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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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25話 修める業


“最強への道”と言えば、そう、修行である。

辛く苦しい修行無くして、主人公は強くは成れない。

打ち当たる壁が有るが故に主人公は強さを求める。

消えない悲劇(過去の傷)が有るから主人公は進む。

傷だらけな程に、主人公は魅力を増してゆく。


──なんて事を頭の片隅に思い浮かべながら空を仰ぎ乱れた呼吸を整える。



「何じゃ、だらしがない…

もう、へばったか?」


「……鬼畜爺め……」


「かっかっかっ、結構結構それだけ口が叩けるなら、大したもんじゃよ」



楽しそうに笑う華佗老師。

だが、その言葉には流石に同意するしかない。

まだ喋る気力が有るだけ、俺は増しなんだから。

当然ながら、一緒に修行を受ける事を華琳達は希望し老師が許可した訳だが。

……うん、死屍累々。

指一歩動かす気力も無い程疲弊し切って倒れている。



(…甘く見てたなぁ〜…)



老師に師事して一ヶ月。

そう思わずには居られない現状に密かに反省する。


確かに自分の考えて貰った特典(チート)は性能的には優秀ではあるし、時間さえ掛けて遣れば無双展開でも可能なポテンシャルを持つ逸品だと言える。

しかし、万能ではない。

一応、“氣”という存在を理解する事は出来たからか最初から発現させられる程順調なスタートだった。

これなら大丈夫、遣れる。

そう考えていた──のだが現実は優しくなかった。


身体を鍛えるには程々にし遣り過ぎない事が大事だが氣の場合、特に氣の総量を増やす為には“使い切る”事が必須条件になる。

それだけなら問題無い様に思えるんだけど、氣が空に為ったら先ず気絶する。

行動不可能に陥る。

それでも華琳達に比べると特典のお陰で体力面も含め強化されていた俺は何とか気絶だけはしなかった。

老師にしても、空に為って気絶せずに居て、気合いで華琳達を家に運ぶ俺の姿は予想外だったらしい。

……それが原因で、修行の内容がアップグレードされ毎日が地獄(スペシャル)な状況に為りましたが。


筋肉痛の様な現象は無く、氣が一定以上に回復すれば普段通りに活動可能。

この回復速度にも個人差が有るらしくて、愛紗が一番苦労していたりする。

何しろ、最初は三日に一度だけしか修行に参加出来ず凹んでいたからね。

今は毎日参加してます。

…ただ、愛紗の回復速度は飛躍的に上昇した、という訳ではない。

最初の頃に比べれば幾らか向上はしているが、実際は微々たる物だと言える。

増加している総量に対し、回復量・速度共に追い付く事は出来てはいないから。


では、何故毎日参加出来る様に為ったのか。

それは偶然だった。

凹んだ愛紗を慰める意味で抱き枕化して一緒に寝た所──翌朝、愛紗が全快するという現象が起きた。

それには色々と驚いたが、毎日参加が出来ると判って嬉しがる愛紗の笑顔の前に余計な事は言えず、兎に角一緒に喜ぶしかなかった。




老師曰く、氣は陰陽思想に基づく為の現象だとか。

俗に“房中術”と呼ばれる秘技的な技法も有る様に、“相性の良い男女”の場合触れ合っているだけでも、近い効果が有るそうです。

勿論、本当の房中術よりは遥かに効果は劣るらしいが愛紗の場合、回復量と速度が上がっているだけなので気にしなくていいそうだ。

……いや、気にするよ!?。

だってさ、俺は毎晩愛紗に抱き締められて眠るんだ。

同じ十歳の筈なのに物凄く自己主張の強い御饅頭が、「ねえねえ、遊ぼう?」と無垢な笑顔で抱き付いてて正面な精神の男が堪え切る事が容易いだろうか?。

否、断じて否である!。

しかし、「御兄様なんか、不潔です!」とか華琳から言われたら軽く死ねる。

「いや、男っていうのは、こういう生き物なんだ!」等と言い訳出来無い位に、容易く逝けるだろう。

ほら、想像しただけなのに精神に大ダメージを受けて沈みそうなんですから。


まあ、それは兎に角として一つ問題が生じている。

それに刺激されて華琳達も「それなら私達も御兄様と一緒の方が回復面の向上が期待出来る可能性が…」と言い一緒に抱き付いて来て──実際に効果が有るから毎晩、三人に抱き付かれて寝る事に為りました。

