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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   潁敏さが欲しい


野宿は勿論、安い宿の寝台とも全然違った寝心地。

元々、枕が代わっても全然平気な体質な俺なんですが董家の寝台は良かった。

いや、単純に旅に出てから一番良い環境で寝たんだし当然と言えば当然だけど。

何故、高級寝具が売れるか理解出来た様な気がする。

いや本当に、マジで。


そんな感じで一夜が明け、見事に寝過ごす三人娘。

…そういう俺も普段よりは遅興だったのは秘密。

だって誰も知らないし。

野宿なら起こす所なんだが旅の疲れも有るだろうから静かに扉を閉めて退室。

良い夢、見るんだよ。


──という感じで部屋から屋敷の出口に向かう。

決して、三人を置いて行くという訳では有りません。

そんな真似はしません。

遣ったら母さんに合わせる顔が有りませんから。


途中、董家の侍女さん達と擦れ違い挨拶をしながら、迷う事無く進んでいく。

俺って実は空間把握能力が意外と高いんですよ。

だから初めての建物だとか場所でも殆んど迷わないし図面や地図を見たら脳内で立体化出来るんです。

序でにゲームで鍛え上げた記憶力とマッピング能力も有りますからね。


そうこうしている間に外に出て周囲を見回す。

決して人目を気にする様なキョロキョロ…とした見方ではなくて。

「どれ…」と大御所感有る威風堂々とした見方でだ。

俺に威厳が有るかは兎も角気持ち的には、だから。



「…意外と少ないんだな」



視界に入る限りでは通りに人の姿は少ない。

勿論、董家の屋敷が有る分御近所の建物の数が少ない事は仕方が無いが。

それにしても、今まで見た街よりも少ないと思う。



(…まあ、通りが変われば人の流れ方も違うか…)



