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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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30話 春を結う人


身体に違和感を感じたのは久し振り──と言うよりか初めてに近かった。

何しろ、眠っている最中に襲撃されたりはしない。

其処まで危険な日常に身を置いてはいませんから。

まあ、精々が華琳達と寝た際に寝相等の関係で受ける不意打ち程度ですから。


だから、予想外だった。


即座に覚醒する意識。

だが、それに対する身体の反応が鈍かった。

──いや、鈍過ぎる。

まるで、四肢の自由を全て奪われているかの様に。

言う事を利かない。

だが、俺には氣が有る。

この程度ならば氣を使えば………ぁ、あれれぇ〜?、何か可笑しいぞぉ〜…。

いやいや、巫山戯てる場合じゃなくてマジで。



「──やはり、御目覚めに為られますか…」


「…………華、琳…?…」



暗闇の中、聞こえた声へと気合いで頭を向ける。

其処に──俺の足元の方に佇んでいる華琳が見えた。

嬉しそうな、困った様な、美しくも可愛らしい。

けれども、何処か妖しくて艶かしい微笑を浮かべて。

俺を見下ろしている。



「ですが、如何に御兄様と言えども初見の薬と術には対処出来無いみたいですね

ふふっ、安心しました

尤も、二度同じ手が通じるとは思いませんけれど…」


「…かり……何…を?…」


「何を、ですか?

