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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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    明日を求めて歩む



「はっきり言うんだな…」



自覚が有るからだろう。

伯珪は苦笑する。

だが、嫌がっているという雰囲気はしない。

寧ろ、そう言われて何処か楽に為った様にさえ思う。

まあ、彼女の性格的に見て抱え込んでいたんだろう。



「好きにしたらどうだ?

お前が私利私欲に走るなら正してくれるだろ」


「…まあ、そうだな

恵まれてるとは思うよ」



そう言うが、彼女の表情は晴れる事は無い。

「遣ってみればいいだろ」とは言っているが。

それが難しいという事を、俺だって理解している。

ただ、不可能ではない。

可能性が僅かでも有るなら遣る価値は、意味は有る。

そう俺は思っている。

…まあ、前世の自分からは想像し難い事だけどね。

熱血・正義・挑戦だなんて言葉は嘗ての俺の辞書には存在していなかった。

今の俺だから、言える事、出来る事だろうね。


しかし、彼女が好きな様に遣ってみたとしても結局は根本的な解決には至らないだろうとも思う。

それは、根が深いという事ではなくて。

抑の問題の意味が違う。



「…でも、私は“女”だ」



自分の右手を見詰めながら悔しそうに握り締める。

そう、それが最大の問題。

この世界では原作の価値観よりも史実に近い社会性が一般的だったりする。

つまり、男社会なんだ。

以前に、華琳達が、愛紗が言っていたのは自分達では“女だから”無理だという意味だった。

どんなに頑張ってみても、最大の壁が立ち塞がる。

勿論、原作の曹操だったら「女だから、何?、それが常識だと言うのなら、私が変えてあげるわ」だなんて言いそうだけどな。

…まあ、華琳の性格的にも遣る気になれば言いそうな気はするけどさ。

少なくとも、華琳も自分が立つよりは俺を担いだ方が可能性が高いと思うから、俺に託すんだろうな。

…はぁ…重い期待だよ。



「お前は女に生まれた事が嫌なのか?」


「…難しい質問だな

確かに男だったら、こんな悩みは無かっただろうけど別の悩みが有りそうだ」


「男だろうが女だろうが、悩みは尽きはしない

「あの頃は良かった」とか言う老人達にしても、孫の時代に生まれていたなら、或いは己が祖父母の時代に生まれていたなら…

自分に不都合が有るだけで同じ様に言うだけだ」


「…そうかもな」


「だから、結局は自分次第だって事なんだよ

自分で選び、自分で決める

それが全てだろ?

