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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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96話 山響く鎚の音の


多くの人々が、普段の生活の中で平和という言葉を耳にする事は少なくだろう。

それが良い意味でなのか、悪い意味でなのか。

それは人各々、時と場所、状況に因り異なるが。

情報化社会の中では、共有している事は多い。


ただ、人により、その認識や意味は大きく異なる。


平和というのは、享受している間は判らないもの。

いざ、戦争となったり、経済が乱れたりして。

漸く、平和というものが如何に大きな意味を持つか初めて理解し、実感出来ると言えるだろう。


言い換えるなら、平和とは退屈なものである。

平穏とは平坦で、日々、代わり映えのしないもの。

それを「退屈だ」と感じるのは。

人間だけではないのだろうか。


命懸けの殺るか殺られるかの日常は刺激的だろう。

食うか食われるか、奪うか奪われるか。

不変の弱肉強食(真理)に基づくならば。

本来、生命の摂理には平和という概念は無い。


また、共存という概念にしても同じ事が言える。

自然界に於ける共存とは、正しい食物連鎖の事。

決して、全ての生物が御互いに助け合い、協力して生きているという事ではない。


自然界では、生と死の営みが必ず環を成している。

だからこそ、その全てに無駄は存在しない。


それを取り違えているのが、人間という生き物。

そして、それは完全なエゴでしかない。

身勝手な綺麗事(解釈)で言葉を装飾し。

その印象(イメージ)を政治的に利用する。

その為の小道具(ツール)として。

まるで、人間という一種族が世界の全生物の頂点に立っているかの様に振る舞い。

それを誰もが疑わない様に認識を操作する。


そうして築き上げられるのか、人間の言う平和。


だが、その平和は人間の為のものでしかない。

人間さえ良ければいい。

人間にとって満たされていれば満足。

それが、人間の言う平和だと言えるだろう。


自然保護や環境問題の解決を声高に主張するが。

抑、それを招いたのは他ならぬ人間である。

人間が長き歴史の中で積み重ねてきた大罪。

それらが今、問題視されている。

この事実を何故。

人々は滑稽な話だと思わないのだろうか。


それは人間特有の責任の押し付け合いが原因。

全人類が自分達の罪であると理解し、国や企業等のあらゆる枠組みを越えて協力すれば済む話を。

常に、誰の責任かで言い争っている。


これは“誰かの責任”ではない。

全ての人類の責任なのだと。

そう理解し、向き合わなくてはならない事。


しかし、その認識を一体何れだけの人々が持つか。

何より、国や企業の上位に位置する人々が誰よりも率先して取り組まなくてはならない中で。

自分達の利害ばかり考えている。

それこそが最大の原因だと言えるのではないか。


もし、世界中の国々が、企業が、人々が。

本気で人類の犯した数々の罪と向き合ったなら。

世の中の問題の多くは、僅か数年で改善出来る。

完全に解決する為には、長い年月を必要とする事は決して少なくはないが。

それでも、人類が罪を積み重ねた年月を考えたなら当然の事だと言えるのではないか。


それを負担だと考えるなら。

それは傲慢でしなく。

自分達は何もしていないと言うのなら。

人類として恥ずべき事ではないのだろうか。


自分達さえ良ければ、それでいい。

もし、それが平和という事ならば。

人類は更に大きな罪を積み重ねる事になるだろう。


そして、現代の人々が過去の罪を背負う様に。

子供や孫、未来の人々に更なる罪を背負わせる。

それを良しとするのか。

仕方が無いで済ませるのか。

全ての人類は。

我々一人一人が。

真剣に考えなくてはならないのではないだろうか。



