39話 大発明。
一般的に、欺く言葉・発言の事を、“嘘”と言う。
しかし、嘘が必ずしも悪意有る事とは限らない。
例えば、時代の時々に流行るサプライズ行為。
相手を、或いは複数の対象者を驚かせ喜ばせる為に秘密にしたり、騙したりする事も含まれる。
これらを単体で切り取ったなら酷いと思うだろう。
しかし、物事の経緯を始端から終端まで知ったなら不快感・嫌悪感等の感情を懐くだろうか?。
そう、先ず有り得ない事だろう。
この事から解る様に、嘘を悪とするのは基本的には結果論としてだという事。
その結果が良い事であれば嘘を悪とはしない。
寧ろ、感動・歓喜を増幅させる為の必要なプロセスだとさえ言っても可笑しくはない。
また、嘘を一つの手段・手法等として捉えたなら、駆け引き・仕掛け・話術等と言い換える事も出来る事から考えても必ずしも悪ではないだろう。
要は、嘘は嘘単体では善悪は無い行為だと言う事も出来るという事。
その善悪の判断は結果を伴って初めて行われる。
「──御兄様なんて、き、きき、きら、きらぁ……
……ぅうっ……無理ですっ!
私には嘘でも言えませんっ!」
「それでは練習に成りません、ほら、華琳っ」
「…ぐすっ……あ、愛紗の鬼ぃっ…」
「鬼で結構です、ほら、さあっ、さあさあっ!」
──と、華琳の肩を掴み、迫る愛紗。
端から見ていると涙目の華琳が可愛かとです。
嫌々と頭を振って拒む姿は保護欲が猛りまする。
愛紗は教育ママ──いや、女家庭教師に見える。
それも超エリートで超スパルタで超結果主義の。
時代によって違うんだろうけど、俺的には眼鏡だ。
愛紗に眼鏡を装備させたい。
出来れば、OLさん風のスーツ姿で。
女子大生風も悪くはないんだけどね。
個人的には、それは梨芹に着せてみたい。
親が雇った人が、久し振りに会った幼馴染みの隣のお姉さんだったみたいな感じで。
………………はっ!?、ゴフンッゲフンッ……さて、一体二人が何をしているのか。
華琳に「御兄様なんて嫌いです!」と言わせる。
ただそれだけの簡単なミッションな筈なのに。
超を遥かに凌ぐ神ブラコンな我が妹。
単なる言葉だったとしても言えないそうです。
あっ、俺が居るからって訳じゃないですよ?。
愛紗と二人だけでも、無理だったんです。
筋金所か、オリハルコンの芯が入ってます。
それで、二人に報告と相談を受けて、直に見ていた──というのが現状なんですね。
いや、本当にねぇ~……どうしてこう成ったかな。
育て方は間違ってなかった筈なんだけどなぁ~…。
ああ、因みに、その台詞を華琳に言われても一応は心の準備が出来てはいますよ。
だから、ダメージは最小限に留められる筈……多分
……きっと……恐らくは……だったらいいなぁ…。
「忍、恋も無理みたいです」
「…………兄ぃぃ……」
振り向いた先には梨芹の傍で涙目になった恋。
俺を見た瞬間に小走りに寄って来る。
そんな、カメハメハ──いや、独りぼっちな仔猫が寂しがってるみたいに言わないの。
反射的に抱き締めて撫でてしまうでしょうが。
「……兄ぃ~…」と嬉しそうに頬擦りもしない。
甘々に甘やかしてしまうでしょうが。
それを遣って愛紗達に怒られるのは俺だからね?。
解ってる?、ねえ、解ってるかな、恋さんや?。
それから、華琳、「恋ばっかり狡いです!」なんて言ってると義姉の鉄拳が──
「──ふみぃっ!?」
──ああ、ほら、降り下ろされた。
アレは、痛いんだよな、愛が籠ってるから。
頭を押さえて踞る華琳を見ながら溜め息を吐き俺を睨んでくる愛紗。
うん、判ってるよ、早く三人目を作ろうね。
「忍、捩り切り、もぎ削ぎ、握り潰しますよ?」