いや、役得ですけどね。

「逆に眠れんわっ!」と、叫びたくも為ります。

絶対に言いませんけど。


老師に「相性が良い相手は複数居るものなのか?」と訊いてみて所、「それ自体珍しい事じゃから正確には断言する事は出来んのぉ…ただ、女性の方は一人しか居らぬらしいが、男の方は複数な事も有るらしいな、其処は男女の生物的な差が関係しとるのかものぉ」と言っていた。

つまり、この状況は決して可笑しくはなく、有り得る事なんだという訳だ。

……いや、だからと言って何も解決してませんがね。



「……ふぅ〜……何とか、持ち直しました…」


「…日々、増やす為なのは理解出来ますが、こうまで同じ事に為るとは…」



氣が幾らか回復し、座って話が出来る程度に為ると、愛紗と梨芹が愚痴る。

自分の未熟さが歯痒くて、もどかしそうに。

その気持ちは、よく解る。


ただ、回復向上の為に俺が運んで抱き締めている事は忘れないで貰いたい。

役得なのは否定しないが、理性が瀕死に為るんで。


そんな俺に止めを刺すのが我が愛妹の華琳。

十分回復している筈なのに「まだ無理です」と主張し一番長く抱き締めている事を要求してくる。

……断れる訳が無いっ!。

可愛い可愛い女神様からの“お願い”なんだっ!。

拒否など有り得ないっ!。


──まあ、だからこそ俺は瀕死に為ってますが。

いやもう、死んでもいい。

母さんに彼方で会ったら、呆れられそうだけど。

顔をこしこしして、自分の匂いを擦り付けようとする愛妹(華琳)の姿を見てたら死んでもいい気がする。

考え悩む事が馬鹿馬鹿しく思えてくるな。

嗚呼、空が糞青いよ。




原作での氣は曖昧なまま、説明らしい説明は無い。

それはまあ、仕方が無い。

原作は恋愛──エロゲーで細かい設定は必要としない造りなんだから。

だから、ある意味で多くの二次創作が生まれ易い。

独自解釈やオリジナル性を放り込んでもキャラ設定が振れ難いから。


さて、二次創作ではないがある意味では“別基軸”と言える自分の在る世界。

此処での氣とは何か。

「生命力だ」と言っても、間違いではないだろう。

ただ、“枯渇すれば死亡”という事は無い。

大体身体の倦怠感・弛緩、悪くて気絶が直接的な反動だと言える。

俺や華琳達の様にだ。

勿論、二次的に倒れたりし打ち所が悪かったりすれば死亡する可能性が有るが。

それは運の要素が入る為、直接的な影響ではない。


この氣はゲーム的に言えば“MP”に相当する。

MPが尽きても、キャラが死ぬという事は無い様に、氣が枯渇しても死なない。

ただ、ゲームシステム上のMPは尽きても影響が出る事は無いが、氣が尽きると出る影響は小さくない。

…まあ、ゲームではなくて現実だから当然だけどね。


MPと似た位置付けだが、実は氣には死亡の可能性が存在していたりする。

俗に“命を燃やして”等と表現される激熱熱血展開に付き物のアレですよ。

通常の氣の枯渇で死ぬ事は先ず無いけど、文字通りに“生命を変換(燃や)して”氣を生み出す事が出来て、その氣を使用した場合には確実に生命力(寿命)を縮め元に戻す事は出来無い。

