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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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    仲栽要らぬ


事態に付いて行けず、半ば現実感の無い演劇舞台でも観ていたかの様に。

御婦人達は茫然としている状態では有ったが自分達が助かったという事は流石に理解している様で、緊張は大分薄れている。

…まあ、今は違う意味での緊張をしているけど。

それは仕方が無い事だ。



「…貴男、強いのね」


「ええ、まあ…多少…」



御婦人の第一声に対し俺は誤魔化す様に苦笑する。

うん、今更誤魔化せるとは思ってませんよ?。

ただ、悪足掻きというか。

「出来れば…その辺の事は無視してくれませんか?」という希望的展開の期待を込めての態度で。

其処に騙そうとしたりする意図は有りませんから。

尤も、都合二度助けられた御婦人は俺達に対し警戒は一切してはいない。

その辺は流石に一人で行動されているだけは有る。

“人を見る眼”というのは経験を積み重ねる事でしか磨かれないからね。


──という現実逃避は止め溜め息を一つ吐く。

どうせ話してしまうのなら開き直った方が気楽だ。

そう切り替える事にした。



「俺達は子供四人だけでの旅をしていますから…

自衛手段は欠かせません

だからと言って自ら危険な事に関わるつもりなんかは有りませんが、今回の場合商隊だけの荷物に限らずに此方等にも被害が及ぶので流石に動きましたけど」


「そうね…賊徒達が商隊の荷物だけで大人しく退却し私達を見逃す、というのは考え難い事だわ

貴男達も宅の孫も、捕まり売られてしまうでしょう

私を含む大人は皆殺しね」


「ええ、そうでしょうね

俺なら、本当に荷物だけで見逃しますけど…」


「あら、どうして?」


「一度よりは二度、です

次は護衛等を強化してくる可能性は高いですが襲撃が成功しない訳ではないし、襲撃する側に主導権(先手)は有りますからね

要は遣り方次第です

序に言うと最初から勝ちは見えていましたよ

連中は討伐隊等を出される事を恐れているからこそ、生き証人を残さない…

つまり、その程度の実力の集まりだと自分で言ってる様な物ですから」


「…成る程ね…その若さで大した物だわ」


「いえ、まだまだ未熟だと自分が一番知っています

楽をして得られる糧は所詮高が知れていますから」



──と言ったのは、流石に不味かったかもしれない。

御婦人の眼光が、キラッ!と鋭く輝いた気がした。

それはもう獲物を見付けた大空の王者の様に。


背筋にゾクッ…と来たから“其方”系な気もするし。

…うん、あの変な通販の夢じゃないんだけど出来ればクーリングオフで。

……あー…無理ですか?、そうですか…残念です。

なら、キャンセルで…も、無理ですか?、はい。

ええ、判ってますよ。

だってこれ、通販じゃなく個人評価の話ですからね。

……俺が裸踊りでもすれば今の評価から大分下方修正してくれるかな?。

………無理だろうなぁ…。

態とらし過ぎるもんね…。




そんなこんなで再び商隊は目的地へと向けて進む。

商人の人からは「是非とも助けてくれた御礼を!」と言われたが、断った。

御婦人との会話の件だけで宅の三人娘が不機嫌に為り大変でした。

あと、然り気無い会話風に「実は、君と同じ位の歳の娘が居てね…」と明らかに狙いが判り易い事言うから再び不機嫌に為ってね。

もう大変だったんだから。

──と言うかさ、せめて、商人にも上手く丸め込む位の話術で攻めて来てよ。

バレバレじゃないですか。


貴男、絶対に奥さんの尻に敷かれてるタイプだね。

海千山千の老獪な商人って訳じゃなくて、薄利多売な感じで、加えて人情に厚いタイプの商人だよね?。

奥さんに怒られながらも、夫婦円満で自然に惚気てるタイプのリア充でしょ?。


御婦人と商人さんが静かに遣り合ってる気がしたけど俺は関わりません。

自ら虎穴へと入ってく自虐趣味は有りませんから。

何より、宅の三人娘の事で一杯一杯、手一杯なんで。


──とまあ、そんな感じで日が落ちるギリギリ辺りで目的地となる街に到着。

出来る事なら、宿を取ってのんびりしたかったけど…御婦人との約束が有るんで御婦人の家に連行です。

売られて行く仔牛の心境が少しだけ判った気がした。

でも、俺は喰われない。

喰われてなるものか!。



「初めまして、皆さん

私が当家の主で、董君雅と申します

母と娘、家の者達を助けて頂きまして、本当に有難う御座います」



──とか思ってましたが、挨拶一つで丸飲みにされて胃袋にチェックインです。

礼を述べ頭を下げた女性を見ながら、思わず当の娘に振り返ってしまいそうな、その衝動を必死に堪える。

「此処で振り向いたら色々危険だから!、色々!」と自分に言い聞かせて。


──で、肝心の事だけど。

いやね、初めて見た時から「可愛い娘だな」って──じゃなくて、「何処で見た様な気がするなぁ…」とは思ってたんです。

