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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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     這い寄る影


御茶会から一週間、私は今、故安県に来ています。

──と、小声で言うレポーター風の脳内アナウンスにて御送り致しますのは、当番組の人気お笑い芸人ジョジョ☆バッキャローさんです。

バッキャローさん、其方等は如何でしょうか?。

はいはーいっ、今日も元気に行って苑ジョジョ!、来てバッキャローッ!、ノンアポ突撃レポーターの☆です!。

此方では現在、白に赤に緑に黒と満開状態です!。

春では有りませんが、季節に関係無く美しい花々。

とっても目の毒──ゴホンッ、保養になります!。



「御兄様っ!、其方等に行きましたっ!」


「──んっ、任せなさい!

…………其処おおぉっ!」



華琳の声に我に返ると、一瞬で意識を切り替えて、気配を研ぎ澄ませて──水面を弾く。

すると、綺麗に跳ねたかの様に魚が宙に舞った。

それも一匹ではなく、一度に十七匹もだ。


それを待っていた凪が素早く回収する。

俺の魔改ぞ──ゴホンッ、指導の賜物だろう。

くノ一を彷彿とさせる靭やかで華麗な動きは見事の一言に尽きると言える。

陽の光が水面で乱反射する中の凪の健康的な美脚は実に美味しそう──いや、美しいと言えた。

成長中の双丘と、小さくも張り艶の有る桃を包んだ緑と白のボーダーカラーの布地以外は素肌を晒す。

何も知らなければ下着姿だと言えるのだろう。

だが、何故か前世の女性達は平気で着ている。

それなのに下着姿は駄目だと言うのだから不思議。

布地の面積的には大差無いだろうに。

ただまあ、素晴らしい発明だとは個人的には思う。

“水着”万歳っ!、水浴びヒャァッフゥーッ!。


尚、華琳にはスク水擬きを贈っております。

見よっ!、これが()の渾身の結果だっ!。

まあ、俺だけの花園(楽しみ)だけどね!。



「……忍、顔が若気ていますよ?」


「そうか?……まあ、そうかもな

こういう形での家族団欒は久し振りだからな…

それはそうとして、綺麗だぞ、愛紗」


「──っ、なっ……んんっ、何をいきなり…」


「素直に、感じたままを言っただけだって…」


「なっ…貴男は……もぅ……ズルいです…」



凪の美脚に鼻の下を伸ばす様な雰囲気を察した様でジト目で見てきた愛紗に対しスウェイで躱してから隙を突き、死角からのスクリューフック。

更に畳み掛ける様にクロスカウンターを決める。

レフェリーがカウントを止めて、K.O.を宣言。

恥ずかしそうに、でも嬉しそうに照れて俯きながら呟く愚痴(惚気)には気付かない振り。

普段とは違い、モジモジとする仕草が可愛いな。

まあ、こういう反応が見たいからの確信犯ですが。


そんな愛紗が勝者を讃える様に祝福する。

真っ白なビキニに包まれた肢体が陽に輝く。

然り気無く、左手で右腕を掴む格好で豊かな実りを強調するのは「どうぞ、食べて下さい」の合図。

──という訳で、それでは、実っ食っ!。



「──ひゃぁっ!?、冷たィッ!、ァんっ、じ、忍、せめてェっ、こっ、木陰にィァアッ!」


「愛紗っ!、抜け駆けは狡いわよっ!」


「ちっ、違ァアンッ!、じ、ンッ、今はァッ、か、華琳と、はなっ、シテェッ!」


「ああ、判ってるって、沢山してやるからな」


「それっ、違っ、ぅんンッ!、ああァッ、んっ!」


