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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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エピローグ 月は東に、日は西に


どんな事象にも必ず起因が在り、その結果として、その事象は起きている。

或いは、まだ結果すら至ってはおらず、過程の一端でしかないのかもしれない。


ただ、それでも。


一つの決着は、一つの終わりである事は確かだ。



「ん……()も問題無し、健康で何よりだ」


「有難う御座います、忍様」



そう笑顔で俺から我が子を抱き取る雛里。

その子は雛里が産んだ長子・嫡男となる鳳専。

俺にとっては第十一子・九男になります。

…別に何も無いとは思いますが、アレなんで。

強く生きて欲しいと思います。

勿論、他の子供達にしても同じです。


雛里の腕の中で安心して眠る専。

我が子を見詰める雛里の表情は母性愛に溢れ。

まだまだ見た目は小柄な──世が世なら未成年だと間違われて俺が冤罪で捕まりそうな感じですが。

雛里も間違い無く母親として歩み始めています。


やはり、自分が子供を産むと実感が伴う様で。

他の皆の時もそうでしたが、雰囲気が変わります。


そして──夜は一層艶かしく、貪欲に。

ええ、今、目の前で聖母的な清らかさを見せている雛里さんですら、夜は一匹の雌獅子に豹変。

昨夜()激しかったです。

…正確には、つい先程も、なんですけどね。


あの“歪み”との戦いから、早いもので一ヶ月。

俺達は日常へと戻っている。

それに合わせ、本当の意味での幽州統一が成った。

以前の腐り切っていた政治地盤を一掃し、これまで俺達の築き上げてきた政治体制が浸透。

漸く、幽州全体の足並みを揃える事が出来る。


──という中で、雛里の出産も有って。

我が家は賑やかに。

華琳達の出産も後々、順番に続きますからね。

まだまだ賑やかになっていきます。


何より──まだ先の話だと思っていた歪みの一件が滅茶苦茶前倒しで起きましたからね。

こればっかりは咲夜も予想外も予想外だそうで。

取り敢えず、無事に帰ってきたら搾られました。

…うん、其処は心配して泣き付く所だよね?。

──なんて思ったのが不味かった。

いやもう、ガチで二人目が出来る所でしたから。

華琳の事も有るので、流石にヒヤヒヤしました。


ただまあ、そういう事で色々考えていた家族計画は見直す事になりました。

だって、歪みの事が有ると想定した上での家族計画でしたからね~。

根本的な条件が変わると、一から考え直しです。

ほら、白蓮達も早く二人目を欲しがってますから。

流石にね、全員を華琳が二人目を産むまで待たせるというのも…ねぇ?。

いや、本当に二人目は華琳を一番に、と思っている事は間違い無いんですよ?。

ただ、色々想定していた事が変わりましたから。

その辺りは今、皆と協議中だったりします。



「──あっ!、兄様っ!」


「忍様にゃーっ!」

「忍様ーっ!」「忍様っ!」「忍様ー…」



俺に気付いた流琉が声を上げると美以が駆け出し、後に続いて弥芥・兎良・紗夢が飛び付いてくる。

眠たそうにしているのに、然り気無く素早い紗夢。

美以達三人が判り易く抱き付いているのに対して、貴女は何処に頬擦りしているんですか?。

其処は止めなさい。

如何に、この世界では大丈夫でも、俺の倫理的には完全に犯罪(アウト)ですから。


そんな感じで被り、担ぎ、抱き、引き摺りながら。

苦笑している流琉と璃々の傍に行く。

そんな二人の前では真剣な顔の季衣・音々音・小蓮という面子が肩を並べて料理をしている。

まあ、簡単なクッキー(・・・・)作りですが。

その様子は微笑ましい。

尚、宅の季衣は食べ専では有りませんので。



「どんな感じだ?」


「皆、飲み込み()早いです」


「えっと、午後の御茶会には出せると思います」



そう言って気付かれない様に苦笑する流琉。

璃々に悪気は無いが…素直に言い過ぎている。

三人共気付いてないからいいけど。

ちょっと間違うと喧嘩になってる所だな。

璃々が含ませてる訳でもないし、無意識な事だから俺や流琉も指摘し辛い。

それで着火しても困るからな。

俺も流琉の流れに乗って話題を逸らしていく。


基本的に流琉達の普段の生活は武術・学術の指導が中心だが、こうした生活能力も養っている。

何しろ、将来的には一人一人が家を興す訳で。

璃々は勿論、美以にしても引き継いだものも小さく有りませんからね。

きちんと次代に受け渡せる様にしなければ。

まあ、当分先の話ですけど。

──とか考えていると勘の鋭い二人に抓られる。

気持ちは判ってますが、もう少し待ちなさい。

