21話 人活の交差
第一問が未だに誰一人解き明かしてはいないという程未知の領域の内容を出した破綻したクイズの様に。
初回・初球に、試合開始のサイレンが鳴り止まぬ中、無理難題(超豪速危険球)を投げてくる様な強気以上にアドレナリンが溢れ過ぎて一人で「ヒャッハーッ!」しちゃってる様に。
突き付けられた試練を俺は何とか乗り越えた。
いやもう、本当にね。
大変だったんだから。
華琳が納得したから改めて料理店に入って何を頼むか決めようとしてたんだけど──ゲームの世界と違って採譜とか無いんですよ。
何が売りの料理店なのかも外観や内装じゃ判らない。
店員さんが居れば声を掛け料理を訊ねる所なんだけど家族経営の料理店らしく、厨房に立ってる店主夫妻とお婆さんが一人だけ。
それなりに忙しそうだから声も掛け辛い雰囲気で。
そうなると、他の客の卓を見て参考にするしかない。
不作法だが、仕方が無い。
背に腹は代えられないし、既に愛紗だけでなく俺達の胃袋も要求(合唱)状態。
出直す事は出来無かった。
さて、此処で問題です。
貴方は他の客の卓を見て、正確に注文出来ますか?。
料理名を当てるのではなく“注文をする”。
そう、必ずしも店の料理が自分達の認識と同じだとは限らないのですよ。
それは料理名だけではなく味や調理法・材料も含めて未知だという事。
ええ、“ゲームの世界”は親切設定でしょうとも。
現代社会の常識を反映して判り易くしてあるので。
しかし、“現実の世界”は優しくないんです。
そんな常識の無い今。
世間知らずな今。
俺達は窮地に立たされた。
そんな中、梨芹(救世主)は何事も無かったかの様に、手を挙げて「すみません、此処の御店って料理は何が有りますか?」と訊いた。
愛想の良い、奥さんだろう女性が注文から出て来ると俺達を見ながら、判り易く味付けや一皿の分量までを説明してくれた。
お陰で注文には失敗せず、無駄な出費も避けれた。
尚、華琳と愛紗は意外にも人見知りだったりします。
俺は庶民メンタルなんで。
梨芹姐さん、パねえっす。
マジ尊敬します。
何気に判った問題。
このパーティー、才能とか身体能力的には優れててもコミュ力が……ヤバい。
いや、敵意・悪意・害意を持った相手なら、賊徒でも平気なんだろうけど。
普通の人々が相手となると極端にポンコツ化する。
華琳も原作みたいに成れる可能性が有るだけで、今は世間知らずな田舎娘だ。
愛紗だって、“軍神”には程遠い内気さが有る。
俺は能力面だけが成長して精神的には成長した様には自分では思えません。
つまり、このパーティーは梨芹のコミュ力無くして、正面に旅も出来無いという事実が見えた訳です。
うん、本当に梨芹が居て、助かりました。
──と言うか、あの瞬間の華琳の切り返しが無ければ俺は詰んでたかも…いや、マジで詰んでただろうな。
そんな事が有り、俺は急遽宿を取ると部屋にて三人と緊急会議を開いた。
俺を含め遠回しに言うより率直に言われる方が良い為躊躇も遠慮も無く現時点の俺達の問題を口にした。
正直、自分で駄目出しするという状況は人からよりも精神的ダメージが有るが、そんな事を気にしていてはポンコツ化が悪化するのが脳裏に浮かんでしまう。
だから俺は自らの腹を切る覚悟で臨んでいる。
其処!、「大袈裟過ぎw」とか言うんじゃない!。
此方は死活問題なんだから真面目に解決しないと。
笑えないんだからな。
──で、三人はというと。
華琳は言われた瞬間は驚き唖然としていたが、此処に居るのが家族だけだから、いつも通りに切り返す。
それ自体は悪くない。
ただ華琳の価値観の場合の上下関係は“優劣”が強く影響している。
優秀な者が上に立ち治め、下の者を導いてゆく。
決して間違いではない。
だが、時には下の者と同じ立場や視点・観点からしか判らない事も多々有る。
その柔軟性を身に付けさせ将来の孤立化を防ぐ為にも“他人の気持ちが判る娘”にしてみせます。
