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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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    日と月と人


老若男女問わず楽しめる趣味・レジャーの一つ。

釣り──フィッシングは、大きく二つに分かれる。

練り餌や生き餌等を付け、沈めて待つ釣り方。

ルアーやフライ等を使い、動かして誘う釣り方。

この二つが大きな分類だと言える。

前者の場合、じっと当たりが来るのを長く待つ事も珍しくはない為、その待ち時間を楽しめない人には向かない釣り方だと言える。

対して後者の場合は疑似餌を動かす事が大きい為、じっとしてはいない分、遣り易い釣り方だろう。

勿論、何方等にも長所短所は有る。

だから、結局は“自分に合った釣り方”が一番で、単純に楽しめる事が大事なのだと言える。


そんな釣り方の中、邪道とも神業とも言えるのが、“掛け釣り”だろう。

餌も疑似餌も使わず、針と錘だけで遣る釣り方。

方法としては待ちと誘いの合わせ技の様なもの。

魚の居る所・居そうな所に疑似餌を投げ入れる様に針と錘を投げ入れ、獲物が“射程圏内”に入るのを待って、しゃくり上げて“引っ掛けて”釣る。

釣りと言えば釣りだが、漁とも言える遣り方。

だが、非常にセンスと技量が問われる。

尚、釣り堀等では禁止されているので御注意を。



「──御兄様、全軍配置に付きました」


「判った」



華琳の報告に返事をしながらも、視線は敵軍の居る地平線へと向けたまま。

まあ、地平線というよりは稜線と言うべきだが。

其処は気にする事ではない。

…いや、本当は気にしないと駄目なんだけどね。

ただ、俺達の場合には氣で探知出来ますから。

地形による見落としって略無いに等しいんです。

略なのは、自身の過失が皆無ではないから。


それは兎も角として、今の所は順調だと言える。

正直、“歪み”の影響が何れ位出ているのか。

それが全く判らないから、油断は出来無い。

──とは言え、過度に慎重に為っても駄目だ。

ネガティブに為り過ぎれば機敏さを欠くからね。

まあ、考え無しに突っ込むのも駄目だけど。

それを見極めるバランス感覚が肝心なんですよ。

戦場や流れは生き物ですからね。



(方城県の県令・羊宣、北新城県の県令・朴雄か…

張洛と同様、辛教に踊らされているんだろうが…

まあ、欲を出して乗っかったのは自分達だからな

どうなろうとも、それは自業自得だ)



どの道、羊宣も朴雄も無能な家臣達と一緒に今回の一件で始末する予定だからな。

同情する要素は微塵も無いし。


羊宣は三十八歳で、正室・側室合わせて三十人近く妻を娶ってはいるみたいだが、子供は居ない。

気に入った女性を次々抱え込んでらしいんだけど、逆恨みされたりするのは嫌らしく面倒そうな女性に手を出す事は無い安全牌選びの保身主義者。

金を使って地位を得た成金型の政治家だ。


朴雄は四十三歳の大柄な男で、前任者の下で軍将を務めていた程で武に長けている。

ただ、強過ぎる野心の持ち主で、前任者を暗殺して県令の地位を手に入れている。

その際、前任者の妻と不倫関係に為って協力させ、用済みになったら事故に見せ掛けて始末。

若い家臣の新妻を見初めれば、でっち上げた冤罪で家臣を投獄・処刑して、側室として娶る等々。

兎に角、臣民からは恐れられ、嫌われている。


そんな対照的な二人だが、利害が一致しているから辛教の話に乗ったのだろう。

そういう意味では張洛は最初から捨て駒()だな。

協力・同盟という餌で簡単に釣れたんだろう。



(しかし、辛教は朴雄の野心を軽視してるのか?)



