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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   有無も気にせぬ


袁硅一派の残党を始末し、麗羽の再興宣言。

この二つを以て、遂に俺達の幽州統一は成った。


まあ、そうは言っても、劇的に何かが変わるという訳ではなく、今まで通りの日々が有り。

その延長線上に、新しい未来の可能性が生まれる。

その可能性が出来た、というだけの事。

そう、可能性が生じる可能性が生じただけ。

判り難いですよね~。

自分で言ってても、ややこしいと思いますもん。



「それから此方等が──っ、し、失礼しますっ…」



報告書を読んでいる途中で報告書を机の上に置き、急に口元を押さえて退室した華琳。

華琳なので「拾い食いでもしたか?」みたいな事を考える必要は有りません。

勿論、心配はしますけどね。

今回に限って言えば、その心配も必要有りません。

もう、何度も見てきた事ですから。


華琳が戻ってくるまでに片付けられる仕事は一人で片付けてしまっておく。

これも、ある意味では慣れた事ですから。






「………ん、大丈夫、ちゃんと出来てるよ、華琳」


「~~~~~~~~っ、御兄様っ!」



俺の診察を受け、涙を浮かべて抱き付く華琳。

決して、「大袈裟だな」とは言えない。

それだけ、華琳の切望であり、渇望だったから。

それを誰よりも俺は知っている。

それでも、待たせる事になってしまったからな。

だから、華琳を抱き締め、頭を撫でる。


俺の腕の中で、胸に顔を押し当てながら。

嬉しき泣きする華琳に感謝し、祝福する様に。

華琳自身にとって念願の、待望の妊娠を喜ぶ。




暫くして、落ち着いた華琳。

ただ、長らく俺の右腕という立場に居たからか。

泣いていた事を醜態と考え、頭を抱えた。

華琳の自尊心と言うか。

妻としての見栄や尊厳と言うか。

兎に角、滅茶苦茶恥ずかしがった。

久し振りに見た華琳の年相応の素顔。

あまりにも恥ずかしがるから、仕方が無い。

あんなにも恥ずかしがった華琳に責任が有る。

──という訳で、久し振りに俺から押し倒した。

…え?、「それは平常運転だろ」って?。

まあ、そう言われたら、そうなんですけどね~。

仲良き事は幸多きかな、って事です。

誰が言った訳でも有りませんけど。



「おめでとう、華琳、良かったですね」


「まだ初期なので暫くは悪阻が辛いでしょうから、無理はしないで下さい」


「有難う、愛紗、梨芹」



既に出産を経験している姉二人からの祝福に華琳も普段よりも素直な笑顔を見せる。

決して普段が素直な訳では無いんだけど。

何だかんだで意地っ張りだし、負けず嫌い。

だから、どうしても強がったり、気を張っている。

ただ、幼少の頃から姉妹として育っている二人には華琳も素直になり易い。

恋や凪達には姉として、が強く出るしな。


そういう意味だと、咲夜は特別だな。

伊達に中身だけは最長者ではないって事か。

…まあ、二人きりの時は威厳は微塵も無いが。

その母性(・・)だけは十二分に発揮されてます。

ええ、俺が保証しますとも。

──という思考は早めに意識の壁を超えた彼方へ。

愛紗に気付かれて睨まれない内にね。



「これで、義、擁と華琳の産む子は一歳違いですか

何と無く私達に近い関係ですね」


「近いと言うよりも、実際に兄弟だからな

華琳の産む子が何方であっても梨芹・愛紗・華琳の姉妹としての関係が色濃く出るだろうな

…まあ、義達の関係性は今は何とも言えないが…

義が雪蓮みたいに育つ気はしないし、育てない

だから、擁が蓮華みたいな気苦労はしない…筈」


「其処は否定して下さい」


「いや、どういう方向の気苦労かは判らないしな

