何かしらの
一度、それが“正しい”と認識してしまうと。
その認識を疑う、という事は考える以上に難しく、抑として考えに至る事自体も滅多と無い。
そして、その正しいが軈て“常識”へと変わる。
常識は社会的な共通認識を示すだけではない。
時に、個人の価値観を示す場合も少なからず有る。
社会性の場合は他者の言動により客観的に見易いが個人性の場合は客観的に見る事は難しいだろう。
その為、自身の常識が周囲や社会とズレている事に気付かずに生き、大きな過ちに繋がる事も有る。
ただ、必ずしもズレた個人性の常識が間違いだとは限らず、時にズレているからこそ見える事も有る。
常識の根幹は単純な善悪論ではない。
道徳的な常識は、そうかもしれないが。
必要ならば、既存の常識を破壊する事も大事。
進歩・進化とは、そうした先に有るのだから。
「──梨芹、君に決めた!」
「──っ…判りました、御相手致します!」
「「──せぇ、のっ!」」
「ツーペアです!」
「──フッ、悪いな、俺はストレートだ」
「くっ……参りました」
「何をしているのか?」って?。
見ての通り、ポーカーですよ、ポーカー。
まあ、トランプは俺が作った模造品なんで前世のと比べたら粗悪品ですけどね。
遊べればいいんですよ、遊べれば。
…ん?、「いやいや、御前等、もう直ぐ戦だろ?、何遣ってるんだって意味でだよ!」ですと?。
いや~、それは御尤もな指摘なんですけどね~。
如何せん、相手有りきの事ですから。
それに此方等から先に仕掛ける真似は出来無いから動くまで待たないといけないんですよ。
既に戦争状態なら気にしなくていいんですけど。
まだ公的には何もしてませんからね。
せめて、軍を率いての県境侵犯が確定しないと。
だから、今は暇なんですよ、待機中なんで。
尚、流石に戦場になる近くでイチャラブする真似は出来ませんし、遣りません。
それで見付かったら馬鹿丸出しなんで。
──で、ポーカー遣ってる訳なんですね。
ルールとしては五枚配って、チェンジは一回。
それから賽子を振って、出た目で一人目を決めて、その一人目が勝負の相手を三人から選ぶ。
残った二人が勝負をし、各々の勝者は敗者に対して“罰ゲーム”を命じる事が出来る訳です。
因みに、俺は23戦23勝なんですけどね。
…特典?、どう使えと?。
単純に経験値の差ですよ、そう単純にね。
「──フラッシュですにゃん!」
「残念だったわね、なの~…
私はフルハウスよ!、なの~」
「そんにゃーっ!?」
語尾に“にゃん”付け中の愛紗猫と、同じく語尾に“なの~”付け中の華琳の一戦は華琳が勝利。
思わず拳を握り締める華琳と、頭を抱える愛紗。
尚、二人が其処まで感情を剥き出しにしているのは“勝ったら罰ゲームは終了”する為である。
だがしかし、我ながら愛紗に“にゃん”は好手だと言わざるを得ないな、うむ。
せめて、これで猫耳が装着可能だったならば。
………それはもう、可愛がりまくりですなっ!。
「それじゃあ、梨芹は……“赤ちゃん言葉”で」
「……あの、忍?、その赤ちゃん言葉とは?」
「あー…例えば“御飯でちゅよ~”とか“は~い、御着替えしまちょうね~”みたいな感じかな
赤ん坊に合わせて話し掛けるみたいにな」
「成る程…判りました…いえ、判りまちた?」
「──っ…ああ、そんな感じだな、上手い上手い」
くっ…半分ネタ切れで適当に言ってみたのに。
何っ?!、この予想外の破壊力はっ?!。
見た目が完璧に“幼馴染みの隣の御姉さん”なのに小首を傾げて自信無さげに赤ちゃん言葉とか…。
宅の梨芹が可愛過ぎるんですけどっ!。
二人きりなら赤ちゃんプレイ突入でしたよ。
いや、逆赤ちゃんプレイかもしれないけど。
いやいや、それは今は忘れよう、うん、今は。
「愛紗、貴女は今から私達の中で一番下の妹よ
だから、それらしく振る舞う事、良いわね?」
「ぅ…判りました…にゃん…
