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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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4話 ヒロインですか?


彼女の背に負われながら、ぽつり、ぽつり…と会話を重ねてゆく毎に判る。


其れ等を纏めてみると──祖父と父は漁師で、実家は代々が漁師の家系。

父は入り婿で、兄が二人の三人兄弟の末っ子が俺。

強面で寡黙で厳格なんだが意外に孫馬鹿が祖父。

普段は優しいが怒らせたら最恐である温和な祖母。

明るくポジティブで熱血が偶に暑苦しい父。

普段は生真面目で口煩いが人情に厚く、腕っぷしなら父以上である男前な母。

おっとり草食系な長兄。

せっかちで鉄砲玉な次兄。

何処にでも有る平々凡々な普通の家庭と家族像。


のんびり、ほのぼのを絵に描いた様な田舎の小村。

人口は400人程。

高い山々と深い谷に囲まれ“陸の孤島”と化している秘境と言える苛酷な環境。

外部から来る人自体が凄く珍しい僻地に有る為なのか賊被害も滅多に無い。

極めて稀にだが、迷い込み“運悪く”生き延びた結果訪れる賊徒等は居たけど。

基本的には無害だ。

…ん?、何故かって?。

自らを省みて心を入れ換え真面目に生きていくからだ──という訳ではない。

閉鎖的な秘境の小村だ。

その村人の結束力は並みのチームワークではない。

排他的ではないのだけど、害悪と見なした相手に対し容赦する理由が無いのだ。

だから、全員が敵に為る。

多くても10人に満たない人数なんだからね。

勝てる訳が無いんだよ。


そんな家族と故郷を、俺は失ってしまった。

賊徒の侵略や戦争等という人災ではない。

人の身では逆らえはしない自然災害──暴風雨による土砂崩れと津波。

抗う暇さえも与えられず、無慈悲に全てを飲み込んだ巨大な顎は溢れ落とす様に自分だけを食い残した。

絶望の中、彷徨った果てに森にて巨猪と追い掛けっこ遣った末に巨滝からの落下──という設定らしい。


いや、設定というか、後半部分は事実だから。

俺、死に掛けたからね?。

其処、重要だから。


曹嵩さんは憐憫と悲哀から顔を伏せてしまったけど…うん、ごめんなさい。

それが真実なのかどうか。

俺には判らないんです。

本当に起きている悲劇で、それを利用した設定(過去)なのかもしれないし、事実無根の作り話かもしれない不確かな事なんです。


ただ、追及をしない辺り、どうやら俺に其処から先を思い出させない様にという配慮なんだと思う。

心苦しいけど、安堵する。

今の俺には判らないから。

だから、その気遣いに今は遠慮せずに乗っかる。

時間が経てば“忘れる”が使えるからね。

それまでは子供だって事を活かして躱し切ります。


そういう訳で、これ以上の会話を避ける為に俺は腕を曹嵩さんの首へと回して、甘える様に抱き付く。

………凄ぇ、いい匂い。

頭がクラクラしてくる。

興奮はしないよ?。


そのまま、匂いと温もりを感じながら意識が遠退く。

…何だかさ、意識が飛んでばっかりな気がするのは…気のせいじゃないよな〜。





「………っ……んぅ……」



一定の感覚で程好く揺れる状況は揺り篭を思わせる為とても眠り易い。

電車やバスの中に居る様な感じが近いだろうね。

あ、昔ながらの床屋さんの鋏の音とかも良いよね。


そんな事を思い浮かべつつ重い目蓋を上げてゆく。

肺に溜まった空気が口から吐き出されてゆく。

霞んでいた視界が、次第に鮮明に為っていくと景色の大きな変化に気付く。

広大な深緑が占めていたが今は世界を赤橙色に染めて燃えているかの様に映る。


…寝ている間に密林を抜け景色が変わっている事は、言うまでもない。

もし今も密林の中だったら曹嵩さんには“方向音痴”スキルが備わっている事に為るだろうな。

そして、野宿が確定。

………それはそれでまあ、悪くないかもしれない。

うん、有りだね、有り。


──そんな邪な気持ちさえ染めて浄めるかの様に。

赤橙色の光が広がる。



(…私上最高の夕焼け…)



