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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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      咽び哭く紅泪


正直、考えたくはない。

だが、ある意味で言うなら“彼女”へと繋がるだろう縁を俺は手繰っている。

意識的に握った訳ではない事は間違い無いんだが。

きっと、運命の女神様達は俺を弄りたいのだろう。

「平穏?、普通の幸せ?、何それ、つまんなーい」と何処ぞのサボり魔小覇王な感じのトーンで。

俺という駒を使ったボード人生ゲームのイベントを。

「何が出るかな〜♪」と。

鼻歌混じりに賽子を振って遊んでいるに違いない。

何時か、何処かで会ったら美人な軍師に有る事無い事チクって遣るんだから!。

覚えーてーろーっ!。


「私が何したのよっ!?」と抗議の声が聞こえた様だが風の音の聞き間違いだ。

そう、そんな事は無い。

だから、きっと、目の前の“森の熊さん”の正体も、考え過ぎてるだけなんだ。

そうそう、有り得ない。

あの“呂布”が森の熊さん遣ってるなんてね。

ハハハッ、馬鹿だな〜。

……………はぁ〜〜〜…。


現実逃避していても事態が勝手に好転し解決する様な摩訶不思議は起きない。

そうなると遣る事は一つ。

真偽を確かめるしかない。

ただ、倒してから確かめるという方法は最終手段。

先に確かめてから対応策を決める方が良いだろう。

相手が本当に呂布だったら下手に遺恨や誤解を残すと歴史寄りに展開してしまう可能性も考えられるから。


さて、具体的に確認方法はどうするのか。

その方法は、何時も一つ。

剥ぎ取り御免っ!。

──いや、顔ですよ?。

熊の頭、フードに為ってる部分を脱がすだけだから。

俺は真の男女平等主義って訳じゃなくて女尊男卑。

但し!、正面な人限定。

──な主義者ですから。


──いや、そうじゃない。

撃ち合う中、右手を掛けて破らない様に配慮しながら森の熊さんの仮面を剥ぐ。

負けたらマスクを剥がれるマスクマンが相手だったら「試合中に剥ぐかっ?!」と大激怒する事だろう。

だが、幸いにも今の相手はマスクマンではない。

そして、ある意味文字通り“化けの皮を剥ぐ”事にも文句を言われる事も無い。

だって、試合ルールの有るリングの中じゃないもん。


──うん、逃げるな、俺。

現実を、事実を直視しろ。


汚れて黒ずんではいるが、紅の髪と特徴的な触角毛。

見た目以上に、無表情さが威圧感を与える紅の双眸。

まだ顔立ちは幼いけれど、間違い無く、あの呂布だと断言出来るだろう。

この世界の彼女に姉妹とか従姉妹が居ない限りは。



「………あー……えっと、一応、自己紹介がしたい

俺は徐恕だ、君は?」


「…………………呂布…」



はい!、大当たりーっ!。

呂布だったよーっ!。

こん畜生おぉーめーっ!!。


状況が状況だからか呂布も答えるまでに間が有ったが嘘偽りではないと思う。

だって、態々呂布の名前を騙る理由なんて無いし。

まだ世に出てすらいない。

在野以前の埋もれた人材に過ぎないのだから。




取り敢えず話が出来るなら一旦戦闘は保留したまま、幾つか確認をしよう。

戦うのは後でも出来る。



「なあ、呂布は此処を通る商隊から何で馬を奪う?」


「……?………食べる…」



意味が判らないという様にこてんっ…と可愛く小首を傾げて答えた呂布。

背後から「はうっ!?」とか萌声が聞こえる気がするが今は放置しておく。

呂布の省略されまくってる言葉から読み取ると。


お腹が空いた、ぐー…。

丁度、馬(餌)を発見。

お前の物は俺の物。

馬、うまうま。

時々しか来ないけど熊より遭遇率が高い。

見逃す理由、無いよね?。

──で、今に至る。


……うん、頭が痛い。

いや、言い分としては一応理解する事は出来る。

