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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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32話 想刻の雨音


方針が“天下取り”となり第二の故郷とも呼べる時を過ごした山奥の一軒家から俺達は旅立った。

巣立ったと言っても間違いではないだろう。

俺達は本格的に歩み出したのだからな。

例えそれが「え?、何?、マジで遣る気なの?」とか言いたくなる道でも!。


まあ、一度、方針さえ決定してしまえば行動は早い。

思い出は多々有れど、立ち去って行く事に対し感傷に浸るという事は無い。

もしも此処に居続ける事を望むのであれば、その意を示しているだろうから。

綺麗に掃除した後、荷物は全て持っていく。

不必要な物は売って路銀の足しにすれば良い。

老師の秘蔵本とか。

…え?、中身?、一応は、確認しましたけどね。

前世で遥かにクオリティの高い物を知っていると先ず欲しいとは思いません。

寧ろ、萎えてしまいます。

抑、そんな物を読んでいる所を見られたら即終わりな環境ですからね。

危険は冒しません。


皆で山を降りながら、色々有った事に話して、途中で狩りも遣ります。

御世話になった麓の村への御土産としてね。

けどまあ、本当に色々有り退屈した記憶は無いな。

勿論、母さんに拾われた、あの日から、ずっと。

前世では味わえない様な、大変だけど充実した毎日。

それを静かに振り返る。


麓の村で旅立つ事を告げて既知の人達に挨拶をする。

──と、色々と貰う。

まあ、田舎の村だから物は食料系なんだけど。

中には珍しい薬草なんかも有ったりして驚く。

売れば良いのに、「老師や御前さん達には本当に皆で世話になったからねぇ」と笑顔で言われては。

断り切れません。

有難く頂きました。

華琳達も村の女性陣からは色々貰った様です。

ただ、愛紗が貰った直後に顔を真っ赤にしていた物は記憶から排除しました。

「これで頑張りなよ!」と背中を叩かれていた愛紗も困っていましたしね。

何で、秘伝の“精滋薬”を持ってるんですか。

それ、材料が稀少で老師の跡継ぎの俺でも持ってないマジの秘薬なんですが。

──と言うか、それを俺に使わせる気ですか?。

それ、機能低下した男性に使う秘薬なんですが?。

健康で旺盛な俺には必要は無いと言いたいです。

言ったら、色々と困るので言いませんけど。


村を発ち、それから馴染みとなった商人の居る町へ。

顔を見せ、彼の地を離れる事を伝えると残念そうな、しかし、納得している様な複雑な笑顔をしていた。

去年、無事産まれた息子を抱いた奥さんも華琳達との会話で挨拶をしていたが、こういった時は女性の方が意外と割り切るのが早い。

勿論、各々違うだろうけど男女で考えると、だ。

「もし御困りになった際、私達が御力に為れるのなら御遠慮無く頼って下さい」という商人に“フラグ”を感じたのは俺だけか。

男を攻略する気はないので笑顔でスルーですが。




商人の住む町を出発して、安く手に入れた馬に手製の馬車を引いて貰いながら、カタカタッと揺られる道を俺達は進んで行く。

御者席は三人程度しか座る事が出来無い。

その為、手綱を握った俺を除く定員数(空席)を巡って小さな闘いが発生した。

勝者は凪と愛紗であった。



「それで、これから私達は何処を目指すのですか?」


「啄県に向かう」


「え?、啄県、ですか?