「アハハハ……これは困ったなぁ~…」
冷や汗を流しながら誤魔化す。
何ですか、その万漢全殺は。
縮み上がって、不能に為りそうなんですが?。
その癖、瞳の奥で俺にだけは「もぅ…馬鹿な事を…そ、そういう事は二人きりの時にですねっ…」と、デレてくれているという凄業。
くっ…今直ぐに押し倒したくなるではないかっ!。
……関羽、何とも恐ろしい女よ…。
──とまあ、そんな事言ってられないか、流石に。
抑、何故、そんな事を遣っているのか。
それは白蓮と三日連続で夜を過ごした後の事。
華琳達と一日ずつデートして御機嫌を回復してから白蓮に改めて華琳達を紹介した時だった。
「……なあ、忍?、私や他は大丈夫そうなんだけど──その二人、演技出来るのか?」と白蓮が華琳と恋を見て言った事に始まる。
白蓮の言う演技とは総合的な意味ではない。
「必要なら、俺に反意を懐く振り等が出来るのか」といった意味だったりする。
まあ、恋に関しては最初から演技の期待はしてないから問題外だったんだけど。
遣ってみたのは単に序ででしかない。
出来無くても構いません、恋だから。
ただ、華琳に関しては話は違ってくる。
“皆、正室にしちゃえ大作戦”の要と言える華琳。
はっきり言って、現状では一番替えが利かない。
──と言うか、華琳だけは替えが居ない。
他の皆は、原作的に言えば替えが居るからだ。
勿論、現実的・存在的な意味ではない。
能力・ポジション的な意味でだ。
その華琳が、原作なら何の問題も無く完璧に熟し、予想を上回ってくるだろう所なのに──出来無い。
まさかまさかの、深き愛故の駄目駄目っぷり。
いや、本当にマジで、どうしたものかねぇ~…。
取り敢えず、近付いて瘤が出来無い様に氣で患部を癒して遣りながら頭を撫でて慰めてやる。
「そう遣って貴男が甘やかすから…」と言いた気に白い目で睨んでくる愛紗。
声に出した会話だったら完全に夫婦だよね。
我が儘な長女を甘やかす父親と躾をしたい母親。
うん、何て想像し易い家庭の一幕なんでしょう。
俺、子供を甘やかしそうだから気を付けよう。
「あ~……そうだな、よし、華琳
こういう時は色々と想像してみよう」
「…………想像、ですか?」
恋に負けじと俺の胸で顔を、こしこしさせていたが話し掛けると名残惜しそうに止めて顔を上げる。
「……勝った…」と言いた気に恋は得意気に笑って抱き付いてくる。
嬉しいし、可愛いけど、今は自重して下さい。
大事な──大事か?……うん、大事だな、大事だ。
その真っ最中だから、御願いします。
「例えば……そう、俺が美女・美少女を侍らせて、酒池肉林に溺れてしまっていたら──嫌だろ?」
「いえ、寧ろ、御兄様の血を多く残し、世に広める為には必要な事でしょう
取り敢えず、三百人程、私が見繕いますので──」
「うん、今のは無しだ
だから直ぐに想像を止めなさいっ!
実行に移そうとしないのっ!」
ある意味では一番簡単そうな打開策だったが。
暴走し始める本気の華琳を止めるのに一悶着。
我が妹の兄至上思想を舐めていました。
これは、演技でも不可能な気がしてならない。
あのツンデレ覇王様が何故に──って、そうか!。
その方法が有ったではないかっ!。
エロ・萌え業界の大発明がっ!!。
「愛紗、ちょっと………恋、梨芹の所にな?」
恋を梨芹に引き渡し、愛紗を連れて距離を取る。
あと、氣で盗聴されない様に視線で釘を刺して。
ネタバレしてしまったら意味が無い。
不可能とは言わないが、知らない方が効果抜群だと個人的には思っていたい。
離れる事を訝しみながらも素直に付いて来る愛紗。
この辺りは、何だかんだで長年の信頼だと思う。
「何か方法が有りますか?
