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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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45話 それは祭囃子の様に


漢字というのは色々と例えに用いられる。

代表格なのが、“人”の字だろう。

「人と人が支え合っているから」といった道徳的で綺麗な話に用いられる例えである。

しかし、“二人が抱き合っている”と例える事も、“人が天に向かって伸びをしている”と例える事も出来ると言えるだろう。

つまり、それは飽く迄も例えでしかない。

漢字の成り立ちに伴う話は別にしてもだ。



「痛っ!?、遣ったなあっ!、こんのおっ!」


「──きゃあっ!?」


「へっへ~んっ!、どうだあっ!」


「──隙有りっ!」


「にょわあっ!?」



木製とはいえ重量級の鈍器を振り回す幼女が二人。

架空(ゲーム)の世界ならば“キャラ設定”の一言で片付くが現実となると違和感が凄いのが実際の所。

まあ、愛紗や梨芹も似た様な感じだったけど。

ただ二人の場合は見た目は、クラスの中で背の高い女子という感じだったからね。

その逆で、背の低い女子である目の前の二人だと…うん、やっぱり冷静になると凄い光景です。

俺達も遣ってきた鍛練なんだけど。

…流琉・季衣…恐ろしい娘達…。


それは兎も角として、純パワータイプである季衣は填まれば強いが、空回りすると自爆し易い。

対して流琉は最大出力(力比べ)こそ季衣には劣っているが、分析力や判断力では上回るテクニックタイプ。

現に、流琉は誘い・崩しを上手く遣っている。

現状では流琉の方が勝ち越してはいるのだが、孰れ季衣が盛り返す事になるだろう。

それは季衣が経験を積み、幅を広げるのではなく、“真っ向から叩き潰す”様になるから。

下手な小細工だろうが何だろうが御構い無しに。

純情な力業で全てを叩き潰す。

それに対応する為に今度は流琉の方が成長を要す。

そう遣って二人は切磋琢磨して成長していく。

だから、俺達も“教え過ぎない”様にしないとな。

壁を超える為の成長とは、他者に促されるよりも、自己によって見出だして試行錯誤したりする方が、成長への影響が大きいのだから。



「むぅ…あの歳で、此処までの力量とはのぅ…」


「言って置くが、あの二人は基礎鍛練中の身だ」


「何じゃと!?、あれで基礎じゃと言うのか…」



二人の鍛練を見学中の公覆が驚愕し、息を飲む。

世間一般の常識的に見れば、その反応は正しい。

璃々と同じ、まだ十歳の子供が大人の男が複数でも持ち上げるのが精一杯の巨大武器を振り回す光景を目の当たりにすれば、そうなるだろう。

俺達は感覚的に麻痺しているから仕方が無いが。


流琉達は肉体的にも精神的にも未熟だ。

同じ歳の頃の俺達に比べても明らかに弱い。

だが、氣に関しては二人共に才能が有る。

特に、原作の姿を彷彿とさせる強化の適性には。

まだ氣の指導を始めて二ヶ月にも満たないのだが、その天賦が故に目に見える変化が有る。


勿論、俺達に比べれば遠く及ばないが。

同時期に始めた白蓮よりも判り易い。

焦ってはいないだろうが、悔し気な白蓮。

氣に置いても器用貧乏な性質な白蓮は、流琉達程に顕著な変化は見られない。

──とは言え、本人が判らないだけで成長は有る。

それが目に見える程、判り易くはないだけでな。

そんな白蓮を慰めつつ、可愛がったのは言うまでも無い事だろう、ごっつぁんです。


咲夜は非原作キャラであり、特典(チート)も無い。

だから、現時点では明らかに武力的には非戦力。

流琉達にさえ劣るし、半年と掛からずに穏や璃々に追い越される事になるろうな。

ただ、司馬防は司馬懿達兄弟の父親である。

…此処では母親に成るんだろうけどさ。

少なからず、その存在に見合う才器は有る。

………あれ?、この場合、八達の父親は俺か?。

……………うん、考えなかった事にしよう。

そうしよう、そうしよう、曹子曜、なんて。

誰なんですか、それは。



「──で?、何時まで居るつもりなんだ?

