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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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34話 君に一票を。


ロリ女神、改め、咲夜から衝撃の新真実を聞かされた再会劇から二日。

俺達は町に着いていた。

目的地である啄県には次の町に着けば入る。

関所なんて無いから県境や領境は結構曖昧。

それはそれで助かりますし文句は有りません。

笊統治万歳な訳です。



「──つまり、“歪み”は今は表に出る程じゃないが地味に絶賛侵食中と?」


「まあ、そうなるわね

歪み自体、どういった形で現れるのか、それは私にも判らない事だから…

その辺は事後認識ね」



点心──肉まんっぽい物を頬張りながら、二人きりで町外れで話をする。

華琳達とは仕事を分担して上手く誤魔化してある。

尚、華琳が咲夜を俺の妻に加えたそうにしているが、少なくとも現状では咲夜はノーサンキューだ。

見た目は兎も角、中身的に無理で御座る。


それは兎も角として。

俺達の──華琳達の未来を脅かす、歪み(糞)に関して詳しく訊いている所だが。



「何だよ、使えねえな」


「…声に出てるけど?」


「事実を言っただけだが?

異論が有るのかね?」


「……覚えてなさいよ…」



誰が覚えて置くか。

そんな下らない事に貴重な記憶容量は割きません。

今直ぐに、パァー…です。


…けど、気になる事も有り咲夜に話してみる。

先日の“怪植物”の事だ。



「…正直、そういう存在が稀でも“発生し得る”様な世界という可能性は有るわ

だから、それが必ずしも、歪みの影響を受けているか判断するのは難しいわね…

氣が使える貴男から見て、どうだったの?」


「…異常性は無かったな

ただ、俺は魂が判るという訳じゃないからな…

その存在が、“生物として矛盾していない”事が判る程度でしかない」


「…あの特典で、魂とかも判る様に出来無い訳?」


「無理だな、俺自身が魂を理解してないと──いや、ちょっと待てよ…

咲夜、御前は判るよな?」


「今は無理よ?」


「そんな事は判ってる

そうじゃなくて、魂の事を“俺が理解が出来る”様に説明は出来るよな?」


「……成る程、私達が協力すれば可能性は有るわね」



ニヤッ…と笑う咲夜。

悪巧みをする子供の様に。

その笑い方は、在りし日の彼女の姿と重なる。

頭では理解してはいたが、今改めて、あのロリ女神が転生して目の前に居る事に納得出来た気がする。



「──とは言え、魂自体が存在を定義されている世界じゃないと駄目だが…」


「それは私が保証するわ

貴男や私が存在している

それが何よりの証拠よ」


「…成る程な」



魂が定義されていないなら転生自体が出来無い。

つまり、俺達が居る時点で魂という存在は“世界”に認定されている訳だ。

軽い思い付きだったけど、的外れじゃなかったな。

まあ、後は俺の努力次第。

頑張るしかないな。




目的地である啄県に入った──途端に捲き込まれた。

今回ばかりは真桜の責任で片付けるのは難しい。

如何に真桜が天然で稀代のトラブルメーカーでも。

“不運”とは異なる。

真桜の場合は人災。

彼女が意図して何かを遣り遣らかした結果であって、勝手に起きはしないから。



