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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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40話 水の様には止まらず


平穏で、賑やかで、少々淫らな時も有るけれども。

充実した日々を過ごして居りますれば。

不満など、基本的には有りますまいて。

衣食住が確かで、仕事も順調で、恋愛も絶好調。

これ以上何を望むのかと訊かれたなら、返す答えは「そろそろ、身を固めて子供を作ろうかな」と。

そんな感じに為ってしまう位に、現状で十分です。


まあ、それは飽く迄も俺の個人的な主観の話で。

現実的には目標への途中所か、歩み始めたばかり。

まだまだ先が見えない位に、其処は果て無く遠い。



「────は?、白蓮の名代?、俺が?」


「ああ、お前に頼みたい

──と言うか、「将来的な事を考えて少しずつ表に立っていかないといけないから宜しく頼むな」って私に言ったのは、お前だろ…」


「あー……うん、言ったな、そんな事も…」


「……忘れてたのかよ…」


「いや~、最近の二人きりの時の白蓮が可愛くて、ついつい他の事が疎かに──」


「──しょしょっ、そんな事を言うな!、馬鹿っ!

だだ、大体、私がかわっ、可愛い訳が…」


「……ったく、仕方が無いな、白蓮は…」


「…ぅ……わ、悪かったな、私はどうせ──って、おい、何してるんだ?、え?、ちょっ!?」


「言っても解らない、伝わらないって有るよな…

だからさ、身体に教え込む訳よ、しっかりとな」


「………………じょ、冗談だよな?、だってほら、ま、まだ、昼にもなってないんだしな?」


「ああ、だから、時間は、たっぷりと有るよ

さあ、しっかりと伝えるから、感じてくれ、白蓮」


「意味が違っ──んうっ!?、んんっ!、ぢゅまっ、待って、頼みゅァンッ!?」






「────で、何の話だったっけ?」


「……私の名代として、隣の領主に会いに行けって話だよっ!、この馬鹿っ!、鬼畜っ!、絶倫っ!」


「ああ、うん、そうだった、そうだった…」



乱れに乱れた──と言うか、単なる布切れみたいに感じてしまう程に本来の用途から外れた衣服を直し本気だけど力は入っていない“ポカポカパンチ”を繰り出してくる白蓮。

本当、照れてる姿も可愛いんだから、もぉ~。

あと、何気に成長が有るらしくて嬉しそうだ。

あ、俺は大きさで差別はしませんから。

流石に硬いのは嫌ですけどね。

それと馬鹿と鬼畜に関しては否めません。

ただ、絶倫は罵倒ではなく、誉め言葉だな。

ええ、我ながら、気合い十分でしたとも。


ただまあ、まだ白蓮は鍛練は一緒に始めたばかり。

愛紗の様に本気で、力も込めてくる事は無い。

……いやまあ、大体は俺が悪いんですけどね。

調子に乗り過ぎて、振り切っちゃうんで。

ハッスル!、フルスロットル!、てへペロッス。


まあ、それは兎も角として。

白蓮からの名代の話だな。

うん、確かに、そんな話をした記憶が有るな。

嫁関係の問題点の解決策が見えたし、遣りたい盛りという事も有って猿化していたけどさ。

将来的な事を真面目に考えていた時に言ったな。

白蓮の後任に指名されて引き継ぎ白蓮達を嫁にしてイチャラヴしてられればOKな人生とは行かない。

色々と背負うと約束しているからな。

その辺りは、しっかり考えている、一応は。



「その隣の領主っていうと?」


「……逎県の李彦だ」


「あー…成る程、会いたくないよな、それは…」


「ああ、正直、会った時に自制出来る気がしない」



そう言い切る白蓮の眼は剣呑(マジ)だった。

本人も“殺るかもしれない”という危惧と自覚から俺を名代として選んだんだろうな。

勿論、将来的な理由も含めて、なんだろうけど。


──で、何故、そこまで白蓮が怒り心頭なのか。

逎県は、此処──啄県の東側に位置する訳で。

先の賊徒共の流入元で、流琉・季衣の故郷の有る地だったりする訳ですよ。

ええ、つまりは色々と溜まってる訳でして。

出会い頭に拳を顔面に減り込ませる程度の事をする自信は有るみたいです。

色気の無い寝物語に愚痴ってましたからね。



「そういう事なら仕方無いか…

判った、名代を引き受けるよ」


「…済まないな、助かるよ」


「気にするな、他ならぬ愛する妻の頼みだ」


「っ!?、お、お前は~っ…」



いや~、この反応が初々しくて可愛いんだよね~。

華琳達も可愛いんだけど一緒に居る時間が長いから距離感が近過ぎて、こういう反応は少ない。

勿論、御互いに遠慮しなくてもいい信頼関係の上で成り立ってる事だから特別なんだけど。

やっぱり、こういう甘酸っぱさも欲しい訳です。

極甘(スイーツ)は大好きなんですけどね。


──とか考えながら、少々白蓮とイチャついて。

話は名代の件に戻る。

当然ですが、仕事は真面目に遣りますよ。



「引き受けはするが、俺が名代を務める事に異論を挟んでくる奴も居るだろ?

