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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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     生き足掻き


戦働きだけして事後処理は伯珪達に任せたので暫くは休暇状態に入る。

見栄が必要な面子は此処で伯珪への好印象値(点数)を稼がないと駄目だからね。

汗水垂らして頑張って。

そうじゃないと御払い箱に為ってしまいますよ〜。

まあ、手遅れな気もするが言う必要は無いしね。


それは兎も角として。

保護した二人を連れて家に帰った翌日の昼。

漸く二人が目覚めた。

状況が判らず、怯え慌てる二人に順に説明した。

東から賊徒が流入した事、その討伐に赴いた事、その際に周囲の調査をした事、其処で二人を見付けた事…他の子供は亡くなっていて山中に埋葬した事。


話を聞き泣き出した二人。

悲しみは有るだろう。

だが、それ以上に自分達が生きている事への喜びと、申し訳無さから。

二人は相反する感情を懐き泣いている。



「…運が良かった

そう言って片付ける事なら誰にでも出来る

でも、彼等の死を苦しみを覚えていてあげられるのは二人だけしか居ない

だから、生きるんだ

生きて、彼等の死が教える命の尊さを知ろうな…」



二人を抱き締めて、そんな陳腐な台詞を贈る。

なんて、無責任なのかね。

まあ、無責任ではないか。

二人は俺達が引き取って、育てるつもりだからな。

……え?、「三国志の世で光源氏を遣る気か?」。

はははっ……えー?、何の事ですかー?。

いや、冗談ですよ、冗談。

そんな気は有りません。


落ち着いた二人と、先ずは自己紹介しましょう。

今日は全員居るので此方が先に名乗ります。

今回は真名も先に預ける。

精神面のケア的な意味で。



「わ、私は…典韋です…

…真名は、流琉です…」


「ボク、許緒です…

真名は季衣です…」


「流琉、季衣、今日からは俺達が家族だ、宜しくな」



そう言って二人の頭を撫で笑顔で歓迎してやる。

華琳達も笑顔で二人に声を掛けて話をする。

まだたどたどしいけれど、最初は仕方無い事。

俺と華琳だって最初の頃は距離感が有ったからな。

…恋と真桜は特殊だが。


それは置いておくとして…ええ、判ってましたよ。

一目見た瞬間に二人だって気付きましたからね。

しかし、原作を知っている身からすると二人の境遇は真逆と言える物だな。

ただ、原作の中の悲劇って描写的に軽いんだよな。

大して意味が無い部分だし当然と言えば当然だけど。

現実としては、こんな事も有り得るんだろうな。


二人は共に十歳。

しかし、幼馴染みではなく別々の場所の出身。

彼処には彷徨っていたら、行き着いたんだとか。

…彼処って、地形的に何か有るのかね?。

それから怪力でもない。

…それはそうか。

力が強ければ熊とか虎とか原作みたいに狩って飢えを凌げただろうし。

…いや、口減らしにされる事自体が無いもんな。





「──で?」


「いや、いきなり過ぎてて意味が解らないわよ」



新妹二人の衣服や日用品の買い物を華琳達に任せて、咲夜を連れ出している。

少し気になったからだ。



「お前も転生したろ?