ふふっ、判りませんか?」



頬を撫でた右手が滑る様に下へと向かえば、釣られた視界に映る光景に脳内では警鐘が打ち鳴らされる。

視界に入ると駄目だ。

そう考えて目を瞑った。

確かに視覚情報は遮断され華琳の姿を意識しなくても大丈夫には為った。

だが、その分、他の感覚が研ぎ澄まされた。

華琳の指が、肌が、吐息が触れている場所が更に熱く燃え盛る様に感じる。

濡れる唇の音。

普段ならば些細な事なのに妙に卑猥で艶かしい。

呼吸に合わせて鼻腔を擽る“女の香”に本能が滾る。

何より──視覚情報という状況認識の為には最重要な機能を失った事によって、脳内では情報を他感覚から得られた情報を統合し──想像して補完する。

そう、チラリズムと同じ。

現実よりも、想像上の方が何故か興奮するのだ。


このままでは不味いと思い目蓋を開ければ、其処には生まれたままの姿の華琳。

「…あ、詰んだ」と即座に諦めた多数の小さな俺。

だが、全滅ではない。

最後まで諦めてはならない闘魂を燃やして必死に抗う小さな俺が、起死回生だが自殺行為にも等しい名案を思い付いてしまった。

「そうだ、“奴等”を想像すれば容易く萎える!」と声を高々と上げた。

遣りたくはない。

だが、背に腹は代えられぬ現状では致し方無い。

だから俺は覚悟を決めると脳裏に描き出す。


──その直前、華琳の手が俺の頬を優しく包んだ。

潤んだ青い双眸に俺の顔が映り込んでいる。



「──御兄様、今だけは…私だけを見て下さい」





こんにちは、徐恕です。

果て無く旅をする雲の様に流れて行きたいとです。

見上げる空は青く、春風が切なく締め付けられる胸を撫でる様に吹き抜けて。

色付き始める山河を眺める双眸は、小石を投げ込んだ水面の様に揺れ滲んで。

時は経ち、十五歳に成ると──妹に食われたとです。


…いやまあ、あんな感じで半分泣きそうな顔をされて言われたら……ねぇ。

母さんに申し訳無いと思う一方で、こう為った以上は責任を取って幸せに、と。

真面目に考えてはいます。


ただ…ただね?。

ず〜っと妹として見てきた華琳なんですよ。

華琳の気持ちは尊重してもそれはそれ、なんです。



「……はぁ〜〜〜っ……」


「どうしたんですか?」


「………ああ…愛紗ぁ…」


「ちょっ!?、忍っ!?」



姿の見えない俺を心配して探しに来てくれたのだろう愛紗の姿を見た途端にだ。

視界が水中へと沈んだ。

自分でも御し切れなかった感情が溢れ出してしまう。


そんな俺の反応を前にした愛紗の取った行動とは。

その溢れる母性を象徴する母なのに(ちち)なる懐に抱き締めるというもの。

懐かしい記憶と安心感。

そして、彼方に忘れた筈の初恋(想い)が彼岸の先にて面影となって重なる。

……いや、まだまだだな。

あの熟れながらも瑞々しく豊潤な実りには届かない。


そんな愛紗の慈愛に対して無粋過ぎる感想を懐いた為思考が冷静さを取り戻し、少しだけ落ち着いた。

愛紗の背中を軽く叩く事でダブルアームホールドinパラダイスを解いて貰う。

離れ際、真っ赤に為ってる愛紗が可愛らしかったが、触れずにスルーする。

話が脱線するから。



「…有難うな、愛紗

心配してくれて…」


「い、いえ…ですが、忍?

その…何が有りました?」


「あー…何と言うかな…」



訊くべきか悩む愛紗。

言うべきか悩む俺。

多分、第三者が居たならば御互いに踏み込む事は無く話を流していただろう。

だが、今は二人きり。

そして、華琳を除いたなら一番長く共に過ごしている幼馴染みでもある。

だから、口を開いた。


昨夜の事を、多少端省るが脚色はしないで。

愛紗に聞かせた。



「………その、忍?

