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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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    然れど命は望み


サッカーや野球等でもよく耳にする事だろう。

“流れ”という言葉を。

それは競技により、内容は異なるが対戦をする競技に限った話ではない。

またトーナメント戦等にも時に脚本家が居るかの様な劇的なシナリオが用意され人々に感動を湧かす。

“悪戯”とも称されるが。


戦いには、必ず“流れ”が存在している。

しかし、スポーツとは違い戦場は中継もされなければ多彩なカメラアングルでの映像も与えられない。

客観的に見て、察する事は困難だと言える。

だが、それを読める事が、指揮官として必要不可欠な能力だと俺は思う。

勢いや直感・経験も確かに大事ではあるが、何よりも流れを見極められる事こそ戦場で生き残る為の鍵。

まあ、そうは言っても日々鍛練をしていても身に付く能力ではない。

それは命の殺り取りをして培われる感覚でもある。


幼少期から真剣勝負を通じ俺達は養ってきた。

だから、駆け引きと同様に流れを読む事が出来る。

勿論、その読み自体は完璧ではないし、読めない事も決して少なくはない。

それは彼我の状況だったり自身の体調・精神状態にも左右されてしまうから。

また、最初から最後までの全てを読み切る事は不可能ではないが難しい。

先ず集中力が続かないし、体力的にもキツいから。

だから、“此処だけは”と重要な場面だけを読むのも一つの方法だと言える。



「呆気無いですね」


「まあ、所詮は烏合の衆、自己犠牲なんて微塵も無い自己中集団だからな

一度瓦解すれば終わりだ」


「…それでも、数の暴力は人々の脅威、ですか…」


「残念な事にな」



伯珪が率いる百騎が賊徒に止めを刺しに襲い掛かる。

その様子を華琳と見ながら残りを片付ける。

千五百は居た賊徒だったが策士策に溺れる。

目撃が二百の情報に対して二百の騎馬を送った。

そう見せ掛けた擬似餌に、食い付いて来た所に華琳の指揮していた二百の騎馬が斜め後ろからの奇襲。

挟撃しつつ、分断する様に敵の隊列を切り裂いた。

そして、数が五百を割った所で逃げ出そうとしていた敵の指揮の居る一団へと、伯珪が襲い掛かった。

実に単純な仕事だった。


ただ、複雑ではある。

賊徒の増加は領主の統治が上手く行っていない証拠。

伯珪の場合は、先代以前が残した負債でしかないが。

そういった領主が、大多数なのも紛れも無い事実。

董家の様な領主は稀有。

つまり、賊徒も元を辿れば被害者である訳だ。

勿論、連中を擁護する気も赦免する気も無いが。

賊徒に身を落とした連中が真っ当に兵として働けば、少なからず、だが確実に、治安は良くなる筈。

そう簡単ではないにしても考えてしまうと嘆かわしく思ってしまう。




ただまあ、今回の賊討伐で伯珪の評価は変わる。

当然、中核を成した俺達の評価も合わせてだ。

伯珪との信頼が強まれば、面白くない奴等は伯珪へと近付いて俺達の存在しない悪評を囁いたりする真似を遣る馬鹿も居るだろう。

それは一向に構わない。

自滅してくれるからな。


それよりも、侯範・程豊を始めとする聡い者は絶対に俺達の囲い込みを計る。

まあ、条件が良ければ俺は乗っても構わないけどな。

ただ、“歪み”の事が有る以上は行動の自由度は絶対譲れない条件だ。

その辺りは折り合えるとは思ってはいるけどね。

伯珪となら。


その一方で、今回は実力を敢えて隠した事。

それが火種に為らない様に気を配らないとな。

実際の事を言えば、今回の件での事後処理を愛紗達が担う事は出来る。

華琳達は個人の武は勿論、指揮能力も磨いていたし、脳筋化はさせてはいない。

だから、能力的な問題点は殆んど無い。

