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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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36話 変化は日常の中に


前世では毎日の様に流れる様々な出来事(ニュース)

その一つ一つを詳細に記憶してなどいない。

それは大半が他人事であり「自分なら大丈夫だろう」という根拠の無い自信から危機感を懐かない為。

環境破壊や大規模な開発、果ては太陽系の軌道周期等意味不明な理由まで絡んで温暖化を訴えているのに。

前世の世界は変わらない。

それだけ、人々の危機感は鈍くなっている証拠。

人類存亡の危機だろう。


まあ、そんな事は今の俺に無関係なんだけどさ。

どうして、そんな下らない事を考えているのか。

“訴訟社会”という言葉が蔓延し始め、人々が自分の事ばかりを考え始めている前世の中で、個人的に最も嫌悪感が強かった出来事は裁判──特に冤罪のだ。

昔から“火の無い所に煙は立たない”という諺が有る様に疑惑というのは物証の前に状況証拠が強く印象に残り易い事も有り、往々に“決め付け”が起きる。

刑事物・推理物等のドラマ等では“御約束”みたいに必ず居る「此奴が怪しい、絶対此奴が犯人だ」という何も知ろうとしないで直ぐ身勝手な価値観の正義感で無辜の人を犯人扱いして、謝罪の一つもしない人間の屑代表みたいな登場人物。

アレを見て、何故、人々は感じないのだろうか。

“他人の評価”ではなく、“自分の評価”を信じれば良いだけの話なのに。

何故、無責任な評価ばかり鵜呑みにするのだろう。

俺は集団心理・社会社会の盲点であり怖さだと思う。

きっと、貴方も知らぬ間に誤った認識を植え付けられ操られていますよ?。

でも、大丈夫。

まだ間に合いますから。

目を覚ましましょう。

私が貴方を導きます。

さあ、手を握って。



「──痛い痛い痛いっ!?