其方は、どうするつもりなんだ?」


「…あー…やっぱり、お前は気付いてるよな…」



俺の質問に溜め息を吐く白蓮。

まあ、そういう連中が居る事に気付かないのって、劉備みたいな天然・御人好し・超前向きの三拍子が揃ってる人物に限られると思う。

如何に世間知らずだったとしても、施政に携われば嫌でも知る事になるだろう。

その時、普通の感性の持ち主なら、気付く。

それでも気付かないのが、劉備みたいな者だ。

…まあ、呉ルートの劉備はキレ者感が少し有るから他とは違って見えるんだけどな。

そういった成長も外史の可能性なんだとは思う。


──で、白蓮が溜め息を吐いている理由だけど。

要は、家臣団の中の“膿出し”を考えているから。

今までの白蓮になら、一応は必要だった人物でも、俺にとっては不要な場合は高い。

──と言うか、俺達の方では既に家臣団の評価査定(リストアップ)は終了済みだったりする。

だから、白蓮に訊かれたなら直ぐに名指しする事も可能だったりする訳だけど。

俺の方からは言いはしない。

言い方は責任逃れみたいにも聞こえるだろうけど、そういった事も含めて統治者の責務だからだ。

勿論、妻の安全は保証します。

手出しなど、させる訳が御座いませぬ。



「……まあ、改めて見直してみるたらさ、結局私は

“色々見えてない振りをしていたんだなぁ…”って事実に気付いてさぁ…

自分が恥ずかしいし、赦せなくもなるんだ…」


「けど、そういう清濁合わせ飲む事も必要だろ?」


「ああ、勿論解ってるよ

世の中、特に政治は綺麗事だけじゃ成立しない

ある意味、一番“汚ない事”を遣る職業だからな

判り易い賊徒の方が可愛く見えてくるよ…」


「まあ、それが政治家って者だろうからな…」



世間体──公的には自ら清廉潔白・聖人君子を謳い掲げながらも、裏では国益・国民の為に手を汚す。

まあ、担ぎ易い御飾りの御輿(トップ)なら、理想主義者でも全然構わないんだけどさ。

本気で舵取りをするなら、その覚悟は必要不可欠。

例え、そういった事が露見して免職や刑罰に処され政治から追われたとしても。

「全ては国の為、民の為」と言い切り、受け入れる覚悟が政治家には必要だと思う。


だから、自分の為に政治に携わる様な輩は俺の下に必要とはしないし、置きもしない。

どんなに素晴らしい経歴を持っていようとも。

俺の求める、政治家としての覚悟と誇りを持たない輩は施政には携わる事を許さない。

そんな輩こそが国を、民を蝕む寄生虫(害悪)だからだ。



「お前が名代として留守にしている間に片付ける

まあ、いきなり全員は無理だから酷い奴からだが…

それを見て改心の可能性が有る奴には最後の機会を与えてやるつもりだよ

…甘いかもしれないけどな」