“後悔先に立たず”だが、予想通りの結末になるかは誰にも判らない

上手く行く場合も有れば、思考しても及ばない事態が起こる可能性だって十分に有り得る事だ

まあ、失敗する事が嫌なら“何もしない”のも一つの正解かもしれないけどな」





俺を意見を聞いて考え込み静かに視線を向けてから、盛大な溜め息を吐いた。

馬鹿にしてはいない。

呆れてもいない。

ただ、其処まで割り切った思考が出来る事に対しての羨望の念が混じるだけ。


少しだけ間を置いてから、伯珪は空を仰ぐ。

変わり無い、見たれた空が其処には広がっている。



「…私もさ、頑張りたい

その気持ちは有るんだ

爺達も居てくれるしな

まだ色々出来る事は有る

…それでも、一番遣りたい事には手が届かないんだ

私は、女だからな…」



言い訳にも聞こえる独白。

しかし、その言葉が現在の社会性を表している。

決して、不可能ではない。

けれど、その為には多くの犠牲を強いる事になる。

その犠牲無く、辿り着ける可能性は無いだろう。

余程の奇跡が起きない限り実現する事は出来無い。

彼女の懐く願い。

それは、それ程に難しく、険しい道程なのだから。


社会性を改革する。

それは文字通りに革命だ。

現在の常識を根底から壊し覆し、作り変える。

それ以外には出来無いなら当然、戦争は否めない。

其処で流されるは民の血。

失われるは民の生。

どんなに素晴らしい理想も戦争を生じさせてしまえば正しさは失われる。

けれど、話し合っただけで実現出来る事ではない。

だから、覚悟が必要だ。

礎となる尊い犠牲。

それを背負い続ける。

決して、歩みを止めない。

道を踏み外さない。

そういう覚悟が。



「…けどな?、私にだって女に生まれて良かった…

そう思える事も有るんだ

だから本当に難しいよな」



翳っていた表情が一転。

曇天の雲の切れ間から射し込んできた陽光の様に。

彼女は微笑を浮かべる。

それはゲームでは不可能なリアルだからこそ。

儚く散ると判っている花が精一杯に咲き誇る様に。

あまりにも可憐で美しく、それでいて何処か艶かしい小悪魔の媚薬の様に。

俺を魅了し、虜にする。


原作ではネタキャラと化し落ち担当にされてしまった不遇な普通の女の子。

それが、俺の目の前に居てメインヒロインを遣ってる件について。

スクショォオォーーッ!!。

くそっ!、何故氣で撮れるキャメラを発明しなかったんだよ、俺ぇええぇっ!!。

心のアルバムっ?!。

そんな、何時かは色褪せるかもしれない曖昧な記憶に委ねられるかよっ!!。

コンチックショォオッ!!。

この際、“歪み”だろうが何だろうが滅ぼすから!。

だから、この瞬間を8Kで永久保存プリィーズッ!!。

神様仏様菩薩様ロリ女神様──は使えないから外して誰でもいいから!。

俺の御願い叶えてっ!!。

先納後払いでっ!!。




だが、願いは叶わない。

魔王から逃げられないのは仕様上仕方が無いが。

面倒事を押し付けられた、可哀想過ぎる俺に少し位は優しい世界で有れよ!。

無理難題じゃないだろ!。

それ位はサービスして!。

…嗚呼、翳る君、雲間から零れる清光に、我が鼓音は未練を奏でん。



「…だからさ、徐恕

私はお前を後任に指名して託したいんだ

大変な事は判ってる

それでも、お前だから…

いや、お前に託したい

他の誰かじゃ駄目だ

お前にしか託せない」



真っ直ぐ、真剣な眼差しで伯珪は俺を見詰める。

数瞬前の衝撃に裏当てするみたいに追撃される。

衝撃的過ぎて頭が真っ白に為ってしまうが、結果的に冷静に為る事が出来た。


伯珪の言う事は判る。

女の伯珪より男の俺の方が将来性は有る。

何より──彼女の才器では背負い切れないからだ。

勿論、俺に才器が有るって訳じゃあない。

俺は男だから、妻を複数名娶っても可笑しくはない。

その妻達を要職に就けて、礎を築く事は可能だ。

しかし、女の伯珪の場合、それは出来無い。

要は、継承権が絡むから。

だから、此処で“血筋”が不明瞭な可能性は後の世の火種・争乱に繋がる。

そういう面倒な理由からも伯珪の道は険しい。


そういった理由からすれば伯珪の決断は可能性として的外れとは言えない。

彼女が頑張ってみるよりも犠牲は減らせるだろう。

無くなりはしないが。

それはそれとして。

実際問題、独立勢力を持つ事が可能になる以上、俺に断る理由は無い。

寧ろ、歓迎すべき事だ。



「──だが、断る」


「……そうだよなぁ…」


「はっきり言うとだな

そんな重い荷物を渡されて背負う気はしない

それに、お前の理想はお前だけの物だからな

それが俺が主体に為ったら別物になるだけだ

何より、俺は家族と平穏に暮らしたいんだ

だから面倒事は嫌だ」


「はっきり言い過ぎだろ…

少しは気を利かせた言葉で断ってくれよ…」


「出来無い事は言わないし無責任な事も言いたくないというのが俺の本心だ」


「…そういう奴だよな」


「そういう奴だよ

だから、伯珪、お前が俺に本当に託したいんだったら──俺の妻になれ」


「……………………へ?」


「…察しろよ、馬鹿」


「…え?、いや、え?

