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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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20話 生まれて初めての


急な話だった為、村の皆に説明すると旅立ちは同時に為ってしまったが、色々と面倒が無くて良かった。


まあ、流石に子供が四人で旅に出ると聞いて驚かず、心配せず、止めもしない。

そんな大人は居なかった。

皆、「考え直して」という旨の事を言っていたけど、此方等の意志の固さを伝え何とか納得して貰った。

「誰かが同行すべきか?」という話も出たが、其処は上手く誤魔化した。

俺達の実力が露見するのを避けたい所でも有ったし、正直な話、足手纏いに為り主導権が常に俺に有る形を取り難く為るのは避ける。

その代わりに、ではないが留守の間の我が家の管理と母さんの墓の管理を皆には御願いしておいた。

これには村の女性陣からの力強い言葉を頂いた。

妙に母さんを“御姉様”と呼ぶ人が多い気がしたが…うん、気にしない。

気にしたら負けだよね。


──とまあ、そんな感じで村を後にした俺達は普段は歩く事の無い山越えの道を並んで進んで行く。

因みに旅の荷物は大き目のリュックサックを各々が、野宿等に必要な品々を分け俺が大物を、愛紗と梨芹が中位の物を、小物を華琳が分担している。

膂力的に一番弱い華琳への負担は軽くしてある。

兄馬鹿ではない。

能力的に考えての処置だ。

そう、兄馬鹿ではない。



「それで御兄様、何方等を目指しますか?」


「先ずは一番近い街だな

母さんや皆から聞いた話を信じない訳じゃないけど、情報も鮮度が大事だ

それから、俺達が街の中でどう見られるのか…

それも確認して置きたい」


「十歳前後の子供が四人…

“訳有り”だったとしても“子供だから…”で足元を見られますか…」


「その可能性は高いな」



──と、普通に話している俺達だが、客観的に見れば「え?、何この子達…」な状態なんだろうな。

だって、十歳前後の子供が話す内容じゃないしね。

俺だって、普通にドン引きしている事だろう。

“華琳とだから”と、俺は前提条件付きで理解をして話しているから平気だが。


普通なら梨芹か愛紗辺りが話し相手で有るべき所。

当の二人は話を聞きながら判らなければ質問する。

その今までの生活を通して構築された状態を疑わず、今も実践している。


いや、悪い事じゃないよ。

何処かに居るだろう誰かの様に考えずに直ぐ訊く事はしませんからね。

俺は、梨芹の脱・脳筋!、脱・残念!を掲げている。

脳筋はギャグキャラだから許されるのであり、現実で脳筋は要らない子。

梨芹を見捨てはしません。

華琳と愛紗は眉間から皺が消える様にしたいです。

鬼嫁・鬼妹が欲しいなんて俺は思いませんから。

……まあ、ツンデレならば有りですが。

外では鬼でも、二人の時は極甘デレとか…ね。

でも、病み一歩手前な気が……うん、普通が良いね。

そう、手遅れじゃない。

希望は有る筈だから。




森を抜け、山を下り続けて約3時間程が経った。

長かった深緑の迷宮から、俺達は抜け出していた。


普通なら半日近くを費やす山道なんだけど、俺達には散歩感覚で行ける程度。

距離は勿論有るが、何より山道の険しさに普通の人は苦労させられる訳で。

それは膂力的な問題。

俺達の場合、この中で一番身体能力が低い華琳でさえ三年間俺が鍛えている。

だから、世間一般の八歳児ではなくて、突出している八歳児なんですよね。



「…これが外界の景色…」



茫然とした様子で呟くのは目を奪われている華琳。

そう為るのも無理も無い。

華琳は生まれてから一度も故郷の村の──あの山から出た事が無いのだから。


そして、それは俺も同じで目の前の景色に見入る。

…え?、「お前なら山から何時でも出られたろ?」。

ええ、それは可能ですよ。

ただ、自分から無暗矢鱈に異常性がバレる様な行動は遣りませんて。

だから、俺も外界の景色は今回が初見なんです。