……まあ、恋が向いてない事は否めないが、出来無いという訳ではない。

そう、遣れば出来る娘だ。

遣る気が続かないだけで。

遣れば出来るんです。


それは兎も角として。

実力を隠した理由は三つ。

先ず、今回は賊徒の殲滅が最優先事項だった事。

以前の様な、討ち漏らしが起きない為にも、徹底的に殺っておきたかった。

その為には俺達が直に動く必要が有る為、事後処理を他に任せた。

次に、古参の重臣の面目を保つ為の配慮として。

実際には、侯範達みたいな“歓迎・肯定”派に対する気遣いな訳だが。

細かい事を態々指摘をする必要は無いので。

勘違いした奴等は放置。

最後に、遣り過ぎて伯珪の立場を脅かさない為だ。

実力的な事から言うとだ。

俺達が統治する方が確実に状況を改善出来るだろう。

但し、その場合は周囲から嫉妬や逆恨みを決算セール並みに売り付けられる事が目に見えている。

伯珪とは違い、俺達は全く後ろ楯が無いからな。

“出る杭は打たれる”だ。

打てない程高く有っても、刺さった地面自体を揺らし崩されてしまっては無理。

宙に浮き続けられるのなら話は別だが。

それはもう既に杭としての在り方を失っているので、本末転倒だと言える。


──とまあ、そんな理由で目立ち過ぎない様に色々と考えていた訳です。

原作の曹操みたいな人物は滅多に居ない。

孫策でも基本的には身内で重臣を固めていたし劉備は万年人材不足だから、選り好みしてはいられない。

伯珪自身は好意的だろうと彼女は上の下辺り。

絶対的には成れない。

だからこそ、家臣の存在は欠かす事が出来無い。

面倒な話だけどね。




戦いが終わり、氣を使って残党が居ないかをチェックしていた時だった。

山中に弱々しい気配を二つ見付けた。

位置から考えて逃げ込んだ残党とは思えなかった。

だが、間違い無く人間。

しかも、瀕死の状態だ。

見付けてしまった以上無視出来無かった。



「伯珪、少しいいか」


「ん?、何か有ったか?」



事後処理の引き継ぎ指示と隊の再編をしていた伯珪に声を掛ける。

重臣の居る所では敬語だが基本的には砕けている。

伯珪自身が望んだ事だ。

一応は、使い分ける様には心掛けている。



「逃がしはしなかったが、周囲の山中に潜伏している残党が居ないとは限らないから簡単にだが、見回って来ようと思ってな」


「…そうだな

なら、何人連れて行く?」


「いや、俺と操だけでいい

身軽な方が早いし、居ても三十には届かないだろう

それだけ居れば目立つから潜めはしないしな」


「判った、大丈夫だろうが気を付けてな」


「ああ、編成と準備が整うまでには戻ってくる」



そう伯珪に言うと、華琳を連れて反応の有った場所を目指して駆け出す。

伯珪だけには、氣が使える事を話してある。

だからこそ俺達の行動には何かしらの理由が有ると。

そう察していると思う。

そういう機敏の鋭さは持ち合わせているからな。



「御兄様、これは…」


「ああ、かなり弱いな」



華琳の感知範囲にも入って気付いたんだろう。

表情を曇らせている。

日々の糧、賊徒を殺す際、氣が弱まり燃え尽きる様に消え去る感覚を知っている俺達だから判る事。

これは本当に風前の灯。

何時消えても可笑しくない程に弱々しい。

多分、意識は無いだろう。



「…賊、でしょうか?」


「被害者にしては場所的に微妙だろうな…

普通に考えると賊から逃げ迷い込んだ可能性が高いと思う所なんだが…」


「結構深いですね…」


「そうだな…」



現状で色々推測しようにも情報が無いに等しい。

せめて襲われた街の方から「行方不明の者が居ます」といった情報が有ったなら判り易いんだけどな。


ただ判る事は俺達が此処に来ていなければ消え掛けの二つの灯は確実に燃え尽き失われているという事。

これも、縁なんだろうな。

だから、必ず助ける。

母さんが俺に手を伸ばして助けてくれた様に。

この手が届くのなら。

