終わる事は無く
隠密達の活躍により、洋宣・朴雄の両軍が動く。
方城県と北新城県の県境を挟んで布陣をし、県境に沿って南下して啄県へと軍を進めて来た。
両軍が啄県に十分に入った所で二度目の合図。
それにより、自領ではなく、啄県内で待機していた黄叙軍・陸遜軍が予定通りに動き出す。
「…御兄様、敵の移動速度が遅く有りませんか?」
「いや、他所の場合は、あんな物だな
それに此方の各軍は一応、俺達が指導しているしな
張洛軍と違って勢いは必要無い事も有る」
魔改造ではないけど、何だかんだで軍事力的には、此方の戦力は大幅に強化されている。
元々、公孫家や黄家の兵力は精強だったし、俺達の指導を受けているだけでも成長が見られる。
兵力的には両家に劣る陸家だったが、其処は内乱で培われた結束力という点が上手くカバーしている。
両家に張り合うのではなく、並び立てる様に。
両家も傲らず、更なる研鑽を積む事を心掛ける。
その謙虚さが三家の急速な成長を後押ししている。
…まあ、俺達の扱きに付いてきてるからね。
成長しない筈が無いんですよ。
経験談・実証済みの俺達としてもね。
──で、元々の兵力としては実は朴雄の軍勢辺りは大差無い力量だったりする。
張洛軍は量も質も問題外だったが。
洋宣軍は平均的に質が高く、数も揃っている。
ただ、頭抜けた将師が居ない為、勿体無い。
まあ、俺達にとっては楽が出来るから良いけどね。
要するに、俺達が関わらなかったら、白蓮も連中に脅威に思われる事も狙われる事も無かった訳だ。
その場合には、白蓮達は死んでたんだけどね。
それを考えると、この程度なら安い代償だろう。
結果的に三家は今より大きな影響力を持つ訳だし、啄郡の中で言えば“三本柱”とか“御三家”なんて呼ばれる様に為るかもしれないからね。
…その全てに俺の血が入るのも一因だよなぁ…。
──なんて考えてる間に、敵が予想地点を通過。
三度目の合図を送り──白蓮達が動き出す。
自分達の優勢を疑う事さえ知らない敵軍の
その真っ正面から、“白馬長史”と評される白蓮の率いる騎馬部隊が全速力で突っ込んだ。
当然ながら細作は潰している為、情報は無い。
「今、敵は居ない」と油断している所に、強襲。
敵軍の先頭が白蓮達の姿を視認しても、直ぐに列の後方に位置する洋宣達や将師には伝わらない。
前線が戸惑い、混乱している間に騎馬部隊は敵軍を突き裂いて突進し、駆け抜けて行った。
両軍の間を抜けた為、敵の主力となる面子は健在。
だが、“有り得無い”事態に判断は遅れる。
そして、四度目の合図を受けて本隊が突撃する。
恋を先頭に、咲夜の指揮する公孫賛軍の本隊が。
混乱し、意識が突き抜けて行った白蓮達に向いた、背を向けて隙だらけの敵軍に。
単騎で先頭を走っていた恋が躊躇する事無く敵兵を文字通りに蹴散らしていく。
今回は敢えて武器の使用は禁じているが。
死者の数が減るとは言え、少なくはないな。
「…自分で発案しておいてなんだが…
此処で恋を突っ込ませるとか、鬼畜だよなぁ…」
「恋は嬉しそうですから問題は有りません」
「あー……まあ、確かにな~…」
華琳の言う通り、恋は嬉しがっている。
戦いを、殺しを、ではない。
“俺の”役に立てる事が、だ。
兄冥利に尽きますな、はっはっはっ……はぁ~…。
高速で待機を切り裂くのは、武神・呂布の犬尻尾。
冗談ではなく、マジで俺には見えそうです。
美少女である恋だから絵に成るし、可愛いけど。
客観的に見ると一方的な蹂躙の地獄絵図です。
まあ、前回“遣らかした”のが此処で活きるかな。
そう考えると、あの一件も意味が有った訳だ。
「…まあ、“手綱”を任された咲夜は大変だけど…
其処は頑張って貰わないとな」
「咲夜なら大丈夫ですよ、御兄様
普段は私達とは距離を置き勝ちですが、私達の事を気に掛けてくれていますし、面倒見も良いので
恋に限らず、私達は信頼していますから」