それ、え?、ちょっ──」


「…もういい、黙ってろ」


「──んぅっ!?…んっ…」





動揺している伯珪だったが拒む事は無い。

最初こそ緊張して、身体を強張らせていたが。

然程間を置かず、俺の意を理解したようで、自分から両腕を首へと回して身体を密着させてくる。

身長差から彼女が爪先立ちする格好になるんだけど。

それは気にしない。


──と言うか、この状況を客観的に引きで見たい。

写真に撮って残したい。

だって人生初のプロポーズをしたんですもん。

OK貰ったんですもん。

記念に残したいじゃない。

それが出来無いなんて。

徐恕、困っちゃう。



「……ん…ぅ……っぁ…」



離れた唇の間から零れ出る吐息は熱を帯び、艶やか。

陶酔する様に、蕩けている伯珪の潤んだ双眸は明確に「まだ…もっと…」と要求している。

断れる男が居るか?。

いや、居ないだろう。

もし断れるなら、その男は本気じゃない!。

本気だから夢中になる。

本気だから求める。

だから、GOッ!。

GO!、GOGOッ!!。


今度は互いに求め合って、唇を重ね合う。

伯珪は初めてだろう。

唇を重ねているだけで特に何かをする訳ではない。

だが、俺は豊富ではないが多少の経験値が有る。

だから、舌を差し込んで、優しくリードする様に。

決して、蹂躙するみたいに激しくはしないで。

彼女の舌と、円舞踏を踊る様に時を楽しんだ。


それが、今はどうだろう。

積極的に舌を絡めてきては引っ込めると「足りない」と言う様に追い掛けて来て俺の口の中を探る。

隠れんぼしているみたいにひょっこり覗いて見せれば嬉しそうに戯れ付いて。

両腕は首ではなく後頭部を抱え込み、深く大きく口を開き重ねてくる。

エロ過ぎませんか?。

大歓迎ですけどね!。


右腕を彼女の腰に回して、更に密着させる様に、強く抱き締めると「まだ将来に期待しようね?」と励ます声を掛けたくなる柔らかな二つの膨らみが俺の胸板で細やかに潰れる。

左手は抱き上げるかの様に彼女の形の様に御尻へ。



「…んぅっ!?…んんっ…」



吃驚した様に声を出すが、直ぐに怒った様に反撃され──許可される。

許可されたので遠慮せずに撫でて揉んで指を動かして張りと柔らかさと弾力性を堪能させて頂きます。

嗚呼、こんな日が来るとは思っていませんでした。

期待はしていましたがね。

仕方無いでしょう。

好きな物は好きだから。




小1時間は経ったかな。

激しく燃え盛っていた熱が緩やかに落ち着いていき、唇を離して見詰め合う。

すると冷静になった途端が羞恥心もカムバック。

先程の熱量を上回るが如く熱狂してくれる。

その瞬間に、爆発した様に真っ赤になる伯珪。

逃げ出したいが、俺の腕がしっかりと抱き締めている事も有って動けずに。

唯一の逃げ場である、俺の胸へと顔を押し当てる。

転がりたい身悶え衝動から猫の様に、こしこしする。

両腕を背中に回し、絶対に誰にも、俺にさえ見せない様に抱き付いてくる。

──嗚呼、もう!、なんて可愛いんでしょうっ!。

このまま押し倒したい!。

何故、太陽が出ている?!。

出ているのは月だろ!。



「…ぅぅ〜……お前、何でそんなに…その…」


「まあ、経験は有るしな

だが、本気だぞ?」


「…それは…判ってる…」


「どう判ってるんだ?」


「なっ!?、このっ──」



反射的に顔を上げた伯珪の唇を塞いでやる。

今回は短いけどね。

離したら睨まれる。

それはそうだろうな。

自分で言うのも何だけど、都合が悪くなったら強引に誤魔化しているみたいにも受け取れるだろうから。



「俺は家族が大事だ

だから、お前が妻になれば妻の幸せの為に頑張ろう

まあ、何処まで遣れるかは俺一人だと不安だから…

其処は支えてくれよ?」


「……ズルいんだよ

お前、本当、ズルいな…」


「狡賢い位じゃないと今の世の中で生き残れないしな

これ位は許容範囲だろ?」


「……私、胸小さいぞ?」


「なあ、知ってるか?

