表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
66/238

   幕引きに笑うは道化


捕まえた見張り役のリーダー格を解放し、韓玄へのメッセンジャーとして送り込んだ。

そして、民の寝静まる闇夜に紛れての密会。

いや、俺に其方等の趣味は御座いません。

価値観は人各々ですから押し付け合いは駄目ですが俺には興味の無い価値観ですので。


──とまあ、それは兎も角、韓玄が待っていた。

此方を見て意外そうな顔をしている。

まあ、それはそうだろうな。

聞いた話からだと“仮面を付けた”相手の筈。

それが顔を晒しているのだから。



「どうかなさいましたか?」


「──っ!?、ァ、ああ、いや、少々驚いたもので…

まさか、“貴女”の様に御美しい方が来るとは…」


「フフッ…御上手です事…」



微笑を浮かべながら左手の袖口で口元を隠す。

時代劇の花魁や遊女の様なイメージで艶やかに。

目の前の韓玄を誑し込むかの様に清くも妖しく。

本の僅かな仕草、指先にまで意識を配らせて。

渾身を以て、“架空の女性”を演じ上げる。


そう、今現在韓玄が目にしているのは“女装した”俺だったりします。

特典(チート)も氣も万能ではないのでベースは俺のままだが元々童顔な事、まだ十五歳という事で化粧と髪型で何とか誤魔化す事が出来るだろう。

念の為、氣でプチ整形グッズ的な処理も施したし、夜という視覚的に認識し難い状況を選んだんだ。

これでバレたら、大盛り上がりで散々弄ってくれた華琳達の腕前の責任だと言うしかない。


尚、髪は万が一の為の変装七つ道具として以前から用意していた鬘を被っております。

髪の色も俺の地毛とは違うし、華琳達とも違うので先ず目を付けられる事は無いでしょう。

まだ“髪の毛を染める”という概念は無いので。



(わたくし)為口(イコウ)、字を人夕(レンユウ)と申します

時間を掛けては御互いに困ってしまうでしょう…

ですから、率直に申し上げたいと思います

韓玄殿、貴男が県令と成った暁には私を正室として迎えて頂きたいのです」


「──なっ!?」


「…驚かれるのも無理も無い事でしょう

ですが、私も野心を持つ者として狙っていました

貴男が黄建殿を排除しなければ、後妻の座を狙って近付くつもりでしたので…」


「……随分と、はっきりと話されるのですね…」


「此処で嘘を吐いても仕方が有りませんよね?」


「それは……ええ、そうですね」


「今、黄建殿の一人娘である黄叙は私の手中です

貴男が邪魔となる黄忠・黄蓋を排除した後、彼女の身柄を貴男に御渡し致しましょう

その後、失意から気を病んで彼女は衰弱し…

貴男が県令となる訳です」


「…衰弱して、ですか?」


「彼女と伴侶になっては下心が見え見えでは?

