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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   結果を出すもの


もし、自分が隣接する勢力に対し侵攻するのなら。


間違い無く、一度は夜襲を行うだろう。

それが例え氣を使えなかったとしてもだ。

それだけ夜間というのは動かない事が常識。

平穏な日常、外見上は友好的な関係であれば尚更に相手は油断し、警戒も必要最低限な筈だ。

だからこそ、相手に数で劣る場合には有効。

更に言えば、誘導・囮役の本隊と、本命の少数精鋭による奇襲を用いれば、敵の首魁や主力を討ち取る事は決して難しくはないだろう。

まあ、その少数精鋭の質が肝心要な訳だけどな。



「…にしても、もう少しは捻って遣ってくれよな」



山中に身を隠しながら、氣で強化した視力によって張洛軍の様子を窺いながら呟く。

粛々と、慎重に進軍しているのであれば判る。

しかし、張洛軍は全力ではないにしても駆け足にて薄暗い中を移動している。

当然だが、兵は勿論、張洛や将師も武装している。

その為、駆け足をしていれば武具が音を鳴らす。

只でさえ足音が目立つのに、騎馬も少なくはない。

余程相手を見下していないと出来無いだろう。

つまりだな、白蓮、お前舐められ過ぎだわ。

まあ、男尊女卑な社会性だから仕方が無いけどさ。

──と言うか、そんな白蓮達を脅威に感じてる癖に甘く見てる張洛って愚物もいい所だよな~。


──で、そんな張洛軍だが、総数は凡そ一万。

女性こそ居ないが、兵の中には十歳に成ったかさえ怪しい少年兵の姿から老兵の姿まで有る。

流石に腰の曲がった老人や病人等は見当たらないが張洛は可能な限り徴兵して動員している。

范陽は此方等の三県に比べても人口は少ない。

──と言うか、啄郡では一番少なかったりする。

まあ、だからこそ、総力を注ぎ込めば奇襲としては油断を突けると思ってるんだろうけどな。

残念でした、俺達という死神(ジョーカー)が居ます。


張洛は県内から男手を掻き集めたんだろうな。

ただ、一県の人口から考えてもギリギリだろう。

もし、俺達が鏖殺・殲滅を遣ったならば、范陽県の民の未来は──いや、事後の生活は困窮する。

可能性としてではなく、間違い無くだ。

流石に、それを理解していない筈は無いだろう。

しかし、黒幕の甘言に上手く踊らされているから、全く疑わないんだろうな。

自分達の敗北と、その先の絶望的な可能性(未来)を。


まあ、それは今は置いておくとして。

現状から言えば、俺達は攻撃可能だったりする。

既に県境を越え、張洛軍は啄県に侵入している。

この時点で侵略行為と認定出来る為、攻撃をしても正当性は此方等に有る訳だが──まだ仕掛けない。

それは後々の心理的な“罪悪感”を植え付ける為。

例え命令であっても侵入しただけで罰せられるのと実害を加えようとして罰せられるのでは違う。

「俺は悪くない、何もしていない」と言い訳をする余地が後者の場合には無くなるからだ。


張洛を始め、主要な馬鹿共は此処で鏖殺する。

その妻子や親類縁者に関しては、いつも通り。

ただ、逎県の時よりも厳しい審査基準を設けるのは当然の事だったりする。

侵攻して来た以上、その罪は重いのだから。




俺達が見ている中、張洛軍は砦の側まで到達。

鶴翼陣に展開し、砦に向けて弓矢を構えている。

兵の七割が構えてはいるが、どうやら一射限りで、その後は攻め込む作戦らしい。

氣による聴覚強化は基本ですからね。


まあ、攻め方としてはオーソドックスだろう。

ただ、開戦──宣戦布告の意味での一撃だからでも俺だったら、此処で矢の無駄射ちはしないな。

約七千本の矢を消費する場面ではないから。

せめて、相手が五千は居れば有りだけど。

普段は詰めているのが百人程の砦ですからね。

この指示だけで張洛の技量は察しが付きます。


遠距離武器である弓矢は有効な攻撃手段だ。

しかし、コスト面で考えると戦が続くと痛い。

まあ、剣にしても摩耗は避けられないけどね。

そういう意味だと槍は穂先だけが鉄製の物だったら結構コスパが良かったりする。

ただ、槍兵ばっかりだと厳しくなるけどね。



「──我は范陽県の県令・張太伯であるっ!

