表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
60/238

41話 穏やかなる春秋に。


“縁の絲”という物は眼には見えない。

しかし、それは良くも悪くも確かに人と人を繋ぎ、繋がる程に複雑に為ってゆく。

時として、それが絡まる事で問題も生じる。

ただ、簡単そうに思えても切る事が難しかったり、簡単に切ってしまった絲が本当は掛け替えない事に後から気付いてしまったり。

そんな事は多々有るのだろう。

そして、その大半の絲に我々は気付く事は無い。

自分にとって特別な、大切な、印象的な、そういう絲以外は意識しないのだから。

まあ、一々気にしていられない、というのも有るが態々口に出すべき事ではないだろうな。


謁見の間の処理を夏侯姉妹に従う兵達の一部に任せ宣言通りに李彦に与していた連中を次々と確保。

時間が時間なので騒がしく為り易い状況だ。

気付かれれば逃げたり抵抗する輩も出て来る。

そう為らない様に遣り過ぎない様に迅速に行動し、住民の眠りを妨げる事の無い内に終わらせた。

久し振りに良い仕事をした様な気がするな。


捕らえた連中は牢屋に放り込んだりして、見張りを交代で兵達に任せると俺は夏侯姉妹に案内されて、一軒の立派な屋敷へと遣って来た。

まあ、夏侯家の主家である病床の一人娘の屋敷だと言われなくても理解出来る。

夏侯淵が部屋に行って説明をしているらしく、俺は夏侯惇と応接室で二人きりで待つ。

卓を挟み対面に座っていれば見るのは必然的だが、其処は彼女達の主人となる女性が座る場所。

その為、夏侯惇が座るのは俺の左手側の席で。

二人きりの状態で外方を向くと態とらしいだろう。

だが、見詰め続けるには少々度胸が必要となる。

夏侯淵とは世話役だった事も有り、話し易いけど。

よくよく考えると夏侯惇とは二人きりなのは初めてだったりして、変に緊張し、意識してしまう。

付き合ってから初めて自分の部屋に恋人を入れる時みたいな感じだろうか。

妙に、ソワソワしてしまう。



「……あー…元譲?」


「な、何で御座いますですか?!」


「そう緊張するなって…

別に悪い様にはしないから」



自分の緊張具合に気付いてはいなかったらしく俺の指摘を聞いて顔を真っ赤して俯いた夏侯惇。

原作でなら慌てて誤魔化し怒鳴り斬り掛かる状況で恥ずかしがって身を縮込めるだなんて…だと?!。

“夏侯惇のターン、夏侯惇は小さくなった”というメッセージ・ウィンドウを幻視してしまう。

回避率上昇の筈なのに命中し易くなった気がする。

加えて防御力も大幅ダウンで、混乱付き。

やだぁ~…もう呪いの域じゃないですかぁ~。


──って、現実逃避している場合じゃないか。

いや、衝撃的に可愛い夏侯惇の一面ですからね。

そうなってしまうのも仕方が無いでしょう。

そんな普通の女の子みたいな反応をされたらね…。

まあ、兎に角、話題を変えるかな。



「二人共良い腕前をしているが、夏侯家というのは武官の家系なのか?」


「は、はいっ、初代が武功を成した事に始まります

その為、代々夏侯家に生まれた者は皆、男女問わず武を嗜むのが家の慣習なのです」


「へぇ~…意外と言うか珍しい慣習だな

普通なら娘に武を嗜ませる事は避けるだろうに…」


「…っ…………ぁ、あの、子瓏様も、女が武を嗜む事は…その、好まれませんか?」


「ん?、いや、そんな事は無いな

寧ろ、俺としては逆だな

持って生まれた才器や能力が有るなら研鑽を重ねて高めるべきだと思うからな

文謙を見ただろ?

