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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
222/238

   愛惜しみなく


村長が落ち着くまで暫し待った。

貰い泣きした愛紗と梨芹も居ましたからね。

華琳?、人前で泣いたりはしませんよ。

だから、俺の肩に寄り掛かる振りをして溢れた涙を然り気無く拭っていました。

尚、俺は泣きません。

その涙の分も、背負っていく身ですからね。

村長や村の皆を安心させる意味でも泣けません。

もう親に寄り掛かれる子供では有りませんから。


──なんて事は思っても口には出しません。

出そうものなら、評価と期待値が上がりますから。

俺は手堅く勝つより、穴馬党なんです。

勝てる勝負しかしませんが。

勝負する以上は、ハイリターンしか望みません。

──嘘です、滅っ茶小心者の小銭賭けです。

損はしとうないんじゃーっ!。



「母さんが一族の者ではないという事は判りました

しかし、幽州で曹姓の者は母さんと孟徳の二人以外一人も見付かっていません

その辺りの事は御存知ですか?」


「はい、曹嵩様より御伺いしております」


「それは俺達に話して頂ける事ですか?

知らない方が良ければ、或いは孟徳にしか話せない事で有れば席を外しますが?」


「それは…」


「私なら構いません

御兄様達は家族ですから聞く権利が有ります」


「判りました、御話し致します」



俺が村長に訊ね、村長は華琳に伺い、華琳が許可。

面倒な話ではあるが、こうした確認は大事。

「信頼しているから大丈夫」で済ませてしまっては何かしらの問題が起きた時、責任の所在が曖昧だと真っ先に擦り付け合いが始まる。

勿論、俺達は遣りはしないし、そうもしないが。


ただ、そうなる可能性を考えたなら。

何処で如何なる問題が生じるかも判らない以上。

そう為らない様にする努力や配慮は常に必要。

それが組織だろうと社会だろうと同じ。

規模の大小の問題ではないのだから。



「曹嵩様は漢王朝を御治めになる現皇帝・劉宏様の実の姉君で御座います」


「「「────っっっ!!!???」」」



村長の発言に華琳達は驚きを隠せない。

だが、それを聞いて俺は納得する事が出来た。


母さんの教育──授業は完全に帝王学(・・・)だった。

地方の豪族や名家の出身と言うには不自然。

あまりにも母さんが頭が良ければ話は別だが…。

いや、確かに母さんは聡明でしたけどね。

そういう意味ではなくて。

独学で、というにしては整理されているという事。

加えて、教え方(・・・)を前提にしている事。

これらから、母さん自身も学んだ事なんだろう、と授業を受けながら考えていた。


それは俺が転生者だから気付けた事で。

事実、華琳ですら母さんの教えに違和感を懐いてはいなかったのだから。

愛紗や梨芹は気付けないだろう。

そこまで二人の両親の身分は高くないのだから。



「…貴男は驚かれないのですね」