そう考えながら歩き出して早朝の街を一人で散歩。

本当は日課の鍛練をしたい所なんだけど、それを遣る場所を確保しなくては。

…ん?、「董家の庭とかを借りないのか?」って?。

いや、見られたくないから未明に遣ったりしてるんで仮に堂々と遣るんだったら外出なんてしませんて。

まあ、この街に関して色々情報収集する為でも有るし面倒とは思わないけどね。


因みにだけど、俺達の董家での滞在予定は一週間。

昨日は入れずに一週間。

最初はね、一晩だけとか、譲歩して二〜三日が妥当な所だと思ってたんです。

でもほら、賊を相手に俺が遣っちゃったからね〜…。

商人さんの方を断る手前、最低でも一週間位は董家に滞在しないと董家の面子や体裁に不評が出るからね。

その辺りの配慮はしないと駄目って訳です、はい。

流石に一ヶ月とかは無いし長くても二週間って所。

その間を取って、十日位が一番妥当なんだろうけども俺達は一週間にした。

決して風呂や寝具の誘惑に臆した訳ではない。

確かに魅力的だけど!。

そうではないから。

…長居すると喰われそうで怖いんですよ、何か。

母さん、どうか俺達の事を護ってて下さい!。




照り付ける日射しから逃げ木陰で涼を取る。

風鈴・団扇・浴衣・西瓜にかき氷と、欲しくなる。

日本人としての魂の業か。

無い物強請りだとしても、考えずには居られない。

シャクッ…と滴る甘露。

ズキンッ!と襲う冷痛。

嗚呼、懐かしき日々よ!。

今は戻らぬ日本の夏!。



「…何故、こう為った…」



樹齢が五十年は越えているだろう桜の樹の幹に背中を預けて座った姿勢のまま、そう呟き大空を見上げれば晴れた青さが裏の飯屋。

いや、恨めしい。

そして、鬱陶しい。

「アハハハッ♪、君は一体何を悩んでるんだい?」とイケメンなチャラ男が笑いながら話し掛けてくる位に苛っ…とする。

叶うなら、この右手を熱く燃やして輝かせ、その一撃を以て爆散させたい。

それが八つ当たりなんだと判ってはいても。

この感情を打付ける相手が大空以外には無いから。

だけど、叫ぶ事は不可能。

それが出来たなら、どれ程楽だろうか。

嗚呼、大空が糞青い。


深く大きな溜め息を吐き、そんな気持ちになる原因に俺は視線を向けた。

小さく寝息を立てながら、時に寝言を溢し、暑いのに何故か俺の左腕を抱き枕に眠る華琳の姿が有る。

…可愛らしい、嗚呼、我が天使だと言える程に。

その姿は可愛い。

流石は我が愛妹だ。

妹の鑑、妹の中の妹だ。

……何かこう、そう言うと妹キャラの中の声優の妹、みたいな気がしない?。

…するのは俺だけかな…。


まあ、それは置いといて。

顔を動かせば、華琳同様に俺の右腕を抱き枕に眠れる木陰の美少女が居る。

十歳という年齢に不相応な「最近また大きく為った」という呟きを聞いた悩める正統派幼馴染みの愛紗。

人に因れば、「くっ…この歳で、なんて高みにっ…」とか言うでしょう。

その存在感に威圧されて、後退りする程度には。

でも、退けば敗けを認める事に為るから退かない。

「頑張れっ!!」と、思わず応援してしまう位の熱量を彼女達は持っているから。


…因みにだけど、個人的に“貧乳・無乳”って表現は好ましくない。

でも、“微乳”は有りね。

美乳な微乳って有り得るし感じが良いでしょ?。

けど、美乳な貧乳、美乳な無乳って…変だよね。

後ね、“夢乳”も有りね。

これはサイズ的な意味での表現じゃなく、男目線から“全ての乳は夢の乳”的な意味合いでだよ?。

“むにゅぅっ…”に掛けて一定のサイズ感を連想する人のも少なくない筈だけど本の僅かでも柔らかければ有りだと思うんです。


そんな訳で、俺の左太股を枕にしている梨芹。

「姐さん!」「お姉様!」と呼ばれる姿が似合う筈の彼女も今は可愛らしい。

そんな梨芹に頬擦りされる自体は嫌では無いのですが場所が危険です。

外側は良いけど、内側には遣らないで下さい。

御願いしますから。

後、膝下を抱き抱えるのも出来れば御遠慮下さい。

貴女は、原作よりも確実にアップしてますから。




…まあ、それでも三人とは一緒に居る時間も長いので煩悩退散出来ますけど。

……あの〜、董卓さん?、何故に、貴女まで?。


空いている筈の右太股には董卓が頭を乗せている。

華琳と同じ位の体格だから軽い印象だけど──あっ、別に梨芹達が重いっていう訳じゃないんで。

俺の感覚的には四人一緒に持ち上げても余裕っす。

──って、そうじゃなくて寝返りを打って抱き付いた董卓の胸部装甲が意外にも高性能だと触感センサーが俺に報せてくれる。

まさか、貴女まで原作より強く為るのですか?!。

正統派ヒロインに対しての正道派ヒロインまでとは…この徐恕、感涙でごわす。

──ではない、ではない、そうではない。

うん、落ち着こうな、俺。


いやまあ、うん、董卓って本当に正道の御姫様ポジに居るとは思うんだけどね。

愛紗とは違う方向で絶対に良い御嫁さんになる。

董君雅さんを見てしまうと「尻に敷かれたら終わり」だろうなと感じる一方で、「それで夫婦円満だったら十分に有りでしょ」と思う俺が居たりする。

だって董卓も董君雅さんも絶対に男に尽くしてくれるタイプだもん。

怒るとしたら、男に問題が有るに決まってるって。

その愛情に胡座を掻くか、勘違いして馬鹿を遣るか、何にしても男の方が悪い。

そう言い切れるタイプだと俺は思うんだ。

董卓となら絶対に三人以上子供が出来ると思う。


──待て!、御座りだ!、御座りしろ、駄犬(俺)!。

何だか思考が宇宙旅行からぶらっと異世界旅行してるみたいに飛躍してる。

現実逃避したいんだって、判ってるから落ち着こう。



(…あー…確か、華琳達は董卓と街に服を見に行って俺は書庫で本読んでて…

…ああ、そうだ、書庫内のめぼしい物は一通り読んで一段落したから庭を借りて身体を軽く動かして、一汗掻いたら木陰で一休み…

…うん、寝てる間に帰った四人が俺を発見したんだと察しは付いたけど、何故に四人揃って“一緒に寝る”という結論に至った?)



