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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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99話 起源は違えども


始まれば、必ず終わりが有る。

そして、終われば、必ず始まりが有る。


もし、その概念から外れる存在が有るとすれば。

それは、時の流れだけ。

誰も始まりを知らず、誰も終わりが判らない。

例え、世界が消滅したとしても。

時の流れだけは、途切れる事は無い。

何故なら、時の流れは実体を持たないもの。

概念としては意識する事は出来ても。

本当の意味では時の流れを理解する事は出来無い。

人の身では、其処に届く事は無いのだから。


しかし、そんな時の流れに。

人は勿論、あらゆる全ての存在は抗えない。

──であるならば、時の流れこそが絶対で。

謂わば、人の概念で言う所の“神”ではないのか。


そんな風に考えたなら。

太陽信仰や天測文化・天文学が政治に深く関わった文明が多い事にも納得出来るのではないだろうか。

そして、あらゆる時代や文明を越えて、人が如何に時間に囚われ、支配されているのかという事が。

それ故に、如何に技術や学術が発展・進歩しようと不老不死や永遠という幻想を求めるのか。

足掻けば足掻く程に、抗えば抗う程に。

果てしない深淵へと落ちて行っているのか。

普段、そんな事を考えない者にも判る事だろう。


そういった意味では、やはり人間は逸脱していると言わざるを得ない存在なのだろう。


本来、あらゆる生命は食物連鎖の環の中に在る。

だが、死に抗う、異常なまでの生への執着。

或いは、際限の生への渇望。

それにより、人は寿命を伸ばしている。


それは、人にとっては(・・・・・・)良い事なのだろう。

だが、自然の摂理を逸脱し、破壊を齎す人間。

その寿命が延びるという事は。

より多くの自然が失われる事を意味している。


例え、その様な意識は無かったのだとしても。

存在している事、それ自体が罪であるのならば。

どんな言い分も、無意味でしかない。


もしも、自然界を統べる意志が有るのならば。

人は、疾うに淘汰されてしまっているのだろう。

或いは、自然界の意志は、破滅の可能性を知りつつ人間が存在する事を許容してくれているのならば。

人間は今一度、その在り方を見直すべきだろう。


破壊する事は容易い。

だが、それを築き上げるには長い長い時を要する。

人間が支配者気取りで破壊し続けてきたもの。

それを人間の手で修復しようとするならば。

決して、人一人の人生では到底不可能な事で。

幾百、幾千、幾万、幾億の人々が。

世代を超えて繋ぎ続け。

幾百年、幾千年、幾万年、幾億年を費やす。

そうしなければ、実現しないという事を。

本当の意味で理解し、向き合わなくてはならない。


他の誰でもない。

人が自然を、世界を破壊しているのだから。


もし、この世界を見ている神や仏が在るならば。

人間に都合の良い教えや導きはしないだろう。

何故なら、宗教とは人間の都合で出来たもの。

自然には、神や仏など存在しないのだから。


万物に魂が、意志が宿るとするならば。

果たして、人間は存在する事を許されるのか?。


そう考えた時、何れだけの人間が肯定出来るのか。

それを肯定した者は何を根拠に人間の存在する事を肯定出来たのか。

それを突き詰めていけば、何れだけ身勝手な事しか考えていないのか。

人間の醜さを露呈するだけだろう。


ただ、それでも。

人間が存在している事実は変わらない。

それならば、人は真剣に考えなければならない。

人間が存在する事の理由。

自然の摂理を破壊する人間が向き合うべき事。

それが一体何であるのかを。

一人一人が考え、動いていかなければ。

軈て訪れるのは、破滅という終焉である事を。

決して、忘れてはならないのだから。



「……待ったのに全く動きが無かったのになぁ…」


「まあ、何事も無くて良かったんじゃない?」


「まあ、それはな…」



例の巨塔、その攻略の為の本陣から見詰めながら、咲夜と一緒に呟く。

その咲夜の腕の中には──俺との第一子となる娘。

ええ、様子見をしている間にね、産まれました。

俺にとっては二人目の娘、次女になります。

気になる名は司馬朗。

歴史に倣った訳ではなく、将来的な事を考えた上で姉になる事から、朗らかに、と。

そういう意味で名付けました。


そんな眠っている朗を見詰めながら咲夜が微笑む。

皆が産んだ俺の子供達も可愛い事は間違い無い。

ただ、それでも。

やはり、自分が産んだという事実は特別で。

咲夜自身、母としての一面が強くなっている。


でも、産んだ子供が特別、という訳ではない。

等しく、愛おしい事には変わらないのだから。



「…こんな事を言うのは可笑しいんだけど…

貴男に出会えて、この娘を産めて、私は幸せよ

到底、今の人生を歩まなければ知り得なかった事…

そう考えれば…“怪我の功名”、なのかしら?」


「それは結果論だろ?