「…そうか、上手く遣ってるなら安心だな」
──と、冷静な振りをしながら華琳に答える。
しかし、思わず「…え?、マジで?」と言い掛けたのが本音だったりする。
だが、確かに思い返してみると、その通りだ。
白蓮と出逢った時の俺の反応──心中を感じ取った華琳と恋の想いに真っ先に気付いたのは咲夜。
その後も、何だかんだで華琳達を気に掛けいる。
…俺に対しては、互いに“前世”を知っている分、砕け過ぎてはいるが…確かに気遣いは有る。
まあ、精神面が年齢不相応だからね。
お互い以外には曝せない部分は有るからな~…。
そういう意味でも良い距離感ではあるのか。
恋達が率いる本隊に応戦を始めれば引き返して来た白蓮が率いる騎馬に再び突き裂かれる。
本隊は“射線上”には入ってませんからね。
白蓮も躊躇せずに殺れる訳です。
其処に始末しておいた細作達の首を放り込む。
それだけで自分達の優勢は覆された事を悟る。
慌てる洋宣は撤退を命じ、朴雄は応戦したい衝動に駆られながらも状況の不利を感じて撤退を決断。
屈辱感を隠そうともせず白蓮達を睨み付ける二人。
だが、そう簡単に勝てると思っている方が愚か。
自らの優勢を疑わない輩程、御し易いのだから。
敵軍が後退を始めた所で、五度目の合図を出す。
白蓮は最後の突撃を行った後、啄県側に一旦下がり休息を含めて騎馬部隊の再編成に移る。
被害は無いに等しいが、疲労が無い訳ではない。
人馬共に心身が十分でなければ綻びを生むからな。
その辺りは厳しくしないと全体に影響する。
本隊は恋に手を止めさせ、咲夜の指揮のみで行動し深追いはせずに県境まで押し込んだ所で停止。
追撃はしないで、此方も休息と再編成に移る。
騎馬部隊と違い、本隊には負傷者が出ている。
だが、こればかりは仕方の無い事だ。
寧ろ、負傷者だけで済んでいるだけでも凄い事だ。
敵軍は各々二万ずつの計四万。
対して公孫賛軍は七千。
騎馬部隊千、本隊六千が内訳だ。
普通、この規模で打付かれば死傷者は半数以上出て此方は敗北必至な状況だと言える。
それが軽傷者が五百以下で、重傷者は無しだ。
出来過ぎも出来過ぎ、十分過ぎる戦果だと言える。
「撤退速度は速いみたいですね」
「実感出来る死に対する恐怖によって本能的に普段抑制されている身体能力が一時的に解放されて力を出せれている状態だろうからな
しかし、箍が外れた状態は長くは続かない
そのまま精魂が出尽くして死ぬか…
そうなる前に生存本能が再び抑制するかだな
我に返った時、感じる疲労感等は普段とは比べ物に為らない位に厳しいだろうし…
場合によっては身体に支障が出るだろうな
俺達みたいに氣を使ってる訳でもないからな」
それでも、生き足掻くのが生物としての生存本能。
だからこそ、逃げ道さえ用意して遣れば、後は前に向かって只管に走って行くだけ。
つまり、読み易く──御し易いという訳だ。
四半時程、本隊が追い込んで敵軍を見送った。
それを確認し、六度目の合図を出す。
自領に入った事で安心した敵軍の兵達は気を抜き、移動速度が落ちるのは必然。
普通なら侵略した側に非が有る為、領境を越えても文句を言う資格は無く、進軍されてしまうもの。
それが追って来なくなれば、気が緩むのは当然で。
気が緩めば、身体の力が抜けて、疲労感が襲う。
其処に東側から元譲が先頭を駆ける陸遜軍が現れ、奇襲を仕掛ける。
白蓮の騎馬部隊、恋の単騎駆けに比べると彼女では未熟な分、脅威の具合は落ちる。
しかし、そんな事は冷静であり、感じられる実力が有るから理解出来る事。
そうではない兵達にとっては何も判らない。
ただただ突然現れた敵軍に慌て出すだけ。
朴雄が指示を出すよりも早く、飢えに餓えた雌狼が牙を剥いて噛み付いた。
取り敢えず自衛の為に応戦を始める兵達。
そうして足止めされている所に妙才の率いる部隊が追い付き、次々と手近な敵に襲い掛かってゆく。
その更に後方からは穏達の率いる本隊が迫る。