──という決意の下、俺は華琳を言いく──ゴホン、諭して、理解させた。
苦労はしたが、宅の華琳は素直で頑張り屋さんです。
同じ過ちは繰り返さない為大丈夫……な筈。
愛紗は生真面目な事も有り「言い訳も有りません」と素直に認めていた。
その潔い姿が、武士っぽく見えたのは俺だけの秘密。
「ああ、関羽だよな…」と思ってしまった事もだ。
但し、それは原作の関羽で他の関羽──特に男の場合ではない事を言って置く。
そんな愛紗は気負い過ぎに注意しなくては。
真面目過ぎるが故に視野や意識が狭窄しない様にな。
最後に梨芹は…うん。
コミュ力に問題は無い。
寧ろ、俺達が足を引っ張る姿しか浮かばないもん。
でもね、コミュ力は高いが話術が圧倒的に低い。
ただまあ、それは仕込めば良いだけの話なんだけど。
でも、それを遣った場合、梨芹の先天的な才でもある“表裏が無い故の信頼”を阻害する可能性が有る。
計算が無いからこそ相手は気を許してしまう。
それは稀有な天賦だ。
だが、巧みではなくても、話術を身に付けた場合には作為的な部分が生じる為、それが失われてしまう。
原作内でも真っ直ぐだから彼女を慕う部下は多くて、苦楽を共にしていた。
劉備と似ている気もするが彼女の場合は器に合わない野心は持っていない分だけ敵対者が少ない。
加えて家名や血筋を使って無い実力を有る様に見せる詐欺紛いの真似もしないし努力で勝ち取ってきた。
其処に信頼が集まる。
そんな彼女の可能性を俺が潰す訳にはいかない。
──あ、別に劉備アンチな訳じゃないからね?。
原作の劉備も嫌いって事は無かったんで。
ただ、劉備って基本的には“そういう”人物だもん。
原作は原作、他は他だけど絶妙に似せてるよねー。
そういった事情も有って、村には三日滞在しました。
ええ、脱ポンコツ化。
コミュ力上昇の為、村にて色んな人と話を重ねる事で慣れていった訳です。
子供だから、変に聡い所を見せなければ、ある程度は向こうも気を許してくれて形に出来ますからね。
要はRPGでの最初の街の付近を彷徨いて、ある程度経験値を稼いで強化する、アレと同じ訳です。
先を見据えての準備です。
その結果は……ええまあ。
悪くはないんですよ?。
愛紗は“役目だ”といった認識さえもてば意外と平気だったらしく、そこそこに内気さは改善している。
役者みたいな意識付けで、公私を分けるんだろうな。
素では厳しいみたいだけど今は十分だと言える。
梨芹は当然ながら何一つも問題無く会話していた。
今は話の内容を選る理由が無いから構わないんだけど本当に他愛無い話題が多く普通に世間話をしていたと聞いていて判った。
まあ、梨芹の場合に限れば質より量に期待だからな。
俺としても其処に関しては何も言いません。
俺はと言うと──最初こそ“子供らしくする”事への難しさに苦労させられたが一度開き直ってしまえば、その後は簡単だった。
おっさんな中身だとしても“最後の一線”さえ捨ててしまえば、もう恐れる物など無い。
だって、僕、十歳だもん。
…………返事が無い、今の俺は屍の様だ。
いや、本当にマジでね?。
遣ってる時は開き直ってて自棄糞に為ってたからね。
テンションも可笑しい位に跳ねてたから変な扉を潜り迷宮を駆け回っている様な状態だった訳ですよ。
でも、素に戻ったらね?、くっきりと心に深い傷痕が残ってた訳なんです。
ええ、忘れてしまいたい程恥ずかしくて鬱になる。
それでも、話を重ねる内に慣れてきたのは確かだ。
やはり、努力と経験に勝る糧は少ないんだな。
──で、肝心の華琳だけど……うん、まあ…ね。
予想外で有り、予想通りと言うべきなのか。
俺と同様に子供らしくする事が難しく、俺とは違って子供らしさを演出出来無いという状況だった為に。
最初の半日で軽い引き篭り状態に為りました。
多分、あんなにも暗い陰を背負った彼女を見る事は、後にも先にも無いだろう。
それ位に稀少な姿だった。
