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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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1話 出逢いは衝突系


死んだ時の事は判らない。

何しろ気付いた時には既に彼処に居たのだから。

だから、こうして実感する感覚が有るのは面白い。

辺り一面の光に融ける様に、薄れてゆく意識の中、「あ〜、これが転生なのか〜…」と、暢気な感想を懐きながら。

俺は新しい人生へと向かう事に心を躍らせていた。






──という感じで意識が沈んで行ったかと思ったらトンネルを潜り抜ける様な感じで暗闇に光が灯る。

そして暗闇を、自分まで飲み込む様に光が弾ける。



「………ぅん…」



朝の気怠さの様に。

二度寝をしたくなる様に。

意識は目覚める事を拒む。

「…あと…五時間…」とか普通に言いたくなる。

それでも、「早く起きろ!、新しい人生だぞ!」と騒ぐお子ちゃまな俺が居る。

その声に仕方無く起きる。


重く、冬の布団に潜る様に抵抗し嫌がる目蓋を開き新しい世界()を瞳の中に映し込んでゆく。



「……………ほわっつ?」



思わず、そう呟いた。

しかし、俺は悪くない。

そう、決して悪くない。

何故なら──目に映る緑・緑・緑・茶・また緑。

つまり、森林の景色。

それも秘境探検番組とかで見る様な、密林の様相。

到底、人の手が入った様な雰囲気は感じられない。

何度か瞬きをした後、一旦目蓋を閉じて考える。

思い返すと──ぼんやりと脳裏に浮かんでくる情景は苦労は有ったが、楽しくて幸せな日常風景。

其処で、ふと気付いた。

「…ああ、まだ夢の中か」そう思いながら苦笑して「さて、起きないとな」と意識を現実へと向ける。

そして目蓋を開いた。



「…………………マジ?」



しかし景色は変わらず、生い茂る緑に染まるまま。

口の中で舌を噛んでみるとはっきりと痛みが有る。

改めて思い返してみる。

あの情景の中、俺は五感を伴っていただろうか?。

………無い、覚えが無い。

あんなにも生々しい愛欲に彩られていた日々が──いやまあ、それだけじゃないですが、記憶の中では一番印象的なだけ──まるで遠ざかる様に色褪せ、現実味を失ってゆく。

その瞬間に理解する。

その二つの何方が幻夢で、何方が現実なのか。

否応無しに、である。



「……俺は…幻夢(彼方)が良かったっ…」



溢れ出しそうになる無念を右腕で抑える様に覆う。

見たくもない現実からの、逃避なのかもしれない。

だが、それが叶わない事は理解しているつもりだ。

だから、これは今だけ。

今だけ、本の少しだけ。

許して欲しい。



「…儚過ぎるだろっ、俺の桃源郷(ハーレムライフ)よーっ…」



悔し涙を流しても。

罰は当たらない筈。

だって、健全な男性ならば懐いて当然だろうから。


返せよなっ!、俺の期待と欲望(純情)な理想郷を!。

見せんなよなっ!、直ぐに奪い去る甘い夢なら!。

「人の夢と書いて、儚い」なんて一言で誤魔化せる様な簡単な話じゃないから!。

ああっ、クソッ!。

チクショオォオォーッ!!。



「……はぁー……」



取り敢えず、胸中で叫んで不満を発散し終えた事でスッキリとした。

…声に出さないのか?。

いやいや、幾ら感情任せに叫びたいとしてもだ。

此処は密林の中です。

それも“異世界”の、だ。

勿論、地球・日本基準の可能性は有るんだけどさ。