「正直な話、ずっと一緒に暮らしていた中で孟徳は子供だったから違和感は無かった

でも、母さんの存在は明らかに村で浮いていた

悪い意味ではなくて、隔絶された環境に有る筈が、あまりにも社会的(・・・)だったからだ

母さんに助けられた俺が言えた事ではないが…

だから、子供ながらに母さんが訳有り(・・・)な事は判った

その子細までは判らなかったが…

外に出て、色々な事を学び、成長すれば、母さんが相当高い身分の出身だったという事だけは判る

母さんの教えは一般的(・・・)ではなかったからな

それこそ、国を治める(・・・・・)為の物だ」


「…っ………確かに…御兄様の仰有る通りです」



それは冷静に思い返してみれば判る事だ。

華琳なら尚更に直ぐに気付ける。

ただ、母娘という関係性が無意識に思考に靄を掛け気付き難くしていただけ。

その靄が晴れさえすれば、隠されてなといない。

事実は常に、其処に在ったのだから。



「曹嵩様は弟君である劉宏様が御生まれになられた事も有り、病死と偽って姿を隠されました

曹嵩様の姓名字は父方の祖母──姫様の曾祖母様であらせられる曹騰様に肖った物だそうです」


「御家騒動を懸念して──という大義名分で面倒な宮中から脱出したんだろうな…母さんだし…」


「「「…………」」」



俺の言葉に華琳達は「ああ、確かに…」と納得。

村長も母さんの性格を知っていればこその苦笑。

母さんが居れば顔を逸らしている事でしょう。

血が繋がっていないのに。

俺は母さんの息子だと胸を張って言い切れる程に。

そういう所は似ていますからね。


一途で、情熱的で、時には手段を選ばない。

そういう部分は華琳が受け継いでいると思う。


──って事は、旦那さんとの出逢いから結婚までのストーリーも相当ドラマチックなんだろうな。

だって、母さんだし。

天下一の御転婆皇女の恋物語、第一章でしょう。



「そう考えるとさ、旦那さんとの馴れ初めなんかも別名で舞台化や書物にしたら儲かりそうだな」


「御母様ですからね…」



そういった事情から当時の俺達に惚気る様な真似は出来無かったんでしょうけど。

事情を知っていれば、絶対に惚気た筈です。

だって、滅茶苦茶親馬鹿でしたからね。

「母さんっ、もう止めてっ!」って何度、心の中で叫びながら俺達の自慢話を止めさせた事か…。


村長も被害者の一人だから記憶に有るでしょう。

母さんって、悪気は無いんだけど……ねぇ…。

まあ、女同士だと御互い様なんでしょうけど。

男には辛い事でしたでしょうからね。

何度、「有難う、助かったよ…」と言われた事か。

それでも、母さんから話し掛ける訳じゃないので、誰も文句は言えません。

話しの流れで、そうなってしまっていただけ。

だから、母さんも含め、誰も悪くはないんです。

ええ、ちょっとしたズレなんですよ、それは。



「……そうですね、今になって考えると、御二人の出逢いは運命だったのかもしれません

そして──曹嵩様が貴男を助けたという事も」


「…え?、此処で俺が絡むの?」


「偶然、というのは誠に不可解なものです

曹姓が珍しいと仰有いましたが…徐姓は如何です?