「そうだな、確かに甘い考えだとは思う」


「……本当、はっきり言うよな、お前は…」



「甘い」と一刀両断して遣れば苦笑する白蓮。

だが、以前の彼女とは違い、凹む事は無かった。

一人で背負い続けていた荷を共に背負う者が居る。

言葉にすれば、たったそれだけの変化だが。

それが本当に大きな事なんだと、俺も知っている。

だからこそ、強くなりたい、護りたいと。

尚更に強く思い、自らを更なる高みへと至らす為の努力を怠らず、貪欲に追求する様になる。


そんな白蓮の成長を嬉しく思いながら、しかし一切顔には出さない様に気を付ける。

こういう事は下手に見えると逆効果だからな。



「──ただ、それでいい事も確かだ

どんなに当事者が極悪人だったとしても、基本的に妻子、家族・親族は同じではない

勿論、無関係ではないが、当事者程に厳しい処罰を受ける理由にはならない

そういう意味では、白蓮の様に改心の機会を与えるという事は間違いじゃない

家族・親族が要らぬ不遇を被ったり、生活苦に陥るという事態は誰も望まないしな

以前と全く同じままでは居させられないが、事後の補助・支援は欠かさない様にするべきだ

施政者()は書面上・処分上が片付けば気にしない事が多いが、本当に気にするべきは後の事だ

別に永続的な事を遣れと言ってる訳じゃない

一定期間、家族・親族が生活基盤が出来るまでの間継続し、経過監察する事が大事からな」



そう、肯定の意思を見せて遣ると白蓮は茫然とし、理解した途端に顔を赤くする。

誉められ慣れていないから、本当に可愛い反応だ。

だからと言って、美辞麗句に靡く女でもない。

其処が彼女の芯の強さで、魅力の一つだと思う。


まあ、だからって甘やかす気は無いけどな。

落として、上げて、また落として、引き締める。

麺の湯切り、絞め方と同じ様に。

その加減が物を言うのだから。



「だからと言って、誰にでも同じにしたら駄目だ

きちんと相手を知り、見極めて対処しないとな

遣ってる事は似ていても経緯や人間性は違うんだ

その辺りを一括して裁いてしまうのは間違いだ

各々の立場等も考慮した裁定が重要だからな

しかし、過去の功績等を見て罰を緩める様な真似は逆に絶対に遣っては駄目な事だ

それはそれ、これはこれだ

過去の功績等には、過去に評価し報酬等を出して、既に終わっている事だからな

その辺りは間違えるなよ?」


「………っ…ああ、勿論だ、解ってるよ」


「…まあ、白蓮なら大丈夫だとは思ってるよ

それで、同行者とかは?

こう言うのも何だが、俺は田舎者だからな?

基本的な礼節なんかは兎も角としても、そういった場合の形式や風習みたいなのは知らないからな

気にしないでいいなら、それが一番なんだけど…」


「あー…其処はまあ、な?