それでもだ、元の世界とは確実に違っている訳だ。

そんな危うい状況に有って、無警戒に叫ぶだなんて真似を遣ろうとは思わない。

──と言うか、幾ら何でも、そんな事をする馬鹿の気が知れないです。


そんな訳で気持ちの整理も一応は出来たので改めて現状を確認する。

先ず、周囲の状況。

此方は密林の中である事は変わらない。

獣道っぽい物も無い。

ただ、運は良いのだろう。

直ぐ側に背の低い草に隠れ流れている小川が有る。

川幅は50cm程で、深さは……20cm程かな。

手を入れて計ってみた。

飽く迄も、前世の自分的な感覚で、だけど。

テンションは戻ったけど火照っていた身体から熱を奪う様に、ひんやりとした水の流れが心地好い。

常緑樹ではなさそうだから季節としては今は春から夏辺りになるのかも。

…飽く迄も日本人としての感覚で、だけどね。


そんな小川を覗き込めば、水面に映る顔が有る。

全く、見覚えの無い幼さが残っている顔だ。

将来性は有ると言えるが如何せん幼少時に可愛いと言っても将来も有望だとは限らないのだ。

だから、過度な期待はせず中の上なら十分だ。

……嘘です、出来る事なら上の下は欲しいです。

まあ、現状から考えると…うん、中々だと思う。

そんな今の容姿は藍色の肩に掛かる位の長さの髪。

深い青──いや、蒼の瞳。

俺には少し生意気そうに見えるのは自覚が有る為か──曾ての自分よりは確実にイケメンに成るだろう事が腹立たしいからか。

それは定かではない。

追及をしても誰も幸せには為れないから無視無視。

歳の頃は……6歳位?。

比較対照が無いので、今一自分の背格好を正確には把握する事が出来無い。

その辺りは暫定。


小川から顔を上げると俺は両手で今の身体を撫で、叩き、触りながら確認する。

特に、我が半身は念の為に両手で、しっかりと。

……うむ、有った有った。

いや、性別は男を希望して転生したんだけどさ。

ほら、こういう時には有り勝ちな「…あ、あれ?…無い?」的な事が起きる可能性は無きにしも非ず。

「あっ、ゴメンねー☆、間違えちゃった♪」という遣らかしの可能性を疑わず放置は出来無いからな。

良かった良かった。

新しい我が半身よ。

長い付き合いになるけど、宜しく頼むな。

「応よ!、任せときな旦那っ!」──という感じで元気良く答えて欲しい所だが。

まだまだ子供だからな。

…フッ…まあ、今はそれで構わないだろう。

軈て帝王となる時までは慎ましく健やかに大人しく育ってくれればいい。

お前の完全覚醒(めざめ)はまだ先なのだからな。




さて、そんな感じで現状を確認し終えた訳ですが、次に何をするべきか。

そう、真実は──ではなく答えは簡単、脱出だ。

こんな密林で、サバイバルを続けられる様な技能や知識なんて俺には無い。

全く無いとは言わない。

しかし、その多くは現代の“文明の利器”が有って初めて可能になる。

──と言うか、最適でもサバイバルナイフ的な物を一つは下さいよ。

素っ裸じゃないけどさ。

服以外何にも無しって…無理ゲー過ぎるでしょ!。



「…こんな事なら物質変換の能力にしておけば……いや、結局はこの世界で使えない可能性が有る以上選択は間違ってはいない……筈…」



いや、本当に無制限のチート持ちの異世界転生って良いよね。

こんな状況下に放り出されようとも、楽勝ムードで平然と生きられるんだし。

くっそ、羨ましいわ。


…まあ、それは兎も角。

密林から脱出をするのなら……先ずは小川の流れに沿って下って行く事。

そういう意味で言えば、最低限のアフターケア(優しさ)なのかもしれないな。


そんな訳で、小川に沿って歩き初めていく幼児()