俺は途中スタートだったがお前は違うんだろ?」


「…何で、そう思うの?」


「お前、自分が思う以上に顔や態度に出てるんだよ

賊徒に対する憎悪・嫌悪は珍しくはないが、貧困等の“政策”関係の話に為ると雰囲気が尖ってる」


「…………はあぁぁ〜……

気付かなかったわ…」


「当然だな、無いんだし」


「……………………は?」


「今のは引っ掛けだ

ただ、俺から見た印象から推測した事だけどな

的外れじゃないだろ?」


「………成る程ね

選ばれるだけ有るわ…」


「迷惑なだけだけどな」



そう言って遣ると、咲夜はぽつぽつと転生してからの人生を語り始めた。

だが、想像以上ではない。

ただ、人よりも高位存在の彼女にとってには、想像を絶した人生だった様だ。

それでも、彼女は今の生を後悔してはいない。

彼女達の意識上では一時の寄り道(旅行)みたいな感覚なんだろうけど。

それが彼女にとって意味の有る一時となるのなら。

俺としては嬉しく思う。

…これで余計な役目を押し付けられていないならな。



「──とまあ、そんな感じだった訳よ」


「…お前は何がしたい?」


「…あのさ、普通、其処は「大変だったな…だけど、これからは俺が一緒だ」的台詞じゃないの?」


「同情して憐れまれたいと本気で思ってるか?」


「……本当可愛くないわ」


「可愛くなくて結構

少なくとも俺は傷(痛み)を知らない馬鹿な以前よりは今の方が好みだ」


「──っ、あっそ…」


「で、どうなんだ?

これまでの人生を通して、お前は何を望む?」


「………今の私は無力よ

世界を変えるだけの影響を与えられはしないわ…

……だけど、叶うのなら…

本の少しで構わないから…

優しい人達が笑って生きる事が出来る社会に…」



そう言いながら空を仰ぐ。

その眼差しが何を見るのか俺には判らない。

見えているだけが真実とは限らないのだから。

だから、人は言葉を文字を画形を使って心を表す。

それは吐き出す為であり、誰かに伝えないが為。



「なら、頑張らないとな」


「…出来ると思うの?」


「遣らないと判らないなら遣るしかないだろ?

その手段の善し悪しは有るだろうが、何も遣らないで諦める理由は無いんだ

遣るだけ遣ってみろ」





ちょっとした人生相談後、華琳達に合流する。

折角だから二人の歓迎会と称して外食でもしようか。

そんな感じで決まったので待ち合わせ場所に行った。

だが、其処には誰も居らず咲夜と心配して慌て捲った──りはせず、行き付けの服屋へと足を運ぶ。


案の定、店の中は騒がしく着せ替え人形な二人を囲みきゃあきゃあと遣っている華琳達と店員達の姿が。

気さくな事は有難いですが十歳の少女達に何て格好をさせているんですか?。

全く、怪しからん。

ほら、さっさと出るぞ。

文句を言うな、また今度、二人と来なさい。

お姉さん、御代は?。

…え?、「この中の何れを御買い上げに?」だと?。

そんなの全部ですよ。

…何ですか、その「あ〜…うふふっ、そうですよね、男の子ですもんね〜」的な意味深な笑顔は。

俺はただ、手早く買い物を済ませて空きっ腹の催促を終わらせたいだけです。

ええ、他意は有りませぬ。

拙者は無実にござる。


それは兎も角として。

さてと、飯だ飯。

今日は何を食べるかな。

普段から家食が落ち着く為滅多に外食しないからね。

悪い事じゃないんだけど、恋に「…兄の御飯が良い」なんて言われてみなさい。

外食など微塵もする気には為りませぬ。



「二人共、好きなの頼んで大丈夫だからな?