朴雄の野心は強欲と言うべき程の物だ。

少なくとも領地を拡大して満足するのは一時的。

孰れは啄郡その物を狙って動こうとする筈だ。

そうなった時、辛教は朴雄を始末するのか。

或いは、抑え切り、従えるのか。

何にしても、考えが有っての事なのか。

その辺りの辛教の意図が見えない。

…或いは、歪みの影響で思考が狂っているか。

何にしても、此処で考えていても答えは出ない。



「…さて、第二幕を始めるとするか」


「御兄様、御茶の用意が出来ています」


「ああ、有難──ぅ?………華琳?、それは?」



此処では総指揮を執る為、戦場に出る事は無い俺は華琳の声に「流石だな、我が自慢の愛妹よ」なんて考えながら振り向いたら、ゴスロリ風メイドの格好をした華琳の姿が。

「……何をしているんだい、我が愛妹よ?」と。

結構、マジで訊きたくなりましたよ、マジで。

いや、確かに原作の衣装は其方っぽいデザインだし似合ってるんですけどね。

抑、この世界にはゴスロリもロリータも無いので。

俺が意図的にオーダーメイドするかハンドメイドで作らないと存在しない筈なんですけど。

何故に?──って、そうだよな、うん。

俺以外にも、もう一人だけ居るじゃないですか。




「はい、咲夜から聞きました

何でも、遠い時代の失われた奉仕正装着だそうで…

…こほんっ……此方へどうぞ、御主人様」


(おのれ、咲夜……グゥッジョォオブッッ!!!!)



