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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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26話 聳峯谺す怪鳴


流るる雲は散り消えども、天空は何処までも途切れず果てし無く続く。

故に、天空を往く風の路は終わりなき旅である。

巡り続ける事が必然であり止める事は出来無い。

ただ、その旅が終わるなら世界もまた眠り逝く。

天空の風とは動物の血。

巡る事で命を生かす。


──そんな訳で、さらっと一年が経ちました。

俺と愛紗は十一歳、華琳は九歳に成りました。

そして──梨芹は十三歳。

この世界でなら結婚出来る年齢に成りました。

…まあ、色々と事情の有る止ん事無き御家の場合には一桁で結婚も有る時代。

十三歳なら可笑しくはないという認識ですからね。

ある意味、怖い世の中だと言えるでしょう。


そんな梨芹さんですが。

原作の姿に近いスタイルに成長しています。

氣の鍛練を積むと身体から脂肪が失われるのか?。

否、それは有り得ない。

何故ならば──見よっ!、雲長はたわわに実っているではないかぁあっ!!。

まだ字は有りませんが。



(…いや、これは愛紗のが特別なんだろうな…

あんな狂喜──ゴホンッ…凶器を持っているとは…

愛紗、恐ろしい娘…)



うん、本当に凄いね。

確かに早熟な女の子だと、中学に上がる前にFに届く娘も至りするもんね。

だから有り得ない事だとは俺も言いませんけど。


でもね?、それって成長に必要な栄養摂取が出来易い社会が前提条件に有るから起こり得る事でしょ?。

今の世界・この時代でだと本当に難しい事なんです。

…それはまあ?、その辺は妥協する事無く愛情込めて食べさせている俺ですから栄養失調症になる様な事は先ず有りませんけど。

三者を比較してしまったら愛紗が目立つ訳です。

ええ、本当にもうね。

「えぇい、怪しからん!」と言いながら、チラチラと視線が向き、顔の表情筋が緩む程に男には効果抜群。

勿論、効かない属性の男の方々も居るのでしょうが。

俺的にはヤバ過ぎっす。

回避上昇五積みしていても下手をすると一撃死。

撃沈する事でしょう。

………いや、でも、彼処に沈むなら本望かも。

いやいや、帰って来い!、カムバァーック、俺っ!。



「──御兄様?」


「ん?、何か有ったか?」


「……いえ、少しだけ空が気になったので」


「そうだな…今のままなら降りそうにはないが…

山の天気だからな…

油断は出来無いな」


「そうですね」



普段より感情の色が薄れ、トーンも温度も下がってる華琳の一言に冷静に対応。

ポーカーフェイスっす。

もし“ポォカァ”にすると鳩と鴉の意志疎通みたいに思えませんか?。

俺だけですかね〜。


あと、然り気無く、左手を伸ばして華琳の右手を握り繋いだままで歩く。

原作なら「こんな事で私が誤魔化されると思った?」なんて言われそうですが、宅の華琳は純粋なので。

これだけでも幾らか効果が期待出来るんです。

ええ、俺は悪い兄です。

煩悩には勝てませんしね。




人嫌い──人間不振となり山奥に引き籠った老師だが完全に外界と断絶したまま生き続ける事は難しい。

農作物──中でも特に米に関しては山中で育てるのは不可能ではないが大変だ。

故に、老師は定期的に麓の村へと下りて来ていた。

だから俺も老師の居場所を知る事が出来たのだが。


老師は人嫌いである。

そして、若くて元気の有る弟子が四人も出来た。

──となれば、態々自分が麓の村に下りる気はせず、丸投げしてくるのは当然。

世が世ならパワハラだ。


まあ、如何に氣の達人でも老師が老人なのは確かだ。

だから、介護福祉の仕事を遣っていると思えば一応は受け入れる事は出来る。

流石に「それじゃあ、金を稼いで買って来い」なんて言われたら別だが。

其処は老師も大人として、師匠として、俺達の面倒はしっかりと見てくれる。

小遣いもくれる位にだ。


…まあ、その収入源が実は流派の秘伝の薬剤の販売で成り立っており、交渉役は丸投げされているが。

うん、深くは考えまい。

だが、死ぬ前に絶対に一発顔面に決めて遣る。

それだけは心に誓おう。



「愛紗、嬉しそうね?

何か楽しみが有るの?」


「え?、あ、えっと…」


「…そう言えば、前の時に商人の方と何かしら熱心に話をしていましたね」


「り、梨芹っ!?、まさか…聞いていたのですか?」


「いいえ、姿を見ただけで話は聞こえませんでした」


「そ、そうですか…」


「梨芹、駄目じゃないの

折角の愛紗の口を割らせる切っ掛けなのよ?

今の所は「確かアレは…」という思い出す様な仕草で愛紗の意識を引きながら、視線では「私の口から先に言っても良いの?」という含みを匂わせて、自分から喋る様に仕向ける所よ」


「成る程…そうですか…」


「かかか華琳っ!?