ただ、せめて鹿や猪辺りで我慢出来無いのか。

…ああいや、彼女が原作の呂布と同様であるとしたら到底足りないわな。

馬一頭位は食べていないと力が出ないだろう。

濡れた頭部を取り替えれば元気100倍の正義の味方とは違って、食べなくては生きていけないのだから。



「……お腹が空いてるから食べる為に?」


「………ん…」


「だったら、俺が食べ物を用意してあげたら、商隊の馬を襲わないか?」


「…………………………」



俺の提案を聞いて、物凄く真剣に悩み出す呂布。

「むむむ…」とかいう字が虚空に見えそうな位に。

…え〜と…そんなに悩む事だったりするか?。

いやまあ、それは先程まで戦ってた相手から言われて「うん、判った、止める」とは言えないだろうけど。

空腹が理由の強奪だったら十分譲歩出来ると思う俺は間違っているだろうか。



「御兄様、しっかり!」


「今なら餌付け出来ます!

頑張って下さい!」


「もう一押しですよ!」



背後から向けられる声援に素直に遣る気には為れない俺は間違っているのか?。

いや、可笑しくはない。

きっと華琳達は呂布の使う魅了(チャーム)を受けて、正気ではないんだ。

だから俺が最後の砦として頑張らないと!。



「…………お腹一杯?…」


「ああ、勿論だ」



うるうると期待する純粋な瞳に見詰められ、躊躇無く即答してしまった俺。

最後の砦は可愛いに容易く陥落してしまった。

…仕方無いじゃない!。

可愛いんだから!。


けどまあ、これで馬狩りを止めてくれるんだったら、陥落しても構わない。

問題が有るとすれば彼女をどうするか、だろうな。

…まあ、華琳達の様子から考えて家族入りかな。

何より「俺が用意する」と言ったばかりだしね。

その場の口約束だとしても反故にする事はしない。

可能な限り、守る。

それが俺の矜持でもある。



「…………………駄目…」



──だが、呂布から返った答えは否だった。




軽く凹むが「御免なさい、タイプじゃないんです」と言われるよりは増しだ。

ただまあ、俺よりも背後の三人の方がショック過ぎて項垂れてるんだけどね。

そんなに残念か?。

……いや、残念だな。

色んな意味で、だけど。


それはそれとして、呂布に真意を確認しなければ。

納得出来る理由が有るなら手を引く事も有り得る。



「…どうしてもか?」


「……ん…止まれない…」



“止まれない”と。

そう言った呂布の姿を見て感じる物が有った。

必死さ、というのか。

真っ直ぐな──純粋という印象が強い彼女だからこそ“余計な思考”は介在せず言動に直結している。

それは眼を見れば判る。


では、彼女の理由は何か。

詳しい事は判らない。

しかし、“共感出来る”と直感的に思ってしまった。

自然と脳裏に浮かんだのは母さんと、華琳達の姿。

譲れないからこそ。

“止まれない”のだと。



「…なら、仕方が無いな」


「…ん…仕方無い…」



一度と解いていた構え。

再び、呂布に向けて構えて静かに深呼吸する。

俺に呼応する様に構え直す呂布と見詰め合い──風が吹いたのを合図に動く。


真っ直ぐに、小細工も無く突っ込んで来る呂布。

愛用となる方天戟は無いが潜在能力は本物。

先程までの戦り合いですら彼女は糧として喰らった。

正に天賦、正に天下無双。

戦えば戦う程に強くなる。

酔拳みたいな超体質なんて何処ぞの戦闘民族でしょ。

けど、そういう意味でなら俺の特典(チート)も決して引けは取らない筈だ。

効率は雲泥の差だけどね。


並みの肝っ玉だったら縮み上がって、ブルってる。

だって、あの呂布の突撃を受けてるんだからね。

しかも、だるだるぶかぶか熊の着ぐるみバージョンのもふもふ呂布さんが。

可愛さと恐怖のブレンドで新感覚マリアージュ。

そんな訳の判らない解説が脳裏に浮かんでいても全然可笑しくない事だろう。


だが、俺は冷静だ。

冷静に、しかし、最高潮に熱く為っている。



(…全力で来い、呂布

お前の全てを受けた上で、俺が止め(勝っ)てやる!)