「凪、捕った魚は大丈夫?」


「はい、梨芹姉さん、ちゃんと処理しました」


「そう、それじゃあ、私達も交ざりましょうか」


「はいっ!」


「んんっ、ヂュッ……ン、ふぁっ、御兄様ァッ…」






──という事が有って、少々遅めの昼餉。

弾ける様に火花を散らす焚き火で焼かれている魚が放つ匂いに空腹が催促してくるのは仕方が無い。


…え?、「随分都合良く水着が有ったな?」と?。

フッフッフッ…お忘れか?、故安県は川の多い地。

気温が上がれば水浴び位はしたくなるもの。

そして、他者の目が無く、互いに全てを見せ合い、知っている者しかいないなら。

其処に躊躇という感情は生じても淘汰される。

つまり、美少女・水着・大勝利!、の図式である。

要するに、この徐子瓏、手抜かりは御座らん。


まあ、そうは言っても此処に居る面子が華琳・愛紗・梨芹・凪の四人だけだからなんだけどね。

まだ恋達とは一線を越えてはいませんから。

今回は揃って御留守番して貰っています。



「忍、必要最小限の人数で故安県に入り、秘密裏に事態を収拾する、というのは理解出来ますが…

今回の一件での首謀者や協力者達の処理の判断は、どの程度で考えているのですか?」


「んー…まあ、疑わしきは罰せず、だろうな

野心、或いは敵対心や嫌悪感を懐くだけなら自由だ

それを兎や角言って処断するという事は出来無い

遣れば出来るが、それは新たな火種を生むだけだ

明確な動きが有ってからでないと、俺達は動けない

だから、飽く迄も俺達は後手から始まる事になる」


「……頭では解っていても心では納得出来無い…

こういった事態では色々と儘ならないものですね」


「梨芹の言う通りだな…

だが、それでも背負う物が有るなら覚悟すべき事だ

俺達には啄県・逎県の民が第一であり、現時点では故安県の民に関しては所詮“他人事”だからな

何方等かに必ず犠牲を強いらなくてはならないなら──俺は迷う事無く、故安県の民を犠牲にする」



綺麗事(理想)を口にすれば「全てを助ける」だろう。

しかし、そんな事は現実には不可能である。

勧善懲悪の時代劇でも、本当の結末や、その先には決して触れはしないのは勧善懲悪(コンセプト)が崩れる為。

故に、理想的な罪を憎んで人を憎まず(全てを助ける)という事は、社会的道徳上不可能だったりする。

悪と断じられ、裁かれる者が一人でも居る限り。

必ず、その事件には犠牲が生じているのだから。


だからこそ、施政者は覚悟しなくてはならない。

そして、正しく理解しなくてはならない。

全ては“己が背負う民”の為で有って。

他者の治める領地の民の事は二の次なのだと。

自領の民を犠牲にして手を差し伸べるのは過ち。

自領の民を守れる確実な状況でのみ、他領の民へと手を差し伸べるべきである。


…まあ、それでも見捨てられないし、見過ごせない問題だからこそ、こうして俺達が動いてる訳だが。

…こらっ、ニヤニヤするんじゃ有りません。

この生意気で可愛い(ナマカワ)マシュマロ頬っぺめ。



「ひひゃひれひゅ、ほみぃひゃみゃ~…」



そう言っている割には笑顔な華琳。

両頬を摘ままれても余裕たっぷりなのは当然。

俺だって本気で抓っている訳ではない。

それに華琳は昔から頬っぺたが柔らかく、伸びる。

口一杯に物を頬張る事は滅多に無いのだが。

鼈化している時には栗鼠の様で可愛らしい。

……まあ、遣っている事は可愛くも妖しいのだが。



「戯れ合うのは、それ位にして…

具体的には、どうするつもりなんです?

相手が動くのを待つ、というのが基本方針ですが、何れだけ待つ事になるのか解りませんよね?

