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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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5話 義妹でした。


見詰め合う事による視線の赤外線通信(情報交換)──なんて物は起きない。

俺達は人間ですから。

意志疎通も無理です。

会ったばかりの初対面で、碌に知らないのだから。


ただ、それでも、お互いに「訳が判らない…」という心情だけは感じ合える。

うん、其処はほら、俺達は当事者の筈なのに何故だか置いてきぼりだからだ。

曹嵩さん、天然ですね。


それは兎も角としてだ。

いつまでも見詰め合ってる訳にはいかない。

いや、いつまででも彼女を見詰めていられますけど、場の空気が持ちません。

別に両想いの初々しい恋人同士の甘過ぎる見詰め合いではないのだから。

だから、声を掛ける。

曹嵩さんは挨拶をする様に促していたけど、見た目の通りなら俺の方が歳上だと思うから、一応俺からね。



「…え〜と…初めまして、徐恕って言います…」


「初めまして、私は御母様──曹嵩の娘、曹操です」


『…………』



簡単に挨拶をし終えると、お互いに黙り込む。

──と言うかね、これ以上俺達に何を言えと?。

急展開過ぎて思考の処理が追い付いてませんから。



(──とか思ってるけど、やっぱり曹操なんだな…)



曹嵩さんに似た金髪美幼女という時点で、そんな気は十分にしていたけど。

…………うん、可愛いわ。

まだ全然ドリってないし、百合っ気も見えないからか普通に可愛いです。

…まあ、気の強さは現時点でも感じられるんだけど。

其処は警戒心とか有るから仕方が無いよね。

もし、俺が彼女の立場なら同じ様に警戒するし。

幾ら母親を信頼してても、いきなり「貴方の兄よ」と言われたりすれば…ね。


…ただまあ、俺からすれば可愛い義妹が出来るのは、悪くない話です。

まあ、将来的な不安が全く無いとは言いませんが。

其処は俺次第だろうから。

要、義妹教育(努力)だ。


一方、彼女──曹操の方は複雑かもしれないな。

いきなり義兄が出来るのは俺とは違って、不安の方が大きいだろうから。

…これが原因で男嫌いには為らないで欲しいな。



「も〜…堅いわよ、貴方達

もっと肩の力を抜いて」



そんな俺達の葛藤や懊悩を気にしてはいないのか。

曹嵩さんは両腕を伸ばして俺達を抱き寄せる。

──嗚呼っ、女神様が再び俺を慈しんで下さる!。

──という歓喜は見せずに平静を装おう。


だがしかし、目の前に顔が近付いている曹操さんから睨み付けられる。

「…貴男、御母様に対して邪で不埒な真似をしたなら切り落とすわよ?」なんて声が聴こえそうな鋭さで。

実際には、まだ美幼女。

そういった知識や感覚等は無いんだろうけど。

それでも女の子だからね。

本能的に感じる不快感とか有るのかもしれないから。

完全には否定はしない。

その一方で、彼女ではなく“曹操(原作での彼女)”を俺が知っているからこそ、そう勝手に思うだけだって可能性も有るけどね。




仲良くさせよう──という訳ではないんだろうけど、グイグイと俺達を近付けて抱き合わせようとする様に仕向けてくる曹嵩さん。

俺個人としては曹嵩さんと密着出来るから嬉しいが、目の前にいる曹操の視線が中々に痛いです。


そんな状態でも曹嵩さんはマイペースに話を進める。

その中で判った事。

曹操は俺の二つ下であり、現在は五歳だという事。

旦那さん──曹操の父親は御亡くなりになっていて、母娘二人暮らしな事。

その父親に関しては詳しく話す気は無さそうな事。

曹嵩さんは農作物を作って生活する傍ら、筵を編んで売っているのだとか。

家が村から離れているのは地元の者ではないからで、敵意や隔意は無い事。

困った時には村人が色々と助けてくれている事。

此処には曹操が産まれる前から住んでいるという事。

俺が落下した巨滝には時々魚を獲ったり、その付近の山林にて山菜を採ったり、御世話に為っている事。

近隣には鹿・兎・猪・雉等獲物が多いという事。

勿論の事だが、熊さんも。

…うん、それは知りたくはなかった情報かも。

──と言うか、猪に対してトラウマが………無いな。

寧ろ、リベンジしたい。

俺、意外とタフかも。


──とまあ、そんな感じで話を聞いていた訳です。

そんな俺の感想としては、「…え?、筵を売ってって…まさかの劉備的ポジ?」という状況に吃驚です。

いや、確かにね、目の前の生活環境から考えたら別に可笑しくはないんだけど。

衝撃的な事実です。

……まあ、現代になったら日本史とかも色々と事実が違ってて、変わってきてる状況ですからね。

何が有っても可笑しいとは思いませんよ?。

歴史上の偉人が性別が逆の世界に居るんですから。

「此処は異世界だぜぃ?、ノって行こうぜ!」的な。

そんな心構えです。