…華琳、おね、お姉ちゃん…にゃん…」
「ふふっ、ええ、そうよ、良い娘ね、愛紗」
────にゃんですとーっ!?。
──はっ!?、俺とした事が気が動転して思わず俺が“にゃん”付けしてしまったではないか。
だが、そうなるのも仕方が無い事だろう。
まさかまさかの、愛紗の妹化!。
しかも、にゃん継続中!。
何という夢のコラボ!。
確変ではないっ!、これは革命だっ!。
華琳…我が妹ながら、恐ろしい娘…。
グッッッジョォオォォブッッッ!!!!!!。
“にゃん”だけでも恥ずかしそうにしていた愛紗。
それが末妹化する事で効果は抜群に!。
それでは、我も堪能させて頂くとしますかな。
「可愛い愛紗よ、俺は御前の何かな?」
「──っ!?」
紳士的な声音と穏やかな表情で、そんな風に訊ねる俺を見て愛紗は睨んできた。
「忍っ!、貴男に情けは無いのですかっ?!」とでも言いたげな勢いと刃の様に鋭い気迫。
羞恥心から顔を真っ赤にし、目尻に涙を浮かべるが我は愛妹紳士として心を修羅と化そう。
だから、さあ、愛紗よ、言うがよい!。
言うまでに逃がしはせぬからなっ!。
フハハハッ!、魔王からは逃げられぬのだっ!。
「ぅぅ………ぉ、お兄ちゃん、ですにゃん…」
「愛紗ぁああぁぁーーーっっ!!!!」
「ふにゃあぁあっ!?」
「良いよな?!、少しだけだから良いよな?!」
「にゃっ、にゃにがっ!?」
欲求を抑えられずに愛紗に抱き付いた俺。
思わぬ反応にパニクりながらも、しっかりと律儀に“にゃん”付けを継続中の愛紗。
その真面目で健気な姿に俺の想いは大爆発!。
愛紗を抱き上げ、目にも止まらぬ早さで体勢完了。
ドッキング、オーーンッ!。
「お、お兄ちゃんっ、何をぅにゃぁぁん…」
「ああっ!、愛紗狡いわよっ!」
胡座の上に抱き抱えた愛紗を座らせ、後ろから抱き優しく、優し~く、撫で撫でする。
愛紗の綺麗な黒髪は前世を強く想起させる。
今生では華琳や恋、流琉達では遣ったけれど。
やはり、中身が日本人な俺としては黒髪の妹を膝に入れて愛でてみたかったんです。
嗚呼っ、妹って素晴らしい!。
「御兄様っ!、それは駄目です!、反則です!」
「華琳、別に問題は有りまちぇんよ~?
忍は単純に愛紗を撫でているだけでちゅから~
華琳も良い娘にしてまちょうね~」
「それ、面白いけど何か腹が立つわね!」
俺が愛紗を可愛がるのを見て嫉妬して騒ぐ華琳。
そんな華琳を宥める様に話し掛ける梨芹ママ。
うん、見た目を除けば、夫婦と娘二人の一家団欒。
愛紗が出来て嬉しいけど、構って欲しい華琳さんが、俺に甘えたがってて、梨芹が宥めている図だ。
まあ、これを言えば華琳だけでなく愛紗からも色々物言いが入りそうなんで言いませんけどね。
今は愛紗を撫でまわしたいので。
……卑猥な意味じゃないですからね?。
飽く迄も、愛妹紳士としてですから。
男として愛紗を愛するのは、別の機会に改めて。
──という様な事が有っても、見付からない俺達。
騒いでいる様でも、それは問題の無い範疇での事。
何しろ、この四人は最も長く一緒に居ますからね。
その辺りの練度も、頭抜けているんですよ。
「──御兄様」
「ああ、漸く動き出してくれたな」
まだ空が夢を見ている中、暗闇に紛れる鼠の群れ。
いや、鼠と呼ぶのは鼠に失礼かもしれないな。
害悪でしかない人間一人より、鼠一匹の方が意外と厄介だったりするからな。
まあ、例えや呼び方は兎も角として。
夜間こそ動きはしなかった張洛の軍勢も、夜明けを前にして行軍を開始している。
効果的ではあれど、様々な事前準備が必要不可欠な夜戦は行わないのが常識の為、行軍もしない。
だが、夜明け前に動き始める事は珍しくはない。
次第に明るくなっていく為、視界が良くなるから。
勿論、ある程度の安全性が確かな場合は、だが。
一か八かの賭けは、こういう場面ではしない。
今、俺達が居る場所は啄県と范陽県の県境付近で、啄県側の領地にある山の中。
