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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   高く聳えし巨影


一通りの調査を終え、帰宅。

待機していた皆を集め、結果を報告する。

一様に「…信じられない…」という反応だったが、俺達が──特に凪の証言である事が事実である事を強く印象付けていた。


俺と真桜だと、多少は盛る(・・)事も有る。

勿論、俺も真桜も時と場合は選びますけどね。

だだね、こういった時には普段の自身の言動の差が如実に出るものなんだって染々思いました。

本当、凪を連れて行ってて良かった~。



「それでは御兄様、入り口は無いのですか?」


「ああ、扉らしき物は地上には見当たらなかった

地下の部分に埋没している可能性も考えて探ってはみたんだが…何も無かった」


「それって…つまり、相手は此方を中に入れる事は考えてはいないって事なのか?」


「いや、それは無いだろう

もし仮にそうだとしたら、塔が出現した時点で既に何かしらの影響が及んでいても可笑しくない

しかし、実際には何の影響も出ていない

勿論、これから起こる可能性は有り得るが…」


「態々破壊される危険を冒す理由は無い、か…

だとしたら、入り口の無い理由というは…」


「まだ時期じゃないのか、或いは、それも仕掛けの内の一つなのかもしれないな」


「つまり、まだ準備中(・・・)の可能性も有る、か…」


「仕掛けを解くか、条件(・・)を満たすか…

恐らくは、そんな所だろうな」



冥琳の推測に同意する様に後半は俺が言う。

まあ、実際に見てきた俺達からしたら、塔の内部に如何にして入るか。

先ず取り組むべき課題は其処だと判っている。

だから、それ以外の事は後回し感が強くなる。

それを皆に話す事で、客観的に見詰め直す。

冷静に判断する上では、こういった事こそが地味に必要な事だったりします。



「それで、どうするんだ?」


「取り敢えず、予定通りに配置に付いて貰う

その上で数日、様子を見る

特に動きが無い様なら、待機組と護衛を残し──」


「──待って下さい、御兄様」



──と、珍しく華琳が途中で割り込んできた。

それには他の皆も流石に驚いている。

私的な場で、戯れ合っているのなら兎も角。

公的な──政治的な場で華琳が俺の発言を遮る様な真似をした事は……俺の記憶には無い。

恐らくは、他の皆にしても同じだろう。

だから、必然的に場が静まり返る。



「何だ?」


「御兄様、最前線には私達も参加致します」


「いや、それはだな…」


「勿論、御兄様の仰有りたい事は判ります

しかし、今回に限って言うのであれば、分散している方が危ういと私は思います」


「…其処を狙ってくる、と?」


「いいえ、何方等かと言えば最前線に居なければ、いざと言う時、枚数(・・)が足りなくなる

そう私は思います」



真っ直ぐに俺を見詰めながら言い切った華琳。

その言いたい事は直ぐに理解出来た。


もし、相手の狙いが俺の懸念する通りなら。

削って(・・・)くるなら、分散していた時が好機。

しかし、相手の奇襲は咲夜を狙った一度限り。


何故、咲夜だったのか。

俺と咲夜、後は華琳と月だけが少なからず可能性を頭の片隅に思い浮かべられる程度で。

他の皆には、偶々(・・)にしか思えないだろう。


ただ、もしかしたら、そうなのかもしれない。

俺達の考え過ぎ、気にし過ぎの可能性も有る。

或いは、そう思わせたい(・・・・・)、か。


華琳が指摘しているのは、其方の可能性だ。

そして、その場合には、分散した事が仇になる。

それを防ぐには、戦力は最前線に全投入(・・・)するべき。

実際に戦闘に参加するのかは別にしても、と。



「………無理強いはしない

だから、これは飽く迄も自分の意志でだが……」



そう言いながら待機組の顔を見るが……はぁ~…。