好きな男に揉まれると胸は大きくなるって話…」


「──っ、し、知るか!」


「なら、試してみるか?」


「へあっ!?、ちょちょちょちょっと待て待て待て!

まままだこここ心の準備がそのあのあれだっ!」


「──ははっ、冗談だ

そんな方法は無いって」


「──────────」


「ただな、男を意識すると女性の身体は誘惑する為に変わるものなんだよ

当然、胸なんかもな…」


「──あっ、こ、こらっ、ま、待てって…ぁんっ!」






 公孫賛side──


流入してきた賊徒の討伐。

時間が明暗を分ける状況で私は徐恕を頼った。

個人の武は勿論なんだが、その智謀も頼もしい。

客将という立場が有るから真っ先に呼び出す様な事は出来無かったが。

結果から言えば、徐恕達のお陰で被害は最小限。

犠牲者は出なかった。

勿論、毎回同じ様に出来るという訳ではない。

今回は後手に回り、状況も不利に近かったが。

それが良い方向に傾いて、上手く行っただけ。

過度に期待しては駄目だ。


それは兎も角としてだ。

今回の討伐の際に徐恕達が女の子を二人保護した。

行方不明者ではない事から二人が“口減らし”により捨てられた子供だと察し、胸が痛んだ。

それでも助かったのだから不幸中の幸いだと思った。

──十数人の子供達が山の中で亡くなっていた事実を徐恕から聞くまでは。


それが切っ掛け、という訳ではない。

前々から考えていた。

私は女だから、遣れる事に必ず限界が有る。

それは、個人の才能や技量という事ではなくて。

施政者として、女の身では限界が有るという事。

だから、私は徐恕を後任に指名して地位を譲ろう。

そう考える様に為った。

本人は面倒臭がるだろうし遣りたがらないだろうけど徐恕に託したい。


そう思っている中でだ。

いつも通りの御茶と談笑の一時に保護した女の子達の話題から変わって。

流れではあるが、その時に決意して、徐恕に伝えた。

迷わず断られたけど。


ただ、其処からが予想外。

その…徐恕に求婚された。

…いや、求婚というのか、既成事実というか。

戸惑っている間に唇を塞ぎ──強引に黙らされた。

物凄く吃驚した。

吃驚したけど…それ以上に物凄く嬉しかった。

だって、その…徐恕の事…私は好きだから。

徐恕と“そういう関係”に成れたら良いな、と。

夢に見る程に想っている。

だから、泣きそうだった。

本当に泣きそうなのに。

それ以上に徐恕の口付けが気持ち良くて。

身体の奥から熱くなって。

ふわふわしてきて。

風邪を引いたみたいで。

でも、もっと欲しくて。

まだまだ足りなくて。


気付いたら、恥ずかしくて逃げ出したくなった。

しっかりと抱き締められて動けなかったけど。

取り敢えず、徐恕の胸元に顔を押し当てて隠す。

それしか出来無かった。



「続きは、改めてな」


「……っ…」



その後、戯れ合うみたいに会話と口付け等を交わして別れ際に耳許で囁かれた。

その意味を理解して思わず叫びそうになったけど。

それ以上に期待して素直に頷いた自分が居た。

恥ずかしいけど、嬉しい。

その、な?、ちゃんと準備しておかないとな、うん。



──side out。



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[良い点] いちゃいちゃ|ω・) [気になる点] 知力スタッフが足りません(ぇ [一言] 原作よりも早い時期の彼女達が、より過酷な世界で巡り合うという他では見ない物語。 それでも暗さ一辺倒にはならない…
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