其処から張洛軍を見張っていた訳だ。
事後処理部隊は県境に一番近い砦にて待機中。
そして、張洛軍が狙うのも間違い無く、その砦。
何しろ、普段は百人程しか詰めてはいないからね。
こんなにも楽に“開戦の初勝利”を上げられる所は他には無いだろうからな。
俺達でも間違い無く其処を狙うだろう。
だからこそ、食い付く瞬間が最も無防備になる。
「さて、そろそろ俺達も動くかな」
「はい、御兄様」
「予定通り俺が対面の東側に回り込む
華琳は北の砦側、梨芹は此処の西側、そして愛紗は要となる退路を潰す南側だ
判っているとは思うが、これは殲滅戦ではない
だから事前の情報通り、将師と主要な指揮官以外の殺害は必要最小限に留める事
後に俺達の民になる兵でもあるからな
だが、此処で刃向かう意思を微塵も懐けない様に、無慈悲で不条理で理不尽なまでに圧倒しろ
支配こそが平和であり、唯一の救済であると
そう思う以外には考えられない程に畏怖を刻め」
「御兄様の御意志の侭に」
「徐子瓏の刃として貴男に勝利を」
「徐子瓏の楯として貴男に栄光を」
「さあ、征くぞ」
『御意っ!』
俺の掛け声で別々に動き出す。
天地の狭間を滑る様に、闇夜に舞う黒鴉の如く。
各々の持ち場に向かって移動して行く。
──が、それは良いんですけど、何?、さっきの。
俺は空気を読める男ですからね。
雰囲気的に士気を下げる真似は避けましたが。
華琳は兎も角、愛紗・梨芹の台詞が妙に重いっす。
愛紗は…まあ、そんな感じは有るから判る。
認めたくはないけど、そういう意味の忠誠心とかが大好きな忠犬気質の可愛い軍神様だからね。
だけどね、何故に梨芹まで?。
いや、脳禁ではないだけ増しなんだけどさ。
普段の梨芹らしくはないんですよ。
……あーいや、台詞的に見ると可笑しくはないか。
原作の華雄は敵を討ち倒す戦人だったけど、梨芹は俺を護る“楯”だと自らを例えた訳だからな。
………まさかとは思うけど、事前に打ち合わせたり台詞を考えてたりは…しないよね、幾ら何でも。
……………有り得そうで笑えないな、マジで。
「……どうして、こう成ったかなぁ……」
走りながら、左手で顔を覆い、俯いて呟く。
氣で地形等を感知・知覚しているから平気ですが。
俺のメンタルは瀕死のレッドゾーンです。
まあ、原因は火を見るよりも明らかなんだけどさ。
どう考えても、華琳の布教だろうなぁ…。
それはまあ?、慕われる事自体は嬉しいんだけど。
ベクトルが違うよね?、一方通行って言うよりも、一直線でヘブンズドライブしてますよね?。
嗚呼っ、その宗教をぶっ殺したい。
………はぁ~…誰か、ブラコンの治し方、教えて。
いや、もうブラコンが問題じゃないよね、これは。
これなら、普通の重度のブラコンが良かった。
……いや、普通の重度のブラコンって何ぞ?。
「……女性としては母さんの教育が活きてるのに
どうして、どうして、其処だけが…」
俺の所為だと言えば、確かに否定は出来ませんが。
こんな風に育つだなんて思っても見ませんって。
「大きくなったら、御兄様の御嫁さんに成る~」な無邪気な可愛い妹の笑顔を前にして、「残念だが、それは駄目だ、それではブラコンを拗らせる」とか十歳に満たない事が言えますか?。
言えたとしても、妹が「うん、判った~」と笑顔で納得して、受け入れると思いますか?。
否っ!、断じて否で御座るっ!。
その様な無体な所業、拙者等は認めぬで御座る!。
…うん、ちょっと落ち着こうな、俺?。
まあ、ブラコンは義兄妹だから構わないんだけど。
以前、華琳に行為中に忍を呼ばせようとしたら、真っ赤になって出来ませんでしたからね。
ある意味、兄妹という形でだけ、素直に感情表現が出来るという事みたいですからね。
だから、無理には直させはしません。
…その華琳が可愛かったのは愚問だがな!。
アレはアレで良い攻め手ですし。