少なくとも、兄弟妹が多い事は間違い無いんだ

それなりに気苦労はするだろ?」


「それは………そうかもしれませんが…」


「それにだ、皆、子供は一人でいいのか?」


「「「そんな訳有りませんっ!!」」」



俺と愛紗の会話に口を挟まずに、二人で話していた華琳と梨芹が狙ったかの様に愛紗と声を重ねる。

判ってる、判ってるから、少し落ち着きなさい。

飽く迄も、そういう事に為ったら、なんだから。

俺だってね、「皆とは各々一人ずつしか…」なんて微塵も思ってませんから。

その点は安心しなさい。

月との話じゃ有りませんが、最低でも、一人五回は妊娠と出産を経験する事に為りますので。

…まあ、人数は、運次第ですけどね。


それは今は置いといて。

話の続きに戻ります。



「──となるとだ、誰が何人産むにしても、結局は上の世代は皆、弟妹を多く持つ事になる

だから、その辺りの気苦労は避けられない」


「………確かに…そうですね」



愛紗自身、今では沢山の妹達が出来た訳で。

同じ様に姉も沢山出来た。

華琳や梨芹は兎も角、そういう事で人間関係に対し気にし過ぎなのは愛紗も同じだからな。

今でこそ、開き直ってるが、一時期は悩んでいた。

特に、俺が白蓮と仲良くなりたての頃とかな。

…まあ、あの頃は華琳や恋もだったしなぁ…。

あの頃は咲夜が居てくれてマジで助かった。

梨芹は甘えられたら受け止めるが、自分から強引に抱き締めに行く感じじゃないからな。

頼りになるし、宅の姉妹の中でも柱なんだけど。

根っ子の部分は、おっとり系だからね~。

母性や包容力は高いが、時には強引さも必要。

そういう意味でも宅の皆は御互いに補い合えるし、支え合えるから家庭内も円満なんですよね。

うん、マジで素晴らしい妻達だと思います。


──なんて事を考えていたからか。

気付けば三人に群がられてキス攻めに合う。

…うん、梨芹さんや、其処は今は止めましょう?。

……え?、「私が我慢出来ません」ですと?。

………仕方無いなぁ…掛かって来いヤアァーッ!!。




──そんな一時中断も有りました。

…え?、「それで話を戻す気かっ?!」って?。

戻しますけど、何か?。

そんな細かい事、気にしない、気にしな~い。



「結局、そういった事を気にする意識を持つのか、そんな事は気にするまでもないと思うのか

その辺りは個人差だからな

些細な事で悩むなら、ちゃんと考えて遣る

その時が、本当に必要な親の役目だ

悩む前に、じゃなくてだな」


「…そうですね、経験しなければ判らない、という事は世の中には多々有りますからね

成長の為にも、そういった経験が必要ですから」



経験する全てが良い事ばかりだとは限らない。

それでも、今、こうして俺達は笑って居られる。

こうして自分達の幸せを掴み、育んでいる。

この事実が有ればこそ。

俺達は、自分達の経験が無駄でも無意味でもなく、ちゃんと自分の中で糧と成っているのだと。

胸を張って言う事が出来る。


成功が正しいという訳じゃない。

失敗が間違いという訳じゃない。

それは一つの結果だが、一つの結果でしかない。

それだけで全てが決まるという訳ではない。

それだけで全てが変わるという訳ではない。

常に有る選択する時に。

数多有る選択肢の中で。

何を考え、何を求め、何を目指すのか。

それは自分にしか判らない事であり。

それが自分だけで出来る事とは限らず。

だからこそ、人は人との繋がりで変わる。

その繋がりが、選択肢や可能性を変えてくれる。

そう考えれば、人との繋がりこそが可能性。

そんな風に俺は思っている。



「それに過保護になり過ぎると逆効果だからな」


「ふふっ、そういう意味では、貴男は立派に多くの子を既に育てた実績が有る、という訳ですね」



そう言って過去の自分を肯定出来るのなら。