思わず頭を抱えたくなるが両腕は寝技を極められてて動かせません。

序でに足も極められていて移動する事も出来ません。

ガリバーな気分です。


今の“両手両足に花”って凄い事だけど一歩間違うと“苗床”的な見え方すると思いませんか?。

寄生され、身体の栄養分を吸い取られている様な。

……そうか、ハーレムってそういう事なんだね。

俺、また一つ学んだよ。

…母さん、女って怖いね。




暫くして、華琳達が起きた事で漸く俺は解放された。

実は一番最初に起きたのが董卓だったんだが、何故か二度寝をされた。

いや、眠ってはいないって判ってたんだけどね。

特に指摘も出来無いですし邪険にする理由も無いから好きにして貰ったけど。

妙に懐かれてる様な気が…いや、気のせいだな。

気のせいという事にして、考えない様にしよう。


決して、二人きりの状態で袖口を、きゅっ…と握って頬を赤く染めて潤んだ瞳で見上げられて、胸が高鳴りキスしたい衝動に駆られてギリギリの所で我に返って凌ぎ切った事は無かった。

そんな事実は無いんです。

有るとしたら、幼い二人が見た白昼夢なんです。

だから、華琳、俺の太股を抓るのは止めて下さい。

胡座を掻いた上に座ってのそれは地味に痛いので。

後、愛紗・梨芹、助けて。

見てないで助けて。



「…それで、御兄様?

どうされますか?」



不機嫌な華琳の頭を右手で撫でながら、華琳の質問の意図を汲み取る。

今日で滞在予定は終了。

明日には旅立つ予定だ。

だが、予定は未定。

だから華琳は訊いている。

安定の現状維持か。

未知の艱難辛苦か。

どうするのか、と。



「予定通り、明日発つ」


「……宜しいのですか?」



不満と不安を混ぜ合わせた眼差しを向けてくる華琳。

何が言いたいのかは判るが兄として、そんなに疑いを持たれてしまうのは不本意でしかない。

其処で、軽い意趣返し。

華琳に意地悪をする。



「ふむ…華琳、宜しいとは何を指してなんだ?」


「そ、それは…」


「…何だ?、言い淀む程に言い難い事か?

