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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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27話 選択する覚悟


適応・順応能力。

それは、生命が生きる為に潜在的に持つ進化の種。

環境に合わせた進化により生存出来る様にする能力。

如何なる生命であろうとも大なり小なり、必ず根幹に宿している可能性。

生命が生命である限りは、失われはしない本能。


人間は忘(慣)れる事により生きていく生き物である。

不幸や不運も時が経てば、風化してしまうもの。

勿論、異を唱える者も居る事だとは思う。

しかし、事実は事実。

紛争や戦争が無くならない現実が何よりの証拠。

如何に無惨な悲劇だろうと人々は過去よりも現在を、悲劇の可能性よりも自分の不幸や不都合を重く感じ、軽んじて生きている。

だから争いは絶えない。

自分が被害者に為らないと人々は真剣に為らない。

何よりも利己的な生命。

それが、我々人間である。



「………お腹空いた…」


「もう直ぐ出来るからな、待ってなさい」


「…ん」



朝食を用意する俺の後ろに立ち右手の指先で服の端をちょこんと摘まんで空腹をアピールしてくるのは宅の新しい家族となった呂布。

いや、“恋”である。

三ヶ月も経てば馴染むし、真名は本人の希望も有って早々に交換しました。

……だって、後々にしようと思って言ってみたらさ、「…駄目?」って感じで、悲し気に潤んだ無垢な瞳で見詰められてみなさい。

陥落以外に有り得ません。

兄心を刺激しまくりです。


ああ、因みに、恋は華琳と同い年らしい。

誕生日で言えば華琳の方が“お姉ちゃん”である。

「いい、恋?、今日からは私の事は“姉様”と付けて呼びなさい」と、ちょっと背伸びしてる子供みたいに言ってる姿に、ほっこり。

梨芹は“姉上”、愛紗には“お姉ちゃん”と呼ぶ様に希望され、了承した恋。

新しい妹の爆誕でした。


尚、俺の事を“兄”と呼ぶ事は華琳が猛反対。

自分達は“姉”と呼ばせて俺は駄目とか、理不尽だ。

だから正論で論破したら、「…だ、だって…御兄様は私の御兄様なんです…」と号泣されたら納得するしか出来ませんて。

まあ、妥協案として恋には“(にぃ)”と呼ぶ事にて決着致しましたが。


そんな感じで始まった恋を加えた新生活ですが、特に大きな変化は有りません。

食事の問題も、恋の氣脈に枷を施す事で、あっさりと解決しました。

まあ、量は多いけど。

何でも恋みたいな天然物の使い手には多いそうで氣の使用が制御出来無いから、食事等の摂取量が爆発的に増えるんだそうです。

…もしや、黄蓋さんの酒も同じ理由ですかね?。

……いや、アレは違うか。

彼女は確信犯だろうし。



「皿を取ってくれるか?」


「…ん、判った」



口数は少ないが、原作より感情の起伏は判り易い。

まだ子供だからなのか。

或いは、原作とは違うからなのかは、解らない。

それでも、この娘の未来が明るい物に成る様に。

俺は出来る事を遣るだけ。

今は取り敢えず朝食だな。




原作中、最強に近い二人。

関羽と呂布が対峙する。

客観的に見れば、歴史的な名勝負の一つと言える。

だが、現実としては二人は共に十代前半の子供。

出来る事は限られているし大人と比べれば拙い。

そういう物だ──本来は。



「哈あぁああぁっ!」


「…んっ!」



カカァンッ!、と金属とは違う甲高い音を響かせて、木製の薙刀が打付かる。

修練用にと俺が削り出したハンドメイド品です。

一応、木刀も有りますが、四人共に長物の使い手。

今は手にしてはいなくても感じる物が有るのか。

木薙刀の方を好みます。

木刀も使いはしますが。


それはまあ、兎も角として二人の手合いですが。

うん、やっぱり本物同士の一戦は迫力が違うね。

そして十二歳と十歳だとは初見の人は思わない筈。

見た目には幼さが残るが、戦い方は歴戦の武士。

見ているだけでも緊張感を懐いてしまうレベル。

其処に、“年相応”という印象は一切無い。

…愛紗に関して言うのなら明らかに身体のスペックも子供ではない。

十四歳の梨芹より上とか…関羽、恐ろしい娘…。



(…しかし、恋が加わって武の成長度合いがエグい…

愛紗と梨芹は明らかに大人顔負けの力量だよなぁ…)