華琳?!、折れるってっ?!」



帰宅直後、出迎えてくれた愛妹(華琳)に右腕を取られ──水が流れる様な見事な動きにより関節を極められ壁に押し付けられる。

まるで、セールマンを装い家の中に入った強姦魔が、柔道・空手等を嗜む奥様に返り討ちにされたみたいな構図で、です。

いや、俺は違いますよ?。

そんな事した事無いんで。

飽く迄も想像の話です。

……そういうシチュプレイには興味は有りますが。

犯罪は駄目ですからね。



「──ってぇ!?、ちょっ、何処に手を──くっ、ま、待て華琳っ!、其処はっ、此処では──」


「……未遂、ですか?」


「────────ェ?」



ビクッ!、と身体が思わず反応してしまうのは仕方の無い事だと思うんです。

自分より小柄な愛妹に拘束されながら、繊細で綺麗な掌で無遠慮に探り掴まれ、何かを悟られてしまう。

そんな経験してみなさい。

嘘が吐けない主人公の様に判り易く、大量の冷や汗が吹き出してきますから。




「な、何がかな?」なんて惚けたいが、嘘を吐いても見破られるだろう。

華琳だけではなく愛紗でも同じ様にバレると思うが。

今は関係無い事だ。

今は、この状況の把握から入らなくては。



「…御兄様が、彼女を──公孫賛を好かれている事は私も理解しています

人としてだけではなくて…女として、です」



──ォゥ、バレテーラ。

アレか?、移り香とか?。

確かに時代的に体臭を香で誤魔化すみたいだけど。

あ、宅は違うからね?。

香は香で使うけど、かなり薄めて使用してます。

嗅覚が馬鹿に為りそうな程臭わせたりしません。

元々、俺は嫌いだったし、母さんも好まなかったから宅は自然と使用しない方に慣れてしまったので。

その分、嗅覚は鋭い。

…やはり、白蓮の香か?。

でも、白蓮も使わない派で今日も付けてなかった様な気がしたんですが?。

──あっ、白蓮とは真名の交換はしましたから。

宅だと今は俺だけだから、其処は気を付けないとな。



「香ではなく彼女の匂いが御兄様からします」



つい「お前は犬かっ?!」と叫びたくなった。

いや、仔犬みたいに可愛いという意味でなら、決して間違いとは言えないが。

──と言うか、華琳に判るという事だと、恋に絶対に判るって事だよな。

野生化していただけ有って五感は凄い優秀だから。

いやいや、そうじゃない。

そういう問題じゃない。

いや、それはそれで確かに問題ではあるんだが。

出迎えてからのハグなんて毎日遣ってましたよね?。

何で今日に限って?。

…まさか、引っ掛けか?。

その可能性も有り得るな。

今ならまだ誤魔化せる様な気がしないでもない。

よし、トライだ。



「…いや、会ってたんだし移ってても可笑しくないと思うんだけどな?」


「普通ならそうですね

ですが、御兄様、首筋には抱き合わなくては移り香が残る事は有りません」


「……仰有る通りです」



至極正面な指摘に屈する。

下手な反論は、自分の首を更に絞めるだけだろう。

──と言うか、妹よ?。

ハグしただけで、白蓮だと断定出来るのか?。

それはそれで凄いな。

そして、それが本当ならば気になる事が一つ。

お前は何故、個人的接点の薄い筈の白蓮の匂いを知り覚えているんだ?。

単純に俺が白蓮の事を好きだから“知らない匂い”と結び付けた推測なのか。

或いは……いや、これ以上考えるのは止めよう。

精神衛生上、拙いから。




解放して貰えたから華琳に向き直ったら、抱き付かれ唇を奪われる。

何故、こんなに宅の華琳は積極的なんだろうか。

いや、原作の曹操も積極的ではあったかもしれないが方向性が違う気がする。

そんな事を考えながらも、抵抗する事も無く、華琳を受け入れ、応えてやる。


「御兄様?、私の事を忘れ置いて行きませんよね?」と言うみたいに必死で。

甘えに甘え、求めてくる。

そんな姿に何も想わない事なんて有り得無い。


──とは言え、此処は家の中とは言え、入り口付近。

家族以外の者は居ないが、人通りは無くはない。



「まだ御帰りになられては──し、ししっししゅっ、失礼しましたっ!!」



俺が帰ったのではないのか確認しに顔を出した凪。

ばっちりと俺と目が合って状況を把握──多分だけど誤解した気がするけど──したら、顔を真っ赤にして逃げて行った。

足音が無かったのは素早いからではなく、俺の魔改造──ゴホンッ、英才教育の賜物でしょう。

素晴らしい抜き足です。


それは兎も角として。

そんな状況下でも、慌てず騒がず、じっくりたっぷり俺を味わって、俺に自分の匂いを付けるみたいに擦り寄せている華琳。

その堂々としている態度に俺も冷静になる。


凪が去って数分後。

満足したらしい華琳により漸く解放される。



「…どうする気だ?

ギクシャクしそうだぞ?」


「それなら簡単です

御兄様が凪を抱けば済む話ですから」


「いやいや、そんな簡単な話じゃないですからね?

それはまあ、凪も少し位は好意を持ってくれていると俺も思うけどさぁ…

それとこれとは別だから

ただまあ、家族として同じ家で一緒に暮らしていれば何時かは判る事だけど…

こういう形でだとなぁ…」


「御兄様?、御兄様は凪をどう思いますか?