後、適当に何品かは頼んで分けたりするから

其処は好物じゃなかったら候補から外しといてな」


「……えっと…」


「どうした?」



流琉が困った様に俺を見て俯いてしまう。

其処からの上目遣いなんて萌え技を誰に教わった?!。

愛妹兄魂(ブラザーソウル)が激しく萌え上がるじゃあありませんか!。

あ、誤字じゃないですよ。


それはそれとして。

流琉に優しく声を掛ける。



「……その…私、字が…」


「……あ、うん、すまん

普通、そうだよな」


「流琉、一緒に見ましょう

私が教えて上げるわ」


「は、はい、華琳姉様」



明らかな歳下の加入により華琳が“お姉さん”してる姿に鼻の奥がツンとする。

ああ、母さんが生きてれば華琳にも弟妹が出来ていたかもしれないのに。

……え?、「その父親って誰なんだよ?」ですと?。

ハハハッ…御客さん、何を野暮な事言ってんでさぁ…此処は女(花)を求め彷徨う男(蜂)の来る場所。

儚き夢が色褪せぬ幻園。

なら、御判りでしょう?。

想いは枯れないんですよ。





「では、季衣は私と一緒に

料理の名前が判らないならどんな物が食べたいかでも構いませんよ…季衣?」


「…へ?、あっ、はいっ」



そう愛紗が季衣に言うが、季衣の表情は固い。

緊張と言えば緊張だけど、何処か…怯えている様にも見えてしまう。

──と、原作の許緒の事を思い出して、自分が施した“楔”の事を思い出す。

“口減らし”されていれば怯えもするわな。



「季衣、遠慮するな

後で追加で頼んでも大丈夫だから取り敢えず何かしら頼んでおけ」


「──っ、は、はいっ!」



少しは気が楽に為ったのか声音も明るく聞こえる。

下手に事情を詮索すると、逆に遠慮して壁や溝が出来兼ねないからな。

それとなく、が大事だ。


しかし、あれだな。

原作の曹操の統治や施政が優秀だったんだと、改めて思い知らされるな。

まあ、季衣も流琉も最初は別の領地に居るんだけど。

…あれ?、それってつまり原作よりも全体的に施政の程度が下がってるって事に為るんだよな?。

うわぁ…面倒臭ぇ…。

いやまあ、彼方此方を見て「結構格差が有るなぁ…」とは思ってたけどさ。

そうか…全体的にかぁ…。



(やっぱり、原作の知識は頼らない方が良いな…)



現時点で既に外れていると言い切れる状況なんだ。

原作のシナリオそのままに進むなんて思ってない。

だけど、マストイベントは起きると考えていた。

考えてはいたが、現実問題何時・何処で・どんな形でなのかは判らない。

ただ、それらしく為る様に心の何処かで期待していた自分が居たんだろうな。

基本的に俺は面倒臭い事は避けたい方だからね。



(…せめて、此奴が此処の歴史の可能性を知ってれば楽が出来たんだけどなぁ…

マジで使えねぇ…)