それならば、まだ子供な彼女が気を病む方が自然…

少しずつ盛れば、毒も気付かれ難いものですよ?」



そう言って俺は右手を懐に入れ、小瓶を取り出す。

入っているのは本物の毒で、フェイクではない。


そんな事を笑顔を崩さず言う俺を見て、恐怖心から韓玄は息を飲んでいる。

分不相応な野心に魅入られた慎重な小物らしい。

見ているだけで嘲笑が浮かびそうになるが堪える。



「如何なさいますか、韓玄殿?」


「……もし、私が断れば?」


「そうですね…その時は黄叙を私が助け出す格好で一先ず筆頭家臣にでも為りましょうか…

彼女も親の仇を重用する事は無いでしょうし…

“彼女達”に二度目は通用しないでしょうから」


「──っ…」



そう笑顔で言い、言外に「貴男に自分が主導出来る選択肢が有ると思いますか?」と含める。

その程度に気付かない馬鹿なら此処までは出来ず、リスクを覚悟で決断出来無い臆病者は動かない。

その何方等でもないから韓玄は行動に出た訳で。



「…………判りました、この話、御受け致します」


「フフッ…貴男が聡明な方で良かったです

夫婦と成れば私も妻として支え、尽くしましょう」



そう言いながら毒の小瓶を左手に持ち代え、空いた右手を懐に入れて紙を取り出す。

そして、小瓶と共に韓玄へと差し出す。

二つを受け取った韓玄は小瓶を懐に仕舞うと、紙を両手で開き、其処に書かれた内容に目を通す。

それは今し方、話していた事が記されている。



「…これは?」


「万が一の為の念書です

貴男が裏切らないという保証は有りませんから…

其方等に血の署名と血印を御願い出来ますか?」


「…っ…………判りました」



差し出した筆を受け取ると韓玄は自前の短剣を抜き左手の親指を切って血を滲ませると、右手に握った筆の毛先に染み込ませて念書の最後に署名をし筆を口に銜えて、右手の親指に血を塗って血印を捺す。

そして差し出された念書と受け取り、確認する。

……よしよし、しっかりと署名・捺印されてるな。



「…確かに…それでは韓玄殿、宜しく──」


「────見付けたぞっ!」


「「──っ!?」」



念書と筆を懐に仕舞い、韓玄に声を掛けたていた。

まさに、その時に静寂の闇夜に唐突に響いたのは、女性の声と足音だった。

韓玄が背後から響いた声に振り向くよりも早く。

その声の主が誰か、俺も韓玄も直ぐに察する。

クイズの正解が告げられる様に、月明かりが闇夜に浮かび上がらせたのは黄蓋の姿だった。



「──逃がしませんよっ!」



それから間を開けずに、俺の背後から響いたのは別の女性の声と近付く足音。

直ぐに口元を左手の袖口で隠しながら振り向けば、其処には予想通りの黄忠の姿が。


そして──そんな黄忠が追っている仮面の人物。

俺と一緒に二人の前に仮面を付けて姿を見せていた華琳が闇夜の中を軽やかに舞っていた。

そう、この全てが偶然ではなく、俺の筋書き通り。

造り出された終幕劇(三文芝居)に他ならなかった。



(流石だな、華琳!、今夜は甘え放題だ!)



「──御兄様っ、約束ですからねっ?!」と。

冗談のつもりで言った心の声を愛妹が感知した時、私はどうしたら良いのでしょうか?。

助けて、愛紗えもーーんっ!!。

──と、馬鹿を遣っていると怒られるので切り替え自分の仕事に専念しましょうか。

……え?、華琳の件?…………世の中には知らない方が良い事も有るんですよ?。



「貴様は──韓玄っ!?」


「──なっ!?、あっ!?、待ちなさいっ!」



黄蓋が韓玄に気付き、黄忠の意識が逸れた隙を突き俺と華琳は廃屋敷から脱出する。

黄忠の両脇を二人で同時に狙って擦り抜ける。

その際、ギリギリで黄忠が振るった直剣の鋒が服を掠める様に態と動き、破れた懐から落ちる様にして闇夜に紛れる様に姿と気配を眩ます。


──が、実際には離脱はしていません。

しっかりと廃屋敷の下調べは行っていますので。

身を隠すのは容易い事です。

……だからね、華琳さんや?、少し離れましょ?。

十分なスペースは有りますから。

それから、入れた左手を抜きなさい。

帰ったら────くっ、宿に帰ったら、思う存分に可愛がって上げますから。

…はあぁ~……やはり、幼くとも女は強かだわ。



「韓玄っ!、貴様此処で何をしていたっ?!