それとも…俺には言えない様な事なのか?」



──と、華琳を抱き締めて左耳に唇が触れる近さで、囁く様に問い掛ける。

無意識に身動ぎする華琳。

だが、魔王(兄)からは絶対逃げられないのだよ。

フハハハハハッ!!。



「……私は御兄様に幸せに成って貰いたいので……」



──と儚く泣き出しそうな声で呟かれてしまっては、俺は愛妹兄(おとこ)として謝るしかなかった。




何だかんだと有ったけど、旅に出てから一番気持ちが穏やかだった一週間。

それだけに自分が思うより気負い過ぎていたんだと、気付かされた一週間。

この董家の人達との日々は俺達に忘れ掛けていた事を改めて教えてくれた。

“笑って生きられる”事が本当の幸せなんだと。



「御世話に為りました」



だから、俺達は感謝を込め皆さんに別れを告げる。

二度と会えない訳ではなく縁が有れば再会出来る。

出逢いと別れを繰り返し、人と人の縁の糸に織られた運命(物語)が有るなら。

いつか、きっと、必ず。



「…本音を言えば貴男達を引き留めたい所ですが…

それは無理でしょうね」


「…その御気持ちだけで、俺達には十分です」



苦笑して言う董君雅さんの真意は“親(大人)として”子供だけで行かせる事への抵抗感が感じられる。

それでも彼女は俺達の意志を尊重して送り出す。

其処に有るのは、“諦め”ではなく、信頼。

それが俺達には嬉しい。

認められているのだと。

そう実感出来るから。



「…あ、あの…これを…」


「これは?」


「ふふっ、御弁当よ

日持ちはしないから昼には食べないと駄目よ?」



董卓が差し出した包み。

それを受け取りながら俺は自然と顔を緩ませる。

だって、女の子の手作りの御弁当ですからね。

男なら嬉しいでしょ!。

しかも、董卓が料理上手な事は滞在中に知ってるし、期待しか有りません。



「ありがとな、“月”

身体には気を付けてな」


「──ぁ…、は、はいっ、忍さん達も御気を付けて」



預け合ってはいたものの、中々口にする機会が無くて今に為ってしまったが。

これで一度は呼べたので、良しとして置こう。

尚、俺の方は呼ばれていたので今更なんだけど。


こうして、俺達は長い旅を再開した。





 董卓side──


御祖母様との待ち合わせ。

御用事で二ヶ月程、家から離れていたので寂しかった気持ちも有って、御帰りが本当に楽しみでした。

その御祖母様が背負われて現れた時には心配で心配で泣きそうでした。

「大丈夫よ」と笑う姿に、一安心しました。


其処で私は御祖母様の事を助け、背負って来てくれた男の子に気付きます。

私と同じ歳位の男の子。

だけど、今までの私が知る男の子達とは全然違う。

とても大人びていて、凄くしっかりしていて、優しく格好良くて穏やかで。

他の男の子とは違う。


一目見た瞬間、私は心臓が止まってしまうかと思う程何も考えられなくなって、ただただ、その男の子の事を見詰めていました。

でも、いざ話をしたくても男の子──徐恕さんの事を見るだけで顔が熱くなり、何も言えなくなってしまい兎に角恥ずかしい。

彼と一緒に旅をする女の子──曹操さん達とは直ぐに話せるのに、徐恕さんとは家に着くまで一言も話せず挨拶も何とか出来ただけ。

御母様に怒られ掛けますが徐恕さんは“人見知り”と思われている様で、特には気にしていないと言われて私を庇ってくれます。

やっぱり、優しい方です。

…でも、“人見知り”だと思われているのは嫌なので翌日からは頑張って話せる様に為りたいです。

ただ、御祖母様や御母様が「頑張りなさい」と言って妙に優しくしてくれるのは何故なのでしょうか。


上手く話せない私に対し、徐恕さんは苛立ちも見せず穏やかに接してくれます。

そのお陰も有り、少しずつ話せる様になって、三日も経つと普段通りに話せる様に為りました。


曹操さん──華琳さん達と街に服を買いに行った後、御庭で日向ぼっこ?をする徐恕さんが居て、皆さんと一緒に御昼寝をする事に。

最初は「いいのかな…」と不安でしたが、徐恕さんの太股を枕にして横になると何だか安心して…気付くと徐恕さんが起きていて私と目が合いました。

私も寝ていたのだと三人の寝ている姿を見て理解。

恥ずかしいのも有ったけど…でも、後もう少しだけ、傍に居たいと思って。

“二度寝”をしました。

眠ってはいませんでしたが徐恕さんは何も言わずに、受け入れてくれて。

その感じが、とても温かく優しく思えました。


でも、徐恕さん達は最初に言っていた通りに発たれ、御別れしてしまいました。

「行かないで」「皆一緒に宅で暮らしませんか?」と言いたく為りました。

だけど、それを言ったら、私は一緒に居られなくなる気がして…飲み込んで。

胸に仕舞います。


皆の、忍さんの姿を見詰め再び会える日を待ちます。

私達の縁が引き合う季を。



──side out。



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