逎県・故安県の県令と通じ、私腹を肥やさんとする悪徳官吏である公孫賛を討つ為に立ち上がったっ!

これを宣戦布告とし、貴様を討ち倒そうぞっ!

総員っ──射てええぇぇぇーーーーっっっ!!!!!!」



張洛の一方的な宣戦布告の後の一斉射。

下から空へと昇った矢の群れが、弧を描いて砦へと雨の様に降り注いでゆく。

──誰一人として居ない、無人の砦へと。


それを見届けてから、予定通りに華琳の合図により砦の中から響いているかの様に銅鑼が鳴らされた。

ただ、「敵襲っ!」という声も混乱する騒がしさも砦の中からは一切聞こえて来はしないのだが。



「────っ!!、総員っ!、迎撃準備っ!」



──と、張洛や将師達は指示を出したりする。

冷静に、客観的に戦場を見る事が出来るのであれば僅かでも違和感を懐く所なんだけどな。

まあ、所詮はその程度だって証拠だな。

上司に言われずとも気付く様な人材も居ない、と。

それはそれで惜しむ事無く殺れるから楽か。


そんな事を考えながら、潜んでいた岩陰から出て、張洛軍の横っ腹に真っ直ぐに向かって喰らい付く。



「──────へ?」



「訳が判らない」という顔で、間抜けな声を上げた兵の頭がトスを上げる様に宙を舞った。

一つ二つではなく、何十という数の頭が。

蒲公英の綿毛を吹き散らす様に、何気無く。

そして、遅れて溢れる鮮血のシャンパンシャワー。

無事な兵達は生臭く、生暖かな鮮血を浴び、地面に転がった既に逝った者達の首を見て、理解する。



「──これが、貴様等の始めた戦の結末だ

さあ、その選択の果てを篤と噛み締めろ

我が名は徐子瓏、啄県県令・公孫賛が夫である」



──という名乗りを上げながら、張洛を目指す。

最初に仕掛けたのが俺一人だから自然と注目され、張洛も「公孫賛の夫だとぉっ!?、そんな奴が何故、此処に単独で居るっ!?」という反応を見せる。

うんうん、リアクションだけは良い感じだね。

リアクション芸の御約束的な反応ではあるけど。

それは一回なら許される王道のリアクション。



「ガハハハハハッ!!

“飛んで火に入る夏の虫”とは貴様の事よっ!

その首!、この“范陽の剛鬼”こと────」


「────ぁ、悪いな、声がウザかったんだわ」



2m50cmに届くだろう髭面の巨躯の大男。

名乗り終える前に反射的に首を刎ねていた。

いや、ほら、そういう事って有るでしょ?。

生理的に受け付けない音域や臭いとか。

老若男女問わず、“あっ、この人とは無理だわ”と瞬間的に感じてしまう生理的嫌悪感って。

勿論、その人の言動や人格的な問題ではない。

だから、その人を否定したりはしないのだけど。

無理なものは無理って場合が有るんだよね。

特に音域の場合、話す事は勿論、側に居る事でさえ苦痛で嫌過ぎるって為るんですよ、マジで。


尤も、此処は戦場で、互いに敵同士。

気にする理由も必要も無い相手なんだけど。

あんまりな出落ち扱いだったので思わず謝った。

ただ、攻撃の瞬間さえ見えなかった俺の前から兵は引き潮の様に割れて行き、張洛への道が出来た。

いや、モーゼか俺はっ!。

華琳達に見られてるんだから、止めて欲しいよな。

また変な崇拝要素が増えるだろうが!、畜生っ!。


そんな状況でも、予定通りに華琳達も動いている。

挟撃する様に梨芹が対面から単騎で襲い掛かれば、動揺して意識が二分した隙を狙って華琳が襲来。

三方からの単騎攻撃に逃げ出そうとしている所へ、見透かす様に愛紗が襲い掛かって、包囲完了。



「糞っ!、何なんだ一体っ!

こんな馬鹿な事が有って堪るかっ!

相手は四人なんだぞっ!