あの時、俺が手を伸ばした事は繋がったのだと。

そう、愛紗の笑顔を、梨芹や華琳を見て思う。


その時は、単に俺の自己満足──偽善でしかない。

どんな美辞麗句を並べようとも、それが本質だ。

しかし、時が経ち、それが今に至り、繋がるなら。

それは決して自分だけの事ではなかったのだと。

漸く、思う事が出来る。

そういうものなんだろうな、きっと。






「…御前って変な所で、ひねくれてるよなぁ…」


「そうか?」


「そうだよ、そんな事、普通は気にもしないって

寧ろ、愛紗や梨芹、私や他の皆にしても同じだ

御前に助けられたから未来()が在る

御前に出逢わなければ、疾うに終わってたんだ

誰が何と言おうと、それが間違いな訳が無い

──と言うか、張本人の御前が言うなっての

それじゃあ、まるで間違いだったみたいだろ」


「そんなつもりはない──が…確かに、そうだな

御前達の立場からすると、腹も立つか」


「そうだな、取り敢えずは押し倒して、身体に直接教えて遣るって感じにはなるな」



そう言って俺の胸を右手の裏拳で軽く叩く白蓮。

今、こうして話している場所が街中でさえなければ俺が逆に襲っているだろう。

…ああいや、そうでもないか。

何だかんだで白蓮も遠慮はしなくなったし、最近は特に貪欲になってるからな。

…まあ、それが「早く二人目を…」って催促なのは言わずもがな。

白蓮に限った話じゃ有りませんから。


前世だと、子供一人育てるだけでも大変な世の中。

共働きでも、主婦でも、女性側の負担が大きいのは育児という面では、どうしても男女差が出る。

宅の場合は妻が複数だから俺も含めて家事を分担し母親は育児を中心に出来る。

仕事は部下も居ますし、次代の育成も有りますから以前よりは格段に減っていますしね。


まあ、これは飽く迄も俺達の立場での話で。

一般的には、まだ子供が幼いと中々二人目・三人目という様にはいかないのも事実。

勿論、その辺りの支援政策や医療の充実というのは初期から遣ってはいますが。

どうしても地域差が出ているのは仕方が無い事。

だって、啄郡なんて当時とは大違いですからね。

今では「徐恕様万歳!、公孫賛様万歳!」です。

邪魔をしようとする輩は全て排除しましたしね。

最早、啄郡の民の支持は揺るぎません。

もし、選挙を遣ったら満票で当選しますよ。

そう言い切れる位に、ですから。


それに対して、他は何処も途上です。

董家の治めている広陽郡だけは例外ですけど。

彼処は今までも、これからも董家の統治下です。

ただ、跡継ぎである月が俺と結婚し、剛を産んだ。

だから、変な小細工とかしなくても今までの政策に俺の遣り方を合わせていく事が出来ますので。

ある意味、一番楽が出来ている場所です。


啄郡も当初は内部闘争が有りましたからね~。

今では「そんな事も有ったな…」な昔話ですが。

当時は俺達よりも白蓮の身の安全が心配でした。

だって、当時は俺達に害を成せる輩なんて啄郡には一人も居ませんでしたからね。

尤も、それを口実に白蓮の傍に居れたし、こっそり白蓮を貪っていましたので。

それはそれで俺的には有りでしたけどね。



「まあ、何にしても、幽州を統一したんだ

まだまだ問題を抱えてる場所も少なくはないけど、統一したからこそ彼方此方から支援したりも出来る

以前は、やれ政治的にだ、やれ利益がだ、と色々と面倒臭い事ばっかで肝心な事は進みもしなかった

それが面倒な遣り取りや調整が無くなる

御前や私達の署名と押印一つで実行に移せるんだ

こんなに素晴らしい事はない」


「面倒な手続きが省けるもんな」


「…御前、絶対に判ってて言ってるだろ?」


「さて、どうかな」


「ったく…本当、ひねくれ者なんだからな…」



逃げる様に態と話を逸らせば白蓮が睨んできた。

白蓮が何を言いたいのか。

白蓮が言った様に判ってる。

