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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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31話 踏み出す決意


華琳に喰われ愛紗を喰らい何とか無事に収まった……収まった?……収まった事にして置こう。

それから三日が経った。

俺も精神的に落ち着いた。


だから家族会議を開く。

誓いの円卓(卓袱台)を囲み俺達は向き合っている。

俺に、華琳・愛紗・梨芹・恋・凪・真桜の七人が。

俺は両肘を着き組んだ手で俯き気味に口もを隠して、静かに話し始める。



「…さて、我々の直面する問題が何か判るか?」



ゴクリッ…と息を唾を飲む愛紗・梨芹・凪・真桜。

その反応が何気に嬉しい。

ノリは大事です。

あ、でも恋は大丈夫。

そのままで良いからね?。

下手に染まらないで頂戴。

俺の癒しの為にも。

…で、問題の華琳は。



「私は御兄様に付いて行くだけです」



──と、揺るぎ無い笑顔で言い切ってくる。

うん、それは嬉しいよ。

でもね、我が愛妹さんや。

その事に付いて話し合いがしたいから俺は家族会議を開いている訳でしてね?。

それを読み過ぎてるのって如何な物ですか?。



「御兄様、答えは同じです

私達は御兄様に付いて行く

それ以外は有り得ません」



……何だろうな。

物凄い良妻な言動なのに、「貴男ねぇ…判ってる事を一々訊かないで頂戴…それ位は察しなさいよね…」とツンデレる原作の曹操様が背後に浮かんで消える。


俺は組んだ手に額を乗せて大きな溜め息を吐く。

「話し合いって何ぞ?」とマジで訊きたくなる。

…まあ、纏まらないよりは増しなんだろうけど。

もう少し、会話のキャッチボールを楽しもうよ。

…え?、他の話題だったら喜んで遣ります?。

アー…ソーデスカ…。



「…はぁ……俺達は立場は一般人だが、持ってる力は一般人の域を超えてる

だからこそ、この力を使う意味と責任を理解する事は何よりも重要だ

今は亡き老師が俗世を離れ此処に隠棲していたのも、他人の欲望に振り回されて嫌気が差したからだ

だが、それは当然だ

老師が、俺達が持つ力とは単純に凄いだけではない

“利用価値”の有る物だ

このまま此処で隠棲し続け俗世と関わらずに生きれば関係の無い話だが…

お前達はどうしたい?

自らが得た力を、その力で何を成したいと思う?」


「この世の者、全てに対し御兄様の素晴らしさを教え称え崇めさせたいです」


「うん、待とうか妹よ

お前は兄を御神体にして、新興宗教の教祖にでも為るつもりなのかな?」


「いえ、寧ろ御兄様こそが教祖であり、生ける御神体として世を統べ、治めれば全ての民は幸福を享受する事が出来るでしょう

──という訳です、さあ、御兄様、立ちましょう!

今こそ、世に御兄様こそが絶対主だと示す時です!」


「立つか!、示す時なんて来てないし!」


「どうしてですかっ?!