…貴男は…華琳の事を?」


「事後、という形に為るが向き合っていく

ただ、どうしても兄と妹の時間が長かったからな…

身体を重ねたからと言って直ぐに男女の関係に変わる事が出来るかと訊かれたら即答は出来無いな…

と言うか、妹に手を出した兄というのがなぁ…

…はあぁぁ〜〜〜っ……」


「そ、それなら私が貴男の初めてに為ります!」


「……………………ぇ?」






「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」



真っ赤に為っている愛紗。

自分の“着ていた”衣服を抱き締める様にして身体を隠しながら、今更ながらに羞恥心に身悶えている。

…ええまあ、はい。

愛紗とも致しました。

だってね、口走った直後に自分が何を言ったのか。

それを理解した瞬間に崖を飛び降りようとしたんで、止めるしか無いでしょ?。

如何に氣で強化しようとも物事には限度が有りますし本人に氣を使う意思が無い場合は投身自殺ですから。

某ドラマの1シーン風に、抱き締めて止めました。


その後は──まあ、その、流るるままに徒然に。

貪らせて頂きました。

華琳には食われたので。

愛紗の事は俺から食わせて貰いました。

御馳走様でした。


──と言うか、ですね。

俺、華琳の時は手加減してあげられていた様です。

華琳と愛紗だと身体能力や体力的に差が有るんだけど愛紗が気絶したからね。

いや、華琳も気絶した点は一緒なんだけどさ。

その、回数的にね?。

愛紗の場合、同い年だから余計に手加減出来無かったのかもしれない。

元々、愛紗の事は幼馴染みでありながら、異性として意識もしてたしなぁ…。


あ、何方等の際にも避妊はしっかりしましたよ?。

流石に十五歳で子連れ狼は早過ぎるでしょう。



「愛紗、大丈夫か?」


「ひゃ、ひゃい!」



心配して声を掛けてみたが動揺が半端無い。

と言うか、原作の関羽って妙に積極的と言うかさ。

“男慣れ”している様にも受け取れたんだよね。

個人的な印象だけどさ。


だからなのかな。

目の前の愛紗が可愛い。

ツンデレ嫉妬深い委員長な原作関羽も悪くはないが、そうなる前の純情生真面目幼馴染みな愛紗は良い。



「ひぅっ!?、じじ忍っ!?」



堪らず抱き締めてしまう。

そう、俺は悪くない。

悪いのは可愛い愛紗だ。

抱き締めながら、その身を隠す服の下へと手を入れ、唇は愛紗の頬を、首筋を、肩口を優しく愛撫する。



「…あぅ、だ、駄目っ…」


「…先に謝っとくな

悪い、我慢出来無いわ」


「ば、ばっ、かぁんっ!」



拒絶する筈の言葉。

しかし、その音は誘う様に淫靡な嬌声であり。

聞く(もの)を魅力して、自らへと惹き付ける。

意識的も無意識も関係無く雌(愛紗)という花の薫りに群がるかの様に。

覆い被さり、身体を深々と融けさせてゆく。

後の事は考えずに。

今はただ、溺れるだけ。

死なない程度に。





「華琳、今いいですか?」


「あら、どうしたの愛紗?

共有するなら構わないけど御兄様は渡さないわよ?」


「きょっ、共有っ!?

な、ななな、何をっ?!」


「貴女も、御兄様に抱いて貰ったのでしょう?」


「どどど、どうしてっ!?」


「だって、貴女の歩き方が変わっているもの

“女”の歩き方に、ね?」


「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」



「忍、華琳には先ず私から話をします、大丈夫です、安心して任せて下さい」と自信満々に言っていたのは何処の何方様ですか?。

真っ赤に為って踞っている場合では有りませんよ?。

仕事しましょうね?。

ねえ、愛紗さんや?。

速攻で見抜かれて返されて畳み掛けられてますぞ?。

「経験(修行)が足りぬ!、出直して来んか!」と言う仙人風の長髭のエロ爺が、尻を叩きそうですが?。

因みに、それは何処で積む経験(修行)なんでしょう。

若干の興味が有ります。


まあ、破れた──ではなく敗れた愛紗は置いといて、華琳に話し掛ける。



「華琳、聞いてくれ

俺は華琳の事が大切だ

幸せに成って欲しい…

幸せにして遣りたい…

その気持ちは確かだ

だけどな、それは兄が妹に向ける意味が強い…

……いや、違うな

俺は華琳の気持ちに気付きながら逃げてたんだな…

兄と妹だからと言って…

誤魔化していたんだ

華琳との繋がりを失う事が怖かったから…」


「…御兄様、私も御兄様に嫌われてしまわないか…

それは不安でした…

ですが、私は女です

愛する(ひと)の子を成す事が一つの幸せです

それに──他の誰かに奪い盗られてしまうのが嫌で、我慢出来ませんでした

強引だった事は確かですが私は謝りません

私は御兄様を愛しています

この気持ちは不滅です」



傲慢・自分勝手・自己中と言われても可笑しくない。

それなのに、華琳が言うと“華琳らしいな”と思える辺りは彼女の美徳だろう。

その清々しいまでの自分に素直な姿に苦笑する。



「…真っ直ぐだな」


「はい、御兄様が居るから私は私で居られます」


「なら、ずっと華琳の傍に居ないと駄目だな」


「はい、ずっと一緒です」





屈託の無い華琳の笑顔。

それは俺自身が願っている彼女の在り方だ。

それが俺が居るからならば失わせる訳にはいかない。

都合の良い言い分だけど、誰も困らないのなら。

遠慮する理由は無い。

この笑顔を曇らせない。

その為に、俺に出来る限り華琳に応えて遣ろう。



「…私、御邪魔ですか?」



空気に為っていた愛紗が、半泣き状態で訊いてきた。

「あら、まだ居たの?」と原作の曹操なら態と言って虐めそうな場面だが。

宅の華琳は違いますよ。



「で、貴女はどうなの?