勿論、こうしている事も結果としては、だけど…

それは俺が、咲夜が、自分で選び、望んだ事だ

だから、今が、これからが幸せである事が全てだ」


「………貴女達も大変ね

こういう御父さんを持っちゃったんだから」



そう呆れた様に言っている咲夜だが。

「御免ね?」と謝る様な素振りは無く。

「だって、仕方が無いじゃない」と開き直った様に惚気ている姿が見える様な横顔で。

眠っている朗に話し掛ける。

気持ち良く寝ているんだから、邪魔しないの。


──と言うか、可笑しいよね?。

冷静に考えると、この状況って無いよね?。

流石に新生児連れで臨戦させたくはないんですが、咲夜が「私も行く」と言って譲りませんでした。

勿論、当初の予定に変更は有りません。

産後間もないんですから、当然です。

塔の攻略戦には参加させません。

其処は咲夜も理解してくれました。


ただね、その所為で子供達が勢揃いしています。

朗だけ、という訳にはいきません。

そんな事したら他の母親達の不満爆発ですから。

ただねぇ…これはこれで違うでしょ?。

戦場に託児所って…頭が可笑しくなりそうです。



「その辺は心配しないで、死んでも守るから」


「強制退去させるぞ?」


「──っ…御免なさい…」



今の俺に一番の禁句を迂闊に言った咲夜。

即座に失言に気付き、申し訳無さそうに俯く。


正直、その可能性が有るから、心配なんで。

それを言ったら…ねぇ?。

しっかりと心身に(・・・)教え込みましょう。

「──ちょっ!?、だっ、駄目っ、今は──」という咲夜の訴えも却下です。

ええ、ちゃんと学習しなさい。




そんなこんなで眠っている朗を起こさない様にして咲夜への教育実習(・・・・)が終わった後。

朗を預けて、再び塔を眺める。

咲夜だけではなく、宅の主戦力は勢揃いで。


尚、咲夜の様子から何が有ったのかを察した面子は経緯を聞き、「それはそうなるわよ…」と呆れる。

咲夜も理解しているから、反省している。

実習内容自体は嬉し恥ずかし楽し好しでも。

それはそれ、これはこれ、ですから。



「──で?、やっぱ、アレ(・・)が唯一なのか?」


「そうだろうな、他には見当たらないしな」


「…どう見ても罠だよな?」


「正しく歓迎(・・)してくれるだろうな」


「それを承知で、か…嫌な話だな…」


「それしか選択肢が無いからな」



ボヤく様に皆の気持ちを代弁する白蓮と話しながら見詰める先に有るのは、今朝、出現した扉。

地上部分の最下部に突如として出来た扉。

当然の様に見張り役からの緊急伝。

昨日、現地入りした俺達に合わせたかの様な事態に相手の挑発的な意思を感じなくもない。

我が前(此処)まで来られるか?」と。

不敵に笑っていそうにさえ思えてしまう。

勿論、そんな物は此方の勝手な想像なんだけど。


基本的に負けず嫌いな面子ばっかりだからな。

安い挑発だと判ってはいても。

「殺ってやろうじゃない」な訳でして。

ええ、殺る気(・・・)満々です。

まあ、相手を生かしておくつもりは有りませんから全然構わないんですけどね。


──で、その扉なんですが。

横3m程、縦5m程の筍型の両開きの扉。

見た目には外壁と同じ素材。

デザイン的には…地獄の門、という印象。

悪魔…鬼?…いや、やっぱり、悪魔?…と。

断言するのが難しい禍々しい姿をした彫刻。

もしかしたら、人の成れの果てなのかもしれない。

そんな風に思わせられる雰囲気も有る。


見るからに怪しく、危険な感じが拭えない。

だから、他の者には触らせてはいない。

下手に触れれば、何が起きるか判らないから。

それで俺が触れてみたんですが…扉なのに開かず、触ろうとした右手が通り抜けた(・・・・・)んです。

ええ、そういう(・・・・)仕様でした。


…ちょっと恥ずかしかったのは内緒です。

だって、肩透かしされたみたいに「…アレッ!?」な感じでスカッた訳ですから。

誰にも気付かれてはいないにしても。

俺の中では「あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁあ~~~っ!!」と。

頭を抱えて身悶えながら転がる俺達が沢山。

滅茶苦茶恥ずかしかったです。


──という話は忘れて。

それでも、扉と言えば、扉にはなるんでしょう。

要は、簡単には出入り出来無い訳ですから。

──で、右腕を引き抜いたら、傍に居た凪や真桜に試して貰い、その後で一旦本陣に戻ってから説明し蓮華達を連れて行って試して貰った結果。

ある程度、氣を扱う実力が必要なんだと判明。

技量は勿論、氣の総量という面でもね。

何方等かが不足していても駄目みたいで。

蒲公英とか数人は悔しがっていました。


その調査結果による線引きで、塔の攻略に参加する面子は一気に絞られた。

まあ、当初の予定と大差は有りませんけど。

その面子ですが。

俺に愛紗・梨芹・恋・凪・真桜・白蓮・流琉・季衣・春蘭・秋蘭・紫苑・祭・冥琳・明命・思春・翠・霞に精鋭兵十三名。


月・穏・璃々・稟・七乃は通れるが、向き不向きを考慮して俺が外しました。

本陣の方にも人員は残したいので。