…まあ、そうなるよな、こう言えば…。

全員、揃いも揃って僅かな逡巡も無し。

「当然、行くに決まってます」と。

寧ろ、遣る気を漲らせている位ですからねぇ…。

本当に…頼もしく、逞しく、雄々しい奥様方です。



「判った、塔の攻略時には全員で挑む

但し、その中でも後方待機だからな

それだけは俺としては譲れないからな?」


『はいっ!』



声を揃えて良い返事をしてくれてはいるが…。

此方の想像を超えてくる御転婆揃いだからなぁ…。

……もう、何事も無い事を祈るしかないか…。




──といった感じで解散。

診察という名目で咲夜と二人きりになる。


…別に不倫相手と密会している訳ではない。

ただ、第三者が此処だけ切り取って見たとしたら。

そんな風に解釈する可能性は否めない。


何しろ、人は足りない情報は知識と経験を基にした予想・仮説という形で埋めるのだから。

しかし、それを忘れて、事実の様に思い込む(・・・・)

其処が、機械と違う、人の脳という機能の怖さ。

有り得ない理論を強引に組み立てる。

機械には先ず出来無い事であり。

人しか持たない自己破綻の可能性だと言える。



「──で、どう思う?」


「………正直、私も自分が体験した訳じゃないから現状が何れ位の“歪み”の影響かは判らないわ

ただ、少なくとも異常である事だけは確かね」


「まあ、そうだろうなぁ…」


「実際、貴男自身が確かめた感じは?」


「…限り無く黒に近い灰色(グレー)だな」


「つまり、受け取り手次第で何方等にもなる、と…

其処まで微妙なの?」


「起きている事としては100%黒だ

ただ、それが歪みの影響かは…断言は出来無い」


「厄介な話ね…」



管理者(御前)が言うな」と。

再会した頃なら言えていたんだろうが。

今となっては、冗談でも言えない。

何故なら、此処に居る咲夜は俺の妻であり。

無責任な管理者などではないのだから。

共に背負い、共に支え、共に歩み、共に生きる。

御互いに必要不可欠な存在と成ったのだから。


──という考えを見抜かれた様で。

咲夜に襲われて──暫し、脱線致しまぁ~す。






「結局、得られた情報は無いに等しいのね…」


「“歪みと関連付けられるだけの”と付くけどな」


「そうね………と言うか、今更なんだけど…

この世界での氣とかの基準って高い訳?

私の場合、前世の知識が無かったら、伝説の秘術と言われても疑わない様な感じだったんだけど…」


「んー…どうなんだろうな

老師の話だと使い手が稀少な事には間違い無い

ただ、世界人口(・・・・)という分母で見たら判らない

もしかしたら、局所的に多い可能性も有る」


「そうね…宅なんて正に、そうなんだし…」



俺や華琳達によって指導され、実際に氣の扱い方を身に付けている者は宅には数多く存在している。

勿論、悪用されない様に相手を選んではいるが。

それも絶対に大丈夫という保証は何処にも無い。

だから、自分達の手で片付ける。

その覚悟を持ちながら、指導してもいる。

今の所、そうはなっていない事は幸いだ。


そういう意味で考えるなら。

一人、氣に精通した者が居れば。

氣の扱い方を教え、精強な軍隊を組織する事自体は決して不可能な事ではない。


けれど、今回の様な真似は──出来る筈が無い(・・・・・・・)


そう、転生する前に咲夜が俺に言っていた様に。

世界の在り方を無視する様な力は存在出来無い。

いや、成立しない(・・・・・)と言った方が正しいか。


それなのに──現実には、こういう状況だ。

だから、歪みの影響を考えない方が難しい。


難しいが──実際に一夜にして塔は現れた。

それを、どう考えるのか、が悩み所だったりする。



「…ねぇ、例えば手品のタネみたいな可能性は?」


「視覚的な意味でなら出来なくはないが…

彼処まで巨大な存在を、今の今まで、俺達の探知を擦り抜けて隠し切れると思うか?