私としても、彼奴に好き勝手言われるのは嫌だし、それを、お前の所為にされるのは、もっと嫌だ

だから、面倒臭いだろうけど、其処は頼む」


「ああ、判ってるって」



そう言って白蓮と話を進めて行く。

真面目な彼女が「面倒臭い」と言っただけあって、本当に色々と下らない点が多かった。

「あ゛あ゛ぁーっ!、そんな事一々気にすんな!、尻の穴が小せぇんだよっ!」と叫びたくなった。

いや本当に、マジで面倒臭いんですけど。

出来れば、名代の付き添いに代わりたい。

…今なら、まだ間に合うよね?、…え?、無理?、諦めろ?、……そうですか。

──という感じで、話は進んで行った。


終わった後、疲れた俺は白蓮に癒して貰った。

…ん?、「どう遣ってだ?」って?。

フフンッ、それは二人だけの秘密さ。


そんなこんなで急遽決まった出張。

華琳達に報せるが、特に驚かれもしなかった。

世の中の単身赴任の男性諸君の気持ちが、本の少し垣間見えた様な気がします。

──と言うか、“自分達も一緒だから”と勘違いをしている様な気がしたので、言ってみた。

華琳と恋の反応は予想通りに、あわあわでしたが、愛紗が「…………ぇ?」と急に泣き出し掛けた。

流石にビビりましたよ。

その後、華琳達の目の前で愛紗を抱き締め、説明し安心するまで逃げられなかった為に、俺の精神力(マインド・ゲージ)はガリガリと削られましたとさ。


しかし、そんな一方で楽しみでもある。

今までの直接交渉ではなく、代理交渉。

違う事を経験するというのは自分の成長の糧を得る絶好の機会だと言える。

刺激的な毎日は嫌だが、成長の為の刺激は大歓迎。

面倒臭い事が起きないなら尚更なんだけど。

……あっ、あ~……これもフラグかなぁ…。





 other side──


人々が、街が、世界が寝静まる闇夜。

全てを飲み込んでしまいそうな黒天。

淡い月の光の下、自分の右手を静かに見詰める。


“誇り”とは一体何なのだろうか。


昔の、子供だった自分なら「正しきを成す事!」と迷い無く、躊躇無く答えただろう。

しかし、今の私には、そう答える事は出来無い。

見詰める掌は穢れ、醜い鬼の手の様に思える。

勿論、見た目には普通の人間の手なのだが。

血を啜り、赫く濁り染まり、腫れている様な。

そんな気がしてしまう位に。

私は今の自分が嫌だと言える。


しかし、それを口にする事は出来無い。

口にしても意味は無い。

誰が助けてくれる訳でもないし、出来る訳が無い。

ただ、自分の今の立場を、状況を悪くするだけ。

何の救いも、可能性も無い。


それでも、自分一人の事だけであれば気にしない。

「貴様の事が気に食わない」と本音を突き付けて、此方から別れを告げてやる。

自分を曲げてまで諂う様な真似はしない。

何しろ、子供の頃から、そういう輩が一番嫌いで、一番赦せなくて、一番腹が立つから。

「私は絶対に、そうは成らない!、そうなる位なら潔く死んだ方が増しだっ!」と言っていた位だ。

だから、本当に嫌悪感しかなかった。


だが、現実には、そうはいかない。

どんなに立派な事を口にしようとも。

生きていく為には金が必要だ。

その金を稼ぐには仕事をするしかない。

大多数の女の様に、男に色目を使い、媚び、身体を開いて差し出せば“甘い汁”を吸えるのだろう。

最悪、私も、そうしなければならないのなら。

自害したい程の屈辱だとしても、堪え難いとしても受け入れるしかないのなら、そうするだろう。

それしかない状況であれば、の話だがな。


幸いにも、私には他の術が有った。

「男みたいだ」「男女」「女の姿をした男」等々、色々と言われてきた。

それ程に男勝りで──武には自信が有る。

幼い頃から研鑽を積み重ねる己が剣技こそが。

今の私の縋る、唯一の術。

それを活かせぬなら……身を売るしか術は無い。

嫁入りが出来る様な器量良しではないからな。


だから、好き嫌いして選り好みは出来無い。

どんな仕事だろうが、深くは考えない様にする。

ただ、仕事を成し遂げるだけ。

その為に剣を振り、そうして金を稼ぐ。



「……そうだ、私が護るんだっ…」



そう呟き、見詰めていた右手を握り締める。

それは背負う事の再確認なのか。

自分を誤魔化す為の言い訳なのか。

或いは、狗に成り下がった現実からの逃避なのか。


照らしていた筈の月は鉛雲に顔を隠す。

湿った、独特の匂いが鼻腔を擽る。

もう直ぐ空が泣き出すのだろう。

その時ならば──濡れるのも有りかもしれない。



──side out



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