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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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     転ぶ天の賽


黄叙を探し出して、保護する。

言葉に、文字にしてしまえば簡単な事なのだが。

それを実際に遣るとなると一転して困難となる。

何しろ、犯人の手掛かりは皆無に等しいのだ。

だから、黄忠達は兵を率いて街の近隣、県内の賊を虱潰しに当たっていくしか出来無い。


其処で!、本日皆様に御紹介致しますのは誰にでも簡単に扱える超高性能氣型探知機JoJo・Rz。

索敵は勿論、不審者の感知・人探し・特定対象監視・魚群探知等々、使い方は色々!。

また従来品と違い、連続稼働時間は大幅に伸びて、何と何と驚愕の最大約240時間!。

効果対象範囲も最大約20kmというから凄い!。

衣食住を必要とはしますが、探知機として以外にも貴女に寄り添い、気遣いも出来るパートナーに!。

気になる御値段ですが、定価49800円(税別)──の所を、本日はドドドーンッ!と赤字覚悟での19800円(税込)!、19800円!。

今回限りの特別御奉仕価格とさせて頂きます!。

御希望の方は──って、華琳さん?、何故に挙手をしていらっしゃるのでしょうか?。

…え?、「それで御兄様を独占出来るなら!」?。

…………今回の販売は中止となりました。

またの御利用を御待ちしております。



「──御兄様?」


「全員生かしてあるな?」


「…ええ、問題有りませんよ」



俺達が居るのは山の中腹に建てられた急造の小屋。

中には寝起きしていた痕跡、酒瓶等も転がっており暫くの間、外には出ていないと思われる状況。

あまりにも簡単に見付けられてしまったから、つい現実逃避して通販番組の電波を受信してしまったが華琳の声で即座に我に返った。

「また貴男は…」という愛紗のジト目は受け流し、兄としての威厳を保ちまする。


因みに、電波ジャックしてきた華琳は俺の妄想。

しかし、宅の華琳だったら遣りそうで怖いです。

しかも、「さあ、御兄様、私の所有物となった今、否は御座いませんよね?」とか言って俺を御神体に奉り上げ兼ねない気がしてしまう。

……うん、華琳にだけは絶対に売りません。


まあ、それは兎も角としてだ。

十~二十人程で人が立ち入らなさそうな場所に居る反応を探して遣って来てみたら、まさかの一発的中という快挙を成し遂げてしまいましたとさ。

目出度し、目出度し──では終わらないけどね。


見張り役だったんだろう十七人の男共を容易く倒し愛紗達に捕縛は任せて、俺は華琳と怯える少女へとゆっくりと近付いて行く。


原作では真名だけで姓名は全く出ていなかった様に記憶しているが…まあ、それも今は怪しい情報。

記憶というのは変わり易い情報でも有るからね。

ただ、彼女の容姿は覚えている。

それと目の前の少女を比べれば瓜二つだ。

──いや、原作よりも年上っぽく、母の黄忠に近い印象を受けなくもない。

まあ、此処では叔母と姪の関係なんだが。

それに、原作では基本的に年齢不詳だった。

また仮に同じ歳だったとしても時代背景を考えると発育の違いは十分に考えられる事でもある。

だから、決して可笑しな事だとは言えない。

ただ、やはり然り気無く美少女である事は確かだ。


そんな彼女と2m程の距離を開けた所で足を止め、彼女の視線に近い高さに目線が来る様に屈む。



「怪我はしていないか?