偶にニュースに為ってる子供の行方不明事件でさ、最終的には子供が一人で迷いながら歩きまくってて──っていう事が有ったけど。

うん、子供って凄いわ。

そう思わずには居られない状況だったりする。

身体は子供でも中身──精神的には大人だからさ、色んな事を考えてしまう。

すると、滅茶苦茶不安で、恐怖心に苛まれる。

勿論、子供だって恐怖心や不安は有るんだけど。

大人は無駄に知識や情報を持ってる分だけ恐怖心を煽られるんだよ。

だから孤独感とかよりも様々な死の可能性に対する精神的な摩耗が大きい。


当然だけど普通に遭難して生存・生還出来る可能性は知識や技能を持った大人が確実に勝るだろう。

単純に精神面だけを言えば子供の方が意外と逞しく強いと言えるだろう。

まあ、飽く迄も俺の個人的意見でしかないけどさ。


そんな事を考えながらも慎重に草木を掻き分けつつ小川に沿って下って行く。

──その途中での事。

ガサッ!、と音がした。

草木を掻き分けている以上そういった音がするのは別に可笑しな事ではない。

事実、その瞬間には自分は茂みに分け入っていた。

だが、その音は自分よりも離れた場所から響いた。

そう──左斜め後ろから。

ツー…と冷たい汗が首筋を伝い落ちて行く。

唐突に煩く聞こえ始めた鼓動を気にしない様にして──静かに振り向いた。


アレではない神に身勝手な祈りを捧げながら。

“気のせい”を望み。


深い茂みの中、暗闇に潜みながらも瞬く鋭い眼光が──という事は無い。

いや、出来れるなら其方の方が良かったかも。

だって──自分の倍以上も有るの高さから、此方を見下ろしている円らな二つ黒い瞳。

それと、バッチリと視線が重なってしまった。


言っておくが決して熊が目の前に居る訳ではない。

しかし、熊並みの巨体。

其奴は──猪だった。

マンモス並みの立派過ぎる牙を生やした巨大猪。

もうさ、猪って言うよりもマンモスなんだよね。

そう、小型のマンモス。



「………………っ!!!???」



──とか冷静に思いながら、身体は危機回避と生存本能に従って動く。

一切の躊躇無く、全力での逃亡を開始する。

先に動いた事、二足歩行の瞬発力を最大限活かして巨猪から一気に距離を取る。

だが、そうして稼ぎ出したリードは加速力では俺に勝る四足歩行の巨猪によって、確実に詰められる。

出来れば大人──とまでは言わないが、せめて俺が十歳越えた身体だったら!。

そう思ってしまう。


兎に角、不利過ぎる。

先ず歩幅が違う。

更に、先行する此方は身体が小さい上に道無き道を草木を掻き分けて進まなくては為らないし、パワー不足で簡単には進めない。

対して、巨猪(彼方)は俺の後を追ってくるから身体に比べ小さくても一応の道が出来ている訳で。

しかも猪突猛進の言葉を体現する様にパワー全開で密林を開拓する重機の如き勢いで迫ってくる。

勝ち目なんて無い。

そう思えてしまうのだが、一つだけ利が有った。

この小さな身体でだったら出っ張った木の枝の下も容易く潜り抜けられる。

対して巨猪は下手をすれば引っ掛かってしまう。

勿論、それが判るらしく、回避はしているが確実に速度は削がれ、回り込んだ分だけ走行距離が増える。

其処に活路を見出だす。


ジグザグに、滅茶苦茶に、兎に角逃げ回る。

その上で、小川から離れず下って行く。

それしか俺が生き残る術は無いのだから。

俺は足掻いて、足掻いて、足掻きまくるだけだ。



(異世界だからなのっ?!

あんな怪物猪が居るなんて有り得ないってっ!

──と言うか無理無理無理無理ゲーだあぁーっ!!!!)



コマンド→逃げる。

「だが、回り込まれた」をリアル体験してます!。

携帯端末が有ったら速攻で上げてるんだけどね!。

──なんて考えてる自分に余裕を感じてしまう。

いやいや、実際にはあまりにも辛い自分の現実から目を逸らして逃避しているだけです。

そうでもしないと精神的に持たないからね!。



「──うぉわっ!?」



──とか思ってると爪先が何かに引っ掛かった。

全速力で逃げている途中で躓いてしまうと前宙するみたいな感じで身体が宙に放り出されてしまう。

受け身?、いや、それより身体を丸めるべき?。

瞬間的に二択が浮かぶ。

前者は衝撃に対して。

後者は草木に突っ込むから、負う擦り傷・切り傷を少しでも減らす為の対応。

両方は選べない。

遊園地の絶叫系マシンの一瞬の無重力──浮遊感に似た状況の中で。

逆さまに映る景色を見て。

俺は──身体を回した。

頑張って、一回転。



「〜〜〜〜〜〜っっ!!??」



着地した両足の裏から頭頂部に向かって這い上がるみたいな衝撃と痺れ。

それが痛みを伴いながら四肢から力を奪おうとして猛威を振るってくる。

屈してしまいたい。

そんな弱気になる気持ちが折れそうになる。

──でも、折れた瞬間に、死が確定してしまう。


転生をして半日も経たずに再び死んでしまう?。

……冗談じゃない。

ああ、冗談じゃないよ。

俺は、俺の新人生(ニューライフ)はまだ始まってもいない!。

気合いで!、欲望で!。

惰弱に溺れ屈しようとする自分を奮い立たせる。



「こんな所で獣の餌になるなんて人生結末(バッドエンド)なんか、俺は要らねえぇーっ!!!!」





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