御兄様なんですよっ!」


「意味が判らんっ!」





愛妹の妙な熱意を鎮め終え言い様の無い疲労感の中、愛紗達に改めて視線を向け各々の意見を訊く。

…華琳?、離すと煩いのでダブルアームベアホールドにて大人しくさせている。

俺の膝の上で、ぎゅっ…と抱き抑えています。

見た目は気にしない。



「…私は賊徒達の横行する現状を変えたいです

その為に、手を血で染める必要が有る以上、綺麗事を口にする気は有りません

ただ、私の故郷の皆の様な犠牲者を減らしたい…

それを成したいです」



最初に口を開いたのは年長である梨芹だった。

自然災害も重なった不運・不幸だった訳だが。

それでも世の賊徒に対する憎悪・憤怒は有るよな。

──と言うか、この時代に生きているのなら、多かれ少なかれ賊徒の被害に対し思う事は有るだろうし。

そういう意味では力を得た今なら必然的なのかもな。



「私も、少しでも奴等から人々を助けたいです」


「ウチも似た感じやね

ただ、戦うだけやのぅて、他でも役に立てたら、とは思ぅてるけど…

具体的には無ぃなぁ…」



凪と真桜も梨芹に続く。

まあ、予想通りではある。

凪なんて、今も尚、心奥に暗く深い焔を燻らす。

正義感が強過ぎるが故に。

それを消し去るのは簡単な事ではないからこそ。

こうして訊いている。

復讐心で己を焼く事が無い様に、その手をしっかりと掴まえていてやる為に。


真桜は凪達程ではないし、武力一辺倒でもない。

世の中に平穏を築いてゆく為には何が必要なのか。

それを冷静に考えられる。

そういった引いて客観視が出来る事は大事だ。

その辺はやはり職人として大成出来る可能性を持った彼女らしい一面だろう。



「………………付いてく」



恋は……うん、OK。

それで構いません。

取り敢えず、右手を伸ばし頭を撫でてやる。

撫で──こら、華琳、手を離しなさい。

いやいや、「やー!」じゃ有りませんから。

恋を撫でるだけですから。

少し我慢しなさい。


無駄に時間と体力を消耗し何とか恋を撫で遂げる。

……いや、可笑しいな。

何で頭を撫でてやるだけで疲弊してるんだ俺は。

プロジェクト・DBC──脱・ブラコンを発動すべきなのだろうか。

だが、それは諸刃の剣。

何故ならば、同時にDSC──脱・シスコンも並行で発動しなくては成らない。

片方だけでは駄目だ。

この俺に、愛妹紳士(兄)を辞める覚悟が有るのか?。

その決断が…出来るか?。

……いや、今はまだ早い。

そう、まだ早いな。

まだ、その時ではない。


それは兎も角、恋は一人で何処かに行かせられない。

悪事に利用されそうだから気を付けないとな。




最後に視線を合わせたのは最も影響力が有る愛紗。

華琳は……アレだしね。

痛っ!?、抓らないのっ!。

反射的に顔を向ければ俺を睨んだ後、頬を膨らませてぷいっと外方を向く華琳。

ああもう、構ってちゃんな仔猫みたいで可愛いな〜。

──はっ!?、危ない危ない危なかった。


気を取り直して愛紗の方に顔を向けたら、呆れられた眼差しが其処に有る。

…憧れ、痺れる?。

そんなのは、幻ぃ〜っ!。



「…私も今の世を少しでも良くしたいと思います

ですが、私達に出来る事は短期的な事だけです

どんなに賊徒を討伐しても根幹を絶たねば無意味…

一時的に助ける事は出来るでしょうが、其処に留まり続けなくては孰れは賊徒に再び襲われるでしょう

留まれば其処は守れます

ですが、他を助けるという事は事実上不可能です

今の私達に出来る事とは、所詮その程度ですから」



愛紗の言葉に梨芹達は顔を俯かせる。

梨芹は理解しているが故に悔しいという感じだが。

凪は真っ直ぐ過ぎる。

愛紗の言葉にさえ反発して飛び出し兼ねないな。

その危うさが心配だ。

真桜は「せやなぁ〜…」と少し冷めた感じだな。

だが、それ位で良い。

気負い過ぎるのは心身共に追い詰めてしまうから。

……恋?、俺に寄り掛かり居眠りしてますが何か?。

この娘はコレで良いの。



「だからこそ、私も華琳の意見に賛成です

私達では無理でしょう…

でも、忍なら出来ます

貴男の才器は本物です

必ずや多くの人々に平和で穏やかな未来を与えられる事が出来ます

勿論、忍一人に背負わせる気は有りません

私達も──いえ、私は共に背負って行きます

だから……忍、“世界”を取りに行きましょう」



──────ぇ?、あの、マジっすか、愛紗さん?。

貴女まで華琳と同じ様に、宗教団体を立ち上げて俺を祀り上げる気ですか?。



「いえ、違いますから

私は貴男を“主君”として現政府を打ち倒し、新たな国を築こうと──」


「──言わないでっ!?