体調に問題は?」



俺達の力量は目の前で見て理解しているだろうから彼女は警戒しながらも、はっきりと首を横に振る。

その反応に対し、俺は笑顔を浮かべて見せる。

“笑顔は威嚇”というのも確かに一面だが。

相手を安心させる事が出来るのも一面だと言える。



「先ずは自己紹介だ、俺は徐恕、君の名は?」


「…………黄、叙…です…」


「そうか、良い名だな

同じ音の名っていうのも何か縁を感じないか?」



そう言えば黄叙は少し考えて、ぎこちなく笑う。

その反応からして評判通り、聡いと言える。

…だから、恐らくは理解しているんだろうな。



「自分が拐われた、という事は?」


「…っ……判っています…」



恐いだろうに、気丈に振る舞って見せる黄叙。

自分を拐った男達を倒した謎の四人組(俺達)

しかし、面識も無ければ、圧倒的な実力を持つ事。

黄忠か黄蓋が一緒に居れば、或いは兵が居たなら。

黄叙も“自分を救出に来てくれた”と思えるが。

残念ながら、黄叙が俺達を信用出来る予想は無く、しかし、黄叙は生きる為に従わなくてはならない。

そういう状況だと判っているだけに苦しい筈だ。



「…なら、故安県の県令・黄建の死は?」


「──っ…………知って…ぃます…」


「そうか…」



俺の質問に黄叙は思わず俯くが、きちんと答えた。

誰に聞いたのか、そんな事を訊く事でさえ不粋。

此処に居た連中の中の誰かだろう。

酒瓶が転がっている事から、酔った馬鹿共が黄叙の気持ちなど気にもせずに嗤いながら喋っている姿が容易く脳裡に思い浮かんでくる。

その時の黄叙の気持ちを考えると、彼女が唇を噛み拳を握り締めて、生きる為に糞共を刺激しない様に声を上げる事も、泣く事も堪えている姿もだ。


だから気持ちは判るが、殺気を仕舞いなさい。

愛紗・梨芹、「…此奴等、殺しませんか?」という視線を俺に向けないの。

利用するので駄目なものは駄目なんです。


その時の気持ちを思い出したのか……いや、違う。

まだ幼くとも県令の娘として生まれ育ったからこそ黄叙は“生きなければならない”事を理解しているからこそ、ずっと堪えて続けている。


それを理解してしまったら、自然と身体が動いた。

俯いている黄叙を抱き締め、頭を撫でていた。



「…もう、我慢しなくてもいい…よく頑張ったな」


「──っ……ぅっ……ぅぅ……ぉ……ぉと、さっ………ぅぁぁっ……ぁぁあああ゛あ゛────」



堰を切った様に降り始めた雨は激しさを増し。

止む事が無いのではないかと思ってしまう程で。


けれど、止まない雨は無くて。

軈て、雨雲を穿ち、陽光が射すという事を。

俺自身も身を以て理解している。

それが、“繋ぐ(生きる)”という事なのだから。




泣き疲れて眠ってしまった黄叙を俺が背負いながら華琳達と山を下りて行く。

…ん?、小屋に居た連中?、しっかりと縛り上げて愛紗と梨芹が嫌がる犬の散歩みたいに引き摺って、連れて来ていますが何か?。

何か唸ってますが、気にしない、気にしな~い。



「御兄様、この後は、どうなさいますか?