少なくとも、韓宮の事件で俺達は直に調査したんだ

その時には、確かに存在してはいなかった

それだけは間違い無いと断言出来る」


「そうよね…と言うか、私も其処に居た訳だし…

貴男達に比べれば劣るけれど、直に触れば(・・・・・)判るわ

確かに、あの時、彼処には何も無かった」


「ああ、だから判らないんだ」



普通に考えて、不可能だ。

あんな物を一夜で建てられる訳が無い。

後世に語られる話なら、盛った(・・・)可能性は有る。

権力者等が事実以上に大袈裟に吹聴させた。

或いは、事実だとしても、入念な準備が有った。

そういう風に考えていけば実像が見えてくだろう。


しかし、今回の件は訳が違う。

咲夜ではないが、それこそ魔法(・・)に等しい。

この世には存在しない筈の魔法。

盛大なルール違反の裏技だと言える程にだ。



「……………いや、ちょっと待て…」


「どうかしたの?」


「もし、仮にだ

アレを隠せる場所が有るとしたら、説明は出来る」


「それって…何処かからか取り出しだ(・・・・・)って事?」



前世で最もイメージし易いだろう、未来の存在。

御腹のポケットから取り出す様にして見せる咲夜に俺は頷いて返す。


だが、如何に咲夜でも直ぐに納得は出来無い。

イメージは出来るが、具体性に欠けている。

だから、どうしても現実味を帯びてはいない。

しかし、それも当然の事だ。

咲夜には実体験(・・・)が無いのだから。

その為、其処にまで考えが及び難い。

故に、俺だけが辿り着ける可能性だ。



事の肝(タネ)隔離世狭間(・・・・・)だ」


「──っ!!」



その単語(キーワード)一つで咲夜は気付く。

先程までの具体性の無いイメージが現実味を帯び、今までの推測や仮説が縫い連ねる様に結び付く。


前世の知識しかない俺よりも。

より多くの世界を知り、知識を持つ咲夜なら。

たった一つの要素(ピース)が加わるだけで辿り着ける。


だが、驚愕から一転。

その表情は今まで以上に険しい物になる。

その意味が判らない程、俺も鈍感ではない。

根拠も無く前向きには為れないし、馬鹿みたいな程能天気にも為れない。

“常に考える”という事は、こういう事だ。


氣が使えなかったら、神経性の偏頭痛や胃潰瘍等を患っていた事でしょう。

もうね、色んなストレスがヤバイんで。



経験者(・・・)としての意見だが…

彼処でなら、誰にも気付かれずに建設が出来る

その上、自らの意志で(・・・・・・)行き来出来る様な存在なら、塔を任意の(・・・)場所に出現させる事も可能な筈だ」


「…此処に来て、袁硅の件とも繋がる訳ね…

それなら、あの場所を選んだという事にも?」


「ああ、間違い無く意味が有る筈だ

韓宮の件にも少なからず関わっていたんだろう

そう考える方が必然性が高くなる」


「あの時は、結果的に貴男達と月の繋がりが相手の目論見を邪魔した…

でも、もしも相手の動く時期が違っていたら…」


「確実に、此方は何も出来無かっただろうな」


「………既に終わった事だけど……笑えないわ…」



左手で顔を隠す様にしながら天を仰ぐ咲夜。

多分、元々の彼女の立場からしても笑えない事実。

──と言うか、色々と文句も言いたくなるだろう。

まあ、話を聞いた限りでは半分は自業自得。

其処で八つ当たりも出来無いのが咲夜の立場。

それでも、俺になら愚痴れもする訳だが。

その辺りの責任感の強さは人一倍。

だから、後でパートナーとしてフォローする。



「“隔離世狭間を利用している”という前提条件を置けば、相手の使った絡操りも見えてくる

そして、其方等(・・・)側に歪みの影響が出ていれば?」


「確かに…今までの全てが繋がるわね…

そして、これまでの貴男の推測は正しかった訳ね」


「喜んでいいのかは悩ましい所だけどな」


「其処で喜べる程度なら、もう終わっているわ

この世界諸ともにね」



「勿論、私も例外無くだけど」と苦笑する咲夜。

それには俺も苦笑で返す事しか出来無い。


普通の死ならば、咲夜の魂は元の彼女へと戻る。

そういう存在なんだから当然の事だ。

だが、歪みによる影響で死ねば、彼女でも終わる。

俺達と同様に、世界と共に消滅する。

歪みの影響力というのは、それ程に強いのだから。




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