華琳に咲夜と残りますが、念には念を。

油断した挙げ句、足元を掬われたら笑えません。

その辺りを察し、俺が全てを言わずとも月が素直に引き下がってくれた為、他も了承。

不満が無い訳ではないが、其処は我慢して貰う。

御機嫌取りは後で遣ります。

勿論、月に対する感謝もです。


それと、資格すら無かった面々ですが。

実力的に足りないと判定された事は悔しそうで。

それを糧に大きく成長してくれる事でしょう。

「つまんなーい」と文句を言ってる雪蓮は放置。

妊娠していなくても実力不足で入れないので。

そんな雪蓮を宥める蓮華も心底悔しそうですが。

自分の実力は理解していますからね。

無茶な事は遣らないでしょう。


俺としては宅の兵の中から十三人も参加出来る事が驚きでもあり、嬉しく、誇らしく思う。

俺や妻達とは違い、本当に努力で勝ち取った権利。

そう称賛しても大袈裟ではない事なのだから。

当初は五十人を予定していた攻略部隊。

その内の25%が残った訳ですから。

ある意味では、快挙とすら言えます。

何か特別な…褒美とかも考えないといけませんね。

それが他の者達の遣る気にも繋がりますから。


──という訳で、本陣を出て、最後の確認。



「準備は出来ているな?」


「ああ、大丈夫だ、何時でも行ける」


「判ってはいると思うが、全てが未知の領域だ

一歩踏み込めば、何が起きるかは判らない

だが、どんな事が待ち受けていようとも、その事を事前に知っていようとも、出来る事に大差は無い

自らが培い、研鑽し、己が血肉としてきた全て

それこそが最大の武器であり、可能性だ

だから、俺から言う事は一つだけだ

俺より先に死ぬ事は許さない

足掻け、抗え、食らい付き、生きて戻れ

それが御前達の最優先すべき使命だ」



そう言えば、妻達は勿論、精鋭兵も苦笑。

「それでは、貴男の使命は?」と。

言外に問うている。

だから、「そんな物は一つだ」と言う様に笑う。

そして、背を向け──塔を見上げる。


雲が掛かれば頂上は容易く見えなくなる。

それ程の高さを誇る巨塔を前に──心が躍る。

まるで、童心を思い出すかの様に。

自然と笑みが浮かぶ。





 司馬防side──


例え、どんなに意味不明な状況下に有ろうとも。

流れる時は止められず。

時の流れは変えられない。


そんな訳で──無事に第一子を出産しました。

ええ、それはもう忍が付いているから安産で。

「咲夜が難産になるとしたら三つ子以上だな」と。

忍から太鼓判を貰った程に、すんなりでした。

でもね、痛いものは痛かったわ。


それは兎も角として。

私にとって、子供を身籠り、産むのは初めての事。

…ああいえ、それは皆、そうなんだけれどね。

ほら、私って少し特殊な訳だから。

正直、今の自分としての人生を経験しなかったら、何時になったか判らないもの。

そういう相手も居なかったし、考えた事も無い。

人の感覚だと、永遠に等しい時を生きる身だから。

尚更に、そういう感覚が稀薄なのよね。

勿論、個体差は有るから、絶対じゃないんだけど。


私は忍が相手でなければ、サポートに徹するだけで夫婦になる事は無かったと思う。

…まあ、最初の(・・・)出逢いはアレだったけど。

再会した時の忍は……ね。

反則な位、格好良かったもの。

だからね、「あの瞬間に私の未来は決まったの」と言っても決して過言ではないわ。

将来、子供達に惚気ながら語ってあげるつもりよ。

忍は嫌がるでしょうけどね。



「…貴女、態と遣ってるんじゃないわよね?」


「……え?」



忍達を見送り、本陣に戻って朗を抱きながら自然と色々と有った事を振り返っていたら。

唐突に華琳に声を掛けられた。

「…話を聞いていなかったわね?」と。

眼光鋭く睨まれる。

しかし、その視線が朗に落ち──怒気が散る。

有難う!、朗!。

貴女の御陰で御母さん助かったわ。

──という気持ちは出し過ぎない。

折角の愛娘の手助けを不意にはしないわ。



「御兄様への一番の禁句が何か、という話よ」


「あ、ああ…それは勿論、態とじゃないわよ

──と言うか、さっきのは本当に口が滑ったの…」


「…まあ、貴女の気持ちは判るのだけれどね」



そう溜め息を吐きながら御腹を撫でる華琳。

私と華琳に限らず、出産済み・妊娠中の面々は皆、子供達の為になら、命懸けになれる。

それこそ、いざとなれば迷わず自分の命を犠牲にし子供達を守る事が出来る。

その覚悟と意志、想いが有る。


有るのだけれど──それが忍には一番の懸念。

子供達の為に、私達が自分の命を軽んじる。

そんなつもりは無いのだけれど。

無意識下では優先順位を入れ替えている。

そう指摘されても否めないのも事実。


だから尚更に、気を付けなければならない。

守るという事は、生きていて出来る事。

そう忍は考えているし、自ら示し続けている。

そんな忍の妻であるなら。

私も、きちんと体現していかないと…ね?。

貴女を悲しませたら、それこそ本末転倒だもの。



──side out



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