地平の彼方に沈んでゆく、太陽の姿を目の当たりにし小さくない感動を懐く。

“高が夕焼けだろ?”って思うよね?。

他人の話を聞いてる身なら当然の反応だって思う。

だってほら、話してる本人以外は判らない事だし。

その情景を共有していない限りは想像の範疇から出る事は無いんだからね。

だから、仕方無いんだ。

この感動を伝えるには同じ場所に居るしかない。

つまりだっ!、これは俺と曹嵩さん二人だけの大切なプライスレスなスウィ〜トメェ〜モリィ〜な訳だ。


…ん?、邪な気持ち全開で感動は何処に行った?。

フハハハッ!、今は子供の俺だが男盛り真っ盛りなら欲望が尽き果てる様な事は有り得ないのだよ諸君!。

欲望(ワタシ)は何時でも、諸君と共に在るのだ!。



「あら、起きたの?」


「あ、はい、起きました」



──なんて悪乗りしている思考を明後日の方向に全力投球して、答える。

子供らしく、を心掛ける。


振り向いた曹嵩さんの顔を夕陽が染めている。

照れている姿の例えにする事は多いのだけれど。

深い母性を感じさせる様に今の俺には思える。

…凄ぇ、綺麗です。



「もう直ぐ家に着くから、我慢して頂戴ね」


「…え〜と…その、重くはないですか?」


「んー?、もしかして私の心配をしてくれている?

ふふっ、優しいのね」



そう揶揄う様に言った姿に重なるのは、ドSな王様。

まあ、彼処までのSっ気は無いんでしょうけど。

ちょっとだけ、ゾクッ…としてしまった。



「…ずっと背負って歩いてくれていたんですよね?」


「ええ、それは確かね

でもね、安心しなさい

貴男一人を背負って歩く位大した事じゃないわ」


「…その…あ、ありがとうございます…」


「どう致しまして」



恥ずかしさを隠しながら、感謝だけは伝える。

そして彼女の背に顔を埋め羞恥心に堪えるのだった。




密林から遊歩道レベルへと周囲の景色が変わった頃、遠くに見える物に気付く。

天に向かい立ち昇ってゆく幾つもの蛇の様な煙。

それは火事の証ではなく、人の生活の証である。



(…でも、家は見えない…

まだ距離が有るのか…)



自分で歩いてはいないから疲れはしないが。

自分を背負ってくれている曹嵩さんの負担を考えると申し訳無くなる。

いや、俺が住んでる場所が遠い訳じゃないから、俺に非は無いんだけどさ。

気持ち的には…なぁ。


流石に、山を二つを越えて──という事は無い。

多分、直線で言えば3kmも離れてはいないと思う。

それでも山道なのだ。

当然ながら平坦ではなく、起伏が存在している。

幾ら慣れているとは言え、距離と疲労は減らない以上大変な事は変わらない。


──なんて思っていた所で彼女の言葉が甦る。

先程、彼女は何と言った。

そう、「もう直ぐ家に」と確かに言っていた。



(……あれ?、もしかして曹嵩さんて人里から離れて生活してる感じ?)



そう考えるのは当然。

だって、あの煙が人里から上がっているのだとすれば日没までに帰り着けるとは思えないからね。

それなのに曹嵩さんに急ぐ気配は見られない。

のんびり屋だとか楽天的な性格なんだろう、といった感じの話ではない。

若干、“天然”な気配なら感じてはいるが、それでも彼女が聡明だろう事は碌に彼女の事を知らない俺でも判る位なんだ。

だから、彼女が言った事が気休め等ではないのなら、それは正しいという事。



(…人里離れた一軒家…

其処で夜、優しくも妖艶な美人と二人っきり…

コイツぁ、ヤッベェな…

オラ、滾ってくっぞ…)



違う意味で戦闘スイッチが入ってしまいそうだ。

頭の中では、“いけない”妄想が展開している。

深夜帯なら兎も角、何故か昼ドラっぽい物が有るのは御愛嬌なのだろうな。

…うん、自分でも考えてる事が意味不明だね。


──と、そんな時だ。

遠くを見詰める様に上げた視線に映った一筋の煙。

それは他の物に比べると、物凄く近くに見えた。

自然と辿る様に視線を下げ見詰めた先には──日没で伸びる陰に融け隠れる様に建っている小さな家らしき物影が有った。




都会育ちの──あ、いえ、はい、見栄を張りました、地方の出身です。

そんな俺でも、驚く。


近付いてゆく程に明らかに為ってゆくのだ。

曹嵩さんが“家”と呼ぶ、その建物の正体が。



(……え?、これ、家?…

………え?、マジで?…)