二人が一騎当千の域なら、恋は一騎当万だろう。

…俺?、俺はまあ…うん、一騎当億かな。

平地で、力量・武装とかがその辺の賊徒級ならね。

氣の技量も含めて、だから恋とですら大差が有るのは仕方が無い事だ。

因みに、華琳は一騎当百。

一対一なら、恋が相手でも十分に戦えるんだけど。

一対多になると、無駄無く一撃で仕留める為に必要なパワーが不足してしまう。

氣で補う事は出来るけど、その分消耗も激しい。

最近は魚を好んで食べて、飼育し始めた牛から搾った牛乳も毎日採っている。

何が目的かは言うまい。


ただな、我が妹よ。

自分と三人とを比べるのは止しなさい。

人間、向き不向きも有るし天賦に因る資質も有る。

我が愛しき妹よ。

お前は其方等ではない。

だから早く気付きなさい。

其処には至れない事を。

“脳筋”因子が無いから。



「──忍?、今、何か変な事を考えなかった?」


「いや、彼方の戦いが中々白熱しているなって」


「…そうね、だったら私も負けては居られない!」


「その意気だ」



手合いをしている梨芹から訝しむ様に睨まれるが俺は身に付けた誤魔化しテクで難無く遣り過ごす。


まさか、こんな風に役立つ日が来るだなんてな。

何事も経験、何事も努力、積み重ねた物は意味を成し自らの糧として昇華する。

そう改めて感じるよ。


因みに、華琳は梨芹の前に俺と遣っていたので現在は倒伏(休憩)中です。

加減はしますが、手抜きは絶対に致しません。

偉大な兄の誇りに掛けて。





「…う、むぅ…参った…」


「有難う御座いました」



老師との手合わせを勝利で終えた俺は一礼する。


気持ち的には今までの色々積もり積もった不満やらを罵詈雑言で返したいが。

まあ、それが愛情の籠った厳しさであると判るが故に口にはしない。

口にする時は無礼講の時。

或いはギャグ展開に入った状態に限っている。

少なくとも老師に対しては敬意は持っているから。



「…もう二年近くなるか…

時が経つのは早いのぉ…」



懐かしむ様に呟く老師。

俺を見る眼差しは暖かくも寂し気で、誇らしくもあり悲し気にも見える。

その裡で混ざり合う感情の全てを察する事は至難。

しかし、一部は判る。

“成長を見届ける”という立場故の感傷だけは。


そんな老師の反応だけど、一度の敗北による物という訳ではない。

俺が老師から初めて勝ちをもぎ取ったのは半年後。

そして、此処一ヶ月でみた勝率は全戦全勝。

だが、見下しはしない。

特典(チート)が有るが故に丸二年に満たない短期間で追い付き、追い抜いたが、それでも時間を要した事は間違い無いから。

それだけ老師もガチチートだって事ですからね。


ただまあ、年齢的に見れば老師は俺を“鬼才”だとか評価してくれるんだろう。

いや本当に、老師、マジですみません。

俺は贋作(パチもん)です。

事情が事情の為に、真実は言えませんが。

本当、すみません。

俺は不肖の弟子です。



「…忍よ、儂からお主への最後の技を授ける」


「…最終奥義的な?」


「いや…寧ろ、禁技じゃ

使わぬに越した事は無い

しかし、お主の歩む道には“そういう”手札も一つは必要となるじゃろぉて…」


「………」



そう言われてしまうと俺も返答に困ってしまう。

危ない事はしたくないし、痛い目にも遇いたくない。

それでも大切な存在を失い悲しむだけしか出来無いで絶望の中で生きる位なら。