北新城県の県令である朴雄は驚き、動揺する。
当然だろう、自領から陸遜軍が現れたのだ。
そして、朴雄には何の連絡も来ていない。
つまり、“北新城は陥落した”と考えるのが普通。
この場に留まる事も、拠城に帰る事も危険と悟ると朴雄は更に北に向かって走り出す。
そんな朴雄軍の様子に洋宣も危険を感じて同じ様に移動を開始するが、頭の中では朴雄軍を切り捨てて自身の拠城に戻る事も選択肢として考えている筈。
その思考を狙い撃ちするかの様に七度目の合図。
西側──洋宣の自領である方城県から黄叙軍。
公覆・漢升の率いる弓騎部隊が迫りながら奇襲。
更に璃々達の率いる本隊が姿を見せる。
その状況に洋宣は「…まさか、此方等もかっ!?」と声を思わず上げてしまう程。
そして、朴雄と同様に帰還を諦め、北へ。
「あ~あ…駄目駄目だな、此奴等は…」
「はい、その通りですね、御兄様
氣を扱えずとも戦局は読めますからね
自らが出来ずとも将師の才を活かせば良いだけ…
それすら出来無い以上、あの者達は人の上に立つ器ではないという事ですね」
バッサリと斬り捨てる華琳。
言葉遣いは俺の前だから丁寧だけどさ。
俺が居なければ、原作通りの激辛評価だな。
まあ、華琳でなくても同じだろうけど。
そして、八度目の合図を送る。
休息と再編成を終えて追っていた白蓮の騎馬部隊と恋が加速し、敵軍後方から一気に襲い掛かる。
「次回、呂布再び、相手は死ぬ!、に好御期待!」という予告ナレーションが頭の中に響いた。
色々ツッコミたい気持ちと「ああ、うん、確かに」という納得する気持ちが同時に湧いた。
尤も、恋に限らず、華琳・愛紗・梨芹・凪・真桜、それから俺なら単騎で殲滅出来るけどね。
ただ、単騎無双を遣ると問題も出る。
特に男社会の政治に於いては武力で台頭する女性は間違い無く脅威とされ、疎まれ易い。
有能で活躍すればする程、排除され易い。
どんな手を使われるかも判らない。
だからこそ、俺という判り易い標的が必要。
華琳達を守る為にはな。
まあ、数年後には華琳達も普通に活躍出来る環境を整えて遣れる筈だから、頑張らないとな。
それは兎も角として。
予定通りに第二行程が終了へ向かう戦況を見ながら身体を起こして立ち上がる。
軽く伸びをして、身体に火を入れる様に深呼吸。
第三行程へと移る為に行動を始める。
流石に連中には現状を覆せる手札は無いだろうし、此方も簡単には覆させはしない。
だから此方が主導権を握った状況は変わらない。
…“歪み”の影響が俺達の想定以上だった場合は、その限りではなくなるかもしれないけどね。
そればっかりは今は断定が出来無い事だからな。
「…さてと、愛紗と梨芹も戻ってくる頃だろうし、そろそろ俺達も動くとするか」
「…今直ぐに、ですか?…」
膝枕をしていた筈の華琳は後ろに倒れ、スカートの裾を両手で摘まんで捲り上げながら、外気に晒され露になった綺麗な素足を艶かしく動かす。
欲熱を帯びた潤んだ瞳で見詰められて、強請る様に「…御兄様ぁ…」と言われてみなさい。
選択肢なんて一択しかないでしょうが。
「…………仕方が無いな、一回だけだからな?」
「はいっ、御兄様ぁっ」
甘える様に、媚びる様に、誘う様に、魅せる様に。
男の性を刺激し、引き寄せる音色を奏でる。
それと同時に純粋に嬉しさに微笑を浮かべて。
両手を広げて差し伸べ、俺の事を迎え入れる華琳に覆い被さる様にして唇を重ねる。
誰かに見られたら「…何を遣っているのですか?」という旨の台詞と冷怒の眼差しを頂く事だろう。
だがしかし、言い訳だが、言わせて貰いたい。
「大抵の男なら、美少女ゴスロリメイドさんからの「さあ、どうぞ、召し上がれ」を断れない!」と。
こんなに真っ直ぐに求められてみなさい。
男ならば答えは一つ、遣るしかないでしょう。
重なり合い、交じり合う、その情欲の宴に。
生命の神秘と真実は存在しているのだから。