正直、私には不可能としか思えませんが…」
「一つだけ、可能性は有る」
「……本当ですか?」
「ああ、だが、口で華琳に説明するのは難しい…
いや、口で言っても恐らくは理解出来無いだろう
目の当たりにするか、実体験が伴わない事にはな」
「…………一体、どんな方法なんですか?」
「それはだな……」
訊く事を躊躇いながらも、訊かないと始まらないと感じて、諦めて訊く愛紗。
フフッ…魔王からは逃げられないのだよ。
──いや、違う違う、そうじゃない、そうだけど。
気を取り直して愛紗に耳打ちをする。
愛紗の真剣な表情が、眉根を顰め、顔を赤く染めて──羞恥に堪え切れずに涙目になり俺を睨む。
多分、俺には一生理解出来無い感覚だと思う。
何故なら、俺は要求されても断固拒否するから!。
──え?、「お前、それは酷くね?」と?。
いやいや、これも可愛い妹の為なんです。
ですから、私は心を色魔──いえ、鬼にして。
愛紗に協力を求めている訳です。
「……愛紗、お前にしか頼めないんだ」
「~~~~~~~~っ…………………判りました…
これも華琳の為です……華琳の為ですかね?」
「ああ、華琳の為だ、一緒に頑張ろうな、愛紗」
諦念に溜め息を吐く愛紗に笑顔を向ける。
フッフッフッ……安心するがいい、愛紗よ。
我は愛紗の事を正しく理解しておるからな。
その建前の奥では妖しく揺れている淫艶な誘炎。
言葉や態度とは真逆に期待を孕んで燃え盛る媚熱。
深い淵へと沈んでゆくかの様に尽き果てぬ貪欲。
それらを満たし鎮める為も必要な事だからな。
うんうん、頑張らないとね~。
いや~、役得役得──じゃない、大変大変。
本当、困ったもんだよなぁ~、あはははっ。
──という事が有って、数日後。
俺は街から離れた山中に居た。
「待ちなさいっ、忍っ!
私の努力と覚悟は何だったんですかっ?!」
「いや~、まあ、仕方が無いって、愛紗
俺は“可能性”の話をしたんであって、絶対だとは一言も言ってないだろ?
結果は伴わなかったが、無駄な訳じゃない
華琳には意味が無いって解ったんだからな」
「そういう事じゃ有りませんっ!
私はっ、私はですねっ!」
感情に任せて叫びたい所を理性が押し止める。
幾ら人の居ない山中でも、万が一は有り得る。
それを懸念して、愛紗は躊躇してしまった。
それにより、視線が、意識が、俺から逸れた。
主に羞恥心に因り激昂している愛紗の僅かな隙。
それを見逃さずに逃走から一転、180°回転して、愛紗へと一瞬で肉薄する。
愛紗が追って来ていた訳だし、冷静でもないから、反応する事は不可能です。
ええ、確信犯ですが、何か?。
肉薄した愛紗を抱き締め、抱え上げる。
所謂、お姫様抱っこです。
「──なっ!?、忍っ?!、何を──ァんっ!?」
「──でも、愛紗の知らない一面が見れたから俺は嬉しいんだけどな、愛紗は嫌だったか?