華琳達には悪いが、此処は譲れなくなった。

危ないからとか、可能性の有無とかじゃなくて。

呂布だけは、俺が倒す。


幾千、幾万、幾億の言葉を並べ立てても届かない。

響く事なんて無い。

どんなに綺麗で、正論でも生命に響くのは生命だけ。

鼓動を重ねるしか響かせる術は無いのだから。

だから、俺は鳴らそう。

君が為に、生命の鼓動を。

力の限りに、君に向け。

心血を注いで奏でよう。





「……もう飲めんぞぉ…」


「起きろや、糞爺」


「──ぅごふぉっ!?

なっ、何じゃっ?!、まさか敵襲──」


「──な訳有るか、ボケ

今、帰った」


「おお、そうじゃったか

…じゃが、寝ている老人に腹踏みはどうなんじゃ?」


「大丈夫、老人虐待の場合老人が弱い事が前提だ

老師みたいに上から数えた方が早い様な妖怪(老人)に適用はされない」


「…気になる表現が有った様に感じたが…それより、其処の熊?は何じゃ?」


「………がぅ…」



老師の指摘に、後ろに居た呂布(森の熊さん)が右手を挙げて挨拶する。

ちゃんと熊を意識して鳴き真似をして見せる健気さに側に居る華琳達が堕ちた。

抱き締めて、きゃあきゃあ騒ぎ始めたので放置。

べ、別に仲間外れにされて寂しいとか、羨ましいとか思ってなんかないんだから勘違いしないでよね?!。

──と、心の乙女な誰かがツンデレっているけど。

それも放置しておく。

…触れたら駄目だよ?。



「拾ってきた熊だな」


「いや、熊って…」


「大丈夫、見た目よりかは食費が掛かるだろうけど、基本的には良い娘だから

多分、攻撃はしない筈だ」


「いや、じゃから熊…」


「HeyYou♪、そうさ此奴は熊だけど困った事に何奴も厄介がるGirl♪

だけど大丈夫、Job無し宿無しでも、甲斐性有れば愛情注入、俺等とYou、手を取り合って接すれば、きっとLoveYouに、可愛さ爆発、愛熊♪」


「………熱は無いのぉ…」


「──よし、戦争だ糞爺」



──という師弟喧嘩漫才を遣ってる間も、華琳達から揉みくちゃにされる呂布。

だが、嫌がてはいない。

戸惑ってはいるだろうけど拒絶はしていない。

それだけは確かだ。



「余所見とは余裕じゃのぉ鼻垂れ孺子が!」


「年甲斐も無く寝台の下に隠してんじゃねえよ!」


「み、見たのかっ?!」


「宅の娘達の教育上悪いと判断したんで今回の下山で商人に売り払っといた!」


「なっ?!、何という事を…

こんのっ…馬ぁ鹿ぁ弟子があぁあああぁっっ!!!!!!」





取り敢えず拳で語り合って老師に呂布を迎え入れたと誠心誠意伝えた。

回復力は若さだ。

クククッ…痛ぇだろ?。

なあ、痛ぇよな?。

一年分の利子程度だけど、受け取っといてくれや。

次ぁ、きっちりと(たま)取っちゃるけぇよぉ。



「御兄様、遣り過ぎです」


「大丈夫ですか、老師?