本当、言い訳じゃなくて。

でも、御婦人の名前がね、“李春鈴”だから原作とは無関係って思ってました。

………だってさ、仕方無いじゃないっ!。

華琳も愛紗も梨芹だって、名前そのままだもん!。

董卓の祖母や祖父の名前、知らないんだし!。

父親──此処では母だけど“董君雅”だって事はギリ覚えてたから判ったけど。

知らないから判る訳無い。

俺は特典持ち(チート)だが超能力者じゃない。

万能でもないんです。


因みに、当の董卓は物凄い人見知りっぽい。

何しろ、俺は会った時から一度も会話をしていない。

物凄い恥ずかしいがり屋で正面に顔も見てくれない。

だから俺は名前を知らずに今日、此処まで来ました。


ああ、それから、母である董君雅さんなんですが。

見た目には、原作の董卓が長身化した様な感じです。

母さんもそうだったけど、二十台後半、三十代前半で十歳位の子持ちだからね。

…うん、綺麗なんです。




除夜の鐘が降って来た様な衝撃を受けて思考の彼方に飛んでいたが、帰還する。

大気圏突入で燃え尽きるか心配に為ってしまったが。

……有り得ないけどね。



「私は徐恕と申します

此方等は私の家族で──」


「曹操と申します」


「関羽と申します」


「華雄と申します」



──と、三人が続いた。

母さん仕込みの礼節です。

俺を含め、粗相は無い筈。

だって、母さんって普段は温厚だったけど、礼節には本当に厳しかった。

特に俺は現代日本人の癖が中々抜けないから現世では歪な礼儀作法を遣ってると言われても気付けない。

寧ろ、中途半端に作法等が身に付いてない方が実際は出来易いと思った。

0からのスタートの方が、60からの修正よりも断然楽だからです。

そんな母さんの猛指導にて身に付けた我が礼節。

見よっ!、当方に無礼など欠片も無いわっ!。



「あらあら、御丁寧に

改めてまして、李春鈴です

皆さん、宜しくね」


「……と、董卓…です…」



御婦人──李春鈴さんから改めて自己紹介されると、続けて董卓の自己紹介。

その名を聞いた事で、漸く俺は冷静に為れたと思う。

だって、董卓とのイベントフラグが立つって…危険度・難易度高過ぎでしょ。

現実逃避もしたいって。

…まあ、原作の董卓は俺も「嫁にしたい娘だよな〜」とは思ったけど。

………あれ?、俺の縁ってそういう意識が反映されて引き合ってるとか?。

…………いやいや、無い、そんな事無いって、馬鹿な事考えるよね、俺ってば、あはははは…………いや、本当に違うよね?、ね?。



「董卓、失礼でしょう?

きちんと挨拶をしなさい」


「ああ、構いませんよ

董卓さん、人見知りみたいですから気にしてません

寧ろ、やっと挨拶が出来て安心しましたから」



──と、董卓の態度を見て注意する董君雅さんに対し俺は然り気無くフォロー。

そのまま話の流れに乗って現実逃避してしまう。

この波を逃せば、次は何時来るか判らないので。


「大丈夫だよ?」と董卓に笑い掛けると、新しい家に来たばかりの仔猫みたいにサッ…と李春鈴さんの背に隠れてしまった。

若干ショックは有るけど…可愛いから赦す!。


董君雅さんは董卓の様子に眉根を顰めていたけれど、李春鈴さんと視線を交えて何処か納得した様な感じで追及はしなかった。

その場の空気を読めるって大事な能力だよね。




その後、真面目で堅苦しい雰囲気に戻すという暴挙は行われず、砕けた雰囲気で談笑を交わし──董家への俺達の宿泊・滞在が確定。

旅費が節約出来るのは実に喜ばしい事なんだけど。

虎の巣穴で、虎に添い寝をされながら眠る様なもので気が休まりません。

いえ、董家の人達に悪意・害意が有る訳ではなくて、原作を知るが故に危険だと思ってしまうんです。

仕方無いじゃないですか。



「此処に有る物なら好きに読んで頂いて構いません」


「有難う御座います」



そんな俺は董君雅さん自ら案内する形で董家の書庫に遣って来ていた。


母さんの蔵書量は一般人の範疇ではなかったのだと、外に出てから判った。

同時に、やはり母さんには何かしら事情が有って村に住んで居た事も確信した。

その辺りの事は、華琳から訊くしかないのだろうが。

問い詰める気は無い。


それは兎も角として。

董家の蔵書量は凄い。

一般的な小・中学校に有る図書室を軽く凌ぐ。

市営・県営級の図書館には及ばないにしても、一家が所蔵する量ではない。

それだけ、知識──情報を重要視しているのだと判る光景だったりする。

当然ながら、本当に重要な情報は別の場所にて厳重に管理されているのだろう。

幾ら子供が相手とは言え、“万が一”を考えない様な人達ではないだろうから。


さて、現状に至った経緯に関してだけど、それは特に可笑しな話ではない。

先ず、俺達が子供四人での旅をしている理由、それを簡単に話した上で、村から出て色々と外の事を知り、自分が“世間知らず”だと痛感した事を述べ、それで「もし、差し支え無ければ此方等で所蔵をされている書物等を拝見させて貰う事は出来ませんか?」と頼み了承して貰えた結果だ。