嫌だったのなら──もう二度としないよ?」
「────っ!?、そ、それは──っ、~~~~っ」
反射的に出た言葉は紛れもない愛紗の本音だ。
勿論、羞恥心も、先程までの怒声も本音。
それでも、全てという訳ではない。
俺と愛紗にしか解らない部分が、確かに有る。
「だから、確かめてみよう」
「ちょっ!?、それはァっ!、まっ、待って忍っ!、今日のは違っ、んぅんーっ!」
「俺は有りの侭の愛紗が知りたいんだ」
「ァあっ、ず、狡イッ、忍はア、本っ、当にィっ」
口では反論していても、愛紗の行動は真逆。
積極的に俺を求めて始めている。
羞恥心に起因する憤炎は、情欲により鎮火する。
二人きりという事も有り、愛紗も甘え始める。
まあ、此処で「よし、このまま誤魔化し切るぞ!」みたいな事を考えては為らない。
それは自爆フラグだからだ。
だから、今は愛紗だけを見て、考えて、貪る。
余計な思考や計算は含ませては為らない。
何故なら、“女の勘”程恐ろしい物は無いからだ。
こうして、俺は一種の修羅場を潜り抜けた。
まあ、結局、華琳には例の演技は不可能だったが。
それはそれ、向き不向きは誰にだってある。
気にしても仕方が無い以上、切り替えてしまう。
──尚、事の発端となった白蓮には、愛紗と同様に恥辱に染まる思い出をサプライズでプレゼント。
ええ、とっても悦んでくれました。
いや~、我ながら良い仕事しましたよ、本当に。
──だから、もう足を崩しても……あ、はい。
駄目ですよね、はい。
とある義妹の
義兄観察日記
Vol.13
曹操side──
▲月■日。
御兄様が公孫賛──白蓮を抱いて、漸く五人。
しかし、まだまだ足りない。
ただ、恋や流琉達は時期尚早でしょう。
真桜は……まだ微妙な所よね。
今、一番六人目に近いのは咲夜ね。
彼女には早く素直に為って貰いたいものだわ。
それは兎も角、白蓮に指摘された私の意外な弱点。
いえ、弱点ではないのだけれど。
ええそうよね、これは崇高な愛故の苦悩であって、決して私の弱点ではないわ。
…………まあ、惚れた弱味なのは確かだけれど。
要は、私は御兄様の事をゑξゐ……成る程ね。
どうやら、書く事も無理みたいだわ。
それだけ、私の御兄様への愛は深いという証拠。
だから、気にする必要は無いわ。
──とは言うものの、本当は強がりでもある。
何故なら、ある意味では私は御兄様の足枷も同然。
その事実を前に凹まない訳が無いわよ。
そんな事が発覚した数日後、御兄様と愛紗、二人に街から離れた山中に連れて行かれる。
何でも秘密の特訓方法を教えてくれるのだとか。
その話を聞き、期待に胸が高鳴った。
着いた先は簡素な山小屋。
木材だけで造られている事、加工技術の精度等から御兄様の御手製だと判る。
暇な時には“日曜大工”をされていますからね。
流石は御兄様です、世の中の大工達に見倣わせたい素晴らしい腕前です。
──なんて、考えていた過去が懐かしいわ。
私は簡単な説明を受けた後、実演を見学する事に。
そう──御兄様と愛紗の愛の営みを。
普段の愛紗からは想像出来無い言動に、少なからず衝撃を受けてしまったけれど、気付けば無言のまま見入っている自分が其処に居た。
交ざりたい衝動と愛紗への嫉妬に必死に堪えながら何とか理解して、御兄様との実践へ。
「…どうだ、華琳?」
「……べ、別に?、ナ、何とも無い、です…」
「何とも、か……なら、コレは何だろうな?」
「ィァッ…た、単なる、汗に過ぎませェンッ…
だ、だから、早くゥ、ャッ、止めて、下さい…」
「こうされるの、華琳は嫌なのか?」
「そ、それは……ァあっ、ォ、御兄様ァっ…」
御兄様の攻めに必死に耐えながら、普段とは真逆の言動を意識して臨む。
愛紗の姿を見ていた時から感じてはいたのだけれど抑圧された感情と欲求が自分の裡で蓄積してゆく。
いや、蓄積では生温い表現でしょう。
膨張し、爆発するかの様に急激に高まってゆく。
そして──その反転の瞬間。
普段の、素直な自分に戻った途端に呑み込まれる。
我慢に我慢し、堪えに堪えた分だけ、返ってくる。
普段からは無理でしょうけど、偶になら有りです。
冷甘、とても奥が深いです。
だから…ね?、御兄様、もっと御願いします。
私を愛して、思う存分に貪って下さい。
──side out。