“そういう”方法を使って足掻く事を俺は選ぶ。

独りではないから。

だから、俺は求めたんだ。

守り抜く為に──力を。



「…忍よ、これは一度しか見せられぬし、教える事は出来ぬ禁技じゃ…

自らが会得する他にない

使えば、儂は程無く死ぬ…

儂はもう十分に生きた…

故に、躊躇いは無い

受ける覚悟が出来たなら、その意志を儂に告げよ

我が全てを汝に授けよう」


「………判りました」





家から更に山深くに入った斜度60°を越える断崖に子供なら数人が座れる程の広さの足場が有る。

普通には登って来れないが氣を扱える者であるなら、不可能な事ではない。

──とは言え、危険が無いという訳ではない。

好奇心に導かれる様にして偶々見付けた場所。

実に子供らしい秘密。

其処から一望出来る景色は正に絶景と言える。

眼下に広がる広大な森緑と優雅な深い河蒼、彼方へと流れ行く雲白に果てし無く続きゆく空青。



(…禁技の伝授、か…

また難しい選択だな…)



絶景を一人占めしながらの贅沢な苦悩タイム。

…少し位は、軽〜い思考で遣ってないと厳しい。

それ位に難しい話だ。


これがゲームイベントなら展開次第だけど、二択だ。

老師の覚悟を汲み、禁技を伝授して貰うか。

或いは、禁技よりも老師の存命を選ぶか、だろう。


例えば、ゲームなら禁技は奥義的な超必殺技であり、伝承者の資質を試すという意味も考えられる。

或いは、禁技を選ばない時老師から伝説の武具とかを授かる事が出来る。

そんな展開が考えられる。


しかし、これは現実だ。

老師が俺を試しているなら今遣るべき事ではない。

弟子に取る時に遣るべき。

それに一緒に暮らしてれば何と無く察しも付く。

老師はそう長くはない。

そして、だからこそ自分の生命を糧に全てを尽くして俺に託そうとしている。

断る理由は有るのだけれど老師の覚悟に応える事が、弟子としての俺の覚悟。


そう頭では判っている。

だが、気持ちは揺れる。



(……くそっ…覚悟して、此処に来た筈だろっ…)



母さんの死で、決意した。

この先、何が有ろうとも、俺が第一に考えるべき事は華琳達の幸せだ。

その為になら、時に犠牲を必要とする場合でも迷わず決断して進むんだと。

そう決めた癖に…悩む。

いざ、そうな為ってみれば決意が鈍ってしまう。


老師の生命と引き換え。

その事実が、本当に重い。

初めての生命の選択が。





「やはり、此処でしたか」


「ん、もう行く時間か…」



誰なのか、姿を見ずとも、氣を読まずとも、声だけで十分に判る。

一番長く共に在るから。


日課である食糧調達。

家事は共同して遣る部分と分担制の部分が有る。

洗濯は華琳達女性陣のみ。

男が関わると揉めます。

食糧調達は肉・魚担当と、野菜担当に分かれている。

今日は華琳と肉・魚担当。

さて、何方にするかな。


そんな事を考えながら腰を上げようとした俺の顔へと影が射し、見上げた。

華琳が俺を見下ろしながら──抱き締める。


「まだまだよのぉ…」と、余裕振っている暇すら無く顔面全体に感じる温もりと柔らかさ、そして懐かしい感じのする匂い。

突如塞がれた視界の中には布地だけが映っていた。


あの魏ルートの名シーンと言える曹操の微笑と抱擁。

それを今、実体験中っ!!。



(──って、待て待てっ!?

何故こう為ってるのっ?!