「何の為の補佐だよ?」と訊いて遣りたい。

だが、訊いた所で関係性が悪くなるだけで良い事など微塵も無いからな。

愚痴っても仕方無いし。

本当、無理ゲーだよな。


そんな事を考えながら皆と談笑しながらの食事。

やはり、家族は癒しだ。

美女・美少女、万歳!。

尚、季衣は本人が思うより食べられなかったのは多分楔の為だろう。

恋という前例が居るから、俺達は驚きはしないが。

普通は吃驚するよな。

それから流琉は元々料理に興味が有ったみたいで色々質問してきた。

俺の心が、ほっこりした。




それから数日が経過した。

事後処理も、大した問題も起きる事無く終了。

東側の領主には伯珪からの報告の書簡が届けられた。

内容的には簡単な物。

「其方から来た賊だけど、あっさり片付けたからな。心配してなくてもいいぞ。まあ、楽勝だったけどな」という感じでだ。

現代だと、草が生えそうな挑発的な内容だろう。

ただ、感謝されても文句を言われる事は無い。

如何に伯珪から「お前って無能だよな、マジでさ」と見下される様な感じでも、彼方は飲み込むしかない。

だって結局、自分達が手に負えなかった賊徒は伯珪が倒した訳だからな。

細かい内容にしても下手に探ってから反感を買う様な迂闊な真似はしない筈。

そういう意味でも、伯珪の意趣返しは巧妙だろう。

…まあ、伯珪じゃなくて、侯範辺りだろうけどな。



「あの娘達の様子は?」


「まあ…普通だろうな

まだ遠慮している所が有るのは仕方無いしな

…やっぱり気になるか?」


「為らない訳が無いって…

そりゃあさ、私の責任って訳じゃないんだけど…

頭では解ってても、心では納得出来ないんだよ…」


「領主も大変だな」


「…ああ、想像以上にな」



定期巡回を終え、その報告を上げに伯珪の所に来て、いつも通りの御茶と会話。

彼女が“口減らし”により死に掛けていた二人の事を気に掛けない訳が無い。

ただ、堂々と関わるという事が出来無いのが立場上の難しさであり、施政者的な面倒臭さでもある。



「…恨み言とかは?」


「お前にか?」


「…領主とかに、だな」


「それは二人に限らずとも誰でも有ると思うが?」


「ぅっ…それもそうか…

と言うか、お前もか?」


「有る無しで言えば有る」


「どんな事だ?」


「中途半端だって事だ

施政で私利私欲に走るなら徹底的に遣れ

領民を最優先にするのなら周囲の顔色を窺うな

中途半端な“なあなあ”が一番質が悪い」


「…ははっ、耳が痛いな」


「いや、お前は違うだろ

まあ、他人を気にし過ぎで意志を貫き切れてないのは確かだろうけどな」






 司馬防side──


他領から流入してきた賊徒なんて、ウイルスみたいな物じゃない。

本当に迷惑でしかない。

きちんと消毒・除菌して、他に移ったり、感染しない様にしなさないよね。

いえ、殺菌よ、殺菌。

──と言うかね、腐ってる大元から抹殺よね。


そんな感じで恋のお守りを任されたんだけど。

ええ、キレた呂布を庶民に毛が生えた程度でしかない私が抑えられる訳が無い。

彼から文句を言われたけど今回は仕方無い。

言い訳は出来るけど、私の責任も無い訳ではない。

彼女が指揮が苦手だから、私が補佐に付いたのだから彼女の責任ではない。

…まあ、八つ当たりとして「幸せなお兄ちゃんね〜」という感じで揶揄ってたら仕返しされました。

くっ…まさか、私が人間の可愛いに屈するとは…。

…恋…恐ろしい娘。


それは兎も角として。

彼が保護してきた二人。

“口減らし”で捨てられた僅か十歳の少女達。

確か、この世界の基盤たる原作に登場していた…筈。

それだけだったら、特には意識しなかったでしょう。

だけど、そうじゃない。

それ所か、今の彼女達には特別な力は無い。

同じ歳の女の子に比べると明らかに小柄で、街の子と比較すれば本当に痩せてて薄汚れてもいた。

私と同じ様に、弱者。

そう思ってしまったから、余計に彼女達が気になる。

尤も、そういう意味でだと愛紗達も始まりは、やはり悲劇を伴っている。

そんな彼女達が今、笑顔で誰かの為に強く在る姿には色々と感じてしまう。


その担い手である彼。

御互いに“前世”の自分を知っているからか少しだけ遠慮無く話せる。

ただ、それ故の壁も有る。


それなのに、この生意気な小僧の筈の彼を私は確かに男として意識している。

最初の出逢いも有るけど、一緒に生活していると判る意外な頼もしさ。

元を──素の彼の性格等を知っているが故に、今とのギャップが凄い。

これがギャップ萌え?。

……うん、違う気がする。


ただ、然り気無く躊躇無く踏み込んできた。

それも土足で踏み躙る様な真似はせず、丸ごと優しく抱き締めるみたいに。

卑怯な位に、暖かく。

それなのに、一方的だ。

一方的に私が惹かれているばかりで、彼が私に対して異性──恋愛対象としての感情を懐いている様には…現状では思えない。

それが腹立たしい。


一方で、見た目だけでなく内面を重要としているのは正直、好印象だ。

彼が一番好きな異性の姿の今の自分だが、決して姿に惑わされはしない。

…まあ、それで惨めな気がしなくもないけど。

後悔している事でもある。

有りの侭の自分で、彼とは向き合いたかったと。

それは変えられないけど、本気で振り向かせたい。

そう思う自分が居て。

それが嫌じゃない。

だから、今を楽しもう。



──side out。



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