ただ、同情を買い過ぎると色々と良くして貰えるが、必要以上に干渉される事も十分に予想出来る。

その辺りは「甘え過ぎては自分達の自立に差し障る」という様な雰囲気を匂わせ牽制はして置いた。

此処での加減は重要だ。

決して、「信頼しない」と俺達が思っている様に受け取られてはならない。




“知的探求心”とくれば、華琳の事が気に為るのだが此処には居ない。

それは何故なのか。

答えは、御風呂に有る!。

はい、現在入浴中です。


「旅の疲れを〜」と為って華琳達は御風呂に直行。

まあ、仕方無い事だよね。

何しろ村の実家に居た頃は略毎日入ってたから。

でも、旅に出ると御風呂に入る機会は激減する。

野宿では勿論、街の宿でも御風呂付きは少ない。

無くはないが値段が高い。

当然と言えば当然なんだが村では水源も薪も無料。

水を汲み運び、薪を集める労力さえ惜しまなければ、毎日御風呂に入れる。

村人に御風呂に入る習慣が殆んど根付いていないから競争相手も居ないしね。

ド田舎万歳!、です。


──とまあ、そんな訳で、華琳達は久し振りに入れる御風呂に魅了されてしまい此処には居ません。

…え?、「実は、一人だけ仲間外れにされてるから、拗ねてるんだろ?」と?。

いやいや、有りませんて。

幾ら子供・家族とは言え、愛紗や梨芹との裸の御付き合いはまだ早いので。

それに李春鈴さんや董卓も一緒ですからね。

普通に遠慮しますって。

あっ、勿論、皆が出てから俺も入りますよ。

目の前に御風呂が有るのに入らないなんて御風呂への冒涜でしかないんで。

風呂ですが、何か?。



「貴男達の立場を考えると簡単に「何でも言ってね」とは言えないけれど…

せめて、滞在する間だけは我が家だと思ってね」


「…では、遠慮無く御言葉に甘えさせて頂きます」



暗に「何時まででも」とは感じさせない辺り、本当に理解してくれているのだと察する事が出来る。

それだけに甘えてしまうと後で困るのだが。

遠慮し過ぎても困らせる。

多少は“子供らしくする”必要も有るって事だ。

本当に“生きる”って事は難しい事だよ。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.8
















 曹操side──




▼月□日。

“旅をする”というのは、私が想像をしていたよりもずっと大変であり、一方で色々と学ぶ事も出来る。

飽きるという事が無い。

そんな旅の中、小さな縁を切っ掛けにして騒動に巻き込まれてしまったけれど、久し振りに御兄様の勇姿を見られて眼福でしたので、偶には悪くないわね。


そんな縁で知り合ったのが李春鈴殿と孫娘の董卓。

歳も私の一つ上と近いから親しみ易いのだけど同時に要注意人物でも有る。

まあ、私達の旅に同行する可能性は無いでしょうから一時的な事よね。


ただ、こんなにも御風呂が気持ち良かっただなんて。

旅を経験しなければ家では当たり前の様に入れるけど味わえない至福感だわ。

……御風呂、旅の最中でも入れる方法を御兄様に今度訊いてみましょう。

勿論、旅費等の負担に為る様なら論外だけれど。

訊くだけなら無料だもの。




用意された客室にて就寝の準備を整えて、今日までと明日からの事に付いて皆で話し合っていた時の事。



「──え?、若、あの娘の──董卓の名前、今日まで知らなかったんですか?」


「御兄様だけですよ?」


「私達は知ってました」


「……………………え?、冗談じゃなく、マジで?」


『マジでです』



──という会話が有って、御兄様が落ち込んだ。

その姿を見て、私は思わず抱き締めたくなった。

勿論、実際には私もしないのだけれど。

そんな衝動に駆られた事は間違い無い。

…御兄様、恐ろしい方。


それは兎も角として。

董卓が“人見知り”だと、そう思っているのは実際は御兄様だけでしょう。

勿論、そう御兄様が思った理由を考えたなら、それも仕方の無い事だわ。

御兄様と私達も、四六時中一緒に居る訳ではない。

状況により別々に行動する事だって普通に有る。

その中で、董卓は私達とは普通に──いいえ、寧ろ、積極的に交流している。

ただ、御兄様を前にすると顔を赤くして避ける。

だから勘違いされるのよ。


董卓に自覚が有るのかは、判らないけれど。

李春鈴殿は察しているし、狙っているわ。

だから私も自己紹介の時に敢えて“妹の”とは付けず名乗って牽制した。

密かに、しかし、確と。

“女の戦い”は御兄様には知られては為らないもの。


…まあ、御兄様が相手なら惹かれても仕方無いけれど御兄様にも困った物だわ。

次から次に魅せるのだから自重して欲しいです。

尤も、無自覚だからこそ、御兄様は凄い訳ですが。


それでも、御兄様が此処に留まる事は有りませんし、暫くの辛抱よね。

董卓自身は良い娘だし。

友達としては悪くないわ。



──side out。



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