抱きたいと思いますか?」


「率直過ぎです」


「──ぁぅっ!?」



あまりにもストレートで、思わず華琳にデコピン。

大して痛くもないだろうが態と痛がる振りをする。

「御兄様が口付けしてくれたら治りますから…」とか目を潤ませて強請る華琳。

何処で、そんな高等テクを身に付けてきたんですか。

こんなの、遣らない訳にはいかないでしょうが!。

「えへへぇ〜♪」と笑顔で言いそうな甘えっぷり。

実際に華琳が、そう言う訳無いんですけど。

雰囲気は、そんな感じ。

…くっ……こんなに可愛い妹に誰が育てた?!。

…母さん、貴女の遺伝子が華琳を魔性の女へと導いて育てているのですか?。

グッジョブです!。




それはそうとして。

俺は凪を追い掛ける。

いや、正確には探すだな。

家の中から姿を消したので街の中を探して回る。

自分で誉めておいて何だが気配や氣の隠蔽が、本当に上手くなったな。

本気で探さないと見付ける事が出来無いとは。

動揺しても無意識に出来る域まで届いたとは。

師として嬉しい限りだ。



「──だけどまあ、流石にまだ負けないけどな」


「──ぅふみゃあっ!?」



猫を捕まえるみたいにして首根っこを掴めば、凪から聞いた事が無い可愛らしい声が上がった。

……もう一回、聞きたい。

その強烈な衝動に、必死に抗って、堪える。

……ああ、でも、もう一回遣ってみようかな?。

…いや、駄目だ駄目だ。

………けど、次の機会って有るんだろうか?。

…いや、無いだろう。

萌えは一期一会。

例え、“ラッキースケベ”だろうと同じではない。

遣るなら今でしょ!。

──いやいやいや、違う、我慢だ我慢、煩悩退散!。



「凪、少し話そうか」


「…はい、判りました…」



了承を受けて、掴んでいた首根っこは解放する。

その代わりに、凪の左手を握って、繋ぐ。

「……やっぱり無理です、すみません!」とか言って逃げ出さない様に。

優しくも、しっかりと。


二人で街の外れに有る空地──正確には廃墟跡に行き周囲に今は誰も居ない事を確認してから口を開く。



「まあ、驚いたとは思う

俺が凪の立場だったなら、やっぱり逃げ出すだろう」



「どうぞ、ごゆっくり」はある程度経験を積んでいる猛者で無くては言えない。

それと同様にだ、「昨夜は御楽しみでしたね」も先ず未経験者には言い難い。

僻みと妬みと嫉みと恨みで胸一杯なら言える可能性は有るだろうが、「お前には判らないだろうけどな」と切り返されたりしたなら、致命傷に為り兼ねない。

そう考えると中々言えない台詞だと言える。

…うん、何が言いたいのか判らないよな、俺?。



「…その…ですね、えっと…華琳とは何時から?」


「山を発つ前からだな

それから、愛紗・梨芹とも同様の関係だ

…あと、事実上確定なのが伯珪もだな」


「…え?…あの…えっ?」


「伯珪の件は極秘でな

まだ俺達自身以外は華琳に看破されただけなんで」


「は、はい、それは勿論…

ですが…流石です」


「感心する所じゃない」


「あうっ!?」





ちょっとした遣り取りだが普段通りの雰囲気に変わり互いに緊張から出来ていた壁が消えた様に思う。



「…師匠ですから、本気で皆を愛されているのだとは理解しています」


「うん、本気なのは確かだ

でもな?、俺だからって?

それ、どういう事かな?、ん?、凪、説明しなさい」


「え?、あのっ、そのっ、し、師匠は、その、女性と軽々しくは、そういう事は為らない方ですから…」


「…凪、俺、教えたよな?

“男は基本的に狼で猿”、だから、気を付けろと」


「はい、ですから、私達は気を付けています」


「うん、なら、俺は?

俺も男なんですが?」


「師匠は例外です!

師匠は他の男とは違うので同じでは有りません!