一気に韓玄を叩きますか?」


「いや、此奴等を連れて行っても「何を言うか!、其奴等賊徒の言う事を信じると言うのかっ?!」とか言われたら、押し切れないから駄目だ

仮に県令の座からは遠ざける事が出来たとしても、韓玄を家臣の座からは排除出来無い…

こういった奴は保身の為に用心深く使い捨てられる駒しか使わないし、証拠も残さないからな

慎重に、そして確実に、逃げ道を断つ事が肝心だ」


「それでは、“前回”の時の様に?」


「そう出来れば一番楽なんだけどな…

まあ、其処は二人次第って所だな」



そんな事を華琳と話しながら山を下りて行く。

ただ、一応は生かさなくては為らない“生き証人”という事も有って、愛紗達とは距離が開いた。

「こんな奴等、口さえ利ければ十分でしょう?」と言いた気な愛紗達の気持ちは理解出来る。

しかし、その姿を見た市井の懐く印象に付いても、考えて置かなくてはならない。

それが世論操作・イメージ戦略という物なのだ。


そんな訳で、もう直ぐ麓な俺達は歩く速度を落とし愛紗達を待つ時間を短くしようと調整する。

──そんな時だった。

森の中に紛れる様に微かに響く、常人なら聞き逃す僅かな風を切る音を捉え、左へと飛び退いた。

地面に、木の幹に、小気味好い音を立てて刺さった十本程の矢が司会の端に映った。



「──見付けましたよっ!」


「──大人しく観念せいっ!」



それと同時に姿を見せた二人の女性。

その見た目は、記憶(原作)の中の彼女達よりも幼さの残る“少女”の面影を感じられる。

まあ、それも当然と言えば当然だろうな。

集めた情報によれば二人共、俺の四つ上。

つまり、今はまだ“十九歳”なんだからな。

……しかし、それでも彼の存在感は健在な訳で。

「…なっ、まさかっ……まだ育つ、だと?!」──な展開だったりするんです。

まさに巨に──女体の神秘ですね。


それは兎も角として華琳に背負っていた黄叙を渡し離れている様に“仮面”越しに目で合図する。

偶然?、いいえ、二人の氣は感知していましたよ。

だからこうして予め用意して置いた仮面を二人して付けて“不審者”っぽさを演出しています。



「…やれやれ、随分と物騒な御挨拶だな

間違って子供に当たるとは考えなかったのか?」


「この黄公覆、その様な温い腕はしておらんわ!」


「はぁ…腕前の問題ではないだろう?

狙って誘導しようとしても、対象が足を取られて、体勢を崩して当たってしまった場合、どうする?