「──アカン、師匠~…ウチ、もぉ~無理ぃ~…」


「気張れ真桜、奮起一発だ!」


「一発やったら、師匠のんがえぇ~…」


「そんな風に言えるなら大丈夫だな、頑張れ」


「師匠おぉ~、ウチに御情けをぉ~」



つい、そのノリに反応したくなりますが。

その衝動を抑え、心を鬼にして無視します。

こういう真桜との馬鹿馬鹿しいノリは好きですが。

何事も時と場合は選びますからね。


──あ、因みに、反応っていうのはボケ・ツッコミの事ですからね?。

違う意味の突っ込みでは有りまんから。

真桜が言ってたのも、飽く迄もネタとしてです。


…まあ、「そういう流れからの経験が無いか?」と訊かれたら、無いとは言えません。

興味本位、或いは、ノリと勢いという事は誰にでも何かしらの経験は有るでしょう。

そういう事に限らずにね。

だから、仕方が有りません。


何より、真桜に付き合ってしまうと時間が掛かる。

今は遊んでいる時間は有りませんから。


さて、そんな俺と真桜なんですが。

今現在居るのは遼西郡の西部。

海に面した“白霞山”という場所。

六割が岩山、三割が山林、残る一割は沼地、と。

ちょっと変わった山です。

──と言うか、山に沼地が有るって事事態が珍しい事なんですけどね。

全く無いという訳では有りませんから。

此処が唯一無二の特殊な環境という事ではない。


ただ、特徴としては、その名が示す通りで。

山の七割近くは白く霞む様に視界が悪く。

その状況は、略一年中続きます。

まあ、地下水脈が有る証拠でも有りますから。

豊富な水源地というのは地味に重要な事なので。

文句を言う事では有りません。

山の中を歩く身としては、困る話ですけどね。


そんな白霞山に俺達が居るのは開拓視察──という様な理由ではなくて。

ちょっとした宝探し(・・・)だったりします。


…まあ、華琳達、妊娠組は兎も角として。

来たがった面子は少なく有りません。

雪蓮とか春蘭とか季衣とか小蓮とか雪蓮とか。

二度言ったのも間違いでは有りません。

彼女は諦めが悪いので。

最後は蓮華に耳を引っ張られながらの御退場。

俺が蓮華に御礼(・・)をしたのは言うまでも無く。

蓮華も悦んで(・・・)くれていました。


そんなこんなな日常茶飯事の遣り取りが有って。

真桜と二人で遣って来ています。

登山デートみたいな事は有りません。

半分程度は、遊び感覚ですが。

もう半分程度は真面目な御仕事としてなので。

…若干の気分転換(息抜き)は見逃して下さい。


──で、何故、白霞山に来ているのかと言うと。

以前、一度は調査をしている場所なんですが。

実は、改めて彼方等此方等を再調査していまして。

少し前、此処が怪しい事に気付いたんですよ。


…え?、「手抜き調査したんだろ」って?。

そんな訳有りませんよ。

何処ぞの政府や企業の形式だけの既成事実を作る為だけの調査じゃないんですから。

ちゃんと、調べています。


ただまあ、見落としていたのも事実なんですけど。

その理由は、例の仙残鋼の時と同じです。

地上に露出していて、目視・接触して確認が出来る場合なら直ぐに判るんですが。

地下(・・)となると簡単では有りません。

だから、地下の調査には氣を用いている訳で。

その氣を、仙残鋼は透過(・・)する訳で。

氣の探知では感知出来ずに空白(・・)──異常無し、と。

つまり、そういう事なんですよ。


それもこれも仙残鋼を発見したからなんですが。

仙残鋼の存在を知らなければ──実在を疑わずに、その可能性を考慮して、調査が出来ていれば。

もう少し、念入りに調査もしていたんですけどね。

当時は、その可能性を考えもしませんでした。

だって、酔っ払いの戯言だって思ってたし。

実物を老師が持っていた訳でも有りませんからね。

だから、二度手間も仕方が有りません。



「なぁ~、師匠~、目的地まだなん?」


「もう少しだ」


「もう少しって、何れ位なん?」


「そうだな…彼処を見ろ」


「………いや、師匠、彼処って何処やの?