まさか、貴様が全てを企てていたのかっ?!」


「ちっ、違います!、私は先程の女性に夜に此処に来る様にと呼び出されただけで…

そうすれば黄叙様の所在を教えると!」


「貴様っ、その様な嘘をっ!」


「うう嘘では有りませんっ!」



ああ、彼方でも男は劣勢な様です、頑張れ、男!。

……いや、違う違う、頑張らなくていいんだ。

──というか、黄蓋さん、原作に比べて若いからか物凄く血気盛んですね。

韓玄の胸ぐら掴んでて、今にも締め上げる勢い。


一方の韓玄は往生際が悪いね~。

この状況で苦しい言い訳をするとは…愚かだね~。



「……韓玄殿、貴男は本当に何も知らないと?」


「え、ええ!、勿論です!、信じて下さいっ!」



暫し黙っていた黄忠の問いに韓玄は即答した。

それを聞き、「詰みましたね、御兄様」と俺の傍で何故か密着している華琳が嬉しそうに囁いた。

「これで終わりですね」という気持ちが丸判りだが──それは一体何方等の意味でなのか。

俺には訊く勇気は有りません。



「…祭、韓玄殿の懐に小瓶が有りませんか?」


「小瓶?、ちょっと待て」


「なっ、何をっ!?」


「暴れるではないわ!、むっ…コレか?」


「韓玄殿、その小瓶は?」


「そ、それは……よ、酔いに効く薬です!」


「酔いに、ですか?

可笑しいですね、この念書には黄叙“毒殺”の為の毒入りの小瓶だと書いて有りますが?」


「──っ!?、し、知りません!

そんな物っ、私は──」


「──貴男の血の署名と血印が有るのに?」


「これは罠です!、私を嵌める為の罠ですっ!」



おーっ、ピンポンピンポンッ、大正~解っ!。

潜んでなくて良いなら拍手喝采してあげるのに。

う~ん、残念だったね。



「…成る程、罠ですか」


「ええ!、罠です!、騙されないで下さい!」


「それでは、韓玄殿、その小瓶の中身を、今此処で飲んで証明して下さい」


「────ぇ?」


「それが貴男の言う酔いに効く薬であるなら、別に飲んでも害になる事は有りません

高価な品であれば後で私達が責任を持って、新しく買って御返し致しますので」


「ふむ、成る程のぅ…ほれ、さっさと飲まぬか!」


「え?、そんな…いや、でも……これは……っ!!」



おっ?、漸く気付いたみたいだな。

クククッ、美人に騙されて見た悪夢(ユメ)は如何かな?。

気に入ってくれっかな~、韓玄様よ~?。



「……どうしました?、飲めませんか?」


「…………ッ……フフッ…ハハハッ……それでは、しっかりと御確認有れっ!!」



黄忠の冷徹な眼差しに覚悟を決めた韓玄は黄蓋から小瓶を受け取ると栓を抜いて一気に飲み干した。

当然ながら、こういう展開を見越して中身が違う、なんていう韓玄に都合の良い展開は存在しない。

そして、中身の毒は俺の特製品である。

即効性だが、致死までは遅効性という悪質な代物。

気管を焼き、呼吸を潰し、内臓を侵し、血を汚し、ジワジワと苦痛の中で絶命させるというな。


韓玄の死を見届けず、俺達は姿を消した。

……その後の事は……某の記憶には御座いませぬ。






「むぅ~…何故ですか、御兄様?

彼女を助けたのが御兄様だと告げれば、あの三人は御兄様に喜んで身も心も差し出し──はぷゅっ!?」


「──ったく、女の子が、そんな妙に生々しい事を言うんじゃ有りません」



こんな時にまで振れない華琳に愛のデコピンをし、どうにかして愛妹の危険な思考を直せないか。

…………あ、あれ?、絶望的に無理な気がするのは……気の所為、だよね?、ね?。



「はぁ…まあ、それは兎も角として、忍?

当初の目的は故安県の安定だったのでは?」


「ああ、だから目的は達成出来ただろ

県令に黄叙が就くにせよ、黄忠・黄蓋が就くにせよ故安県は現状より善くはなっても悪くはならない」


「……随分と評価しているのですね」


「だったら、愛紗から見たら、どう思うんだ?」


「……同じ年齢でも、黄叙は流琉達よりも政治には明るいでしょうから、周りが支え、経験を積めば…まあ、問題は無いでしょうね

黄忠・黄蓋は臣兵や民から信頼され、慕われている事から黄叙の成人までの繋ぎでも…

或いは、そのままでも問題は起きませんね」


「だろ?」


「ですが、忍?、彼女達は“女性”ですよ?