それでも驚く事実ですから困るんだけどね。



「ふ〜ん♪、ふん♪、ん〜ふふ〜ん♪、ふ〜ん♪」



そんな衝撃に呆然と為った俺と若干気疲れした印象の曹操を放置して曹嵩さんは夕飯を作り始めた。

実は気付かなかったけど、曹嵩さんは俺と一緒に色々夕飯の食材を獲ていた様で鼻唄混じりに調理中。

…その後ろ姿を見ていると鼻の下が伸びそうだから、視線を外す事にする。


だが、現状でキョロキョロ室内を見回すと不審者感が強い気がするので必然的に隣に居る曹操へと向く。

彼女は「…御母様は…」と何かを諦めた様な眼差しで曹嵩さんを見詰めている為此方には気付いていない。

それでも気は抜けない。

七歳と五歳の子供。

それだけを客観的に見れば可笑しくはないだろう。

しかし、相手は曹操。

それも、現状略間違い無く【恋姫†無双】の曹操だと思っていい状況。

妙に緊張してしまうのは、当然だと思います。

運良く拾われた命です。

まだ死にたく有りません。

だから、色々必死です。

“生きる”って事は戦いの連続なんだと知る。





「え〜と…曹操ちゃん?」


「…何でしょうか?」



緊張しながら声を掛けると億劫そうな感じで此方へと振り向いてくれる曹操。

その眼差しが「あまりにも下らない事を言うのなら、刎ねるわよ?」と言ってる様に思ってしまうのは多分被害妄想なんだろうね。

美幼女な彼女に今はまだ、そこまでの恐さは無い。



「その…いきなりこういう事に為っちゃって、色々と戸惑う事も有ると思うけど暫くの間、宜しくね?」


「…暫く、ですか?」


「うん…まあ、行く宛とか無いんだけどね

やっぱり、普通は受け入れ難い事だと思うからさ

だからね、暫くしたら俺は出て行くから安心して」


「………」



本音を言えば、義兄よりは義父に為りたいです。

曹嵩さんに求婚したい。

──いや、そうではなく。

嘘ではないけど。

それは今は関係無い話だ。


今の俺は子供だ。

一人で生き抜くのが難しい事は理解している。

出来る事なら、曹嵩さんの御世話に為りたい。

ただ、その所為で曹操から恨みを買いたくはない。

曹嵩さんが一緒に居る内は大丈夫かもしれないけど、将来的には判らないから。

だから出来る限り曹操への印象は良くしたい。

敵意さえ持たれなければ、死亡フラグは回避出来る筈なんだから。

それはまあ、勿論、曹操と義兄妹として仲良く出来て回避出来るのなら、それが一番なんだけどさ。

相手が子供な以上、其処は感情的に難しいと思う。

それを考えると今後必要に為ってくる情報を得たら、出て行くのが妥当だろう。

残念ながら、俺にニコポ・撫でポは存在しない。

“君子危うきに近寄らず”な訳なんですよ。



「……別に、一人増えても変わりませんから…」


「……え?」



出て行く事が決定した体で考えていた俺に対し曹操は意外な言葉を投げ掛ける。

「…まさか、この若さでのツンデレ、だとっ!?」とか言いたく為りそうになる。

言ったら終わるだろうから絶対に言わないけどね。



「…良いの?」


「御母様が決めた事です

なら、私は従うだけです」



「私も、子供ですから」と言外に聴こえそうな態度で曹操は言い切る。

此処で「幼くても、やはり“曹操”なんだな…」とは思いはしない。

歴史上では英雄だろうが、目の前に居る美幼女は未だ子供なのだから。

そう成れる器かもしれないけれど、今は違うんだ。

だから、そういった見方は絶対にしない様にする。

それでも、他者を思い遣る優しさを持つ彼女の姿には感動を禁じ得ない。


それ故に、思う。

将来、彼女が孤独に苛まれ心を痛めない様に。

出来る事を遣ろう、と。




その後、他愛の無い会話をぽつぽつと交わしながら、夕飯の完成を待っていた。

因みに料理自体は人並みに出来はする。

流石に料理チートな曹操を唸らせる事は不可能だが。

食えなくはないレベルでは料理出来るとは思う。

今は自重しますけどね。


そして、曹嵩さんの作った夕飯を三人で頂く。

身体に染み付いた日本人の習慣である「頂きます」を二人に見られ、質問されて誤魔化すのに頑張った事は記憶に新しいな。

当然なんだけどね。

「それは良い質問だわ」と曹嵩さんは気に入った様で早速曹操と遣り始めた。

止められはしない。

そう…俺には無理な話だ。


尚、料理は美味しかった。

流石に現代の料理と比べて味は薄いし具は質素だけど空腹という調味料が有れば大抵の物は美味しくなると俺は身を以て知った。

──あっ、曹嵩さんの腕は素直に良いと思うよ。

魚とか生臭くないしね。


ただ、将来的に美食家へとレボリューションしていく曹操の食への拘りの根元が今の生活なんじゃないかと思ってしまったけど。

それは有り得ない話だ。

抑、あの曹操は幼少時代に極貧生活をしていたという設定は無いのだから。

つまり、義妹となる曹操と原作の曹操とは別人。

限り無く似ているだけの、別存在だという事。

…まあ、だからと言って、ああいう風に為らないとは言い切れないんだけどね。

それも可能性の一つ。

未来が、どうなるかなんて今の俺には判らない。