真っ白で何も見えへんし…」


「そういう事だ

具体的に何処、と言って遣りたいが、それを目視で示す事は視界が悪くて出来無い

だから──兎に角、頑張れ」


「嘘やぁ~…訊くんやなかったぁ~……」



そう愚痴りながらも足は止めない真桜。

まあ、体力的に、じゃなくて精神的に、キツい。

特に襲って来る様な獣も居ないし。

風光明媚な場所、という訳でもない。

眺望は悪くないが、山を登る上では意味が無い。

つまり、退屈なんですよ。


これが俺とイチャイチャしながら登ってるとかなら真桜も愚痴りもしないんでしょうけど。

流石に仕事として来ていますからね。

調査対象域を調べて一段落すれば、イチャついても構わないんですけど。

今は目的地に向かってる最中ですからね。

俺も厳しくしないといけません。

…一度緩めると緊張感って戻りませんからね~。




──といった感じで、真桜の遣る気を刺激しながら何とか辿り着いたのは白霞山の八合目付近。

沼地が眼下に見える岩場。

しかし、それは氣を使って把握しているだけで。

視界は滅茶苦茶悪い。

氣を使える俺達だから御互いの位置や動き、地形も把握する事が出来ていますが。

そうでなければ無理です。


──って、止めなさい、真桜。

そんな所を触るんじゃ有りません。

「景気付けに一発有ってもえぇやん」やない。

俺も真桜も絶対に一発で済まへんやろ?。

せやから、今はアカン。

ちゃんと御仕事終わってからや、な?。


──という謎の言語感染を乗り越え、仕切り直し。

いや本当にね、こういうノリは好きなんですが。

仕事中は悪影響が出易くて困ります。

…まあ、真面目なノリって有りませんしね。

ノリだっていう時点で、深謀遠慮な訳が無い。

その場の雰囲気と勢いと感情で、がノリなんだし。

──と言うか、真面目にノリを考えてもねぇ…。

うん、真面目に御仕事をしましょうか。


事前の調査で怪しいと感じた場所。

其処を氣で改めて探ってみる。

当然だが、氣を透過する仙残鋼の反応は掴めない。

──が、実は其処に判断する為のヒントが有る。



「………どうだ、真桜、判るか?」


「…ちょぉ待って……ん?、ああ、コレやな

うん、大丈夫や、師匠の言ぅてた通りやな

仙残鋼の塊は人工的に造られとるから、氣で探ると本来有る筈の雑多感(・・・)が無いわ」



そう答える真桜の言った通りで。

加工された仙残鋼の塊──巨大インゴットからは、普通の土中に有る雑多感──つまり、混在している他の物質の反応がしない、という特徴が有る。

透過する仙残鋼の性質を逆手に取った探知方法。

これに気付いた時、自分でも少し興奮したもん。

真桜は勿論、他の皆にも話したら、大絶賛。

思わず有頂天になっちゃいそうでしたよ。

まあ、善からぬ企みをしながら称賛する教祖の姿を見たら即座に冷めましたけどね。

まだ、それに気付かない程、鈍くは有りませんし、鈍ってもいませんから。

俺の危機察知機能は現役です。


それは置いておくとして。

大雑把にですが、埋蔵量を確認しておきます。

これを怠ると採掘作業に影響が出ますからね。


深さは……10m程か。

結構埋まってる位置が深いな。

形状は………コレは円柱型か?。

直径2m程、長さは……………30m?。



「…………なぁ、師匠?、もしかしてなんやけど…

ウチの勘違いやったらえぇんやけど…

コレって……岩盤まで行っとらん?」


「…ああ、残念だが、刺さってる(・・・・・)な」



氣で探知してみた結果。

今回の仙残鋼のインゴットは円柱型。

そして、地下の岩盤に突き刺さっている。

サイズとしては前回の事を考えると楽だ。

しかし、発掘作業は前回よりも難しくなる。


岩盤に突き刺さっている以上、前回の様に荒掘りし発掘するという真似は出来無い。

下手をして岩盤を傷付ければ、白霞山を崩落させる事にも成り兼ねないし、その先には周辺の環境への大きな影響も及ぼし得る可能性も有る。



「……って事は…」


「一旦帰って出直しだな」


「そらそうなるわなぁ…」



二人で片付けられたら良かったんだが。

そうはいかない以上、人手も増やし、慎重に行う。

面倒だからと楽観視すれば痛い目に遭うので。


取り敢えず、真桜とイチャついてから帰ります。

御互いに慰め合わないと遣ってられません。





 張勲side──


世の中には、“どうしようもない”事というものは少なからず有るものです。


それは個人での事だったり。

家や家族での事だったり。

御近所での事、村での事だったり。

更に大きな規模での事だったり。

大小様々な違いは有るにしても。

そういう事は有るものです。


ただ、それを気にするのか。

或いは、気にせず、流してしまうのか。


その差が、両者を大きく隔てる違いであり。

決定的に分ける意識の違いだと言うべきもの。


そして、皮肉な事に。

私と御嬢様──桔梗様は、正反対でした。


ええ、そう感じていたのは今は過去の話です。

何だかんだで、私達は根幹は同じなのだと。

明確に思い知らされましたから。

本当に…狡い位に優しい(厳しい)御方です。


だから、桔梗様も、私も…他の皆さんも。

惹かれる事に若干の悔しさが有れど。

心から、求めてしまうのでしょう。


因みに、悔しいのは先に(・・)惹かれた事です。

だって、出来る事なら、先に惚れさせたいのが。

正直な女心というものですから。

其処は仕方が有りません。

一度、惹かれた心は元には戻れませんから。

これは、どうしようもない事なんだと思います。



「これで数多の女性を鳴かせ(・・・)てきたのですね」


「人聞きの悪い事を…

まあ、数人って訳じゃない事は間違い無いが」


「そして、その一人に私も加わった訳ですね」


「…そんな風に感慨深そうにされてもなぁ…」



そう言って苦笑しながらも私を抱き寄せる忍様。

私も拒否も抵抗もせず、自ら身を委ね。

忍様の唇に、雛が親鳥に餌を強請る様に吸い付く。

…意識していた訳では有りませんけど。

強請る(・・・)という意味では同じですね。


重なり合う唇が淫らな音色を奏でている中。

目蓋を閉じると唇よりも、右手の方に意識が傾く。

その猛る炎の様な勢いが衰える気配も無く。

私の右手の中で、はっきりと脈打っています。


そっと、しかし、意地悪する様に時に強く。

そう遣って弄ぶ様にすれば。

負けじと忍様も遣り返して来られて。

…悔しいですが、圧倒的な経験の差が出ますね。

油断すると一瞬で持って行かれてしまいます。

それはそれで有りと言えば有りなのですが。

やはり、与えられてばかりでは居られません。

私も、忍様に喜んで頂きたいですから。

何事も、日々是精進、なんでしょうね。


──なんて考えている間にも私の限界が来ます。

忍様は容赦有りませんから。



「ンッ…ぢゅ……忍様…私、もう…早く下さい…」



我慢が出来ず、そう御強請りをすれば。

忍様に御尻を抱え上げられ、反射的に両腕を忍様の首に回して抱き着きます。

客観的に見れば恥ずかしい格好なんでしょうけど。

今は気にしていられる余裕が有りません。

兎に角、忍様が欲しくて堪りませんから。


そして、そのまま自重に任せ落下させる様に──



──side out



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