それはまあ、あのシーンを自分が体感してるってのは原作ファンとしては物凄い嬉しい事だけどっ!

──って、そうじゃい!

実は見た目以上、時々腕に当たる以上に育ってる様で兄さんは感動したっ!

──でもない違うっ!

いや、確かに柔らかいし、弾力も申し分無い──っては、鼻っ、離れっ…くっ、これが女騎士に御約束展開での名台詞の由来かっ!?)


「…御兄様?、私の傍には御兄様が居て下さいます

だから、どんな時でも私は弱い自分を認められます

ですが、御兄様は?

御兄様は誰かに寄り掛かる事が出来るのですか?

御兄様は優しい方です

ですから、きっと私達には御自分の弱い姿を見せては下さらないでしょう…

でも、今は私も見えません

だから、少しだけ御兄様も弱音を吐いて下さい

私が御兄様の傍に居ます

私が御兄様を支えます」


「………っ…」



不意打ちの華琳の優しさ。

どんな特典(チート)でも、自分が自分で有る限り人は価値観を変え難い。

前生と現生の擦り合わせは本当に大変な事だ。

そんな風に考えて誤魔化す事しか出来無かった。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.10
















 曹操side──




▲月□□日。

呂布──恋という、新しい家族が増えた事は嬉しい。

ずっと家族内で年下だった私にとっては新鮮な感覚。

村の子供達が「僕の弟!」「私の妹!」と言っていた時の笑顔の理由が判る。

とても可愛らしい。

そして、自分が“姉”だと思うと妙に嬉しくなる。

ただ、御兄様の事に関して恋が同じ様に呼ぶ事だけは看過出来無かった。

だって、御兄様は私だけの御兄様なのですから。

……だけど、恋は私の妹、御兄様の妹でもある。

だから仕方無く、仕方無く私とは違う呼び方でなら、という事で妥協した。

本当は嫌だけれど。

私も恋の“姉”なのだから多少は譲らなくては。


それは兎も角として。

最近の私には大きな悩みが有ったりするわ。

御兄様には相談出来無い。

しかし、御兄様以外に頼る相手も居ないから困る。

何とか然り気無く聞き出し日々頑張っている。

何時の日にか報われると。

そう私は信じている。




一人に為り、そっと両手で触って確かめてみる。

………正直、判らない。

いいえ、全く効果が無い、という事ではない。

確かな成果は感じる。

しかし……いえ、比較する相手が悪い事は確か。

それは理解しているわ。



(…くっ…あの脂肪の塊を揺らして私の御兄様の事を誘惑しようだなんて…

愛紗、恐ろしい娘だわ…)



そうは言っても女の武器に間違い無い事は私も判る。

だからこそ、私も成長には期待しているのだから。

御母様の事を考えると私も十分に期待は持てる。

ただ、私は今の私の歳位の御母様の事は知らない。

将来的には御母様みたいに成れるのだとしても。

悠長には待てない。

待っては居られない。


梨芹は身長を含め全体的に整っていて綺麗。

愛紗は…言うまでもない。

恋は私と大差無い。

ただ、生活環境の違いから私の方が大きいみたい。

ちょっとした優越感ね。



(…だけど、それだけでは御兄様は振り向かないわ)



勿論、それは武器だ。

武の達人が自らに相応しい武具を選ぶ様に、男の人も自分に相応しい女を選ぶ。

…他の事でならば私は全く負ける気がしない。

しかし、それだけは無理。

武具も見た目は重要。

それは男女にも言える。

それだけではないけれど、それを無視は出来無い。



「………はぁ〜…」



今一度、自分の物を確かめ深い溜め息を吐く。

氣を使って成長させる術は無いのかしら?。

既存の術は無いにしても、可能性は有るのかも。

研究してみる価値は有るのかもしれないわね。

遣らずに諦めるだなんて、私は絶対に嫌だもの。

遣れるだけの事は遣るわ。



──side out。



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