視界に広がるのは予想より壮大な景色だった。

良い意味で裏切られた。

もっとこう、山岳風景的な大自然感の強い様な感じを想像していただけに。

眼下に広大な大地が広がり地平線を境にして青と緑が天地を染めている。

其所に、彩る様に白い雲・流れ行く川・荒野が有り、手前には村が見える。

更に遠くには小さくだが、街らしき姿も有る。

時代的に整備されていないみたいだが街道も有る。

壮大なスケールの映画ならこの景色だけで3分程度は稼げる気がする。

それ位に凄い景色だ。

ゆっくりと楽しみたいが、のんびりもしていられないというのが非情な現実。

本気を出せば、日没までに向こうの街まで行けるが。

流石に遣りません。

だから、先ずは麓の村へと向かう事にします。


若干、後ろ髪を引かれつつ足を前へと出す。

元々、村の外から来ていた愛紗・梨芹は哀愁を滲ませその景色を見詰めていたが俺が歩き出すと直ぐに後に続いて歩き出した。

普段、俺の真横か真後ろに付いて歩く華琳が、最後に我に返った様に慌てた様に小走りに追って来たのは…まあ、仕方が無いだろう。

どんなに聡明だとしても、華琳は八歳児なんだから。

感動すれば我を忘れる位は普通に起きる事。

何も可笑しな事ではない。

それが自然な反応であり、女の子としての素顔だ。


チラッ…と隣に並んで来た華琳に視線を向ければ目が合って恥ずかしそうに頬を赤くして顔を逸らした。

その仕草が可愛らしくて、ついつい右手が頭に伸びて撫でてしまっていたが。

まあ、仕方が無い事だ。

兄にとって妹は可愛い。

仔犬や仔猫を愛でるのとは違うのだが、可愛いのだ。

だから当然の反応だ。


例え、後ろの二人から俺に「また甘やかして…」的な痛い視線と溜め息と苦笑が送られて来ようとも!。

兄は屈指はしない!。

この世に妹が存在する限り愛妹紳士(我々)は、永遠に不滅です!。




そんなこんなで、麓の村に到着したのは太陽が中天に差し掛かった頃。

空を見上げればギラギラと「俺サマーだぜーっ!」と鬱陶しい太陽が居る。

……いや、暑さに負けての駄洒落だから、真面目には受け取らないでね?。

──というのは兎も角。

つまり、お昼時な訳です。


「くっきゅぅ〜…」と鳴き可愛く食事を催促したのは愛紗の御腹だった。

普段から生真面目なだけに滅多に見る事の出来無い、彼女の恥ずかしがり振りと慌てっ振りに。

ひっそりこっそりほっこりしてしまう俺は決して何も可笑しくはないだろう。

ただ原作だと、こういった場面では梨芹がネタに為る気がしてしまうのは脳筋なイメージが強いからか。

心の中で勝手なイメージを押し付けてしまった事を、胸中で梨芹に謝る。


それはそうとして、先ずは愛紗だけでなく俺達の腹も一緒に合唱をし始める前に昼食を取る事にする。

さて、此処で問題です。

初めて来た場所で、昼食を取ろうとした時、貴方ならどうしますか?。

恐らくは「それは、普通に店で食べるか買うかだろ」と思われる事でしょう。

ええ、間違いではないので否定はしませんよ。

ただね、故郷の村は山奥に存在している、独立独歩な環境だった訳でして。

“店”なんて無いんです。

ええ、多分気付かれた方も居るんだと思いますけど、宅の村は通貨を必要とする事は先ず有りません。

村に行商人も来なければ、村人が山道を下って街まで買い出しに行く事も滅多に有りませんからね。

有っても数年単位だとか。

素で陸の孤島なんです。


そんな環境で育った為か、華琳が挙動不審です。

知識としては知っていても“商売”を実際に見るのは今日が初めての華琳。

キョロキョロと彼方此方に忙しく意識と視線が動き、端から見たら間違い無く、“御上りさん”だろう。

愛紗は先程の事が有るから大人しいし、梨芹は二人を揶揄うでもなく普段通り。

「何にしますか?」と俺に訊いてきている。

まあ、俺も下手に刺激する真似は避けたいから梨芹と素知らぬ顔で話している。


──とは言え、そんな俺も今生では初めて街に来て、商売を目の当たりにする。

だから一番不安なのは俺の中の金銭感覚と価値観が、現実と何れ位の差を持つか判らないという事。