仕掛ける事はしないのですか?」



愛紗の言葉に手を離す──いやいや、華琳さん?、ちょっと待ちなさいな。

自分から押し付けてくるのは──というか、自分の手で掴まえて固定しないの。

「やぁーっ…」じゃ有りませんから。

いいから放しなさい、話が出来無いでしょうが。

現状で一番年下だから、ちょっと甘えん坊モードに入っているだろうけど。

お兄ちゃん、可愛過ぎて困っちゃうから止めて。

ん?、「“おんぶ”してくれたら止めます」?。

……ったく、仕方無いな、この甘えん坊め~。


──という遣り取りをして、愛紗に睨まれる。

「全く、貴男は本当に…」と言う感じで嘆息する。

その姿は正しく“御母さん”ですな。

そろそろ新しい子を作ろうかな?──アッ、ハイ、ゴメンナサイ、ちゃんと話します。



「んっんん……まあ、正直に言うとだな、その点は悩ましいと言うしかないな

だからと言って、県境ギリギリの所で待っていても入ってくる情報は当然、鮮度が落ちる

その遅れが致命的になるのは明白だからな…

後手に回る事が確定している以上、遅れられない

だから故安県に──事の中心地に居ないと駄目だ

──とは言え、長期化させたくはないからな

そういう意味では誘いを掛ける事も考えてはいる

多少残酷(強引)な手段になるかもしれないがな」


「──っ…忍にしては珍しいですね」


「……長引くと恋が我慢し切れなくなるからな…」


『あぁー……』



愛紗が言った様に、俺にしては珍しい事だろう。

ですが、仕方が無いので御座るよ。

真桜は兎も角として、恋にとっては自分よりも後に家族に成った凪が行けるのに自分は留守番である。

そんな恋の不満は半端無いと言える。

それでも出発前までは甘えに甘えさせ甘やかして、どうにかこうにか説得して出て来たのだが。

出掛けの真桜の「…え?、マジで恋置いてくん?、ウチ死なへん?、止められへんよ?」と涙目による魂の訴えには本気で心が痛んだ。


それを華琳達も理解しているから、何とも言えない表情を浮かべながら納得していた。

いや、白蓮は立場上色々忙しいから基本的には恋の面倒は真桜が見る事になる。

流琉達は恋より聞き分けがいいから助かるが。

何だかんだで俺が甘やかして育ててしまったからか華琳に次いで俺に依存していると言える。

だから、長引くとヤバイんです、故安県の事より。



「……忍、私は恋は止められませんよ?」


「忍、私もです、普段なら兎も角、限界を突破して“暴走”している恋は手に負えませんからね…」


「…すみません、私も手加減無しの恋を止める事は出来る気がしません…」



梨芹・愛紗・凪から「私には不可能です」と回答を突き付けられた俺は華琳へと視線を向けた。

すると、我が愛妹は屈託無く笑顔を浮かべて首肯。

言って置くが妹よ、此処で「当然私にも無理です」というベタベタな落ちは要りませんからね?。



「大丈夫です、御兄様

恋なら簡単に止められますから」



余裕綽々で答えた華琳に俺は勿論、愛紗達も互いに顔を見合せ「まさか…あの恋を?」と言いた気だ。

いや、俺だって同じ気持ちですよ、マジで。

如何に違うとは言っても、呂布ですからね。

「…がぅー…」と棒読みで熊さんを遣ってた頃から武に関しては桁違いだった恋。

そんな恋に対し、氣を教え、力の効率的な伝え方・収束の遣り方を教え込んだのは誰か。

そう、兄馬鹿な私めで御座います。

だからこそ、断言致しましょうぞ。

宅の恋は、原作の呂布を鎧袖一触出来るでしょう。

いや本当に、冗談抜きでね。


だから、そんな恋を簡単に止められると言う華琳。

普段はブラコン全開で残念感の有る未来の覇王様が今正に、その片鱗を感じさせるでは有りませんか。



「…それは本当か、華琳?」


「はい、本当です、御兄様」


「…華琳、どう遣って貴女は恋を止める気です?

暴走している恋に力任せは通用しないでしょうし、料理等の搦め手も通用するか解りませんよ?」


「愛紗、問題は恋の止め方ではないわ

どうすれば、恋が止まるのか、よ」


「いえ、ですからそれが解ら…………ぁ…」



「………ぇ?」って思わず言いたくなる感じで。

愛紗達の視線が一斉に俺へと向けられた。

「その方法が有ったか!」という感じではない。

「あー……まあ、確かに…」的な視線である。

特に愛紗の視線は同情的な感情を含んでいる。

それだけに嫌な予感しかしないのだが。

訊かない事には話が進む事は無いだろう。



「…………華琳、その方法は?」


「御兄様が恋を抱けば良いだけの話です」


「全然良く有りませんっ!