正直な事を言おう。

俺は彼女が曹嵩さんだって判った時点で、それなりの生活が出来ると思った。

だって、曹嵩さんだよ?。

あの曹操の親ですよ?。

庶民な筈が無いんだよ?。

勿論、完全に確定したって訳じゃあないんだけどさ。

色々期待しちゃうでしょ、こういう状況だったら。


しかし、そんな甘ったれた幻想(期待)は殺された。

きっと、説教をされながら俺は殴られるんだ。

そして、目を覚ます。

「俺は…馬鹿だった」と。

熱い涙を流しながら。

………………うん、無理。

俺には出来そうにない。

誰か、代わって下さい。



「さあ、着いたわよ」


「あ、はい…」



元気に笑う曹嵩さんの声に泣き言さえも逃げ出した。

取り敢えず、冷静に為る。

曹嵩さんに地面に下ろされ見上げる様に家を見る。


昔話とか時代劇とかに出る田舎の一軒家とは違う。

いや、大きさで言うのなら目の前の方が大きいかも。

しかし…しかし、兎に角、家がボロい。

どう見ても廃屋だ。

昔の、木造の校舎や工場が放置されて朽ち果てた末、荒れに荒れている。

そんな印象しか持てない程ボロッボロなんです。

はっきり言いましょう。

地方の、田舎の納屋の方が絶対に正面で立派です。

前世の父方の祖父の実家の農機具小屋とか、無意味に立派だったからね。


それに比べると…な。

“雨風凌げれば十分”って考えでなら…うん、まあ、有りなんだとは思う。

だけど、暮らすとなると…流石に無いでしょ。

それはまあ、現代日本人の感覚としては、だけどね。

現実問題としては、住める場所が有るだけで十分って事なのかもしれない。

空き家の多さが社会問題の現代日本じゃ考えられない話なんだろうけどね。


色々と自分勝手に想像して期待をしていただけに。

無情な現実を目の当たりに落胆してしまう。

それでも表に出さないだけ俺は頑張ったと思う。

本音を言えば泣きたいが。

文句は言わない。

大恩が有るのだから。




曹嵩さんに手を引かれて、廃屋──もとい、御自宅にお邪魔します。


──と、其処で再び驚く。

何と、中に綺麗な壁を持つ別の家が建っていた。



(──そうきたか!)



所謂、リフォームだ。

恐らく、内部の柱や構造を再利用しつつ、必要となる規模で家を再構築。

ボロい外観を残したのは…賊避け対策、かな?。

詳しくは判らないけど。

だけど、これで生活環境が正面なのは判った。

それだけで安心出来る。


実際、中へと入って見ると所謂“昔の家庭”の絵柄に当て填まる物だったしね。

うん、本当に良かった。



「ちょっと待っていてね」



そんな安堵する俺を残して曹嵩さんは奥へと消えた。

彼女を見送りながら、今更服装が庶民的な物だったと気付いたりする。

色々テンパってたんだし、仕方無いよね?、ね?。


それは兎も角として。

状況からして、曹嵩さんが曹操の親という線は薄いのかもしれないな。

けど、それはそれで俺的に構わなかったりする。

戦争なんて御免だからね。

曹嵩さんを嫁にイチャラブ出来るなら十分です。

寧ろ、その方が良い。


そんな事を考えながら中を見回していると曹嵩さんが戻ってきて──その隣には小さな女の子が居た。

少しの動きでもサラサラと揺れる艶やかな金髪。

宝石の様に美しいながらも強い輝きを宿した青い瞳。

ビスクドールの様に綺麗な白い肌は、艶かしい朱色を薄化粧の様に纏う。

見惚れない訳が無い。

美幼女(てんし)が居れば。



「操、御挨拶なさい

貴女の“お兄さん”よ」



──ほわっつっ!?。

惚けていた俺の脳味噌へとダイレクト・アタックしてライフを削ってくる一撃に混乱以上の衝撃を受ける。

下手をすれば気絶物だ。


そして、それは俺だけの話ではなかったらしく視線を交えた美幼女も同じ様に、驚愕を露にしていた。




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