幸いにも俺達には母さんが遺していてくれた軍資金が有るから無一文でスタートという事は無かったが。

命と金は有限である。

大事にしなくては。




通りに向けて流れ出て来る匂いを嗅ぎ入る店を決める──という所で、声を上げ「待った」を掛けられた。

「さと、何を食べようか」と為っていただけに。

若干、空気がピリついた。

特に、空腹を主張していた愛紗が剣呑な気配で。

──で、その声の主である華琳と俺は静かに対峙。



「…御兄様、代金を払って食事をするという事は私も理解はしていますが…

その食事は代金に見合った価値が有るのですか?」


「あー…それはだなー…」



遠回しな事は言わず率直に言ってくる華琳。

その姿勢は嫌いではないが空気は読めていない。

否、読めても自己の主張や意思を曲げないのが華琳。

超が付く完璧主義者だし、“有象無象に合わせる”気なんて全く無い。

原作の曹操が小さく為って目の前に降臨されました。


──そうではない。

取り敢えず、華琳の右手を掴んで大通りから外れて、脇道へと移動する。

だって、今から入ろうかと考えていた店の前で、店の料理を全否定する様な話は出来ませんから。

俺は鈍感(強)者ではない。

超市民的なチキンハートがフライドされる位の普通の中身をしています。

猪?、熊?、賊?。

そんな物は生存競争の中の話だから立ち向かえるの。

社会の中では俺は埋没する影の薄い流浪者です。

好んで無用な反感や不評を高価買い取りはしません。



「…はぁ…あのな、華琳

料理店の味というのは基本大衆好みの物なんだ

だから、料理を極める様な技量は求めたら駄目です」



怒った訳ではない。

注意しただけです。

ただ、理解しつつも納得は出来無いのか華琳は小さく頬を膨らませている。

…………もぅ、可愛いな、この娘ってばぁ。



「……ゴホンッ!…」


「──っ!」



若気掛けていた所に愛紗が然り気無く咳払いをする。

…ふぅ…危ない危ない。

もう少しで逝っていたな。

華琳の可愛らしさに危うく喰われてしまう所だった。

なんて恐ろしい娘…。

でも、可愛い妹の可愛さに喰われるなら、兄としては本望かもしれない。





「一応、料理店という物が私の考えていた物とは違うという事は判りました

ですが、それならば材料を買って来て御兄様の作った料理が私は食べたいです」


「よし、それじゃあ──」


「──待て待て、忍!

私も忍の料理なら賛成だが材料を買って来ても何処で料理をするつもりだ?!」


「気合いが有れば何処でも料理なんて出来る!」


「出来ません!」


「そんな馬鹿な!」



非情な現実を突き付けられ膝を付いて地面を叩く。

聞こえますかーっ?!、裏側──が何処か判らないけど聞こえますかーっ?!。

──という掛け合いをして取り敢えず落ち着く。

うん、落ち着け、俺。


これは…俺の所為だな。

母さんが料理が上手かったという事も有るだろうけど俺と一緒に料理をしたり、俺が過度に為らない程度に前世の知識を活かして色々料理をしていたからね。

……うん、華琳の喜んでる姿が見たくて調子に乗った結果がコレでした。

でもね?、予想出来る?、華琳──曹操の料理好きが俺の料理だなんて。

兄は……妹の笑顔が見たいだけなんでーすっ!!。


まあ、過ぎた事を悔いても仕方が無いからね。

此処から方向修正していく方向で頑張りましょう。

世の中の料理人の皆さんの人生を守る為に!。

大衆料理店を守る為に!。

俺は頑張りますとも。



「華琳の意見は判るけど、一般的な料理店を知る事も学ぶべき事だろ?」


「……………そうですね」



かなり、葛藤しながらだが納得してくれた華琳。

嗚呼、良かった。

これで料理人達の未来には僅かながら希望が灯った。

あの悲劇と惨劇を回避する可能性は残った。


何よりも──愛紗の御腹が限界を迎える前に、昼食を食べる事が出来る様だ。

“腹が満たされれば争乱は起きない”と言うからね。

いや〜、本当に良かった、目出度し、目出度し。

これにて一件落着ですよ。




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