何を梨芹に変な事を──」


「御兄様の直伝よ?」


「じぃいいぃーーーんっ?!──って、居ないっ!?」



──そして俺は風に為る。

氣で身体を強化して全力でヒィャッフゥウゥーッ!!、しながら駆け下る。

特典(チート)でコツコツと鍛え上げたショタボディの性能(スペック)は伊達政宗じゃないんだぜぇい!。



「待ちなさいっ!!」



フハハハハッ!。

残念だな、関羽よ!。

「待て」と言われて止まる確信犯は世には居ない!。

無駄な足掻き所ではなく、確実に自分の立場や事態が悪くなると判っているにも関わらず犯罪者は逃げる。

「追われるから」と言うがある意味では正しい。

死(人生の終わり)に際し、抗っているのだから。


尤も、その結果、罪が増え刑が重くなり、自分の首を締める訳だけど。

其処まで冷静に考えられる人間性が有るなら最初から犯罪行為や違反行為をする事なんて無いんだよ?。

それが出来無い愚者だから犯罪者に為るんだから。





「──それでは、此方等が今回の代金と為ります」


「…………はい、確かに」



商人に出された貨幣を数え合っている事を確認する。

四十代前半の大人を相手に十一歳の子供が対等に接し交渉と取り引きを行う様は端から見ると異常だろう。

しかし、商人も村の人々も現状を訝しむ事は無い。

それは一体何故なのか。

「あ〜…老師の所の…」や「…まあ、あの老師さんの御弟子さんだったら…」や「あの師にして、この弟子有りですね…」とか色々と初対面で言われてからは、この状態なんですよ。

…正直、何が遇ったのか、老師が何をしたのか。

訊きたいけど訊けない。

老師にも商人にも村人にも俺達は訊けないんだ。

“パンドラの箱”とは違い最後に希望が中に残るとは限らないのだから。

ええ、俺達のハートは豆腐メンタルですが何か?。


商人との取り引きを終え、俺は一息吐く。

米等の必要な品々は商人の所からは買わず、村人から買い付けるのが老師流。

一応、地元経済に貢献する気持ちは有るのだろう。

何でもかんでも便利だからネット注文で済ませると、巡り巡って地元経済悪化で自分に返って来るんだって大半の人は考えないよね。

だって便利なんだもん。

利用する事自体が悪いって訳じゃあない。

地域社会や企業等も時代に合わせて様々に変化・進化するべきだって事。

でも、その一方で若者達に利便性だけが価値ではなく“不便の中に有る価値”を示して貰いたい。

今の俺には関係無いけど。



「──そう言えば、貴方は聞きましたか?」


「何をでしょうか?」



次元(世界)の彼方に意識を向けていた時、商人の声で現実にリターンする。

…微妙に言い難いな。



「最近、この先の山間道に異常に素早くて身軽な熊が現れるのだそうですよ」


「具体的には?」


「何でも木の枝から枝へと飛び移り、地を駆けたなら猫の様に俊敏で、その腕は軽々と馬を担ぐのだとか」


「……それ、熊ですか?」


「熊らしいですよ

まあ、見た目には、という話なんだそうですが…」


「馬が奪われた、となると商隊が襲われたとか?