董家を頼るのでは?」



“一決め”と為ったからか嬉しそうな凪の質問に俺が直ぐに答えると愛紗が意外そうな顔をして直ぐに聞き返してきた。

尚、荷台組の妹二人が凄く沈んで不貞腐れているが…気にしては駄目だ。

此処で甘やかしては二人の為に為らないからな。

…今夜は二人が好きな物を作って遣ろうかな。


──と、それは兎も角。

愛紗の質問に答えよう。



「現状だと董家を頼るのが一番手っ取り早いし確実で信頼も出来る方法だって事は間違い無いな」


「…では、どうして?」


「簡単だ、董家を頼っても“出世”の芽が無い

上に行こうと考えるのなら月を正妻に迎える位の事は遣らないと難しいだろう」



ミ゛シッ…と、空間自体が歪み軋む様な錯覚を感じる不穏な気配が背後でする。

「アカン、ウチ死んだ」と諦めて意識を手放す真桜の心の声を聞いた気がするが放り向いては為らない。

振り向けば修羅が居る。


凪と愛紗も冷や汗を流して知らん顔を貫く。

…梨芹と恋?、あの二人はナチュラルなので。

気にしないんですよ。



「董家の所は董家の統治が問題無く機能しているから賊徒も流入して来ない限り本当に少ないんだよ

だから、董家で仕官しても功績は、かなり得難い」


「…それはつまり、啄県は“功績”が得易いと?」


「可能性の話だけどな

まあ、啄県は直近の三代の県令が低能だったみたいで賊徒の被害も大きい

治安も安定していない

今は新しく代わった県令が頑張っているみたいだが…

まあ、連中に嘗められてるというのが実状だろうな」



正確に言えば、癒着だとか独裁的だったとか賄賂にて権力を振り翳していたとか最低な連中なんだけど。

其処までは言わない。

宅の娘さん達っで、正義感無茶苦茶強いですから。

下手すると“黄巾の乱”を起こすかもしれません。

アレは原作では張三姉妹が遣らかした結果なんだけど歴史的には一揆の様な物。

華琳達が本気で遣ったら、黄巾党(仮※重要)は革命を成功させてしまう。

指揮官の能力が段違いだしヤバさが半端無いもん。


だから、此処は穏便に事を運んでいかなくては。

まだ戦争を開始するのには時期尚早なのだから。

今は力を蓄えるべき時だ。




「遠足は家に帰るまで」と前世では言っていたが。

では、旅はどうなのか。

目的地に到着するまで?。

目標を成し遂げるまで?。

俺はさ、聞いていた相手にこう言ってやるんだ。

「旅に終わりなんて無い、だって、旅とは人生その物なんだからさ」と。

答えは多分、無いから。



「……ぅぁ、ぁの、その……忍の、辛そぅ、だね…」



チラチラッ…と見ない様に視線を背け様とはするが、気になる物は気になる訳で視線が彷徨っている。

恥ずかしさから耳の先まで赤く染まり、それに伴って体温も上昇している。

濡れて冷えた二人の身体も気付けば火照って逆上せるのではないかと思える程に猛る熱が二人を襲う。


原作では立ち絵しかなく、真名も与えられず、不遇を一身に集めていた彼女だが目の前に居る彼女は違う。

華雄は華雄でも攻略対象に加わったヒロインな華雄。

原作より後ろ髪だけ伸びた背中の中程まで有る綺麗なサラサラの髪が、原作より確実に成長して趙雲辺りと同じ位のボリュームを持つ美丘を、「見ないで…」と恥ずかしがって隠す。