文謙は勿論、俺は家族に武を教え、鍛えている

司馬防は、まだ日が浅いから土台作りの最中だが…

まあ、基本的に宅の女達は皆強いよ」


「そ、そうですか!」



俺の言葉に嬉しそうにする夏侯惇。

そうなるのも無理は無いだろうな。

原作とは違い、男尊女卑の傾向が強い世の中だ。

どんなに頑張っても女性の身では評価され難い。

──と言うか、そういう女性は貰い手が無くなる。

男というのは見栄っ張りで、格好付けだかりだから自分より強い嫁なんて欲しがらない。

白蓮みたいな名家の一人娘だったら我慢して婿入りしようと考える場合も有るんだろけどね。

基本的には嫌煙されてしまうのが実情だ。

だから、女性が武を嗜む事を肯定されたのが素直に嬉しかったんだろうな。

後は──まあ、凪の様に強い女性が多い事実に。


……うん、夏侯惇にも念入りに教育はしないとな。

大丈夫、梨芹では成功したんだから。

現状の夏侯惇を見る限りは原作の様には成らない。

あんな猪に、させてなるものか。



「──失礼致します

御待たせ致しました」



部屋の扉を開け、夏侯淵が声を掛けてきた事により俺は現実に引き戻され、夏侯惇は直ぐに立ち上がり主人を迎える体勢を取った。

立場上、現状では俺の方が上の為、席は立たない。

馬鹿馬鹿しいが、こういう事も必要な配慮だ。


迎え入れる夏侯淵の前を横切って現れた人物。

その姿を見た瞬間、討伐の話を受けて良かった事、原作知識が当てに為らない事を理解した。

夜着だろう服に上着を羽織っただけの格好。

着替えをさせて俺を待たせるのは無礼に当たる。

──かと言って、当主の、女性の寝所に、夜更けに俺を案内する真似も出来無い。

時間的に、体裁的に、これが妥当な対応だろう。


対面まで来ると姿勢を正し、深々と頭を下げた。



「この様な格好で申し訳御座いません

御初に御目に掛かります

私が当家の当主で、陸伯言と申します」


「此方こそ緊急の事とは言え夜分遅くに済まない

俺は啄県の県令・公孫伯珪様に仕える徐子瓏だ」



そう俺は“陸遜”に返しながら着席を促す。

夏侯淵が椅子を引き、静かに座る姿は深窓の令嬢。

原作でも、おっとりとした品の有る印象だったが、目の前の陸遜はというと割り増し──否、倍増しでセレブ感に溢れているではないですか。

月も凄かったが、母・祖母のインパクトに食われて大人しく見えていたからな。

どうしても、目の前の陸遜には見劣りしてしまう。

薄幸さが、ヒロイン性を後押ししている。


尚、夏侯姉妹の話では華琳達と同い年らしい。

確かに……身長や身体付きは華琳よりも小柄だ。

病が原因かもしれないが……正直、疑問に思う。

将来、本当にあんな我が儘な肢体に成るのか?。

そう思ってしまう程に、華奢で儚い印象を受ける。



「……子瓏様、御話は妙才から窺いました…

此度の件の一因でもある私が、この様な事を言える立場では有りませんが…

どうか、寛大な御裁きを御願い致します」



椅子に座ったまま再び深々と頭を下げる陸遜。

それに倣い、夏侯姉妹も45°を越える御辞儀。

この場に咲夜が居たら、「これじゃあ、誰が悪者か見間違えそうだわ…」とか言われそうだな。

うん、先に帰しておいて正解だったな。



「頭を上げろ、伯言

元譲・妙才にも言ったが、悪い様にはしない

ただ、色々と協力はして貰うからな?」


「っ…有難う御座います

私で出来る事であれば御協力は惜しみません」


「その言葉を聞けて、一先ずは安心した

取り敢えず、今後の流れを大まかに説明する

先ず、李彦に加担していた連中の処分だが、初期の支持は問答無用で有罪、斬首する