故安県の事は璃々達だけだと大変だと思うが?」


「むっ…つれない事を言うでないわ

まあ、御主の言う事も最もではあるがのぅ」



そう、先日の会談で璃々と事実上の婚約を済ませ、故安県へと戻っていった。

──が、公覆だけは戻らずに残っていたりする。

別に璃々の家臣を辞めたという訳ではない。

表向きな理由としては、“女性の当主・県令として先達である白蓮の側で暫し学び、璃々を、故安県を支える為に活かす”という事になっている。

勿論、実際には白蓮ではなく、俺の側で、だが。


「それなら私が」と言いた気な璃々は立場上無理で不満そうに拗ねていたが、仕方が無い。

華琳達からは特に異論は無かった。

こういった事では俺は孤立無援ですからね。

そんな中、唯一異議を唱えたのが漢升だった。

その瞬間は、「いいぞ!、そのまま押し切れ!」と漢升を強く応援していた。

しかし、其処からは「それなら私が」に。

だから「お前もか、漢升!」と言いたくなった俺は決して間違ってはいないと思う。


まあ、最終的には公覆に、「今の璃々には儂よりも叔母である御主の方が必要じゃろう、逆に一時的に離れても構わぬのは儂の方じゃ」と言われて陥落。

漢升の「私だって…」という感じの、未練に満ちた今にも泣きそう眼差しには苦笑するしかなかった。

「なら、お前を今夜は愛そう」とか言えない。

一線越えてても、そんな恥ずい台詞は言えないし、そんな真似は演技でも出来ません。

羞恥心というハードルが高いので。


──とまあ、そんなこんなで璃々達が発ってから、早くも一週間が経過している。

今日は流琉達の鍛練を見ている訳だ。

唯一の救いは、公覆は客人扱いなので宅で寝泊まりしてはいないという事である。

故に“朝駆け夜討ち”の可能性は無い。

我が家のセキュリティは県内屈指ですから。



「だったら早く戻ってやれ

他の家臣は正面でも漢升の負担は否めないからな」


「うむ…確かにそうじゃのぅ」


「此方等への滞在は落ち着いてからでも十分だろ?