確かに、彼女達ならば変な男を伴侶にはしないとは私も思いますけど、白蓮達の存在も有り、女性でも県令は出来るという実証となるでしょうが…

逆に言えば、白蓮達とは違って、彼女達には貴男が居ないんですよ?」


「……いやいや、ちょっと待ちなさい

何故に其処で俺が必要になるんですかね?

別に県令としての力量や成果に関係無いよね?」


「はあぁ~っ……全く、貴男という人は本当に…

大有りです!、貴男の子供と、他の男の子供とでは天と地程に大きな違いが有るんですよ!」


「断言されたっ?!、いやっ、大袈裟過ぎだろっ?!

──と言うか、正気か愛紗っ?!

華琳に毒されてないかっ?!」


「酷いですよ、御兄様

愛紗は正気です、そうよね?、愛紗?」


「エエ、私ハ正気デス──」






 黄蓋side──


璃々を毒殺しようとしていた韓玄は持っていた毒を飲み、もがき苦しみながら儂等の前で死んだ。

その死に様を見て、溜飲が下がる思いじゃった。

黄建の無念も少しは晴れたじゃろうからな。


しかし、まだ肝心の璃々が発見出来てはいない。

念書には手掛かりらしき物は何も無かった。

──が、一緒に紫苑が拾った筆の頭が取れた。

筆の中身には一枚の紙が入っていた。

“果報は寝て待て”と書かれた。

馬鹿にしているのかと儂等は破り掛けた。

だが、何の手掛かりも無い以上、縋る思いで儂等は主の居ない屋敷へと戻った。


心身共に疲労していたのだろうな。

気付けば朝に為っていた。

そして──欠伸をしながら璃々が部屋から出て来た姿を儂等は見て茫然となり──考えるよりも先に、駆け寄って璃々を抱き締めていた。

紫苑の泣き顔など、何時振りだったじゃろうな。

…まあ、言うと怒るから言いわせんが。



「──璃々よ、もう一度だけ訊くが…どう遣って、屋敷に戻って来たのだ?」


「……判りません、起きたら部屋に居たから…」


「……そうか…いや、済まなんだな…

まだ黄建を亡くしたばかりだというのに…」


「…ううん、祭御姉ちゃん、大丈夫です

御父さんの為にも、私は精一杯に生きていくから

悲しみは変わらないけど…

だけど、私は独りぼっちじゃないから

だから、悲しみに囚われて下を向きません

前を向いて、同じ思いを皆がしない様に…

私は私に出来る事を頑張って行きます」


「──っ、そうか…偉いのぅ…」



一回り成長した璃々に目頭が熱くなる。

その後、璃々の事を侍女達に任ると、遅らせていた黄建の葬儀の準備へと向かう。



「…結局、手掛かりは無しか…

まあ、璃々が明らかに何かを隠してはおるが…

それを追及する事は出来ぬしのぅ…」


「仕方有りませんよ…

それに…明らかに“彼”は璃々を助けただけでなく韓玄達の悪事を暴く事が目的の様ですから…」


「そうじゃのぅ…」



璃々が無事に帰って来ていただけではない。

韓玄の屋敷の一角には昨夜は居なかった連中が縄で縛り上げられて転がされていた。

璃々に確認をして貰った所、璃々を誘拐し森の奥で監禁していた連中と、韓玄が儂等を始末する目的で雇った刺客じゃと判った。

何れも仮面の者達に倒されていた事もだ。

結果的に言えば、璃々も、儂等も、故安県の民も。

全てが仮面の者達に護られた、という事じゃな。

見事なまでの武力と智謀よのぅ。



「それにしても、“為口 人夕”とはのぅ…

巫山戯た名を使ってくれたものじゃな、紫苑よ

それに気付かぬ韓玄に儂等は遣られたがのぅ…」


「…それは言わないで頂戴、祭…

でも、上には上が居ると知る事が出来たわ…

だけど、何より…璃々が無事だったのだもの…

それだけで、私は十分だわ」


「彼奴に惚れるにはのぅ?」


「──っ!?、祭っ!」


「カッカッカッ、照れるな照れるな」


「もぅっ!、知りませんっ!」




──side out



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