家族・親族は実情を鑑みてから対処する

途中から寝返った格好に為った者達は事情を踏まえ慎重に判断するが、無罪放免とは行かない

その辺りは理解して貰うしかない」


「…はい……それは承知しております」


「逎県の県令の後任だが、これは伯言、お前だ」


「……………………ぇ?」


「先代の影響力が大きかった事は聞いた

だが、先代の死だけで瓦解してしまう様な者達には後任は──いや、逎県の未来は託せない

だから、伯言、お前に託す」


「で、ですがっ……私はっ……」


「知っている、病を患っているのだろう?」


「……はい、明日を知れぬ身です…

どんなに気持ちが、志が有ろうとも…私には明日を生きていられる保証が御座いません…

とても逎県の民の未来を背負う事は…」


「意志が有るなら尚更だな

病に関しては心配するな、俺が治すから」


「「「………………………………………え?」」」


「聞こえなかったか?

俺が、伯言の病を治す、と言ったんだ」


「……え?、あの?、いえ、そんな簡単には…」


「公言してはいないから他言無用だがな?

俺は“華佗”の正統な後継者だ

“医者としての道”を歩んではいない為、名乗りはしていないけどな」


「なっ!?…………ほ、本当に、貴男が?」



陸遜・夏侯惇が茫然としている中、夏侯淵だけが、リアクションを返してくれる。

こういう時、一人だけども居ると有難いよね~。

シ~ン…とした空気は白けますからね。


まあ、俺自身は、“華佗”を名乗る資格はない、と考えているんだけどな。

老師も「好きに使え」としか言わなかったし。

遠慮無く使わせて頂きます。



「こんな事で嘘を吐いて何になる?」


「それは……そうですが……」


「まあ、無理に今直ぐに信じろとは言わない

治療が終われば嫌でも理解出来るだろうからな

それよりも、話を進めるが大丈夫か?」


「………ぁ、は、はいっ」


「逎県の県令は伯言に任せるが、その上で伯言には俺の妻に成って貰う」


「────っ!?」


「こう言っては何だが、伯言は女だからな

伴侶の座、或いは後任を狙う輩は少なくないだろう

それは逎県の政策に支障を来す大きな要因だ

だから、俺という伴侶を明確にする事で色々牽制し施政を円滑に進める

俺自身は暫くは啄県との行き来になるけどな」


「……御話は解りました

ですが、それならば最初から子瓏様が逎県の県令に成られた方が宜しいのでは有りませんか?」


「それは当然の疑問だな

だが、それは出来無いんだよ

俺は──伯珪の伴侶でも有るからな」


「「「………………………ええぇーっ!!!???」」」



うむうむ、素晴らしいリアクションだ。

最近、華琳達からは、こういう類いのリアクションは無いからな、寂しいものです。

まあ、流琉と季衣が居るから良いんだけど。

白蓮ですら「忍だからなぁ…」という感じだ。

閨では良いリアクションばかりなのになっ!。


──と、あまり変な事は考えない様にしよう。

“女の勘”は……本当に恐ろしいからな。



「後日、伯珪からの書状で伯言を正式に県令として認める旨が伝えられる

その上で、逎県の施政を遣って行く事になる

将来的に見れば統合に近い形になるだろうな

だが、啄県側と共同・協力する事で、一県単独では出来無かった事も可能になる

治安の改善に、街道の整備、農耕地の整備・拡大…他にも色々と挙げられる

普通なら、出来無い事だ

ただ、伯言が俺の妻になる事で可能になる

勿論、伯言の意志は尊重するつもりだが…どうだ?