今、上の方が揉めてる真っ最中なんですから。






「──哈アアァアアアァアァアアッッッッ!!!!!!」


「──雄オォオオォオオオォオオッッッッ!!!!!!」



…何かね、髪が逆立ち、色が変わりそうな勢いで、対峙して氣を練り上げている春蘭と霞。

その様子を見詰める風・沙和・美羽。

でもね、ソレは貴女達の参考には為りませんよ?。

貴女達は其方等(・・・)側じゃないんで。



「ですがー、知って置く事は大事ですよねー?」


「その通りだな」



そう返しながら風の頭を撫でる。

観察力の高い風は年長組の様に俺の心を読む。

だから、当初は「そんなに判り易いか?」と思わず思春に訊いてしまった位だ。

「わ、私は忍様の事で有れば…」と顔を赤く染めて上目遣いに見てくる思春。

ええ、我慢など出来ませんでした。

──とは言え、その頃はまだキスまででしたが。

思春が蕩ける位に情熱的に遣りましたが何か?。



「忍様~、私も出来る様に成りたいの~」


「氣は向き不向きが、はっきりしてるからな

沙和の場合、彼処までは難しいな」


「──と言う事は、見た目だけ、格好を真似る位は出来るという事じゃな…

出来無い訳ではないし、良かったのぉ、沙和」


「嬉しいけど、微妙なの~…」



俺の言葉を正しく読み取る美羽。

本当、宅の美羽は賢い娘です。

それを褒め、沙和を慰める様に頭を撫でる。


──と、闘気全開状態で、此方をチラチラと見て、気にしている其処の御二人さん。

集中しないと危ないぞ?。


──そんな俺の心の振りに御約束で返す。

ええ、見事にチュドりましたよ。

勿論、風達は俺が守ったから無傷です。

ただね、誰が教えたの?。

「御礼は妾の身体でするのじゃ」と頬っぺに御礼のキスをしてくれた美羽が耳許で囁き。

反対側の耳を風が軽く唇で啄んできましたけど?。

ちょっと、真面目に犯人探しをしましょうか。

俺に対して限定だとしても駄目な物は駄目です。






「──という訳で、素直に白状しなさい」


「ふむ…身に覚えは無いのぅ…」


「成る程な…全く(・・)と言わない辺り、何故俺が御前に訊いているのか、自覚は有る訳か」


「それはまあ、昔は色々と遣ったからのぅ」



悪びれもせず、腕を組んで己の武器を見せ付ける。

然り気無く、しかし、一切の油断無く。

隙有らば討ち獲らんと狙っている狩人の如く。

祭は俺を挑発してくる。

今更、そんな挑発が俺に通じるとでも?。

…フッ、受けて立とうではないかっ!!。




──という訳で、事件は振り出しに戻った。

いやまあ、大して進んでもいませんでしたけどね。

“捜査の基本は現場百回”とか言いますが。

その現場が不明な場合は、どうしろと?。

はい、あっさりと手詰まりです。

何処かに名探偵が落ちてませんかね?。



「──で?、何をしたら、こんな惨状になる?」


「鈴々が悪いのよ!」

「猪々子が悪いのだ!」

「地和が悪いんだって!」



そう言って三者三様に指差し合う。

地面に正座させているが、反省の色が見えないので膝に置いた重石の負荷を一割増しにする。

俺を相手にズルは出来無いから顔を歪める三人。

氣を使えば直ぐに判りますからね。


取り敢えず、容疑者は置いておくとして。

事情を知っているだろう真桜と詠を見る。



「あー…屋台の設営準備をしとったんやけどな

何かしらんけど、気付いたら競争しててん」


「──で、頭に血が上り過ぎたんでしょうね

私達が止める暇も無く、倒壊した訳…

まあ、まだ骨組みだけだったから被害は小さいし、資材も殆んどが無事だったんだけど」


「組み直す分、無駄に時間だけは掛かるやろな~」


「成る程な…三人共、自分達が遣った事なんだから自分達で責任は取るのは当然だ

二人の指示をしっかりと聞いて、喧嘩や競争はせず真面目に取り組む事

もし、また騒ぎを起こしたら…」


「「「…っ………起こしたら?」」」


「楽しい楽しい、特別授業(・・・・)をしよう」


「誠心誠意頑張りますっ!!」

「一生懸命遣るのだっ!!」

「全力で働きますっ!!」



そう笑顔で言えば、地和・鈴々・猪々子は敬礼。

座ったままだけど、姿勢を正して宣誓する。

それを見てから、後の事は真桜と詠に任せる。

また遣らかしたら…どうなるかは判ってますから。




それはさて置き。

犯人探しを再開し、適当に探していると楽しそうに御茶をしている梨芹・桃香・天和・雪蓮を発見。

珍しい組み合わせだったので声を掛けてみた。



「この二人って姉妹じゃないのに似てるでしょ?」


「髪や瞳の色こそ違うが…雰囲気的にはそうだな」


「桃香は桂花・焔耶と一緒、天和は三姉妹の長女

立場的にも似た様な事も有るじゃない?

──で、私も三姉妹の長女で、梨芹も後から恋達が加わるけど元々は華琳と愛紗の三義姉妹でしょ?