判っているから、俺は話を逸らしたんです。


自分の為よりも、家の為に。

家の為よりも、民の為に。

そう考えていた白蓮にとって。

判っていても自ら手を伸ばしたくても伸ばせない。

そのもどかしさに苦しんでいた事を知っている。

だから、それを解消してくれた、という気持ちは。

妻達の中では、間違い無く一番強いだろう。

咲夜の場合は、もっと民に近い立場で、だからな。


でも、それは結果論だ。

決して、俺が意図した訳ではない。

──という体じゃないと俺には無理なんで。

糞真面目に綺麗事は言えないっての。



「…絶対に思い知らせて遣るからな」



そう、挑戦状を叩き付けてくる白蓮。

よかろう、受けて立とうではないか。





 劉備side──


妬み、嫉み、といった感情は誰でも嫌なもの。

言葉としても良い印象は受けないし、持てない。


それなのに──人は妬み、嫉むもの。


それが良い事ではないと判っているのに。

どうしても、妬み、嫉む事を止められない。


「自分と他人を比べるからだ」と。

そう言ってしまえば、確かに、その通りで。

そう言ってしまう事は、とても簡単なのだけれど。

実際に、そう出来るかというと、出来無いもの。


何しろ、人の世の中というのは、比較社会だから。

如何に自分と他者を比較し、価値を見付けるのか。

如何にして他者よりも自分の価値を高めるのか。

それを比較する事で見極めて。

更に、追求・研磨して高めてゆく。


そう遣って人は、自他に違いを見出だし。

自他に社会的な存在価値を、順位付けをして。

長い長い歴史を刻み、栄えてきた。


だから、ある意味では人間らしい事であり。

人の社会性の根底に有る価値観だと言える。

それ故に、妬みも、嫉みも、人の感情であり。

それ自体には、善も悪も、裏も表も、無いのだと。

そう、忍様は教えてくれました。


仕方が無い事だって判っているのに。

それが必要だった事だって知っているのに。

忍様の御寵愛を受ける桂花ちゃんが羨ましくて。

嫉妬したい訳じゃないのに。

でも、どうしても嫉妬してしまっていた私に。

忍様は、呆れたり、失望したりせず。

「寧ろ、男としては嬉しい事だ」と。

本気で言って、笑ってくれたんです。


これで好きにならないなんて可笑しいですよね。

──と言うか、その前から好きなんですから。

もっと、もっともっと、も~~~~……っとっ!。

好きになっちゃうのは仕方が無い事なんです。


だから、今日という日が本当に待ち遠しくて。

自分で慰めるのが切なくなってしまう位に。

忍様を求める気持ちが──欲望が昂っています。



「──嗚呼っ…忍様の匂いで…いっぱぁぃ…ん…」



そんな訳で、自分で自分が抑え切れなくて。

箍が外れた様に、物凄く忍様を求めて。

ちょっと御布団が使えない感じになる位に。

忍様に御願いして、忍様の匂いに染めて貰って。

そのまま、幸せ一杯の中、意識を手離しました。


…………うん、初めてでアレは無いよね?。

自分で遣って貰った事なんだけど。

自分が、すっごく喜んでたんだけど。

ちょっと変態さん過ぎて誰にも話せないよーっ!。



「いや、誰かに話す事じゃないと思うぞ?」


「でもでもっ、やっぱり話したいんです!

思いっ切り惚気たいんです!」



桂花ちゃんは勿論、他の皆さんからも聞きました。

だから、今度は私が聞いて貰いたいんです!。

話したいんです!

「私の時はね~」って自慢したいんですっ!。



「そういうものかね~…」


「そういうものなんです!」



そう言いながら、忍様に抱き寄せられて。

御風呂の中なんですけど。

始めてしまうのは、仕方が無い事ですよね~。



──side out



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