ただ独占したいのなら私も容赦はしないわよ?」


「…ぅうぅ〜……はぁ〜…

独占したいという気持ちが無いとは言いませんが…

こういう人を好きになった以上は覚悟は出来てます

でも、偶には二人きりでの時間は欲しいですね」


「それには同意するわ

そういう訳ですので宜しく御願いしますね、御兄様」


「頑張って下さいね、忍」


「…ぉぅ…頑張リマス…」



“共有”で手を取り合った途端に不穏な気配は消えて普段の仲の良さを取り戻し連携攻撃を仕掛けてくる。

その言葉の“裏”を察して気圧されてしまう。

そんな俺の反応を見ながら二人は面白そうに笑う。

ギスギスするよりは良いが俺の苦労は気にして貰える様子は全く無い。

…あ、そゆ事っすか。

これ、ハーレムじゃない。

華琳達に“飼われる”系の錯覚ハーレムだわ。



(……まあ、華琳も愛紗も大切だから良いけどね

でも、俺にもちっぽけでも男としての股間──いや、沽券が掛かっている以上は示して見せますとも!

母さん、見ててねーっ!)



空を見上げて、心で叫ぶ。

口には出せません。

出したら負けな気がする。


それは兎も角、これからは色々大変な気がします。

セーブ&ロード無し。

攻略チャート無し。

会話文ログ無し。

無し、無し、無し。

それでも進むしか無いのが現実という物ですから。

恐れながらも大胆に。

臆さずも慎重に。

今まで以上に励みます。

まだ進むべき明日の航路が見えないけどね!。

頑張ろう。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.11
















 曹操side──




▽月□■日。

昨夜、私は遣り遂げた。

長年懐き続けた夢想。

御母様、遂に、貴女の娘は想いを結実させました。

今日という日を私は永遠に忘れる事は無いでしょう。




書いてみて、感じる事。

それは文字にしたい事でも表現出来無い程に溢れ出す想いは綴れないのだと。

だからこそ、人は心の中に深く刻み込むのだと。

その想いを知って初めて、理解出来るのだと。

今までで一番短い日記。

それを見詰めながら思う。



(……嗚呼、御兄様ぁ…)



今思い出しても嬉しさから涙が溢れそうになる。


正直、御兄様に絶縁される可能性も有り得た。

勿論、御兄様の性格的にも可能性は低いと考えた上の確信犯だったのは確か。

御兄様ならば私を拒む事は無いという狡い考えも有り罪悪感は強かったけれど。

それでも、私は我慢出来ず計画を実行に移した。

だから、絶縁はしなくても距離を置かれる事になる。

それ位は覚悟していた。



「──痛っ!?、ぅぐっ…」



御兄様の物を挿入した途端経験した事の無い痛みに、思わず泣きそうになる。

嬉し涙ではない。

苦痛から来る涙が。

その瞬間、御兄様の想いを考えなかった自分に対する罰の様に感じてしまった。

それも仕方の無い事。

罪悪感は消えないから。



「……琳…術……解け…」



御兄様の声に顔を見た。

反射的な事だったので直ぐ見た事を後悔する。

苦痛に歪む御兄様を見れば決意が崩れてしまうから。


だけど、御兄様の眼差しは「何を遣ってるんだ…」と呆れ混じりに私を心配する私の知る御兄様のままで。

「止めろ」と言わない事に私は御兄様の氣を阻害する術を解いてしまった。



「………っと、厄介な術と薬を作ったものだな…」


「…御兄様、私……っ…」



何も出来無くなった私へと御兄様の両腕が伸びた。

背中に触れた掌に引かれて御兄様の胸の上に倒れる。

そのまま私は背中を、頭を優しく撫でられなから唇を塞がれていた。

驚き、それ以上に歓喜し、御兄様の首へと腕を回す。

自然と溢れる涙。

御兄様への申し訳無さと、こんな酷い真似をした私を受け入れてくれる御兄様の優しさへの嬉しさに。



「…ったく、準備も無しに遣る奴があるか…

ただただ痛かっただろ?」


「………はぃ…」


「ちゃんと、して遣る」



そう言って御兄様は優しく私を愛してくれる。


“初めては痛い”と知って覚悟はしていた筈なのに。

ただただ身も心も痛くて。

想像していた筈の幸せとは大きく掛け離れていた。

だけど、御兄様の御陰で、私は知る事が出来た。

愛し合う事の喜びを。

それが如何なる事かを。

私は確かに刻み込んだ。



──side out。



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