貴男以外に、御逢いになられましたか?」


「そう言われてみると……」


「御兄様以外には知りませんね」


「………何か、続きを聞きたくなくなってきた…」


「我々の主家、その姓こそが“徐”で御座います」



そんな気がしてましたーっ!。

だって、そんな話の流れだったもんっ!。

自分で振っといて言うのもなんだけど、主家の姓を聞く前に母さんの話題に入ったっていうのも含めて思いっ切りフラグってたぁーっ!。


──って言うか、そんな設定無かったよっ?!。

当時の俺の記憶という名の設定資料の中に、そんな重大な秘密が有るなんて載ってませんでしたが?!。

どうなってるんですかっ、咲夜えもーんっ!!。

聞いて無いよーっ!!。



「やはり、御兄様は天下を統べる御方なのですね」


「違うと思う、だから思い直せ、我が妹よ」


「御安心下さい、御兄様

この父母より受け継ぎし血に御兄様の血が重なれば全ては磐石と成りましょう」


「成らなくていいから、他でも十分だから

だから、此処で聞いた話は忘れなさい

秘密は秘密のままで良いんです

過去を掘り返す事は、墓を暴き死者を冒涜する事に似ているとも言えるかもしれませんから」


「…「世の中には天意を伴う運命は有るもの」と、嬉しそうに曹嵩様が貴男と姫様、そして皆様の紡ぐ未来を思って語っておられました

きっと、世界は変わって行く、と…

その御言葉通り、今再び幽州は一つとなりました

それも、嘗ての統一とは比べものに為らない程に、強く、固く、大きく結び付いて…

本当に…皆様、御立派に成られました」



──なんて言って、また村長が泣き出すから。

俺の有耶無耶作戦は潰れたじゃないですか!。

母さんの惚気から助けてあげたの忘れてるっ?!。

ねえっ!?、絶対に忘れてるよねっ?!。




──という感じで、久し振りの里帰りは終了。

最後の方はグダグダ感が半端無かったし。

結局、教祖に新しい布教材料を与えただけです。

…母さん、これも貴女の遺言や遺志ですか?。

だとしたら、流石に俺も怒っていいですよね?。

真相は判りませんけど。


まあ、色々と有りましたが。

何だかんだで知れて良かったのも確かです。

知りたくなかったという気持ちも否めませんが。

知っているからこそ、出来る対処も有りますから。

その辺りは考え方次第でしょうね。


一応、村長や村の皆の同意も貰ってから、妻達には一通り話をして置きました。

結果、信仰心が更に高まりました。

教祖が更に力を付けました。

チックショーッ!!。



「仕方が無いわよ、そして今更でしょう?」


「くっ……で?、どうなんだ?」


「どうもこうもないわよ

私達が転生者の事に細かく関われはしないもの」


「………という事は、つまり…」


「村長さんの言葉通りなら、曹嵩様の予言した様に貴男の天命、という事でしょうね」


「…………………マジでかぁ…」



母さんが悪い訳じゃないんだけど…。

ちょっと位は愚痴りたい。

そして、そんな重い設定を俺に背負わせた奴っ!。

相手してやるから出て来いやあぁーっ!!。


──って、叫べるものなら叫びたいです。

いや本当にね、山頂にでも行かないと溜まってる事を思いっ切り吐き出す事って出来ませんから。

前世の直ぐ話題になる情報社会の息苦しさとは違う立場特有の制限と言うか必要な自重と言うか。

まあ、そんな感じで色々と配慮が必要なんです。


自分で選んで、背負うと決めて、歩く道ですが。

偶にね、今回みたいな俺の意志や意図が介在しない形で背負う荷が増える事が有るんです。


村の事は構いませんよ。

俺達にとっては故郷であり、家族なので。

でもね、嘗て幽州を統一した一族と同じ姓?。

しかも、華琳が直系の子孫で御姫様で、皇家の血も引いているというハイスペック?。

いや、華琳の場合、別に驚きもしません。

寧ろ、どんな血筋だろうと俺は気にしません。


しかし!、自分自身の事となると話が違います!。

何しろ、今回の話を聞いて熱狂的な信者の目の色が変わったんですもん。

ええ、桃香とか桂花とか春蘭とか穏とか…。

その上、教祖が“後宮万妻計画”なんていう悪魔の所業に本気で着手しようとしていました。

勿論、速攻で全力で潰しましたが。

教祖が居る限り、信者達は必ず動き出します。

だが、その教祖を俺は排除出来ません。

だって、愛しているのだからっ!。



「その台詞だけで舞台が一本作れるわね」


「誰かに言ったら…判っているよな?」


「私、二人目は一番最初に欲しいわ」


「……………か、華琳と同時期でも?」


「ん~……まあ、その位は妥協しましょう」


「判りました…」



見返りの無い取り引きなんて成立しません。

だから、沈黙と引き換えに妊娠を確約。

いや、別に氣を使って、という訳ではないんで。

寧ろ、氣を使って避妊するから出来無い訳で。