まるで、女としての本能に従う彼女の、乙女な本音を代弁しているかの様な。

慎ましやかな恥じらいに、俺の男心は悶えている。


濡れた衣服を脱ぎ、身体を拭けないまま、共に裸で、美丘が潰れる程に密着し、互いを温め合う。

そう、大雨や雪山の小屋で有り勝ちな“生きる為に”シチュエーションです。

…梨芹、いい匂いだな。

それに、凄く柔らかいのに物凄い弾力なんですが。

しかも、普段“姐さん”な梨芹が照れてて、だけども歳上としての意地なのかは判らないが、積極的なのがグッ!…と来ます。

…愚息が、愚息があっ!。



「………ぁ、あの、ね?、私…忍になら…何だって、してあげられるから…」


「────っ!」



「誰だっ、お前はっ?!」とラブコメなら叫ぶ所だ。

原作?、そんな物は吾輩の努力により塵芥と成り果て消え去ったわっ!。

──いや、マジで。

原作の華雄姐さんも好きなキャラだったけどさ。

宅の梨芹は一味違う。

脱・脳禁したら、姉さんな美少女にクラスチェンジでファイナルアンサー!。

──うん、意味不明だ。

それ位に動揺してます!。

でも素敵なのは確か!。

俺は一体どうすればっ…。



「…だ、だから…私の事…好きにして…良いよ?…」


「──────梨芹っ…」


「──あっ、ぅんぁっ!」





──あれはそう、旅の途中馬車の車輪が外れ、車軸が折れてしまった事が全ての始まりだった。

まだ旅を始めたばかり。

前世なら「欠陥品だ!」と怒鳴り込み、「もしかして死んでいたかもしれない」と精神的苦痛を訴える事で無料修理と多額の慰謝料を要求しそうな状況だった。


…まあ、実際には「手綱を持ってみたいです」と言う華琳の一言に始まり、皆が順に遣って行く中──奴に回ってしまった。

「ぃよぉっしゃあーっ!、全力で行ったれーっ!」と車のハンドルを握ったら、性格が変わる人達みたいに──いや、彼奴は普段から“ああ”だったな。

まあ、兎に角、真桜の奴が調子に乗った結果、全力で走って行き、運悪く落石に乗り上げてしまった。

その結果だったりする。

うん、あれだね。

弟に「車貸して」と言われ貸したら事故りやがって、運転はしてないけど所有者責任で捲き込まれる様な。

そういう感じだな。


それで、修理が必要に為る訳だけど、近くに有るのが車軸に不向きな木ばかり。

車輪は殆んど無傷だった為車軸だけで済むんだけど。

そんな事も有るんだなって思う位に、生えてない。

仕方無く、馬車を道の脇に移動させて野営準備をして近くの山まで材料を探しに俺と梨芹は遣って来た。

序でに山菜とかも採取して帰ろうというのは、俺達のデフォルト・スキル。

最早、心身へと染み付いた無意識な行動だろう。

…すみません、大袈裟だと認めますから通報はっ!。


──という感じで、稀少で滅茶苦茶美味い“皇茸”を発見したんですよ!。

この皇茸は“見付けたなら皇帝に必ず献上しなくては死罪に為ってしまう”とも言われている程の物。

“幻の至極品”と言う事も有る程の稀少性と美味さで一本で人生五十年を遊んで暮らせる程の高価で売れる──事は無い、流石にね。

でも、高価なのは確か。

売り方次第だが、数年間は程々ならば遊んで暮らせる金額に軽々届く。

何時の世にも、何処にでも好事家や美食家、それなら“自慢家”が居るから。

味も間違い無い。

茸類の概念ぶっ壊してくる美味さなんです。

母さんに「生きている内に食べられるなんてね…」と感涙させた程だからな。




だから、見付けたら採るに決まってるじゃない。

そしたら──トラブった訳なんですね、ええ。

何?、あの怪植物は。

本体自体は1m程の向日葵みたいな食中植物系の様な巨大な口顎を持っていて、数十本の棘付きの触手にて攻撃し、捕食する怪物。

明らかに“異質”だった。


それを見た時の驚愕具合は猪や熊や虎の比じゃない。

自分が“新しい異世界”に迷い込んだのかと思う位に衝撃的だった。

ただまあ、植物である事に変わりはなかった。

氣を扱える俺達の前では、脅威には至らなかった。


だが、その屍が遺していた毒気も無かった“花粉”。

それが曲者だった。

俺達は氣を練れなくなり、身体が一時的に麻痺。