決して、無理強いはしない

伯珪との関係が悪いと統治にも影響するからな

だから、本当に嫌なら断ってくれても構わない

暫くは県令を務めて貰うが、後任には俺の妻になる人物を指名して貰い、後を引き継ぐからな」



一方的に、尚且つ唐突に、大量の情報を押し付ける格好に成ってしまった。

仕方無い事ではあるが、心が痛まないでもない。

「意志は尊重する」と言いながら、断れない状況に自分が立っている事を認識させるのだから。

ただ、悪い話ではない。

陸遜は一人娘で、御家断絶も厭わないなら断っても一向に構わないが、中途半端に御家存続を考えられて要職に就かれると後事が乱れる原因になる。

厳しい言い方になるが、一家を背負う当主ならば、結婚は自由ではなく義務だ。

恋愛感情ではなく、民の為の利害が最重要。

その上での恋愛感情なら、全く問題は無い。

よく有る王子・王女の恋愛騒動は人の上に立つ事の意味を理解していない馬鹿が遣る事。

確かに美談は好まれるが、それで繁栄するのならば“政略結婚”なんて言葉は生まれはしない。

言葉や伝承・文化等の背景には必ず理由が有る。

それを知る事も統治者・施政者には必要だ。



「…………解りました

不束者ですが、何卒宜しく御願い致します」


「ああ、此方こそ、末長く宜しく頼むな」



頬を朱に染めた初々しい陸遜の承諾に、俺も笑顔で返して縁談は纏まる。

ただ、この陸遜が鼈化するのは……微妙な所だな。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.14

















 曹操side──




■月□日。

御兄様が白蓮の名代として逎県に向かわれ、逎県と六人目を手に入れられました。

文章にすると滑稽だけれど、事実は事実。

そして、成果としては素晴らしい事だわ。

逎県で臣民から嫌われていた悪徳県令の李彦一味を御兄様が颯爽と登場し、華麗に成敗した。

詳しい内容は伏せられいるけれど、御兄様の指示で往復した凪が知り合った女性達──六人目の陸遜の家に使える双子の姉妹から聞いたそうなのだけど。

是非とも舞台化したいわね。

出来れば、最愛の義妹を助け出す内容を加えて。

……いいえ、事実を曲げてしまうのは駄目よね。

だから、最初から創作すれば良いのよ。

そう、御兄様と私の運命を題材にして£ゑξξゐゑξ£ゑゐ£ξ




色々と有って御兄様が御帰りになられたのは当初の予定よりも一週間も後でした。

我慢の限界が来ていた恋を抑え切れない気がした、そんな絶妙な所で御兄様の御帰宅。

私達は心底、安堵しました。


その恋は御兄様に、べったりです。

……え?、私?、私は良いのよ、真桜。

後で、沢山甘えるのだから。


「師匠も大変やなぁ~」と苦笑する真桜。

一緒に暮らしていて気付かない訳が無いもの。

真桜も咲夜も御兄様と私達の事は知っているわ。

恋達以外の間では公然の秘密、という訳よ。

その真桜は幼馴染みの凪でも「どうでしょうか…」と悩む感じだから、私達も微妙な所。

まあ、急かしたり、仕向けると御兄様に気付かれて駄目に為ってしまうでしょうから。

そういう事は一切しないわ。



「──とまあ、そんな感じだ」


「そうか……いや、改めて忍に頼んで良かったな

他の者に任せてたらと思うと…」


「まあ、結果的に李彦一味を始末出来たんだ

新しい県令の伯言も此方側になった

順調だと思えば、安い出費だろう」


「出費って……お前なぁ~……」


「何方にしろ、必要な事だったんだ

遅かれ早かれ、だろ?」


「…はぁ~…まあ、それはそうだけどな

結果良ければ、全て良し、か…」


「そういう事だな」



その御兄様の報告を宅で一緒に聞いている白蓮。

県令で、表向きは主従関係の彼女が何故居るのか。

簡単に言えば、御兄様の出張中に此方の“掃除”は無事に終わったからよ。

その為、白蓮も御兄様との関係を公表する準備へと既に移っているわ。


そして──御兄様の不在で寂しかった者同士。

今夜は皆で一緒に御兄様と過ごす為よ。

だって、一夜に一人だけ、だなんて無理だもの。

だから、その為にも御兄様専用に“特別な料理”を用意して有りますからね。

フフフッ…今夜ハ覚悟シテ下サイネ、御兄様?。



「────っ!!!???」


「…………兄ぃ?…」




──side out



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