ろうとも厳しくする必要が有るのだ!。

ただただ妹を甘やかす事が兄の優しさではない。

妹が道を違えない様に導く事こそが兄の務め!。

そう、兄の務めだっ!。


…ん?、それは理解出来るから構わない?、けど?、何で“手押し相撲”なのか理解出来無い?。

え?、邪な匂いがする?。

ハハハハッ…ななな、一体何を仰有ってるのかな?。

べ、別にバランスを崩した操が抱き付いてくるから、合法的に妹とスキンシップ出来るから、なんて理由で遣ってはいないからね!。

………はい、すみません、少しは下心が有ります。

だって、「触らないで!」だなんて操から言われたくないんだもん!。

娘に拒絶される父親の心が少しだけ理解出来る。

俺は兄なんだけどね!。


…まあ、それだけじゃない事は本当なんだけどね。

手押し相撲ってさ、身体の柔軟性と体幹の強さが無い場合は厳しいんだよね。

逆に言うと、それを遣ると多少は鍛えられる訳。

つまり、これは遊びながら俺と操を鍛えている訳。

決して下心だけで遣ってる事では有りません。

此処、重要ですから!。


それで、足場が転がり易い丸太だって事にも実は俺の意図が有ります。

より不安定な状況の方が、効果が期待出来るから。

本当は、バランスボールが欲しいんだけどね。

そんなの無いんだもん。

だから代用品です。

本当は丸太も綺麗に削って球形にしたいんだけどね。

そんな技術、俺には無い。

だからと言って、母さんや村の人には頼めない。

だから、せめてもの工夫で丸太にしてある。

ああ、勿論枝は落として、皮も綺麗に剥いでる。

そこそこ手間が掛けてある遊び道具なんですよ。


まあ、将来的には俺自身で加工出来る様に色々学んで身に付けていきます。

目指せ、DIY王!。




そんな感じで遊びも終えて操を背負って帰宅中。

我が家の御姫様は拗ねても可愛いですが、甘えてると激熱な確変突入状態です。

小さく鼻唄が聞こえる辺り機嫌は良好な様子。

兄の機嫌も絶好調です!。


因みに、羽毛を入れていた竹篭三つには子供が採って持ち帰れる程度の山菜。

流石に手ぶらで帰るのは…怪しまれますからね。

一応、「山菜を見付けたら採って帰るから」と言って竹篭を拝借している以上、其処は見せ掛けだとしても実績(アリバイ)を作る。

これがサプライズに向けて大事なポイントです。

但し、遣り方を間違えると猜疑心や不信感から関係が悪化、最悪崩壊します。

そういう自信の無い場合、下手なサプライズは止めてストレートにしましょう。

誰もがエンターテイナーに為れる訳では有りません。

向き不向きは有ります。


──と、どうでもいい事を脳内ナレーションしながら山道を下って行く。

五歳児(妹)+山菜入り竹篭という状態で。

何気に七歳児の身体能力で厳しそうだけどね。

何とか遣ってます。

あと、妹は天使の羽根だ。

だから、重さはヘブン。

感じる様で感じません。

ただ有るのは大切な大切な妹(命)の重みだけ。


──ああ、そうそう。

唐突に思い出したんだけど皆大好き、“真名”。

迂闊に呼んだら首ちょんぱしちゃいますからね☆、な例の真名の事です。

“この世界の価値観”だと原作より厳格みたいです。

家族間なら普通に呼んでも問題無いらしい。

けど、他人──その真名を知らない人が居る状況では呼ばないのが普通。

つまり、原作みたいな事は基本的に起きないらしい。

ただ、絶対ではない。

単に口が滑る場合も有れば“意図的に口にする”事も有るそうだ。

罠ですね、解ります。

結論、結局怖い。




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