知る術も無いんだから。



「それじゃあ、恕、操

おやすみなさい」


「はい、おやすみなさい」


「おやすみなさい」



布団──と呼んでいいのか悩んでしまう厚手の布物に寝転がり、筵を身体に掛け就寝体勢に為る。

ああうん、これに関しては油断していたかな。

夕飯が美味しかったから、気が抜けてたんだね。


俺の知ってる柔らかさなど微塵も無い寝具に身を包み静かに目蓋を閉じる。




──が、眠れない。

別に枕が、布団が、部屋が変わったから眠れない等の繊細な神経は持ってない。

何処ででも眠れます。

しかし、流石に今の環境は想定外なんです。

え?、「じゃあ、何が原因なんだ?」って?。

それはね──俺を左右から抱き締めている方々です。

いえ、正確には前後です。


就寝当初の配置は、部屋の奥側から順番に俺、曹操、曹嵩さんでした。

曹嵩さんが入り口側なのは寝室に鍵が無いから。

──と言うか、ドア自体が無いんですけどね。

ああ、家の入り口には一応鍵──閂が有ります。

しかし、それだけです。

だから、万が一の為の配置なんでしょうね。

曹操が真ん中なのも単純に端には置けないから。


まあ、それは良いんです。

納得出来ますから。


──で、当の問題ですが。

二人は直ぐに寝入った様で寝息が聞こえてきた。

だから、俺も寝ようとして御羊様を数え始めていたら──曹操が転がってきた。

まあ、まだ子供だからね。

寝相が悪い位は仕方が無い事だと思いながら、曹操を布団に戻そうとしたら──正面から抱き付かれたままワニの如くローリング。

そのまま曹嵩さんの横まで持っていかれました。

驚きと共に怪我してないか心配したけど無事でした。

──が、安堵していた所に背後からのベアハッグ。

俺と曹操の二人分を纏めてホールドします。

その結果、後頭部に加えて耳や頬もヘブンしちゃって極ら──大変です。

その上にね、曹操がね?、胸元で甘えまくるみたいにこしこしするんですよ。

ねぇ、判ります?。

無茶苦茶可愛いんです。

これ、俺の妹だよ?。

義理だけど妹ですから。

世の中のシスコンの方々の気持ちが少しは垣間見れた気がします。


ただ、俺は眠れるのか。

それだけが謎であった。





 曹操side──


珍しく帰りの遅い御母様を心配していたら、御母様は見知らぬ男の子を我が家に連れて帰ってきた。

しかも、私の“兄”だと、訳の解らない事を言って。

…少なくとも御母様や私と血の繋がっているとは全く思えないのだけど。

…孤児、なのでしょう。

だから、引き取った。

そう考えるべきよね。


そんな男の子──徐恕。

綺麗な藍色の髪に、澄んだ水底の様な蒼い眼。

村に居る男の子──いえ、大人を含めた全ての男より整った顔立ち。

話に聞く、都に居る演劇の役者というのは、目の前の男の子の様な人が成長した人達なのかもしれない。

そう思ってしまう程。

それに加えて、村の子より大人びた印象を受ける。

“子供らしくない”という意味では私と同じかも。

だからなのかもしれない。

私は自然と警戒心を緩めて受け入れている。

彼が兄──家族になる事に抵抗感は薄れていた。


きっと、その一番の理由は彼が自ら「出て行く」と。

そう言った事に有る。

身寄りの無い子供。

頼る相手も居ないのに彼は私の事を気遣ってくれた。

“子供だから…”と言って私の意思を無視する事無く考えてくれている。

その事が…嬉しかった。


聡明だと判れば誉められる場面は有るが、それよりも我慢をしなくてはならない場合の方が多い。

それも、理解出来るが故に自主的にね。

“自己主張(我が儘)”さえ言わなければ賢い娘。

そう評価される。

それは御母様の立場等への助けにも繋がる事を、私は理解している。

だから、そうしている。

それでも、時には我慢する事が息苦しくて、辛くて、泣き喚きたくなる。

…まあ、実際には出来無い訳なのだけれど。


そんな感じで、普通からは外れてしまっている私。

だけど、この人の前でなら私らしく居られる。

そんな気がしている。


…私は父を知らない。

けれど、もしかしたら。

こんな感じかもしれない。

そんな風に彼と話をして、何と無く思ってしまう。


御母様の作った夕飯を食べ終えてから片付けを手伝う彼を見倣い、私も遣る。

少し驚きながらも御母様は嬉しそうに笑う。

…“邪魔をしない様に”と手伝ったりしなかった。

だけれど、それが必ずしも正しいという訳ではない。

時には間違いかもしれない可能性を理解しながらも、自分の意思を示す事。

実際に自ら遣ってみる事で理解出来る事も有る。

それを知る事が出来た。


御母様の意図は解らない。

単なる同情心からなのかもしれないから。

だけど、関係無い。

兄(この人)と居れば、私は色々と学べる。

成長する事が出来る。

それだけは間違い無い。

だから私には必要なの。



──side out。



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