それなら人の方にも結構な被害が出たのでは?」


「いえ、それが熊は馬だけ奪って逃げるのだそうで、人的にも物品的にも被害は無いに等しいそうです」



そんな商人の話を聞いて、久し振りに厄介事が手招きしている様を幻視する。

平穏は長くは続かないな。





「熊、ですか?」


「正確には見た目には熊な正体不明の何か、だな」



実質的な買い出しを終えて今の住居である老師の待つ山奥の一軒家へと戻る道で華琳達に商人に聞いた話を聞かせてみる。

何故だか妙に期待感の強い梨芹と愛紗は置いておいて一番俺に慣れている華琳の反応を静かに窺う。

曾て、“曹操が軍師なら”という仮定の想像をしたが最終的には曹操に為るから諦めてしまった可能性。

それが目の前に有る。

類い稀な才器を軍師というポジションにて、如何なる姿で咲くのか。

考えるだけで身震いする。

そんな“たられば”だった妄想が現実と成るなら。

やはり、見てみたい。


ただ、華琳が“誰”の軍師になるのかは判らないが。

…劉備だけはないよな。

この世界の劉備の性格とか全然判らないんだけど。

劉備が“劉備”であるなら絶対に有り得ない事だ。

……野郎だったら…ネ?。



「……御兄様は熊の正体を何だと御考えですか?」


「賊徒の類いではないな

遣ってる事は似た様な事に間違いは無いんだが…

ただ、野生の獣が商隊から獲物(馬)だけを拐う真似が出来るとは思わない

少なくとも、俺が狩ってた熊や虎なんかは利口だが、一度戦闘態勢に入ったなら決着するまで無差別だ

途中で諦めて退くのなら、話は違ってくるけどな」


「…という事は、忍は熊は人間の可能性が高いと?」



俺の見解を聞いて、愛紗は先程とは違う剣呑さを見せ眼差しを鋭くした。

戯れていた小犬が、獲物を前にして猟犬に変わった。

そんな感じだろうか。

多分、初見の人だと愛紗の変化にはゾクッ…と寒気を感じると思う。

…特殊な方々には御褒美な感じかもしれないけどね。



「“喰らった”熊の毛皮を被っている人間…

そう考えると普通の熊より動きとしては納得出来る」


「言われてみれば…」


「ええ、確かに…」


「流石は御兄様です」



人間誰しも誉められて悪い気はしないものだ。

それが互いに信頼している相手からだと特にね。

兄さん、弾けちゃうよ?。




──とまあ、そんな感じで帰宅後、老師に話を通して出没しているという御隣の山田さん──じゃなくて、山間道に足を運ぶ。

──華琳達も一緒に。

「危ないから」と言っても「御兄様が居ますから」と屈託の無い笑顔で言われて断れる兄が居ますか?。

居ませんよね?。

もし、それが出来る奴なら愛妹兄(同志)ではない。


まあ、それは兎も角。

一年前でも其処等辺に居る量産型賊徒になら一対一で負ける事は無いだろう位の実力の有った華琳達。

老師の下、氣を学びながら一日の半分以上を強くなる為だけに費やす日々。

それを一年も続けたなら、強くも為りますって。

しかも、華琳達は紛い物のチート(俺)とは違い、真の天然物(チート)だ。

磨き上げれば光り輝くのは当然の事でしょう。

俺でも一応は光るんです。

本物は一味違いますよ。


まあ、老師からも行っても問題無いだろうという旨の言葉を貰ってはいる。

決して、宥めたりするのが面倒だから俺に丸投げしたという訳ではない。

可愛い弟子達に今の実力を認識させる為に!。

心を鬼にして送り出したに違いない!。

……絶対、留守番させたら後で愚痴られると考えて、許可したんだろうけど!。



(…まあ、俺と老師以外に正面に相手にしてないから経験としては有りか…)



猪や鹿なら容易く狩るし、熊や虎は多くは居ない。

居る場所には多いだろうが現在の家の近くには何方も多くはない。

食べる分以上を狩る事は、宅では固く禁じてます。

乱獲反対!、環境保全!、貴方の贅沢は環境破壊への第一歩かもしれません!。

本の少し見直すだけでも、自然にも御財布にも優しいかもしれませんよ?。


──なんて考えている内に目的地だろう場所に着き、背中合わせに四方を向いて静かに佇みながら集中力を高めてゆく。

此処からは狩りの時間。

良い子は寝なさい。

見ては駄目。

血生臭い、生きる命による生存競争が始まる。





 other side──


走る、走る、走る、走る。

ただ只管に走り続ける。

何処まで走り続ければ走る事を止めてもいいのか。

それは私には判らない。

ただ、「走れ!」と言われ何も考えずに走り出した。

それしか出来無かった。


遠くで聞こえていた雑音が何時しか聴こえなくなり、私の足音と風切り音だけが響き続ける様になった。

だから私は「もういい」と「止まれ」と言われるまで走り続ける事にした。

他には出来無いから。


走って、走って、走って、走り続けている内に私から何かが零れ落ちて逝く。

零れた物は二度と戻らず、だから私は前へと進む。

鮮やかな景色が有るのに、私の目には色褪せて映り、生きている感じがしない。

その事が怖くて、恐くて、嫌で、厭で、走り続けて。

走る事で遠ざけて。


気が付いた時には闇の中に独りぼっちで倒れていた。

ぼんやりとする頭の片隅で暖かな声が聞こえた。

だけど、それが誰の声か、何を言っているのか。

私には判らなかった。

脱力するままに身を任せて目蓋を閉じてしまったら、きっと暖かな声が私の事を包み込んでくれる。

何故か、そんな気がした。

だから、「もういい…」と眠ろうとした。


その時、再び声が響く。


「走れ!」、「走れ!!」、「走れっ!」「走れっ!!」──「走れぇえっ!!!!」。


疲れ果てていた筈の身体が声に導かれて抗う。

指先が地面を削り取る。

口の中に入った土と小石を吐き出して息をする。

虚ろだった視界に今一度、果ての無い先を映す。


死ね(止まれ)ない。

此処で、死んで(止まって)たまるか。

死な(止まら)ない。

まだまだ私は生き(走)る。

生き(走り)続ける。

そう、それでいいんだ。

「生きろ(走れ)!」と声は私に向かって叫ぶ。

それに応えなくては。


だけど、その前に空いてるお腹をどうにかしたい。

でも、近くには水の匂いはしないから川は無い。

草と木の匂いばっかり。

だけど、食べられる物なら何でも構わない。

兎に角、食べる。

食べる、食べる、食べる、食べて──生き(走)る。


何処へ向かうのかなんて、どうだっていい。

私は食べて、走るだけ。

何時か、私の中の命(声)が終わ(止ま)る時まで。

ただただ生き(走)る。


そうすれば、きっと。

あの暖かな声に辿り着ける様な気がするから。

その時が来るまで。

私は止まりはしない。

誰にも止めさせない。

抗い、足掻き、諦めずに、私は生き(走り)続ける。

それしか出来無い。

それしか遣らない。

ただただ果てを目指して。

私は前へと進むだけ。

其処に辿り着く時まで。

血を、肉を、命を糧に。

私は走って行く。



──side out。



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