慰めて遣りたいが、其処は心を鬼にして見守った。
……え?、「本音は?」。
だって、いじけてる華琳が可愛いんだもん!。
見てたかったんだもん!。
──という様な事が有って俺達は遠くに見えていた、あの街へと来ている。
外界第1号の村でも十分に驚きが有った俺達。
外界の出身の愛紗と梨芹、前世が現代日本人な俺とは違って華琳は本当に見る物全てが新鮮だったらしく、色々と有って凹みながらも興味津々な様子だった。
それが更に上書きされて、今度は俺達全員が田舎者の反応をしてしまう。
いや、愛紗と梨芹は当然の事なのかもしれないが。
だって、二人は外界の出身だとしても単なる村娘だ。
まだ子供だから大きな街へ行った経験も無かった。
ただ、俺の前世的には全然現代日本の田舎の町の方が栄えている筈なんだけど。
人々の活気が違う。
(…そりゃあ、町おこしで色々遣ってる様な現代とは人々の必死さが違うか…)
過疎化対策ではない。
文字通り、生きる為に。
人々は必死なのだから。
活気も熱気も別物だ。
だから、元・現代日本人の俺から見ても驚く訳です。
「何処の有名な祭事だ?」と言いたくなる程に。
人、人、人、人の群れ。
もし真上から見られたなら蟻の行列が重なり、帯状にギュウギュウ詰め状態。
渦中で下手に足を止めれば大惨事になるだろう。
そう思える光景が有った。
いきなり中に踏み込むには勇気が居る状況に、自然と三人が身を寄せて来た。
愛紗が左手、梨芹が右手を握り締めてきて。
華琳が後ろから腰に両腕を回して、ぎぅ〜っ…と俺に抱き着いてきました。
本音を言えば、俺も現状にビビってましたとも。
それでも、俺は男だから。
三人を安心させ、守る様に優しく声を掛けて、戦場に踏み入るかの様な覚悟で、人々の往来の波に加わる。
結果──流されました。
いやね、立ち止まる事自体危険だって理解してたけど建物とか確認する余裕とか無かったし、抑、俺達だと背丈が足り無さ過ぎてて、周囲が見回せないんです。
いえ、見回しても人々しか見えないんです。
つまり、御店の位置を知る以前に御店が有るのかさえ確認出来ませんでした。
これが都会なんですね。
圧倒されながらも気合いで街(小ボス)へ挑んだ俺達は悪戦苦闘しながらも何とか生き残る事に成功した。
「また大袈裟な…」なんて言うんじゃ有りません!。
マジで大変なんだから!。
宿一つ取るにも、検索してちょちょっと操作をすれば終わりの現代とは違うの。
十歳前後の子供四人です。
そんな子供達を何も訊かず宿に泊めたりしますか?。
ボールに入るモンスターをゲットして旅する世界とは違って子供が旅をする様な世界じゃないんですよ?。
一歩間違えば人拐いさんにゲットされる世界です。
宿だって信頼出来るかすら怪しいんですからね。
全てが、ザワザワ…な世界みたいなんですから。
油断なんて出来ません。
そんな警戒心の無い三人は揃って、最初の村でさえも「一人部屋を一つ?」と、首を傾げた位です。
いやね、一人寝台一つとか「僕達、御金有りますから美味しい鴨ですよ」と自ら宣伝している様な物。
だから、「色々訳有りで、御金も無いから…」という演出が大事なんです。
抑、大人用の寝台だったら俺達四人が寝られるし。
一人部屋で十分です。
そんな感じで、三日間。
街に滞在し、情報収集。
表向きには「実は出稼ぎに出たまま帰らない両親達を探しに来たんです…」等と安い同情を買えそうな事を塗水(涙)を流しながら語り適当に誤魔化した。
語り過ぎないのが重要。
関わった人同士の話の中に矛盾を生じさせない為にも何だか大雑把で曖昧だけど納得はしてしまう。
そういう程度が丁度良い。
明日には発つ最後の夜。
既に俺の傍らで眠っている華琳達の寝息を子守唄に、明日からの本当の旅を思い改めて決意を懐く。
三人の事は絶対に守る。
最悪の場合、優先するのは三人の安全だ。
何が起きようとも。
他の何を犠牲にしても。
俺が三人を守り抜く。
生きて、守り抜く、と。