それに師匠が、その、私に欲情して下さるのでしたら私は師匠に全てを──」


「うん、待とうか、凪

今、凄い事言ってるぞ?」


「──え?…………っ!?、〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」



全力ダッシュで逃げ出そうとした凪だが、残念。

始まったらボス(俺)からは逃げられないんだよ。


繋いだ手は、しっかりと。

君を離さず、捕らえてる。

だから、空いた腕を回して強引に君を抱き寄せる。

そして、そっと耳許へ。

君を想う、愛の囀ずりを。


──なんて、意味不明な、何故の詩を、ナルシストな俺が吟っているが、無視。



「…ぅうぅ〜〜っ…今の、忘れて貰えませんか?」


「忘れた方が良いのなら、努力はしてみるが?」


「…それ、は………でも、私は……その……すぅ〜……………………あのっ!、ずっと好きですっ!

私を、師匠の──忍さんの女にして下さいっ!」


「複数の女と関係している男でも良いのか?」


「貴男だからです

貴男じゃないと嫌です」


「……判った、それなら、今夜は俺の部屋に来い

華琳達には、俺から話して置くから」


「は、はいっ!」



嬉しそうに笑う凪。

それは構わない。

だが、何故こうなった?。

途中からの流れが自分でも理解出来ていないが。

…あまり深く考えない方が良いのかもしれないな。





 楽進side──


師匠が帰ってきたらしく、出迎えに行った華琳。

氣を使っていないのに何故察知出来るのか。

私は不思議でならない。

一度、華琳に訊いてみたら「そんな事は当たり前よ、ずっと私は御兄様と一緒に居るのだから」と断言され追及を諦めました。

ええ、意味が解りません。

尚、恋にも似た様な部分が有るので訊いてみましたが「…兄、優しい匂いがして直ぐに判る」という答えが返ってきました。

深く考えたら駄目なんだと私は一つ学びました。


そんな華琳が戻って来ない事が気になって向かえば…師匠と華琳が抱き合って、せ、せせ、接吻を!。

取り敢えず、逃げました。

しかし、家の中に居るのも落ち着かないので外に。

色々と衝撃が強過ぎたので整理しようと。

そうしたら師匠に見付かり手を握られました。

手を繋いだ事は有りますが「お前を離さないからな」とでも言う様な師匠の掌。

前に読んだ英雄譚みたいな展開に胸が高鳴ります。


それから、華琳“達”との関係を聞かされました。

正直、驚きました。

でも……それ以上に、私は羨ましく思いました。

だって、私はずっと師匠を御慕いしていますから。

命を救われた事も一因には挙げられますが、それより私の気持ちを汲んでくれた師匠の配慮が嬉しくて。

感謝・尊敬の念は、小さな恋の種を育みます。

…夢の中、胸の奥でだけ、望み続けていた事。

自分でも、ちょっと意味が判らない流れでしたけど、師匠に──忍さんに想いを告げて、受け入れられる。

幸せ過ぎて気を失った事は忘れたい様な忘れたくない複雑な思い出でしょう。



「ぁっ…ぅんっ、んくっ…ひぁっ、ゃっ…ぁぅんっ…じ、忍さ、ぁんっ…」



恥ずかしい程に全てを。

一緒に御風呂に入ったりもしていたのに。

こんなにも恥ずかしいとは思いもしなかった。

それなのに、嬉しい。

彼の肌が、指が、唇が。

触れる場所が熱くなる。

恥ずかしさから身悶えるが溢れる嬌声は彼を誘う様に艶かしくなる。

意識している訳ではなく。

寧ろ、意識は客観的に自分自身を見詰めている。

──が、それは最初だけ。

彼が自分を女として意識し求めてくれているのだと。

そう感じると、喜びが勝り自分からも彼を求める。



「んぢゅっ…づちゅっ…」



口付けも最初とは変わる。

触れ合い、重ねるだけから唇を割り開き、舌を入れて絡ませ合う。

同じ様に四肢を、心を。

深く、深く、絡ませ、繋げ一つに融けて。

私は女に生まれてきた事の歓喜を甘受する。

彼是考えていた事も消え、目の前の愛を貪る。

そのまま溺れてしまう事も幸福である様に。

ただただ、求めて。



──side out。



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