──と言うかね、意識的に誤魔化して逃げてるって事絶対に気付いてるよなっ?!

絶対に態とだろっ!」


「──てへ、ペロッ♪」



「くっ──殺せっ!…」と思わず言いたくなった。

いや、まさかあの関羽から“てへ☆ペロ”を遣られる日が来ようとは…感無量。

いや、冗談だから。

だけどまあ、今の愛紗なら多少の冗談は言うしな。

でも、これは……うん。

此処に華琳達が居なければ襲い掛かって鳴かせて遣る所なんだけどな!。

くそっ、遣るな愛紗!。

腕を上げおってからに!。




静かに深呼吸して餅を搗く──否、落ち着く。

まだ正月には早い。

──と言うか、この世界に餅米は有るのだろうか。

今の所は見た事が無い。

…有ったら良いなぁ…。


違う違う、餅じゃない。

いや、餅は餅で重要な案件なんだけどさ。



「……愛紗?、幾ら何でも“世界”は大袈裟だろ?

せめて、地方領主辺り位がギリギリ妥当じゃないか?

買い被り過ぎだろ?」


「い──」


「──そんな事無い」



愛紗の言葉を遮ったのは、居眠りしていた筈の恋。

反射的に顔を向ければ恋が真剣な眼差しを向けていてキラキラ感が半端無い。

眩しいを超えて痛い!。

肉欲に溺れ穢れた兄の心を純真無垢なピュアエッジが容赦無く刺し抉る。

「がふっ!?」と今にも血を吐きそうなダメージに耐え平静を装い続ける。

でも、兄の豆腐メンタルは既に限界だから止めて!。

止めてあげて!。



「…兄なら出来る

…兄は私達を助けてくれた

…兄にしか出来無い

…だから、兄と一緒」


「恋…」



台詞を奪われた愛紗でさえ驚きと感動に声を震わす。

なら、言われた本人は?。

めっちゃ泣きそうっす。

良ぇ娘に育ってまぁ…。

老師、見てまっかぁ?。

あんの熊っ娘が、こなぃに立派に成ったんやで?。

一杯褒めたってやぁ…。


──という気持ちは兎も角現実問題と向き合う。



「いや、あのな、恋?

政治や統治っていうのは、物凄く大変なんだよ?