老師曰く、それは“禁術”に当たるのだそうだ。

まあ、態々弟子に自爆技を授けはしないよね。

ただ、「そういう可能性が有るから気を付けてね?」といった意味で教える事は大事なんだと思う。


尤も、この禁術は遣ろうと思っても簡単ではない。

老師位に為れば出来る事は出来るらしい。

ただ、そうして生み出した氣を扱うとなると、同時に“生きている事”を考慮し計算・制御しなくては氣は全く意味を為さない。

そう、幾ら氣に変換しても扱うだけの余力を残しつつ行使しなくては為らない。

それはそうだろう。

全生命力を変換するだけで扱えなかったら無駄死に。

自殺と変わらない。

気合いで持ち堪えるのは、架空の世界の中でだけ。

現実は非情なんです。


つまり、この禁術は聞いて想像する以上に高難度で、それが行使出来る位にまで実力が有るなら使う状況に陥る事はするな、と。

そういう教訓な訳ですね。




そんな氣で出来る事とは。

先ずは原作で一番有名だと言える“五斗米道”である医療関係の技法。

元々、華佗──老師を探し弟子入りをした一番の理由というのが治癒術の修得。

母さんの死を目の前にして如何に自分の考えが甘いか嫌という程に味わった。

同じ悔しさを懐かない為、二度と繰り返さない為に。

その手段を求めたから。

そして、実際に出来る事は事前に情報収集した上で、確信をしていた。

決して、賭けではない。


次に原作中に有る二つ。

一つ目は身体強化系。

これは実際に可能なのだと老師に実施をして貰って、目の当たりにしている。

ただ、よく有るバトル系の設定とは違い、筋力を強化した状態で拳で攻撃すると確かに威力は増すのだが、皮膚や骨までは強化されず耐え切れずに大怪我に為る可能性が高いらしい。

遣るなら硬気功等を併用し複合するべきなんだとか。

だから、基本的には強化は武器有りきの物らしい。

よくよく考えれば、楽進も素手での戦闘ではなくて、拳脚甲を装備した上でだと思い出し、納得した。


そして、もう一つ。

その楽進の代名詞でも有る氣弾と、氣で生み出す炎。

老師の話では、氣弾自体は可能なんだとか。

但し、矢の様に速くも無く投石程の距離も出ない。

また氣を光線みたいにして撃ち放つ事も決して不可能という訳ではないのだが、10m先の的に届いたなら“神業”というレベルだと聞かされ、「あー…現実は甘くないなぁ…」と一人で黄昏たのは懐かしい記憶。