「──っと、大丈夫か?」


「…………っ…は、はい、いや、ああ、大丈夫だ」



熱に浮かされている様に、俺を映す潤んだ双眸。

火照る様に赤らんだ頬。

小さく、惚ける様に開いたままの果実の様な唇。

絵に書いた様な“見惚れ”姿を前にして俺は思う。

群がっていた賊徒を一蹴し絶体絶命のヒロインを助け出してみれば、見事な程にフラグが立ちました。

ヒャッホ〜イッ!。

──じゃない、落ち着け、先ずは片付けてしまおう。


右手に持った直剣を振るい長年手入れもせず放置され延び放題である鬱蒼と茂る雑草の如き賊徒達を、額に汗も掻かずに刈り尽くす。

慣れている事も有り、特に苦労なんてしない。

…まあ、嫌な慣れだが。

それを気にして持った刃を鈍らせる程、生半可な覚悟ではない。


馬車は華琳・咲夜・真桜に任せて、俺・愛紗・梨芹・恋・凪は分かれて無双。

武器や防具は低級品だが、使い手は一級品ですから。

千人程居た賊徒は数分間で“血と屍(風景)”の一部と成り果てていた。

…よく鍛え抜き、此処まで成長してくれたと思う。

勿論、まだ上は有るんだし慢心しては駄目だが。

素直に誉めて遣りたい。



「怪我は無いか?」


「ええ、無事です」



馬車の所に集合して訊けば愛紗が代表して答えた。

普段なら、華琳が答える所なんだろうけど…何でだか華琳は俺の左腕を両手にてしっかりとホールド中だ。

ぎうぅ〜っ…という擬音が視界に見えそうな位に。

何か、必死さを感じる。


──とか考えていたら恋が同じ様に右腕をホールド。

…うん、良く育ってます。

──いや、そうではない。

それはそれで重要だが。

今の問題は其処じゃない。

大きさの問題では──って違う違う、そうじゃない。

煩悩退散!、煩脳大賛!、腕乳万歳!、俺の敗け!。



「え〜と…どうした?」


「……御兄様は私達の事、捨てませんよね?」


「…兄ぃ…行かないで…」


「……………………え?」



半泣きな二人に上目遣いで見詰められながら、状況の意味不明さに戸惑う。

いやいや、御二人さんや、何故そんな事に?。

それから華琳さん、何気に物凄い重い一言ですね。

逆に返答がし難いです。

取り敢えず、誰か説明してくれませんかね?。

解説キャラえもん!。

君の出番だよーっ!。

何ー処でーすかーっ?!。




愛紗達に華琳達を任せ先ず状況を把握しようとする。

すると、然り気無く咲夜が近付いて来て耳打ち。

「貴男、確か彼女“推し”だったでしょ?」と言われ素直に首肯する。

「“女の勘”って、男には判らないわよね?」と言い苦笑する咲夜。

それで何と無く察した。



(……表情や態度に出てはいなかったよな?

…恐るべし、女の勘…)



つまりだ、華琳は女の勘で“俺が本気で好き”な事を察して、自分達が邪魔者に為るのではないか、と。

そんな不安を懐いて。

恋は本能的に華琳の様子に共感してしまった、と。

そんな所だろうから。

言葉にすれば簡単な事だが気持ちは複雑である。

理解と納得は別物。

だから俺は華琳と恋の所に行って二人を抱き締める。

「何処にも行かないよ」と敢えて口にはせず。

しっかりと、強くも優しく抱き締める事で示す。

………かなり、恥ずかしい事だが、今は堪える。

後で頭を抱えてローリング・リバース・ローリング・ザ・アローン・スペシャルを遣ってしまうだろうが。

二人の為に遣り抜かねば。



「………」


「………ぷっ…」


(────がはぅあっ!?)