そんな感じで長女な四人で集まってみた訳よ」


「こうして話してみると感じてた事や考えてる事も似てるんだな~…って思ったよね~」


「うんうん、“お姉ちゃんの苦労”だよね~」



そう言って頷き合う桃香と天和の姿は姉妹の様で。

明るい中なら兎も角、暗い夜、閨の中だと意図的に合わせてはいないのに、この二人は似ている。

「キャラ被りだよな~」と原作(ゲーム)では思ったが。

実際に、現実で二人を前にすると雪蓮が言った様に姉妹──双子の様に感じてしまう事は否めない。

──と言うか、春蘭・秋蘭よりも近い気がする。

絶対に口には出せないが。



「違いは有りますが、姉という立場は同じですし、話してみると色々と思う事は似ている物ですね

私と桃香は義姉妹、天和と雪蓮は実姉妹ですが…」


「まあ、姉って事の悩みや責任感は同じよね~」



梨芹の言葉に苦笑する雪蓮。

しかし、其処に浮かぶのは面倒しさや煩わしさ等の感情ではなく、妹達への確かな愛情。

何だかんだ言っても。

何だかんだ言われても。

根幹に有る繋がりは確かな物なのだと感じる。

尤も、それを妹達に見せたり、言ったりするつもりなんて微塵も無いんだろうけどな。

姉としての自尊心(プライド)も有るんだろうけど。

それは見返りを求めての事ではない。

俺も愛妹紳士()だから判る。

兄姉の妹達への愛は無償なのだから!。


──勿論、姉の事も大事に思ってますよ?。

だから、そんな笑顔で取り囲むのは止めようね?。




ちょっとした妻達との戯れ合いも有ったが。

気を取り直して、捜査再開。

尚、容疑者候補だった雪蓮はシロ。

褐色の肌に白は卑怯だと思います。

いや、それは違──わないけど、違うね、うん。

他の皆からも有力な情報も獲られませんでした。


──という訳で、情報収集に切り替える。

どうにも直ぐには見付けられそうに有りません。

怪しい容疑者候補は何人か居ますけどね。



「──という訳で、何か知らないか?」


「知っている事は教えるが…

二人共、孰れ御前の妻になる身だ

一緒に風呂に入り、寝てもいる

口付けとて今更気にする程の事ではなだろう?」


「それはそれ、これはこれです

俺からする分には俺の責任だから問題は無い

だが、二人からだと問題だ

意味を理解していないとは思っていないが…

兎に角、見過ごせないんです!」


「そういう所は相変わらずだな…

私の時など、かなり手が早かったと思うが?」


「アレはアレで必要な事でも有ったからな

少なくとも、以前と今とで状況が違う」


「やれやれ…面倒臭い性格だな」



そう言って呆れる様に溜め息を吐く冥琳。

だが、「仕方の無い奴だ」と惚気も含む。

そんな俺達の様子を見る思春・斗詩・桔梗・麗羽。

若干不機嫌なのは、冥琳とだけイチャついていると受け取られているからだろう。

そして、どうなるのか…判らない訳が無い。

判ってます、判ってますから少し待ちなさい。

今は先に話を──え?、「情報料は先払い?」…。

ええいっ!、掛かって来いやあぁーーーっっ!!!!。






「──で、行く先で皆に襲われている、と…

成る程、「リア充、死ね」な訳ね」


「この状態で貴女が言いますか?」


「だって、早く二人目が欲しいんだもん、んっ…」



椅子に座らせた俺の太股の上に腰を下ろし、向かい合いながら貪欲に要求してくる咲夜。

側の俺特製の揺り篭ベッドでは朗が熟睡中なのに。

御母さんってば、エロくて仕方無いね~。

──なんて考えていたら「誰の所為よ?」と両手で顔を固定されて濃厚なキスをしてくる咲夜。

初めて出逢った時には考えられない事ですが。

今は俺にとって最愛の女であり、妻ですから。

その要求に対する否は有りません。

ただ、少しだけ「時と場合は選ぼう?」と思う。




しかし、咲夜から有力な情報を入手。

値は張りましたが、その価値は有ると言えます。