敷かれた蓙に座布団を置いて、その上に正座をした華琳が自分の太股を軽く叩いて俺を促す。

其処に座れと?、いやいや、そんな訳ないでしょ。

勿論、膝枕ですよ、膝枕。

それもメイドさんの、ひ・ざ・ま・く・ら!。

これ以上無い“御持て成し”と言えるでしょう。

その為、思わず叫びそうになりましよ。

兄の小さな自尊心(プライド)で堪えましたが。

いや、本当にね、咲夜も偶には良い仕事するわ。



「………あの、御兄様?……似合いませんか?」


「いいや、よく似合ってるぞ

今が、こういう状況でなかったら襲いたい位だ」


「──っ…お、御兄様…その様な事を仰有られては私は困ってしまいます…」


「困らせるつもりはないんだけどな…

まあ、今は我慢しよう」


「はい、今は、我慢しましょう」



意味深な言い方?、それはまあ、ね?。

メイドな華琳ですよ?。

メイドな妹妻なんですよ?。

萌えて、燃えて、最え盛るしかないでしょっ!。

本当は「今でしょっ!」って、Go!したい。

しかし、流石に自重はしますよ、猿じゃないんで。

……まあ、盛ってる点では同じですけどね。


それにしても……無駄に出来が良いな。

これ、オーダーメイドか?。

咲夜か華琳のハンドメイドじゃないのか?。


そんな事を考えながら華琳の太股にドッキング!。

やはり生地も良い素材を使っているな。

だが、それ以上に華琳の太股だ。

愛紗達に比べて小柄で細身の為、硬そうな印象だが──とんでもない、そんな事は無い!。

適度な柔らかさと弾力性は俺の好みにベストマッチしていると言い切れる。

それはまるで俺の為に存在しているかの様だ。



「私の全ては御兄様の為に在ります」


「華琳…」



さらっと心を読んでくる華琳。

俺も華琳の事は言えないんだけどさ。

白蓮や咲夜達程じゃないとは思うんですけどね。

まあ、それは兎も角として。

思わず誘われそうになるが、キスで踏み止まる。

「…むぅ…残念です…」とか言わないの。

全く…宅の愛妹(華琳)が可愛過ぎるんですが。

…まあ、悪い意味で困りはしませんけどね。


それよりも、今は遣る事に集中しないとな。

右手の掌に氣を圧縮し、氣塊を作り出す。

それを頭上に掲げ──弾けさせる。

たったそれだけ、だが、それだけで十分。

氣を扱えない──感じ取れない者には無意味。

しかし、氣塊は一般人にも視認する事は出来る。

だから、人目に付かない山奥や森奥に居る。

そうする事で、俺達だけにしか判らない合図として敵に情報を与える事無く、指示を出せる。


白蓮の傍には恋が、穏には真桜が、璃々には凪が、各々に居て受信役を兼ねている。

そして、俺の合図で予め決めている行動を白蓮達の指示で各軍が行う手筈になっている。


然り気無く、其処に有る事が当然の空気の様に傍に用意されている御茶と御菓子を口に運ぶ。

──否、御菓子に関しては一口大に千切られてから「はい、御兄様、あ~ん」と言わんばかりの笑顔で見下ろす華琳によって差し出されている。

此処で「いや、一人で食べれるから…」とか言って断って悲しそうにする華琳の姿を見られるのか?。

否!、断じて否であるっ!。

──であれば、同志諸君には判るであろう。

恥ずかろうとも頂くしかないのでござるよ!。

………嗚呼、この程好い甘さが御茶の渋味と苦味を引き立てて、胸の奥へと沁みまする。


…気を取り直して、戦場へと意識を向ける。

俺の合図で白蓮の陣から人が出て、別の場所に待機していた数名に接触し、その者達が敵軍に向かう。



「もしもし其処の仔猫ちゃん~

そんなに急いで何処行くの~

慌てて走ると危ないよ~

足元注意!、ほら、石ころコ~ロコロ~

急いでる時は深呼吸!、慌てず走らず落ち着いて~

世の中には危険が一杯潜んでる~

見えない、聞こえない、気付かない~

だけど、本当に悪いのは世の中かな~?

そうだよ、本当は貴方の心に潜んでる~

怖くて穢い醜い悪い奴~

叩いて、叱って、吹き飛ばせ~

そんな奴なんて要らない要らない、さようなら~

そうしたら、ほら!、心も綺麗にスッキリ!

心の御洗濯、心の御掃除、心の御片付け~

要らない要らない、悪い心なんか要~らない!

私の心、貴方の心、綺麗にスッキリキ~ラキラ!