感動的なシーンの最中に、視線の合った咲夜が他には判らない様に吹いた。

「シスコン万歳とか?」と揶揄う様な眼差しで笑みを浮かべた瞬間。

俺のグラスハートは割れて致命傷を刻み込んだ。

それでも妹達への愛が!。

俺を支え続ける。


何とか生き残(凌ぎ切)った俺は、咲夜に「この借りは必ず返すからな…」と目で宣言しておいた。

そして、必ずや恋の魅力で堕として遣るのだと。



「あー…もういいか?」


「ああ、済まなかったな」


「いいや、助けられたのは此方だからな

だから改めて礼を言わせて貰いたい

窮地を助けてくれて本当に感謝している、有難う

私は啄県の県令をしている公孫伯珪だ」


「俺は徐恕、見ての通り、単なる旅人だ」



「単なる旅人が、そんなに強い訳ないだろ?」とでも言いた気な公孫賛の苦笑に彼女らしさを感じると俺は一人勝手に安堵する。

押し付けになるのだろうが彼女には彼女らしく在って貰いたかったからだ。

…いや、一部だけは彼女も原作とは違うみたいだ。

…少々、残念な方向で。

ガン見はしていない。

なのに、愛妹よ、何故兄の尻を見えない様に抓る。

地味に痛いんだが?。



「礼もしたい、良かったら私の屋敷に来ないか?」





公孫賛からの提案を受け、俺達は馬車にて公孫賛軍と一緒に移動する事に。

此処からは拠点の街までは徒歩で半日程の距離らしく騎馬隊である公孫賛軍なら二時間程度らしい。

あ、この世界の時間感覚は一刻=二時間みたい。

今更な事なんだけどね。

田舎暮らしだと無関係でも街で暮らすなら必要な事。

宅の場合は恋が心配です。

野生児からは脱却したけど根本的な生活基準は大きく変わってはいないので。

でも、それが恋だから。

だから、それでいいの。

“洗脳済み”ではない。

そう、決して違うから。


それは兎も角として。

移動中、公孫賛から経緯を訊いてみた所、最近領内に流れてきた賊徒の一団が、彼方此方で暴れていた。

しかも、元々居た小規模な賊徒を次々に吸収していき巨大化した為に、手遅れに為る前に討つべく兵を挙げ襲撃をしたそうだ。

所が、予想以上に数が多く苦戦を強いられ、おまけに分断されてしまった。

隊全体の二割程しか一緒に居なかった状態で包囲され「此処までか…」と覚悟を決めた時に、俺達登場。

合流した隊の残りも含めて死者は全体の一割程。

犠牲が出た事は辛いけど、九割は生き残った。

そういう意味では勝ち戦と言っても良いのだろう。

賊徒は殲滅出来たから。


──とまあ、それが大体の経緯なんだそうだ。

ただ、こういう出逢い方を狙った訳ではない。

それに関しては偶然だ。

…もしかしたら、何らかの影響が有った可能性も有るのかもしれないが。

ただ、公孫賛が居る事には俺は一切驚きはしない。

公孫賛──彼女が県令だと知っていたから俺は啄県を目指して遣って来た。

……推し面だからって事は有りませんからね?。

ちゃんと先の事を考えて、その上での決断だから。

決して“もし運が良ければ仲良くなって俺の嫁にしてぐふふっ…にゅぷぷぷっ…ふはははははーーっ!”な展開を期待してではない。

…………いや、俺も男だ。

そういった疚しい気持ちが「全く無い」とは、流石に言いはしないさ。

其処に、期待は、有った。

ああ、確かに有ったんだ。


だから、咲夜(其処の奴)、「はいはい、自演乙〜」と呆れる様な目を向けるな。

偶然なんだから、本当に。




公孫賛の屋敷に到着して、俺達は一旦街に出掛けた。

部屋を用意してくれる事を公孫賛は約束してくれたが準備にも時間が掛かる。

加えて、討伐の後始末等で公孫賛も忙しいだろうから気を遣わない様に、俺達は街を見て回る事にした。

流石に気軽に手伝う真似は出来無い部分だからな。



「御兄様、彼処の御店にも入ってみましょう♪」


「…兄、アレ、食べよ?」


「御兄様、どうですか?