奴等の討ち取った者には軍将の地位を遣ろうっ!」



餌で釣ろうと叫ぶ張洛だが──誰も応えない。

これだけの兵を擁しながらも、忠誠心は皆無。

だが、当然と言えば当然だろう。

地位は生きているから意味が有る物だ。

死んでしまったら、全く意味が無い。

そして、彼等は張洛よりも正しく理解している。

今、此処で生き残る為には何を選択すべきかを。



「無様だな、張洛

所詮、貴様は県令の地位に伴う権力で従わせているだけの才器しかない奴だ

本当の意味で貴様に忠誠心を持つ者は居ない」


「黙れっ!、私を誰だと思っているんだっ?!」


「欲に目が眩んだ、只の愚か者だろ

大人しく范陽の居城で引き籠っていれば、今暫くは生き長らえていたのにな…

まあ、それが理解出来ていれば此処には居ないが

上手い話に乗せられたな、張洛」


「なっ?!……まさか…辛教め、裏切ったのかっ…」


「それは何時か、あの世で訊いてみるんだな」


「ま、待てっ!、私は騙されたんだっ!

全ては辛教が計画し、誘ってきた事っ!

私に公孫賛を害する意思は──」


「今更何を言っても遅い

ついさっき、自分が何を叫び、そして命じたのか

そんな事も忘れたのか?」


「そ、それはっ…」


「まあ、その程度の事も覚えていられない貴様など我々は必要とはしないがな

さて、もう言い残す事も無いだろうから、死ね」


「そっ、そうだっ!、辛教の計画の事を話すっ!

知りたいだろっ?!、私が死ねば後悔する──」


「伯珪も、伯言も、子礼も北側からの侵攻に備えて軍を率いて待機している

お前が陽動し、背後を突く算段だったんだろうが、その程度の事は容易く読める

それ以上の手を打てない事も判っているからな

──で?、他に何か価値の有る情報は有るか?」


「それはっ、そのっ………そ、そう!、あれだっ!

あれは私以外には誰も知らない情報だっ!

だから、私を殺すと知る事は────はへ?」


「耳障りだ、もう黙れ」



首を刎ね、そう呟きながら苛立ちを吐き捨てる。

何も無い、虚言である事は氣を読めば判る。

抑、“捨て駒”として使われている張洛が、重要な情報を持っている訳が無い。

まあ、自分が捨て駒だと理解していないのだから、こうして動いていた訳だしな。

当然の事だろう。



「聞けっ!、范陽の者達よっ!

県令・張洛を始め、将師・指揮官は倒れたっ!

武器を捨て降伏するので有れば、助命しようっ!

張洛等の為に戦うのであれば、死を与えようっ!

選択は今の一度きりっ!

さあっ!、自らの意思で道を選べっ!」



──なんて言ってはいますが、士気がマイナスまで振り切っているのは気付いてますからね。

ほら、少し隣と顔を見合わせただけで武器を捨てて降伏の意思を示していますから。

まあ、張洛等に付き従って無駄死にしようと考える忠義者は居ないだろうからね。

仮に、張洛の言葉に甘美な未来を思い描いていても現実を目の当たりにすれば醒めてしまうもの。

所詮は権力者の命令に従っているだけだしな。

けど、取り敢えずは、これで初戦は終了だな。



「それじゃあ二人共、范陽の“掃除”は任せた」


「ええ、直ぐに終わらせて合流します」



その一言に思わず苦笑しそうになる。

愛紗の返事は何も可笑しな事は言ってはいない。

范陽県内の賊徒の排除と、張洛等の関係者の拘束。

二人の実力なら二日も掛からないだろう仕事だ。

ただ、「だから、私達の出番は有りますよね?」と獲物を狙う猛獣の様な眼差しで訴え掛けてくるのは如何なものなんでしょうかね。

まあ、まだ十分に出番は有るだろうけどな。


待機していた事後処理部隊が砦を通過して出てきたのを確認してから、俺は華琳と共に白蓮達の下へ。

予想以上ではなかったとは言え、油断は禁物。

本当に“歪み”の影響が有るのだとすれば、それがどんな形で現れているのか判らないからな。



「御兄様、北に動きは有ると思いますか?」


「そうだな…まだ動くには早いだろうが…

そう思うだろう裏を掻いて仕掛けてくる可能性は、否定は出来無いな」


「良郷県の県令・辛教ですか…

白蓮からの情報では目立った所は有りませんが…

だからこそ、その素顔は判らない、ですね?」


「そういう事だな」



張洛を始末して片付くなら超楽なんだけどな。

流石に、其処まで簡単ではないか。

本当、面倒な事だ。




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