「──あっ!、忍様っ!」



そう声を上げたのは明命。

君の真っ直ぐな笑顔は癒しです。

猫好きなのに、犬っぽいとか言えませんけど。

尻尾をプロペラ並みに回しながら駆け寄ってくる。

そんな姿を幻視してしまうのは俺だけですか?。



「確かに判るけどな」


「?」



俺の心の声に同意する白蓮。

抱き付いている明命は小首を傾げてますけど。

世の中には知らなくてもいい事は有るんです。

明命、君に“あざとさ”は似合いません。

ボクは、そのままの君が好いんだ。


──とか考えていたら、「誰だよ、御前は」と傍に来た白蓮に肘打ちを入れられます。

多分、別次元の俺の電波を受信したんでしょう。

恐るべし、明命の癒しパワー。



「亞莎と焔耶と朱里の騎乗訓練の様子は?」


「ん~…まあ、悪くはない、けどなぁ…」



そう言った白蓮の視線の先には翠の檄を受けなから悪戦苦闘する三人の姿が。

朱里は小柄な上に体幹が弱いからバランスを崩し、落ち易い事から避けてきた為。

焔耶は反射的に力任せに抑え込もうとするから馬が嫌がって暴れる負のスパイラル。

亞莎は逆に馬に舐められ過ぎて言う事を聞かない。

自分専用の子なら別だが、それでは困る事も有る。

「氣を使って走る方が楽だ」と思うだろう。

しかし、それでは駄目な事は少なくない。

その為、白蓮達が指導している。

明命が居るのは動物に対する特性が高い為です。




騎乗訓練の様子を見た後、目的地に到着。

其処は以前は貧民区だった立ち入り禁止区域。

既に再開発の予定も立っている為、関係者が此処に出入りしていても怪しまれない。

そんな区域の一角、古びた廃棄された倉庫。

其処に足を踏み入れる。


噂としては聞いていた。

最近、あの教団には幹部(・・)が出来たらしい、と。


だが、実態を掴めてはいなかった。

それ故に、陽動策の可能性も有ったが…。

咲夜からの情報で確信に変わった。

最近、矢鱈と教祖の動きが活発だったが。

その教祖を囮にして、幹部達が別々に行動。

同時多発的に布教活動をされては、潰し切れない。


そんな事は前々から判ってはいたのだが。

教祖が敢えて、一対一(タイマン)で挑んでいた。

だから、潰す事が出来ていた。

…まあ、それも一つの戯れ合い(コミュニケーション)だったんだが。


それが此処に来てマジになった。

本気で、布教活動を始めた。

今までは信者が自主的に入信していたのが、組織的布教活動により、爆発的に信者を増やしている。

それは最早、大規模感染(パンデミック)と言っていいレベルで。


だから、此処で潰さなくて。

手に負えなくなる前に。



「──御用改めである!、大人しく縛に付けっ!」


「「「「────っっっっ!?!?!?!?」」」」



ダンッ!!、と扉を蹴り開けた先には四人の人影。

向こうからは逆光になる為、瞬間的に視界を潰す。

反射的に眩しそうに手で庇を作っているのは桂花、星、七乃、そして──紫苑。



「まさか、御前までが加担していたとはな…」


「…申し訳有りません、忍様…

ですが、こればかりは私も譲る事は出来ません」


「今直ぐに二人目を孕ませてやる、としたら?」


「──っ!?」


「──ちょっ!?、揺らいでんじゃないわよっ!」


「そうですよっ!、私達はまだなんですよっ?!」


「いや、それは論点が違うのではないか?」


「一人だけ冷静振ってるんじゃないわよっ!」



ぎゃあぎゃあと騒いでいる内に手早く捕獲。

ええ、逃がす筈有りませんから。


ただ、容疑者は容疑者でも別件の、でした。

美羽達とは無関係なので、犯人は別に居ます。

まあ、幹部達を摘発出来たから良しとしよう。



「それで引き渡しに来た、と…

本当に…貴男も華琳も譲りませんね」


「そう言う愛紗は幹部じゃないのか?」


「信仰心は己が内に宿すもの

そう私達に教えたのは貴男ですよ?