その…似合いますか?」


「…兄、あーん…」


「…御兄様?…私だって…は、恥ずかしいと思う事は有るんですからね?…」


「……ぅにゅ……兄ぃ…」



──という感じで、兎に角華琳と恋に甘えまくられて兄は萌死しそうだ。

嗚呼、母さんが空の彼方で「あらあら、まだ此方には来たら駄目よ?」と苦笑し追い返す様に手を振る姿が見えています。



「──────忍っ!!」


「──っ!?、あ、愛紗?…

俺は一体……赤……天国……浪漫……うっ…頭が…」



呼び戻される様に目覚めた俺が見た物は見事な巨丘。

それだけで愛紗だと判る。

そして後頭部に感じるのはスベスベモチモチな太股。

くくっ、羨ましいだろ?。

これ、俺専用だぜ?。



「…はぁ〜…その様子なら大丈夫そうですね…

取り敢えず、忍、ちゃんと覚えていますか?」


「二人だけの宝物だ…

忘れる訳──ごぶぁっ!?」



鳩尾に肘鉄を食らったら、反動で跳ねた顔を狙っての連撃“巨柔大圧殺”を受け視界と呼吸を奪われた。

甘い香に誘われて食われる虫の気分を味わう様に。

俺は意識を手放した。



「……潰しますよ?」


「あ、はい、大丈夫です

さっき、鼻血ブーしたのが恥ずかしかっただけです

だから潰さないで?」



ガクブルしながら、愛紗の問いに改めて答える。

うん、妹達の甘え(攻め)に耐え切れずに鼻血を出して気絶した訳です。

…恐るべき妹達よのぉ…。

尚、二人は少し離れた所であわあわしている様子。

もう一回、逝きそうです。

…愛紗、一発頼む。





 公孫賛side──


故郷である啄県。

其処の県令と為って一年が経とうとしている。

暴力沙汰こそ無かったが、権力・地位という逆らえぬ暴力により虐げられてきた民を助けたい一心で頑張り何とか掴み取った。

ただそれは前任が病死し、後任の立候補者が居ない為だったりしたのだが。

気にしては駄目だ。

そんな事情は無視だ無視。

私は私の理想を目指して、此処に立ったんだからな。


──とは言え、現実というものは本当に残酷だ。

前任から三代前まで。

其奴等が残した負の遺産が原因で県の財政は苦しく、治安を改善したくても中々出来無いという状況。

それでも、私の実家である公孫家の私兵を持ち出して有名所の賊徒は粗方潰し、大分増しにはなった。


さて、これから県内各地の見た直しをしようか。

そんな矢先の、嫌な報せ。

他所から流れてきた賊徒が暴れている。

それだけでも腹立たしいが小規模だった賊徒を吸収し勢力を拡大していた。

可能な限りに人馬を集めて討伐の騎馬隊を編成して、事には臨んだ。


だが、本の少しの、些細な認識違いが生んだ致命的な隙を突かれてしまう。

包囲され、仲間が倒され、女の自分は死ぬよりも酷い扱いを受けるのだろうな。

それでも、恐怖を拭い去り戦い抜くと覚悟を決めて。

目の前で凶刃を振り下ろす賊徒を睨み付けていた。


そんな状況で、現れた。


まるで、幼い頃に聴いて、憧れた英雄達の様に。

颯爽と登場し、窮地の姫を救い出すかの様に。

私を助けてくれた。

“恋愛”とは何なのか。

理屈では何と無く言えても感情では理解が出来無い。

そんな経験すら無かった。

それが、一変した。

突風が吹き抜け、咲き誇る彩花の絨毯を撫で、花弁を空へと舞い上げる事により祝福するかの様に。

彼に視界も、意識も、心も奪われてしまった。

自分の鼓動だけの世界。

その中で、彼が振り向く。


何とか我に返り、残る皆を纏め上げて、分かれていた部隊が合流するまで堪え、賊徒の討伐を成した。

実質的には彼──徐恕達の活躍が大きかった。

あの時、徐恕達が現れて、助けてくれなければ。

私達だけの話では済まず、県内に害は及んだ筈だ。

そういう意味でも徐恕達の加勢は大きかった。



「………徐恕、か…」



ただ名前を口にしただけ。

ただそれだけなのに。

唇が擽ったくなる。

口元が緩んでしまう。

胸が締め付けられる。

指先が求めて彷徨う。


多分、きっと、この感覚が“そう”なんだろうな。

初めてだから判らない。

でも、初めてだから判る。

他とは比べられない。

他には無いから。

私は──しているんだと。

この想いが告げている。



──side out。



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