だってほら、男子だったら一度は遣ってみたい必殺技の一つだと思うんだ。

「波あぁーーっ!!」って。

遣ってみたいよね?。


まあ、それは兎も角として氣で炎を生み出す方だけど無理だそうです。

…うん、この時点で楽進のスペックダウンが確定とか可哀想過ぎるんですが。

…あの娘には幸せに成って貰いたいと思うのにね。

老師の話だと、その類いの“仙術”的なのは昔の人の妄想らしいです。

炎も冷気も電気も不可能。

結界も無理だそうです。

そう、人の夢は儚いのだ。




そんな現実を突き付けられハートブレイクな徐恕さん毎日毎日、フンフンフンッフフンッフンフフンッ!!。

特典(チート)に感謝しつつ欠かさぬ未明鍛練。

腰の使い方も上達です。



「──だが、満たされぬ…

まだまだ濡れ足りぬぞ…

我が剣は渇き飢えたる獣の如くに貪りたいと唸る…」



──ヘルプ・ミー…。

み、水を…彼処に有る水を誰か運んで来てーっ!!。


調子に乗って実験した結果滝壺を目の前に倒れた。

何かもう、何日間も砂漠を彷徨ったみたいに為ってて地面を這いながら水を飲む為に必死で前進中です。

変な事を口走ったのも単に気を紛らわせる為。

しかし、そんな事に貴重な余力を使った自分に対して「…何でそんな事をした…馬鹿野郎がっ…」と目尻に汗を滲ませて顔を逸らして走り去って遣りたい。


──と、まあ、そんな事を考える程度には精神的には余裕が有って、辿り着いた滝壺で水をがぶ飲みした。

尿意(後の事)なんか微塵も考えないで、兎に角渇いた身体に水分補給!。

暫くして、落ち着いてから仰向けに寝転がった。



「…あー…マジで死ぬかと思ったわ…いやマジで…」



ちょっとした思い付きから遣ってみた実験だった。

ある意味では期待した以上だったと言えるだろう。

だが、これはヤバイ。

何がヤバイって、効果より客観的に見た画面が。

下手すると俺は“妖術師”認定されて迫害される。

まだ俺だけなら構わないが華琳達を巻き込む可能性を考えると使えないだろう。



「……まあ、賊徒相手なら遣っても構わないか…」



味方も含め誰も見ていない敵だけの殲滅戦でなら。

“死”を振り撒こう。

ただ、実戦投入出来るには程遠いレベルだけど。

でも、改めて思ったね。

子供の発想力って素直な分えげつないわ。

中身は大人だけどね!。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.9
















 曹操side──




△△月▲日。

華佗老師に弟子入りをして早くも一ヶ月が経つ。

正直、御兄様を疑う気など微塵も無くても、氣という未知の存在は目の当たりにしなくては受け入れる事は出来無かった。

けれど、御兄様が御母様の死に今も深い傷を抱えて、苦悩されているのだと知る切っ掛けにも為った。

その傷は、私が必ず癒して差し上げます。


それは兎も角として老師の修行は御兄様以上に厳しく容赦が無かった。

勿論、氣という特殊過ぎる技法を学ぶのだから仕方が無いのでしょうけれど。

少しは労って貰いたい。


それでも、最近は御兄様に堂々と甘えられるのだから決して悪くはない。

いいえ、寧ろ良い口実ね。

私自身、素直ではない事は自覚しているし、簡単には素直に甘えられないから。

だから仕方が無い事よね。

ちょっと長く御兄様に甘え抱き付いていても。

私は八歳の子供だもの。




夕食の準備をしている時、老師から話し掛けられた。

それは何気無い会話の様に始まったのだけれど。

決して軽くは無かった。



「………そうですか…」


「…驚きはせんか?」


「いえ、驚きはしました

ただ、今の私には御兄様達“家族”が居ますから」


「…そうじゃったのぉ」



私の迷いも嘘も無い言葉に老師は驚きながらも、直ぐ苦笑する様に一息吐かれて話を終わらせた。

それ以上は私も返す言葉が無いと察しての事。

老師は“蚊帳の外”だから仕方が無いでしょう。



「……お前さんから見て、坊主をどう思う?」



「最高の御兄様です」と、即答し掛けて飲み込む。

そういう意味では無い事を老師の眼差しから察して、思考を切り替える。

…恐らくは御兄様の才器に関して、なのでしょう。

それは氣に関してだけの話ではなく、広い意味で。

そして、それに伴う現状の御兄様の危うさに関して。



「…私は旅に出る前までは世間知らずで、今も自身が未熟なのだと思います

そんな私から見て御兄様の才器は別格です

…それだけに御兄様の心が危ういとも感じています」


「…そうか…彼奴は良縁に恵まれておる様じゃな…」



率直に私が感じている事を口にすると老師は笑う。

それは普段とは違う、親の慈しみの様な笑み。

その“良縁”に老師自身も含まれていると思います。



「この先、彼奴が迷う時は強引でも構わぬ

絶対に“独り”にするな」


「勿論です、私は御兄様を決して独りにはしません

この生命の有る限り」



御母様にも誓った事。

私自身で決めた事。

選んだ生き方、歩む道。

決して違えはしない。



──side out。



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