華琳の考えに賛同している事は否定しませんが」


「出来れば、其処は反対して欲しいんだけど?」


「それは無理な話です

貴男の素晴らしさを知る者として華琳の考え自体は物凄く理解が出来ますから」



紫苑達を引き渡した後、愛紗と話す。

勿論、愛紗も容疑者では有りません。

そういう事を吹き込んだりはしませんから。

…まあ、同じ側に立てば、先輩として彼是と後輩にアドバイスしてはいるみたいですが。

今回は違うでしょう。

……違うよね?。




そんな疑いを懐いた俺が悪かったんです。

はい、愛紗にも襲われましたとも。

…可笑しい、俺は亭主関白な筈なのにっ!?。



「いえ、貴男程、その言葉が似合わない男性は世に他には居ないと思いますよ」


「そんな馬鹿なっ…」



さらっと突き付けられた稟の言刃(・・)に愕然となる。

いやまあ、判ってますけどね。

どう遣っても、あんな感じには成れないって。

だって、イチャつきたいんだもんっ!。



「…兄ぃは兄ぃのままが好き」


「恋ーっ!!」


「わ、私もそう思います~っ!」


「穏ーっ!!」



嬉しい一言をくれる妹であり、妻である二人。

思わず抱き締めてしまうのは当然の反応でしょう。

ただね、御二人さん、何処触ってるんですか?。

…え?、「…早く兄ぃの子供が欲しい」?。

任せなさいっ!──とは流石に言えません。

いや、もう一年程待って。

今、色々と有るから。


そんな真っ直ぐな御強請りに押され気味の俺を見て好機と判断した軍師の指揮で一緒に居た凪と月まで参戦してきたら…ねぇ?。

男には退けない戦いというものが有る。






「ああ、アレですか…アレは私が教えました」


「まさかまさかの秋蘭だったっ!?」



妹妻(いもうとのつどい)”なる物を催している四人を見掛け。

訊ねてみれば、あっさりと秋蘭が自供した。

頭を抱えたくなった俺は蓮華の胸に泣き付いた。

流石に年下の人和と蒲公英には出来無い。

二人共、苦労人だから包容力は有るけど。

俺的な男としての意地(プライド)的には無し。

寧ろ、二人に対しては両手を広げて受け入れる側。

何時でも甘えてくれていいんだよ?。


一方、蓮華は突然の事に吃驚&硬直。

ダイレクトに感じる鼓動の高鳴りが心地好い。

しかし、滅多に無い好機と理解し、俺の頭を両腕で胸に埋める様に抱き締めてくる。

負けず嫌いであり、最近は自分の気持ちに素直。

だから、こういう蓮華も珍しくは有りません。

…ただ、気持ち良いですが、窒息の恐れ、有り。

良い子は真似しない様にね?。



「──で、妹集って?」


「少しばかり問題の有る姉を持つ妹の集まりです」


「わぁ~…それ、はっきり言っちゃうんだ」


「忍様に誤魔化しは通用しませんから」


「それもそっか~」



掛け合いの様に話す人和と蒲公英。

人和の発言を指摘しながらも否定はしない強かさ。

そういう所が蒲公英の逞しさであり、頼もしさ。

そして、然り気無く二人して両脇を固める。

蓮華の独り占めが終わったからね。

次は自分達の番、という訳です。


秋蘭は唯一出産しているから余裕の対応。

ただ、その表情の横には「私は後で構いません」と書かれた俺にしか見えない吹き出しが有る。

…空気を読めるって、地味に大変なんですよ?。






「御兄様に情報を流したのは咲夜ですね」


「そうだと確信を持ってるんだな」


「それはもう…そういった真似は他はしませんので

愛紗ですら協力はしなくても賛同しています

賛同者でありながら御兄様にも協力するのは咲夜の他には居ません」


「成る程な」



そう言いながら苦笑する。

それだけ皆の事を理解している証拠なんだからな。


背後から歩み寄り、俺の左側に立つ華琳。

「此処が私の居場所です」と言う様に。

両腕で俺の左腕を抱き締め、頭を預けてくる。