何で、そういう答えになったのかなっ?!」


「私が恋だったら、御兄様に抱かれれば満たされて大人しくなるからです」


「言い切ったっ!?、愛紗っ?!」


「…まあ、その……華琳の言い分も正しいですね

恋の暴走の原因が貴男なら、それが最善手です」


「それは…………いや、でもだな…」


「御兄様、いい加減、恋とも向き合いましょう?

御兄様も恋の想いは本物だと気付いてますよね?」


「…ぅぐっ………それは…まぁ……」



…あれ?、何故こうなった?。





 other side──


いつもと変わらない空、いつもと同じ様な毎日。

それを“退屈”だと感じる事も有るけど。

だけど、死んでしまったら退屈とさえ感じない。

そう、御母さんから教えられている。

「だから、私達は民の毎日を守るのよ」って。


目が覚めて、空を見て、晴れていると心は弾む。

曇っていると不安になるけど、過ごし易くて。

雨が降っていると外には出掛けられないけど、雨の景色は綺麗だなって思う。

それは、とても単純な事かもしれないけど。

だけど、生きているから感じられる事だから。

誰に何て言われても、気にする事は無い。



「──あら?、御出掛けするのかしら?」


「あっ、姉様っ!」


「あらあら、走ったら危ないわよ?」


「えへへっ、ごめんなさ~い」



声を掛けられて振り向き、その姿を見付けた瞬間に私は走り出していて。

そのまま勢いよく飛び付いても、優しく受け止めて抱き締めてくれるから、大好き。

お日様の匂いがするから、鍛練の後だと思う。

鍛練の後でも汗の臭いがしないのが御父さんと違い抱き付きたくなる理由の一つ。

それから御母さんよりも大きくて柔らかいから。

……御母さんには絶対に言えないけどね。



「それで?、一人で出掛けるつもりだったの?」


「そうだけど……やっぱり駄目?」


「……そうね、貴女も大きく成ってはいるけど…

まだまだ危ない事には変わりはないわね」


「……うん…」


「…だから、私も一緒に行ってあげるわ

少しの間、待って居られるかしら?」


「──っ!、うん!、待ってる!」


「ふふっ、それじゃあ、門扉の所で待っていてね」



そう言って頭を撫でてくれて自分の執務室の方へと向かう姿を見送り、私は門扉の方に向かった。


何処に行くかは決まってないけど。

街に出られるだけで、楽しみで仕方が無い。

だから待っている間も色々考えるだけで楽しい。


待っている時間は、あっと言う間で。

約束通りに街に出掛ける。

歩きながら、「そう言えば美味しい甘味処が新しく出来たみたいだけど知ってる?」と訊いてみた。

すると、「ああ、彼処の事ね、行ってみる?」と。

勿論、笑顔で頷きました。


賑わっている御店は軒先にも長椅子を出していて、残念だけど店内には入れそうになかった。

注文する品を決めると姉様が注文を伝えに店内へ。

早く食べたくて仕方が無い気持ちを抑える。


──と、通りを行く男性が何かを落とした。

長椅子から立ち上がって近寄って、拾ってみたら、布袋の中で何かが動いて音を立てた。

慌てて男性の姿を探せば、角を曲がる所だった。

私は男性の後を追い掛けて行った。

細い路地の先に男性が居た。



「あのっ!、御財布を落としましたよっ!」



そう声を掛けると男性は立ち止まって振り返ると、懐を確かめて、気付いた。

駆け寄った私が財布だろう布袋を手渡す。



「ありがとな、お嬢ちゃん、助かったよ」


「いえ、当たり前の事をしただけですから──」


「──とんだ間抜けな御人好しな娘でな」



そう男性が言って嗤った瞬間。

強い衝撃と鈍い痛みを感じて、私を闇が包んだ。



──side out



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