迷わず、手を伸ばそう。




山に入り、氣を使いながら木々の隙間を潜り抜けて、斜面を駆け上がる。

こういう場所は田舎育ちの俺達にとってはホーム。

慣れしたんだ環境だ。

都会で生まれ育った事が、必ずしも良い訳ではない。

勿論、悪くもない。

要は、関わる周囲の人間が大事なんだからな。

俺達は恵まれているよ。



「──っ!?、御兄様っ…」


「…ああ、判ってる」



視界に入った光景に思わず顔を背けたくなった。

足が止まりそうになる。

其処に行きたくはないと、心が挫けそうになる。

それでも、今、逃げ出せば助けられる生命を見捨てる事になるのだから。

出来る訳が無かった。


俺達は目的地に到着すると迷わずに瀕死の二人の所に駆け寄って状態を診る。

かなり衰弱している。

だが、まだギリギリの所で生きようと踏み留まる。

その手を掴み取る。



「もう大丈夫だからな

よく頑張ったな」



その言葉に返る声は無い。

しかし、掴んだ小さな手は弱々しくも確かに俺の手を握り返した。

氣で応急措置を施したら、俺達の外套で二人の身体を包んで木の幹に背を預ける姿勢で座らせる。

まだ遣るべき事が有る。


掌を握り締める華琳。

その身体は小さく震えて、悲哀と憤怒、嫌悪を抑える事に悩み、迷っている。

その気持ちは理解出来る。



「……酷過ぎます」


「だが、これも現実だ」



目の前に広がるのは壊れた山小屋だった残骸に集まり雨風を凌いでいたのだろう幾つも子供の亡骸。

その殆んどが痩せ細り骨が浮き出ている状態。

何時死んだのか。

それさえも判らない亡骸は腐敗もバラバラで。

中には“齧じった”痕跡も見られる物さえ有る。

愛紗達が、伯珪が見たなら何と思うだろうか。

凄惨な現実が此処に有る。



「“口減らし”で追われた子供達だろうな…」



自分達には縁が無かった。

賊徒による悲劇には何度も直面してきたが。

親が子を捨てる。

その選択をした果てには、今まで遭遇しなかった。

だから、知識としては頭の片隅に有ったが、現実感は無いに等しかった。


賊の被害は賊を討伐すれば確実に減るし、変わる。

だが、この問題は根深い。

個人が手を伸ばした所で、出来る事は限られる。

何もしないよりは増しだが限界は有るのだから。

世知辛く、残酷な現実は。




救えなかった罪滅ぼし。

そんなつもりは無かったが子供達の亡骸を穴を掘って丁重に埋葬した。

本当は石碑を立てたりして一言刻んで遣りたかったが治安が良くない以上、墓は荒らされる可能性が有る。

だから盛った土の上に石を乗せるだけにした。

華琳と花を摘み手向けて。


保護した二人を抱えて戻り驚く伯珪には連れて行くと伝えると了承してくれた。

二人が、どういう立場かを察してくれたらしい。


当然だが、伯珪の領内から出た犠牲者ではない。

賊と同様に東側か、或いは北側からだろう。

伯珪が嘆いていた事。

それが現実として目の前に結果として起きた。

無言で俯いた伯珪の頭を、抱き寄せて胸を貸す事しか俺には出来無かった。


それから予定通りに他への援軍として向かい、無事に領内に流入した賊徒は殲滅する事が出来た。

被害は有ったが、犠牲者が出る事は無かった。

侯範・程豊から称賛され、特別に褒賞も貰った。

その事には華琳達は複雑な表情を家では見せていたが公の場では平静を装って、大人しくしていた。


そんな感じで、問題も無く終わるには終わったのだが恋が少々遣らかした。

別に怪我人を出したという訳ではないし、建物等への被害を出した訳でもない。

ただ、戦いの中で賊徒から俺の事を──咲夜の話では具体的な指名ではなかったみたいだが恋が俺の事だと思ったらしい──罵倒されキレてしまった。

指揮を咲夜に丸投げして、賊徒を蹂躙したらしく。

恋達の部隊の兵士は勿論、要職に有る面々は俺の事を絶対に貶さないと心に誓う結果になりましたとさ。

…咲夜?、仕事しろよ。

その為に付けたんだぞ。



「私に死ねと言うの?