昨日より今日が~、今日より明日が~

素敵になる、お~まじ~な~い~」



様子を見ていると頭上で華琳が歌を口遊む。

それは懐かしく──恥ずかしき我が黒歴史。

まだ愛紗が家族に加わる前の、兄の苦闘の傷痕。

母さん亡き今、それを知るのは俺と華琳だけ。

二人だけの秘密である。

………そんな甘く優しい物じゃないけどね~…。


いえね?、幼い華琳(愛妹)に昔話とか色々と話してたら、気付けばネタ切れになっちゃったんですよね~。

当然と言えば当然ですけど、ネタは有限なんで。

しかし、楽しみにしている訳ですよ、華琳が。

其処で兄は可愛い妹の為に考えた訳です。

どうすれば、ガッカリさせずに済むのか。

そう、「無いなら作れば良いじゃない!」です。

物語もですが…歌も色々と作った訳です、はい。

そして、その内の幾つかは華琳の御気に入りに。

この“心の御呪い”も…その一つなんです。

一応、妹の道徳心を育てる為に考えた内容なんで、可愛さは思ってた程有りませんでした。

……作った時は大真面目に自信満々でしたが。

ただ、華琳が歌うと可愛さが出てくるんです。

ええ、通りでアイドル商売は衰退しない訳です。

だって、「可愛いは正義!」ですからね。


ただ、俺の心は悲鳴を上げて悶えてますけど!。

表情にも態度にも雰囲気にも出しませんけど!。

ローリング&リバースの連続技ですよ。

悶心の俺なら容易く五回転アクセルも跳べる。

いや、普通に遣っても今の俺なら余裕ですけど。

前世とは身体のスペックが別次元なんで。

…文字通り、別次元で生きてるんですけどね。


そんな話は置いておくとして。

華琳の歌に合わせるかの様に、敵軍が動き出す。

敵の斥候に扮した白蓮麾下の隠密が与えた偽情報に面白い位に踊らされて、なんですけどな。

いや~、この時代の“ほうれんそう”ってば本当にいい加減だから助かりますよね、マジで。

本当、大量に草生えそう。


細作は残らず捕獲して拷──尋問し、情報を取って片付ける様に訓練をしていますからね。

万が一にも、本当の情報が漏れる事は有りません。

隠密達も腕は立ちますし、“危なくなった即離脱”を教え込んでいますから。

だから、無謀な深入り等は絶対に遣りません。

何より“隠密が居た”という事実を相手が知る事が一番のリスクですから。

だから、捕まって自害するより、捕まりそうになる状況自体を作らない事が一番重要なんです。


そういう訳で、優秀な隠密達の活躍により、見事に敵軍は動き出してくれた。

「張洛の奇襲が成功し、公孫賛軍は大慌てで南へと向かって軍を動かした」という情報の下にな。

偽情報を洋宣・朴雄に伝えた隠密達は再び公孫賛の動向を探る為に任務へと戻る──体で、離脱。

後は、取って置いた細作達の首を見せて遣る事で、成り代わっていた可能性を思考から除外させる。

そう遣って内通者を疑う思考を潰す訳です。





 公孫賛side──


鎧に身を包み、愛馬の背に跨がりながら空を仰ぐ。

地上の事なんて知る由も無いかの様に。

ムカつく程、良い天気だったりする。

ただ、“良い天気”とは言っても、必ずしも雲一つ無い快晴を指すとは限らないだろう。

それは個人個人の主観であり、匙加減だからな。

快晴だけを指す者も居れば、曇り勝ちでも幾らかは晴れ間が覗けば、という者も居る。

つまり、今の私にとっては鬱陶しい空な訳だ。



(………はぁ~……空に八つ当たりしてもなぁ…

こういう時に忍が傍に居てくれる有難みが判るな…

まあ、それも“甘え”なんだろうけどさ…)



そうは言っても、客観的に見れば単なる惚気だ。

もし私が話を聞かされたなら、そう思う。

「…他所で言えよ、私への当て付けか?」と。

独り身だった頃ならば、苛立っていた事だろう。

今は…まあ、惚気る側だから…あれだけどさ。

いや、そんな事は兎も角としてだな。

私にとっては初めての戦争だ。

まあ、戦争自体、此処十何年も起きてはいないから二十歳以下の者なら大抵が初めてなんだけどさ。

…要するに、緊張してるって事なんだよ。


それはまあ?、賊徒の討伐経験は有るけどさ。

戦争は全く別物だからな。

緊張するなっていうのは無理な話だ。

ただ、それでも弱音は吐けない。

吐いてもいいのは忍の腕の中でだけだ。

──って、違っ──わないけどさ!。

~~~~~っ、あ゛ぁ゛ーーーっ、くっそぉっ!。

そうだよ!、そうですよ!、悪いかっ?!。

…………いや、落ち着こうな、私、冷静になれ。


目立たない様に深呼吸し、思考を切り替える。



「…白蓮、兄ぃから合図」


「──っ、ぁ、ああ、判った

──居るな、“伊之壱(いのいち)”?、頼んだぞ」


「御意に」



姿を見せず、声だけを返してくるのは隠密。

私が頼んだんだけど…遣り過ぎなんじゃないか?。

まあ、頼もしい事は確かだし、忍を裏切る様な事は死んでも有り得無いだろうけどさ。

何しろ、身を以て忍の実力を知ってるからな。


──で、“伊之壱”は隠密達に与えた隠名(おんみょう)だ。

伊芦葉丹帆辺斗(いろはにほへと)の一字の班名。

壱から拾までの隊員番号。

それを組み合わせを一人一人に割り振っている。

素性は私と忍の二人以外は本人しか知らない。

そう遣って隠密の事を護ってもいる訳だ。



(…にしても、本当、底が見えない奴だよな…)



今回の大胆な策を考え、実施する実力。

奴等が見ているのは私じゃない。

表向きには私だけど、実際には私じゃないんだ。

奴等が脅威に感じているのは忍だ。

それは私自身が一番知っているからな。

だから私は、どんな手を使っても忍を繋ぎ止める。

それが私の背負う存在(もの)への責任だからな。

……ま、まあ、そんな必要も無いだろうけどさ。

昨日だって、あんなに…………っ!?、ゴホンッ!。

その心配だけは要らないな。

それだけは女として、自信を持って言える。

…油断したら、一番の座を奪われそうだけどな。



──side out



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