戦っていた場所が悪くて、崖下の川に落下。

それでも、何とか泳ぎ切り俺は梨芹を抱き抱えて川の中から上がった。

其処に、視界を奪う豪雨が降ってきた。

“泣きっ面に蜂”だ。

胸中で愚痴が溢れ返る。

兎に角、川から離れ山中へ入って直ぐ運良く見付けた洞窟に避難した。

一瞬、崖崩れしないか頭に不安が過ったが、現状では休める場所が優先だった為覚悟を決めた。


その洞窟で濡れた服を脱ぎ冷えた身体を温め合う為に抱き合っていた訳です。

勿論、梨芹を意識は有る為合意の上ですよ。

──とまあ、これが今日の事態の大まかな流れ。

まだ雨が激しいので今夜は洞窟で一泊は決定だね。

身体の麻痺は無くなったが氣は上手く練れない。

ただ、全く扱えないという訳ではないけど、使ったら制御は難しいだろう。

だから、無茶はしない。


心配なのは華琳達の方だ。

こんなにも雨が降っている以上避難は必須。

無事だとは思うが、俺達を探しには来ない方が良い。

二重遭難に為っても、今の俺では助けられない確率が非常に高いからだ。



「………忍……んぅ……」



そして何より繋がったまま抱き合う梨芹。

今、氣が使えないから俺、避妊、出来無かった。

絶対とは言わないけど。

“フラグ”の予感。

その時は責任を取り幸せにしますよ。





 華雄side──


“忍の事が好き”、と。

その想いを自覚したのは、何時だっただろう。

最初は恩人として感謝し、師として尊敬し、何よりも新しい家族として。

大切な存在だった。

それが何時変わったのか。

自分でも判らない。


ただ、自覚した切っ掛けはとても些細な事だった。

愛紗と一緒に居て話す忍の何気無い笑顔を見た時。

私は愛紗に嫉妬した。

愛紗が羨ましかった。

その感情に気付いてからは忍との距離感に悩んだ。

何より、今の関係が壊れ、居場所を失う事が怖くて。

一歩、踏み込む勇気は無く現状維持だけで精一杯。

それなのに、忍の周りには可愛い娘が増えてゆく。

仕方の無い事だけど。

他意は無い事だけど。

だけど、胸の奥で燻るのは暗く陰湿な黒い炎。


それでも、忍と離れる事は私には出来無いから。

我慢し続けていた。


そんな中、些細な事を機に“一歩”を踏み込んだ。

恥ずかしさは有ったけど、今を逃せば次は無い。

そんな気がして、気持ちを忍に打付ける事にした。


冷えていた筈の心身の奥が燃える様に熱を帯びる。

私から忍を求めながらも、忍に求められている事実に堪らなく歓喜する。

知識としては知っていても経験した事は無い。

けれど、本能的に感じる。

“これ”が私の望み。

忍の手が、指が、吐息が、唇が、肌が、熱が、匂いが私を染めてゆく。

私を満たしてゆく。

優しくも力強く、激しくも丁寧な忍の行為。

軈て、頭が真っ白に為って心地好い倦怠感が襲う中、幸福と快楽の余韻に浸る。



「………忍……私、ね?……貴男の事が…好きなの……こんな私だけど…」


「…梨芹、俺は梨芹の事を大切に想ってる

それは家族としては勿論、一人の女としてもだ

だから、傍に居て欲しい

俺を支えて欲しいんだ」


「…っ……忍っ……」



「自分を卑下するな」と。

そう言うかの様な眼差しと忍の言葉に涙が溢れる。

嬉しくて、嬉しくて。

気付けば忍を求めていて。

自分から身を寄せて。

洞窟内に谺する私の歌声と二人の奏でる音色。

意識が白夢の彼方に飛んで行くまで二人で紡いだ。


翌朝、雨は嘘の様に上がり晴れた青空が迎える。

普通なら愚痴る所だけど、今回ばかりは感謝する。

氣が問題無く扱えるのかを確かめ、身体の状態を診て──もう一度、して。

それから私達は下山した。

目的だった木は洞窟の脇に沢山生えていた。


皆と合流すれば、此方では雨は弱かったそうで。

特に問題も無くて一安心。

ただ、華琳と愛紗に笑顔で「“共有”しましょう」と言われて恥ずかしくなった事は忍には内緒です。

女同士、誤魔化せません。



──side out。



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