無理よ無理、“お兄ちゃん大好きっ娘”を前にして、馬鹿な事を言った愚か者が全部悪いんだから

私に言わないで頂戴」


「……使えねぇ…」


「今回だけは甘んじて受け止めてあげるわ」


「何で偉そうなんだよ…」



溜め息を吐きながら言って落ち込む恋を慰める。

反省はしている様だ。

後悔はしていないが。

それから華琳、誉めるのは止めなさい。

恋の教育上、悪いから。





 呂布side──


朝早くに誰かが来て兄達が出掛けて行った。

…朝御飯もまだなのに。



「恋、仕度しなさい

凪と真桜、一応咲夜もね」


「一応ですか…」


「貴女はまだ“単独では”動けないでしょ?」


「…そうですね」


「…という事は?」


「ええ、御兄様の事だし、動くのなら“見逃さない”でしょうからね

準備だけはしておいても、損は無いでしょう」



そう言う華琳姉様と一緒に私達は“武装”を整えて、兄達の帰りを待つ。

勿論、朝御飯も用意して。


帰って来た兄達だったけど姉上達は朝御飯を食べたら直ぐに出掛けた。

その後、兄から賊の討伐に私達も参加する事になったという話を聞いた。

私だけは咲夜と一緒だけど「兄の役に立てる」。

そう思うと嬉しい。

姉上達と違って私達はまだ兄の手伝いが出来無いから本当に、嬉しい。


咲夜と一緒に騎馬隊を率い担当場所へと向かった。

其処には千人位の賊徒。

一気に終わらせようとして──咲夜に止められた。

個人の武ではなく、部隊を指揮して倒す様にと兄から言われたのを思い出す。

……指揮は苦手。

でも、仕方無い。

兄は「恋なら出来る」って言ってくれた。

それに答えたいから。

一生懸命、頑張る。



「ヒィーッハッハァーッ!

何だ何だヨ、温いナァ!

何つったけかナァ?

此処のボンクラはヨォ?」


「…口の悪い輩ですね」



敵の指揮官っぽい奴が何か笑いながら叫んでる。

それを見て咲夜は苛々した感じに為っている。

けど、今は気にしてられる余裕が無い。

指揮、やっぱり苦手。



「手前ぇ等を鍛えてる奴は無能だナァ?

手前ぇ等が、こーんなにも弱ぇんだからヨォ!

ヒャーッハハハハーッ!!」


「………………………?」



彼奴、今何て言った?。

誰が、弱い?。

私を鍛えてる?。

それなら、兄の事?。

此奴、兄を馬鹿にした?。

兄が弱いって言った?。



「まあ、安心して死ねや

手前ぇ等の後に、きっちり其奴も送ってやラァ!」


「────────殺す」



何かが切れた音がする。

けど、どうでもいい。

指揮は咲夜に任せる。

皆、邪魔だから退く。

咲夜が何か言ってるけど、今は忙しいから駄目。

乗っていた馬から降りて、其奴の所に歩いてく。



「アァン?、何だ小娘?」


「……兄、傷付ける?」


「は?、誰か知らねぇが、逆らうなら皆殺しだっ!!」


「…ん、お前、敵、死ね」



兄から貰った方天戟を振り抜いて上下に断つ。

そのまま賊徒を倒す。

此奴等は要らない。

赦せない、赦さない。

だから、一人残らず殺す。



──side out。



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