字面だけを見れば、正にクライマックスな感じだが如何せん、俺と華琳の身長差は大きい。

だから、傍目には夫婦よりも兄妹に見えるだろう。

胸は立派に育ったが、身長は無理でした。

──とか考えていたから両手で抓られる。



「御兄様…御兄様に託された天命は果たされた今、御兄様はどうされるのですか?」


「んー…どうもこうもないな

御前達を愛し、子を成し、育て、幸せな老後生活を送った後に、老衰で息を引き取る

そんな有り触れた普通の未来を望むだけだ」


「世界統一を成されるのでは?」


「何故っ!?」


「御兄様ですから」


「妹よ、御前の事は愛しているが、それとこれとは話は別な様だから、一度じっくりと話し合おうか」


「私は閨の中が希望です」


「御腹の子に障るでしょうが」


「今更それを御兄様が仰有いますか?」


「………弁解の余地も御座いません…」



そう言えば、クスクスと華琳が笑う。

相変わらずな兄妹の遣り取り。

これがコミュニケーションの内は笑い事ですけど、華琳達が明らかに本腰を入れてきたのも確か。


ただ、これからは俺の一番の政敵は妻達になる。

それを確信させる様に「これだけは譲れません」と耳許で囁き、頬にキスをして去って行った華琳。

本当になぁ…滅茶苦茶大変な戦いが始まる様だ。

……取り敢えず、皆が活動出来無い様にするか。

何だか嵌められてる気がしないでもないが…。

う~ん……………何にも思い付かないなぁ~……。


青空は地平の彼方に沈んで行く夕陽に染め上げられ一瞬だけ交わる紫の輝きを見せ、赤く変わる。

時に、碧の輝きを見せる事も有る様に。

世界は人の思惑など容易く覆し、裏切る。


ねぇ?、俺、世界を救ったんですけど?。

それが何で妻達を相手に政治面で対立?。

可笑しくない?、可笑しいよね?、可笑しいって。

少しは俺の意を汲んで、妻達に諦めさせてよ。

──と言うか、最大の黒幕は世界(御前)かっ?!。

俺を選んだのも、咲夜を連れ込んだのも。

全部、貴方の掌の上ですか?。


そう、心の中で問い掛ければ。

世界が嬉しそうに笑った気がした。

「そうですよ」と肯定しながらも。

「期待した以上です」と否定する様に。

「この現在(いま)は貴男達が成したものです」と。

我が事でありながら、傍観者や語り部の様に。

何処か他人事の様にも思える感じで。


だから、溜め息を一つ吐き──苦笑する。



「…まあ、成る様に成るか」



どうせ、彼是考えても全てが思い通りに成るという事なんて有り得ない訳だし。

真面目に悩んでいる事ですら、時に馬鹿馬鹿しい。

そんな、俺達が生き足掻く様が望みなら。

この世界は、とてつもなく、ドSでしょう。


ただ、それでいいとも思う。

世界の意志なんてものは、人には大き過ぎる。


日が沈めば、月が上り。

月が沈めば、日が上る。

“明日”というのは、まさに字の如く。

日と月が繰り返す様に。

命もまた、生と死とを繰り返す。


人も、世も、そう遣って少しずつ変わって行く。

その中で、自分が何を成し、何を遺せるのかだ。





──という事で閉幕と成ります。

御拝読頂いた皆様、本当に有難う御座います。


当初のプロットでは、まだ続く予定でした。

色々な要因から、変わってはしまいましたが。

完結させる事が出来たので良かったです。


他の作品も有りますので、宜しければ見て遣って下さい。

最後まで、有難う御座いました。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結お疲れ様でした。 [一言] 本当に、本当にお疲れ様です( ;ᾥ; ) 以前感想を書いてからすぐに終わっていた様で、驚きました。 まだ続いていた様なあとがきを見て、まだまだ読みたかったな…
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