だから、早く戻って遣れ」


「そう邪険にせんで欲しいのぅ…

まあ、帰れと言われれば帰っても構わぬがな

御主が子種を注いでくれれば直ぐにでも、のぅ?」



そう言うと妖しい微笑を浮かべて公覆は俺の右腕を取り、自慢の武器を突き付けてくる。

俺と漢升が略同じで、俺達より頭半分程低い公覆は必然的に上目遣いになる。

妖艶という表現が正しい公覆の言動。

だが、実際には耳まで真っ赤になっている。

それに気付かない程、俺は純情ではない。

まだ初めてから一年にも見たい今生の我が息子だが経験値は一般人よりは多く、質も高いと言える。

だから、その程度では揺らぎはしない。

…………やっべぇ、何この感触、喰いてぇ…。

────はっ!?、危ない危ない、危なかった。

まだ公覆自身が未経験故にバレてはいないだろう。

俺を揶揄い翻弄出来る程の余裕は彼女には無い。

…“今はまだ”と付くんだろうけどね。


まあ、どの道、公覆に限らず漢升や夏侯姉妹だって妻になるんだろうけど。

断り続けるなんてエロ紳士()には出来ません。

だから、美味しく、愛しく、孰れは頂きます。

でも、今直ぐには無理です。

精力・体力・時間・状況的にではなくて。

主に俺のメンタル的に、ですけど。


だから此処では動揺する姿は見せません。

ただ、無愛想(クール)な反応では面白くないか。

俺は誘われるかの様に彼女に顔を寄せ、然り気無く躱して耳許に唇を近付ける。



「茹でた様に耳が赤いぞ?」


「──っ!?」


「──だが、そんな姿も可愛らしいな」


「────っっ!?、~~~~~~っ……」



間を置かず、仕返しからの追い撃ち。

自分から腕を組んだ手前、女としての自尊心も有り逃げ出す事も出来ず、反撃する間も与えられない。

そんな彼女は見事な程に顔を真っ赤にして俯いた。

照れ具合が湯気として可視化出来そうです。

しかし、「馬鹿を言うな!」「揶揄うではない!」なんて言いそうな場面で、無言を貫くのは意外。

………うん、原作での黄蓋が経験豊富そうな割りに意外と純情な一面も有り、可愛かったけど。

目の前の黄蓋の反応は更に卑怯だわ。


逃げたり、慌てたり、騒いだりはしない。

しかし、腕は解く所か、更に強く抱き締めてくる。

むにゅんっ、がね、むぅにゅぁんっ、て具合ね。

チラッ、と見詰めてくる潤んだ眼差しは俺に対して「…御主は卑怯じゃのぅ…この女誑しめ…じゃが、御主になら…誑し込まれても構わぬ…」と。

そんな感じの意思を伝えてきます。


ええ、この際です、はっきりと言いましょう。

宣誓、公覆を抱きたいです。

いや、冗談じゃなくて、マジで可愛いんですよ。

今直ぐにでも抱き上げて、お持ち帰りしたい。

本人の希望通り、溢れ出る程に愛を注ぎたいです。


和菓子洋菓子──いや、だがしかし!。

この程度では俺は魅了されはしない!。

……そう!、魅了されはしないのだ!。



「………狡いのぅ…御主という男は……」



一人言の様で、俺にだけ聴こえる様でもある。

そんな公覆の細やかな抵抗、強がりの一言は。

本人の意図しない所で俺の心を射抜いている。

勿論、その一撃だけで仕留められはしませんけど。

……まあ、その、何ですか。

かなり、危ない一撃なのは確かですね。

一撃でHP・MP共に六割持っていかれた感じ。

もしも、公覆に“特攻”する覚悟が有ったならば、俺は今日、敗北を喫していた事だろう。

まだ彼女が羞恥心(ブレーキ)を踏んでいるからギリギリだが乗り越えずに済んではいるが。

多分、これが漢升だったら遣られていたと思う。

公覆よりも漢升の方が、俺に対する好意──いや、渇望()を明確に感じるからだ。


結局、流琉達の鍛練が終わるまで、そのままで。

その後も何も無かったんだが。


右腕を介して伝わる公覆の秘めたる早鐘の音色。

それは警鐘とは違い喧しいという事は無く。

懐かしさと切なさ、期待と不安の混ざり合った様な祭り囃子の音色を聴いている様に。

不思議な胸の高鳴りを俺自身も感じていた。


浴衣の襟元から覗く後れ毛。

下着や水着よりも肌は隠れているのに艶やかであり色香が滲み出ている様に見える姿。

そんな公覆を淫らに脱がせてゆく俺。

現実ではないのだが、心は誘われてしまう。






「──むぅ…未遂でしたか…」


「妹よ、何故残念そうなのかな?

白蓮の時とは随分と反応が違うぞ?」



帰宅後、抱き付いてきた華琳の反応に対し問う。

いや、本当に白蓮の時は攻撃的だったのに。

何で、公覆の場合には「失敗でしたか…」といった溜め息混じりの反応なのかな?。

それはまあ?、華琳からしたら俺に手を出させたいというのが狙いなんだろうけどさ。

兄の意思は尊重されないのかね?。



「祭の事、欲しくは有りませんか?」


「…………欲しいです」


「ふふっ、正直ですね、御兄様」



揶揄うのではなく、単純に可笑しそうに。

それでいて、俺の率直な気持ちを歓迎する様に。

華琳は可愛らしい笑顔を浮かべた。

──が、次の瞬間、妖しく瞳が揺れる。

悪寒とは違う類いの背筋を奔る身震い。

気付けば華琳の手が潜り込んでいて靭やかな指先が公覆に欲情した愚息を優しく撫でた。

熱い吐息と共に「此方等の方も…」と呟く華琳。



「いや、先ずは風呂に…」


「はい、御兄様、御風呂で、ですね」


「ああ…ん?、いや、俺は風呂に──」


「さあ、参りましょう、御兄様

私が洗って差し上げますから」


「いや、一人で大じ──ああ!、嬉しいな!

それじゃあ頼むよ、華琳!」


「はいっ、御任せ下さいっ」



断ろうとした瞬間、華琳から感じた絶望のオーラに俺は即座に日和ましたとさ。

うん、無理だから、断るの。

不死者の王様を狂愛している淫魔の威圧感みたいにヤバ過ぎて逆らえないから。

…まあ、死ぬ訳じゃないから構わないんだけど。

なあ、我が妹よ?、これが真の狙いだったのか?。

公覆は餌で、最終的には自分が頂くつもりで?。

いや、訊きはしませんよ、怖過ぎますから。


ただな、鼻唄を歌う妹よ。

せめて、愚息ではなく手を握らない?。

逃げないから。

こんな形で連れて行かれている姿は情けないから。

……誰にも見られません様に。




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