俺達だけじゃ足りない

俺みたいなのが頑張っても限界ってものが──」


「…ん、大丈夫

…兄、一杯一杯娶る

…それで、足りる」


『…………………………』



恋のあまりな発言に全員が言葉を失ってしまう。

その視線が真っ先に真桜に集中したのは普段の言動が故に仕方が無いだろう。

真桜は勢いよく首を振って「ウチやない!」と必死に主張し、無罪となった。

「…それなら、誰が?」と無言で見詰め合う。

言いそうなのは俺だろうが自爆はしない。

他も…まあ、無いだろう。

華琳が微妙な所だけど。



「……恋、誰に聞いた?」


「…ん、老師」


「あんの糞爺があぁっ!!」





魂の咆哮の後、家族会議は閉廷し、解散した。

日課を熟さなくては我々は日々を食べては行けない。

保存食は非常食。

曾てはインスタント商品やレトルト商品・冷凍食品で御手軽だった食生活でさえ今では夢の国の産物。

…鼠は無関係です。

いや、大敵ですけどね。

その鼠じゃないんで。



「──ったく、死んでまで要らん爆弾残して逝くな

きっちり片付けとけ…」



愚痴る相手は墓標。

恋に要らない事を吹き込み俺の退路を断ってくれた、老師の墓標の前に座り込み酒瓶を呷る。

ちまちま飲んでられるか。

糞爺め、もう死んでるけど向こうで死ね!。

あーっ!、殴りてえっ!。



「……はぁ〜〜〜〜……」



酒瓶を地面に置き、盛大な溜め息を吐いて天を仰ぐ。

結果は言うまでもない。

“天下取り”に決定した。

だって、一対六ですよ?、反論なんて出来ません。

特に恋の一刺しがぁ…。


……まあ、俺が主体という部分さえ除けば、可能性は十分に有った。

だから驚きはしない。

特に華琳が言い出したなら個人的には納得出来る。

賛成反対は別にしてもだ。

愛紗達にしても、世に出て大志を懐いて歩む。

そう思っていた位だ。


それが……何故、俺に?。

いやね、一緒に居てくれる事は凄く嬉しいんだよ?。

華琳と愛紗とはアレだし。

やっぱり家族と離れるのは寂しいからね。

一緒に歩めるのは。

でも、どうして俺?。

ねえ、母さん?、何故?。



「…まあ、くよくよしても仕方が無いか…」



どの道、戦と無縁で生きるというのは不可能だって、この世界に生まれ変わった時から判ってた事だ。

あの特典(チート)にしても頭の何処かで、生存本能が働き掛けた結果だろう。

“平和な世界”に行けると一切考えてはいないから。

だから俺は力を求めた。

生きる為に、守る為に。

何よりも掴み取る為に。


だったら、進んで行こう。

後悔をしない為にも。

愛する家族と一緒に。





 関羽side──


家族会議が終わり、一人で忍が山に姿を消した。

何処に行ったのか。

考えるまでもない。

間違い無く老師の所だ。



「…あれで良かったのか、少し悩む所ですが…」


「あれで良いのよ

貴女も判っているでしょ?

御兄様だって人なのよ」


「ええ、判っています」



忍には悪いのですが。

実は私と華琳は事前に話を打ち合わせていました。

華琳のアレも演技です。

……演技ですよね?。

いえ、止めましょう。

踏み込んではならない領域というのは有りますから。


私達の言った事は本心。

本当に忍ならば出来ると。

そう確信しています。

ですが、忍に“私達の為”という理由で道を決めさせ歩ませては為らない。

それは孰れ忍を押し潰してしまう事に為るでしょう。

だから私達は私達の意志で忍を支えていくのだと。

それを明確に伝える事。

忍一人に背負わせない事。

その為に協力しました。


梨芹達には内緒です。

嘘や演技が下手ですから。

真桜は遣り過ぎて不自然に為ってしまうでしょうし。



「だけど、恋の発言だけは意外だったわね…」


「華琳でもですか?」


「ええ、完全に予想外よ

ただ、結果的に御兄様への最後の一押しになったから構わないのだけど…」



そう言いながら華琳が懐に右手を入れ取り出したのは掌に収まる大きさの紙。

それも見慣れている物。

老師が作った薬剤を患者や商人に渡す際に包む紙。

そして、華琳の持つ紙には“中身”は無かった。

それが何を意味するのか。

私は想像してしまった。



「…まさか、恋に?」


「仕方が無いでしょ?

正直、恋が反対するなんて考えてはいなかったけど、どういう反応をするのかも恋だけは読み切れない…

だから、少しだけ大人しくして貰おうと思ってね」



華琳が小さく肩を竦めて、「無駄だったけれどね」と言外に示して見せる。

悪びれもせず、平然と薬を家族に盛るとは…。

華琳…恐ろしい娘です。

──と言うか、忍の事だと一切躊躇しませんね。


…まあ、そうなる気持ちは理解出来るつもりです。

流石に華琳程に躊躇の無い真似は出来ませんが。

忍を失いたくはない。

その為になら…と。

今は、以前にも増して。

その想いは強いですから。



「…そう言えば梨芹は?」


「まだ、みたいね

私としては此処を発つ前に梨芹には“此方等”に来て欲しかったのだけれど…

其処は流石に…ね?」


「まあ…そうですね」



それは個人個人の意志で。

他者が関わる事ではない。

ただ、長姉が居てくれる。

それだけで頼もしいという事は間違い無いけれど。



──side out。



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