さあ、私が診ましょう」


「変わり身が早いのぉ…」



当然です、愛妹に嫌われて生きていける紳士(兄)など存在しませんからね。

ああ、なんて酷い。

妖怪退治(老人虐待)なんて非道な事を一体誰が!。



「……まあ、ええじゃろ

突っ込む気も失せたわ…

それで、その熊っ娘が?」


「まあ、例の噂に為ってる馬狩りの犯人ですね」


「…………がぁぅ…」



一応、反省はしている様でしゅん…となる呂布。

今は頭部だけは脱いで顔を見せているので、触角毛が元気を無くして萎れる。

それを見て保護欲と母性の化身である愛紗が迷わずに抱き締めようとするけで、梨芹が羽交い締めで止めて大人しくさせる。

…梨芹よ、その格好ですと愛紗の母性が弾むとです。



「──御兄様?」


「取り敢えず今後馬狩りが現れる事は有りませんから一先ずは、という事で」


「…儂は面倒見れんぞ?」


「俺達が育てます」



戯れてても流石は老師。

既に呂布の才器を見抜き、問題点も察している。

老師が呂布に教えられる事というのは氣関連だけ。

人付き合い、社交性は先ず老師には期待出来無い。

そういう意味では、梨芹が居てくれるのは大きい。

何だかんだで俺達の中では長姉ポジションだからな。


取り敢えず、呂布の大食の原因究明と、改善可能なら早急な改善を実行する。

山の動植物が絶滅する前に何とかしないとな。

いや、冗談じゃなくて。

マジだから。





 呂布side──


人の気配がしたから今日も馬(食べ物)が遣って来た。

そう思って近付いたけど、馬(食べ物)は無かった。

だから帰ろうとした。

そうしたら、三人が此方に向かって来た。

面倒だけど、大丈夫。

そう思っていたら、お腹に当てられそうになった。

受け止めたけど、痛い。

一回だけだったら大丈夫。

でも、そうじゃない。

この一回が“始まり”だと私は直ぐに感じた。

だから私は邪魔をしてくる存在を排除する。


──筈だったけど、それは出来無かった。

三人と一緒に居て、ずっと見てるだけだった四人目が邪魔をしてきた。

同時に判った。

この四人目が一番強い。

他の三人よりも、ずっと。


本気で戦い始めて判る。

本当に、強い。

多分、今の私よりも。

このまま戦ってても勝てる気が全然しない。

でも、逃げられない。

私は前にしか進めない。


そんな中、自己紹介だって急に言い出した。

“徐恕”は、私に食べ物を用意するから馬(食べ物)を奪うのは止める様に言う。

お腹一杯になるまで。

……………凄く、良い話。

頷きたくなった。


だけど、その時、頭の中で「走れっ!」と響いた。

その声が私を突き動かす。

だから、私は徐恕の言葉に頷けなかった。


再び始めた戦い。

命を燃やす様に、熱く。

もっと激しく、もっと強く成れる様に、命を灯す。

今よりも、一歩先に。

さっきよりも、一歩前に。

生き(走り)続ける為に。


それでも、届かなかった。

徐恕の右手が私のお腹へと当たった瞬間、判った。

死ぬ(止まる)んだって。


──その筈だった。

なのに、私は倒れただけ。

まだ息をしている。

まだ手も足も動かせる。

だから──私は立つ。

まだ生き(走)る為に。



「…呂布、終わりだ」


「…………ま、だ…」



睨み付ける徐恕は私の方に近付いてくるけど、身体は言う事を聞いてくれない。

悔しいけど、無理みたい。


俯いた私を──徐恕の腕が抱き締めてきた。



「呂布、もういいんだ…

よく頑張ったな…

もう走らなくていい…」


「……………良いの?…」


「ああ、もう大丈夫だ

だから俺達と一緒に来い」


「…………ん…」



暖かい、とても暖かい声。

ずっと前に亡くした何かが今此処に在る気がした。

同時に、ずっと聞こえてた声が聞こえなくなった。

それは、そういう事。

もう、いいんだって事。

徐恕の言った様に。

なら、私は徐恕達と一緒に行ってもいいんだって。

そう思ったら心の中で凄く温かくなった。


安心し眠くなる私の頬を、温かい雨が濡らして逝く。

柔らかい陽射しを浴びて。

空は晴れてく。



──side out。



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