「転ぶのは想定外でした」と言うつもりか?」


「ぅぐっ、そ、それは………」


「威嚇で射るのなら、対象の視界の中で、尚且つ、一矢で十分効果は有る

こんなに無駄射ちをしては危険性を増すだけだ

如何に腕に自信が有ろうとも過信・慢心していれば何処かに気の緩みが出来るもの…

また、平静を失った状態での射撃は、弓士としての基本を蔑ろにしているのも同然ではないか?」


「────っ…」



「儂は失敗せんわ!」と言いた気な黄蓋に対して、「認めたくないのが若さ故の過ちという物か…」と胸中で呆れながらも、少々説教をしておく。

その流れで、黄叙を連れて離れた華琳を追い駆ける意識を隠そうともしない女性──黄忠を牽制しつつ彼女の抱える問題点を指摘してあげる。


小さな親切、大きな御世話、その実は揺さ振り。

普通、敵が「黄叙(子供)を殺す気か?」とは言わない。

その逆に盾にしたりするなら可笑しくはないがな。

だから、二人は考えざるを得ない。

「この仮面の者は何方等なのか…」と。


白か黒か判らないが、下手に詰問したりも出来無い状況なのは嫌でも理解出来る事だろう。

仮面一号()が居る限り仮面二号(華琳)が逃げるのは容易。

だから二人は少ない情報から仮面組(俺達)の事を推察し、言葉を選択しなくてはならない。



「……私は県令・黄建の妹で黄漢升です

その娘は私の姪、兄の一人娘の黄叙です

どうか、返して下さい」



黄忠は構えていた弓を下げ、箙に矢を納める。

そして懇願する様に、俺に向かって頭を下げた。

それを見て黄蓋は逡巡するが、黄忠に倣う。

罪悪感と責任感に追い詰められているかと思いきや中々に冷静に最善を選択した黄忠には感心する。

なので、御期待に御応えしましょうか。



「…残念だが、この娘は渡せぬ

貴様等が本物であるという確証は得られぬのでな」


「それでしたら街に──っ!?」



俺の言葉に頭を上げ、提案し掛けた黄忠に向かって佩いていた柳葉刀を抜き、鋒を突き付ける。

咄嗟の事で僅かに身体が身構え掛けるが、気合いで堪えて動かない様にする二人。

その姿に仮面の下では口元が緩んでしまう。

まあ、仮面が有るから出来るんだけどね。



「真理は常に“弱肉強食(一つ)”…

この娘が欲しくば、その手で掴み取ってみせろ」


「「────っ!!」」



そう言うと二人は驚き、顔を見合わせて頷き合うと後方に飛び退くと、黄忠は弓を、黄蓋は佩いていた直剣を抜き放って構える。

二対一?、そんな事を二人は気にはしない。

相手()が「戦って勝ち取れ」と告げたのだ。

試合とは違い、ルールも無い以上、何でも有り。

戦場に立てば、卑怯という言葉は無意味だ。

それを二人は理解しているからこそ躊躇はしない。

大切な存在(黄叙)を取り戻す為に戦うと決めたから。


同い年の従姉妹、同じ弓士、魔に──は関係無いが流石と言うべき連携の高さだ。

前衛後衛に分かれている夏侯姉妹に対し、黄忠達は入れ替わりも上手かった。

黄蓋の剣を黄忠が使ったり、二人して射ってきたり型に填まらず、臨機応変に対処して見せた。

元譲達に見せて遣りたいが、それは追々の話だな。





 韓玄side──


県令の居城の一室に安置されている黄建の亡骸。

その側に立ち、物言わぬ黄建を静かに見下ろす。


民に慕われる領主?、誠実な県令?、何の冗談だ。

民とは家畜、私の様な選ばれし者の為の下僕。

そんな奴等の顔色を窺う真似をしているから貴様は何も気付かなかったのだ。

忠実な振りをする私の貴様を疎ましく思う敵意に。

そして、貴様を排除して県令の座を狙う野心にな。

その結果が、この様だという訳だ。

どうだ?、何も出来ぬというのは。

蹴ったり、剣で刺したり刻んだりして遣りたいが、それは流石に目立つので遣りはしない。


──と、足音が聞こえて部屋の入り口の方へと顔を向ければ、足音が止まり扉が開かれた。



「──此方等においででしたか…」


「どうした?、何か動きが有ったか?」


「はい、黄忠様と黄蓋様が御戻りに為られました」


「──っ!、では黄叙様がっ?!」



──と、探しても無駄な事を知っているが知らない振りをして態とらしく驚いて見せる。

表向きには“忠義心の厚い筆頭家臣”なのだ。

黄忠・黄蓋を排除してから、黄叙を私が助け出して娶る事で、県令となる計画なのだからな。



「…いいえ、残念ながら、黄叙様は…

発見はしたものの、見失ってしまったそうで…

一度戻られましたが、また直ぐに出られました

一応、韓玄様に御報告をと…」


「…そうか、御苦労だった、下がってくれ」



そう言うと衛兵は下がり、黄建の方に一度だけ振り返ってから、部屋を後にする。

そのまま城を出て、自分の屋敷に帰ると人払いをし着替えもせずに自室に籠る。

落ち着き無く部屋の中を歩き回ってしまう。

だが、仕方が無い事だろう。

「発見はしたものの、見失ってしまった」と。

そんな事を聞けば、じっとしていられる訳が無い。

絶対に見付からない、その自信が有った。

加えて、捜索で疲労困憊の所を狙って黄忠達を始末する為に刺客を雇い差し向けもした。

だが、最早何方等が先か判らなくなった。


──と、部屋の窓が叩かれた。

それは決められた合図による物だった。

慌てて窓を開けると見知った顔が其処に有った。

思わず怒鳴りたくなるのを堪えて部屋へと入れると直ぐに窓を閉じ、睨み付ける。



「…その様は何だ?、まさか失敗したのか?」


「も、申し訳有りやせんっ…

ですが、滅法強ぇ仮面を付けた四人組でして…」


「……仮面を付けた四人組だと?」


「へ、へぇ…娘を拐って行きやして…

旦那に今夜、街外れの廃屋敷に一人で来いと…

来なければ娘は黄忠達に渡すと…」



行く以外に選択肢の無い以上、日没後、屋敷を抜け闇夜に紛れて指定された場所に向かった。

苦虫を噛み潰す思いだが、背に腹は代えられない。


暫し廃屋敷の中で待っていると月明かりの射す中、深い闇から姿を現した者が居た。



「御待たせ致しましたね、韓玄殿」



鈴が鳴る様な美声で名を呼ぶ、微笑む美女が。



──side out



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