避妊さえしなければ、今の所は確実に出来てます。

だからまあ、そういう事なんです。


尚、華琳は色々な都合で待たせた分、二人目は一番最初に出来る様にしようと決めています。

その為、咲夜の要求も同時進行(・・・・)で妥協。

そうじゃないと流石に俺も飲めませんから。

尤も、咲夜も判ってて言ってるでしょうしね。

それだけ、華琳が皆に対して色々と配慮をしている事は周知の事ですから。

俺も皆も、本当に華琳には助けられています。



「それで、村の方は?」


「もう隠れ里である必要は無くなったからな

俺達の故郷としても公に出来るし、道や環境も含め一通り整備するつもりだ

母さんに因んで“嵩花村”と名付ける

村の皆にも共通の姓として母さんの字から“高”の字を貰って与える事にしたしな」


「村の人達も喜んでくれそうね」


「亡き今も母さんが愛されている証拠だ」


「息子として誇らしい?」


「ああ、勿論だ、俺は母さんの息子で良かったよ」



そう迷わず言い切る事が出来る。

だから、俺達も将来、子供達に「この人達の子供で良かった」と思われる様にしないとな。

簡単な事じゃないけど。

だからこそ、意味が有る。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.25

















 曹操side──




●月△□日。

待望の御兄様の子供を身籠り、悪阻も落ち着いて、ずっと出来ていなかった里帰りをした。

幽州統一を果たした、という事も理由の一つ。

それは村の皆を守る為だったのだけれど。

やはり、時々懐かしくなる気持ちは否めない。

私達にとっては始まりの場所なのだから。


だから、其処で私の血筋の事を知ったのも、きっと偶然ではないのでしょう。

御母様や父、繋いでくれた多くの人々の想いが。

私達に託してくれたのだと。

そう、何と無く私は思ってしまう。


そして、御兄様が天命により私の前に現れた事も。

全ては必然と言うべき運命なのでしょう。






「ぁ痛たた~……師匠手加減無しやったなぁ…

せやから、今は止めとこぅて言ぅたやろ?」


「今遣ろうと後で遣ろうと同じ事よ

御兄様に気付かれたら潰されるに決まっているわ」


「…それ、判ってて遣るん?」


「遣らないと何事も成らないわよ」


「そらそうやけど……せやけどなぁ…」



そう言って御兄様の拳骨が落ちた頭を撫でながら、真桜が見た先には解体された舞台。

私の布教(演説)の為に真桜に頼んだ舞台。

それが見事なまでに再利用出来る資材の山に。

こんな真似は御兄様以外には出来無いわ。

真桜でも「解体は造るより難いんよ」と言う程。

まあ、真桜の工匠の師も御兄様だから、真桜の癖や技術は把握されているでしょうから。

御兄様であれば不可能ではない。

…それにしても、今回の拳骨は痛かったわね。

やっぱり、少し時期が悪かったのかしら?。



「にしても、懲りひんなぁ…

師匠の性格的に考えても、後宮建設は無理やろ?

あとな、ウチは回数減るのは嫌やで」


「私だって嫌よ

でも、孰れ後宮は必要になるわ

十年、二十年は私達だけでも構わないけれど…

その先の事を考えれば、必要なのよ」


「その頃には子供等が成人しとるやろ?

それこそ、師匠は必要無いって言ぅんちゃう?

或いは、後継ぎが設ければえぇ、とかな」


「それは違うわよ、真桜

御兄様の血を継ぐ子供も大事ではあるけれど、特に御兄様の直子、という事が重要なのよ

どんなに優秀な血筋でも代を重ねれば薄まるわ

それは避けられない事よ

ただ、だからこそ、御兄様の直子を多く残す事で、将来的に血を交える事で濃く残せるわ

そして、それは一つの抑止力にもなるの」


「へー……そんなもんなんやなぁ~…」



…絶対に判っていないわね。

まあ、協力してくれさえすればいいのだけど。


私達が存命中は目を光らせる事が出来るし、教育し間違えば指導する事も出来る。

しかし、その後の事を考えると。

御兄様の直子が多い方が、広く多く()を置ける。


嘗ての徐一族の統治が百年足らずで終わった理由の一つには直子の数が少なく、他者に突け込める隙を与えてしまった事も考えられる。

そう成らない様に、そうさせない様にしても。

その可能性は無くなる訳ではないのだから。

備えられる事は備えて置かないとならないわ。



──side out



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― 新着の感想 ―
[良い点] お、お母様!!?( ゜д゜ ) ってなりますよねぇwww 里帰りが大きな影響となり、信者が増える増える。 良いぞ、華琳様もっとやれ!!! [一言] P.S.天下一の御転婆皇女の恋物語 めっ…
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