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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   波に委ねては


袁硅が動いた事で此方等も遠慮無く動きます。

何しろ、袁硅個人からは勿論、袁家からも全体総意としての謝罪や和睦の使者は来ていません。

つまり、今も尚、戦闘継続中(・・・・・)な訳ですから。

侵攻・侵略と言われる筋合いは有りません。


ただ、ちょっとだけ所用で停滞していただけ。

そう、此方等の事情で滞っていただけなんで。

それで文句を言われても困ります。

ええ、勝手に(・・・)勘違いしたんですから。

それを此方等の所為にされてもね~。

今更どうこう言われても知りません。



「……求める事自体、無理難題なんだろうけど…

此奴等、全く手応えが無いんだよなぁ…」


「まあ、それはそうだろうな

所詮、無理矢理徴兵されて戦ってるだけなんだ

日々の鍛練は勿論、正面な組織的な調練も無し

それで、どう戦えというのかって話だからな」


「だよなぁ…」


「けれど、それに疑問を持たず、ただただ従う民の在り方にも問題が有るのよ

見方に因れば、民は被害者・犠牲者でしょう

しかし、客観的に(・・・・)見たなら、同罪(・・)

自ら正す為に動く事を放棄した(・・・・)

そう選択した(・・・・)のが彼等自身

だからこそ、その責任を負わなくてはならないわ

「私達は従うしかなかった」は通じないもの」


「まあな、人質を取られて脅されてたっていう様な理由が有る訳でもないしな」


「ただ単に、そう(・・)する事が当たり前で…

それが正しい事なのだと勘違い(・・・)している

それに気付けない事も、気付かない事も罪よ

社会の物事の解らない幼子ではないのだから」



──と、白蓮の愚痴に答えていれば、隣から華琳も愚痴り合いに参加してくる。

二人から見ても、袁家の、遼東郡の状況は酷い。

それに対する不満や憤怒は決して小さくなく。

当然ながら、それは二人だけに限らない話で。

妻達に限らず、多くの者が同じ様に考えている。


だから一度、徹底的に根刮ぎ綺麗にしないとな。

下手な慈悲や同情は後々の火種や害悪となる温床。

大掃除(・・・)程度では取り除けない程に。

あまりにも根深くなってしまっている。

だから、全てを破壊し、基礎から遣り直します。

リフォームではなく、新築と言うべき位にね。


そんな訳で、宅の誰も反対意見は出しません。

麗羽や詠ですら、「遣って下さい」と言う位だし。

本当にね、かなり酷い状態なんですよ。


はっきり言って、幽州最大の悪性腫瘍が袁家であり遼東郡だった訳なんで。

頭の痛い存在なんです。

その為、袁家は一族の殆んどを排除します。

麗羽と美羽、それと本の少しを残すだけ。

二人以外の袁姓を名乗る輩は一掃します。

まだ幼い子供達は母方の姓を名乗るのなら助命。

当然、継承権や一族扱いも一切致しませんので。

母親共々、平民に為ります。

それが不服で何かをすれば、当然ながら一家抹殺。

そんな事さえ理解させられない母親の責任であり、子供自身の愚かさが故の結末ですからね。

救い様が有りません。

生かされているだけで感謝・感激する。

それだけの重責を負う立場に有った訳なので。

理解出来無ければ、他の連中と同じなだけです。

だから、宅の民としては要りません。

居場所を与える気にもなりませんから。


尚、子供達が成長し、きちんと理解して働いた上で結果を出せば、それは正当に評価しますよ。

その時には袁姓を必要とはしないでしょうから。

だから、腐らず、間違わずに育って貰いたいもの。

母親達には、そういう人物に育てて貰いたい。

それが自分達にとっても最善最良であり、より良い未来へと繋がってゆく事にも為りますからね。


まあ、そうは言っても言いなり人生(・・・・・・)の人達。

だから、どうしても直ぐに責任転嫁してしまう。

その悪癖と愚考を自ら改めなければ難しい事。

尤も、宅の言う通りに従うなら、大丈夫ですが。

だって、他の民と同様に問題を起こしませんしね。

そうではない可能性を持つから厄介なんですが。

出来れば、真っ当な人生を送って欲しいものです。


そんな感じで遼東郡攻略を再開している訳ですが。

白蓮の愚痴っている様に手応えの無い戦いですから宅の皆からすると賊徒退治の方が増しでしょう。

単純に相手が弱くて面白くないという訳ではなく、気分的に嫌な戦いでは有りますからね。

頭では理解していても、感情的には複雑です。

「全ては未来の為に」と自分達に言い聞かせても。

この戦い自体には価値は無いに等しいのですから。

その辺りのメンタルケア・アフターケアはしっかり遣って置かないと後々差し障りますからね。

妻達だけでなく、部隊の皆の顔や言動や雰囲気にも気配りしておかないといけません。

各部署や担当者に任せっ放しではなくね。

それも戦いを決断した俺の責務ですから。

面倒臭がったりはしません。

放棄したら、腐った連中と同じになりますから。


攻略の概要としては先ずは無慮県を落としました。

二人が言う様に手応えなんて微塵も有りませんから攻略を開始すれば、あっと言う間に進みます。

「いや、賊徒でも、もう少しは粘るぞ?」と。

そう思わず言いたくなってしまう程に呆気無くて。

県一つ落とすのに丸一日掛からないんですから。


本当にね、何の為に戦場に立っているのか。

それを考える事すら放棄した様な兵士達の姿を見て皆は「これで同じ人だとは思えない…」と。

思考と自己責任を放棄した者の成れの果てを知り、強く己を戒め、改めて覚悟を持てた事。

それが彼等の、せめてもの価値だと言えます。


犯罪者達を使う“囚労制度”も一案では有りますが無用な火種を抱え込む事になります。

何より、真っ当な賃金を払い民を雇用する方が経済全体を回す上では意味が有ります。

死ぬまで使い潰す囚労制度は経費削減という面では悪くない方法なんですけどね。

その削減した経費を使わなければ意味が無いですし上に立つ者が私利私欲で使ってしまえば無駄遣い。

何の為の経費削減なのか、という話ですからね。

政治的な資金・経費の使い方は大事です。


用途の透明・不透明が問題じゃないんですよ。

詳細を民が知らなくても一向に構いません。

要は、民の為、社会の為、国の為に。

きちんと成果(・・)を生んでさえいれば。

どういう使われ方だろうが、いいんですよ。

それこそ、政治的な(・・・・)賄賂とかでもね。


それが個人的な事になるから問題なだけです。

昔は国同士の不可侵交渉や和睦・協力の代価として裏で莫大な額が動いていた事は珍しくはない話。

それで民の命が、生活が脅かされずに済むなら。

戦う力の無い国にとっては最善策とも言えます。


勿論、それを機に多くの民が困窮する様に為るまで搾取され続ける様ならば。

関係を絶ち、戦う必要も有るでしょうが。

そこまで酷くはないのであれば。

或いは、一時的な事でしかないのなら。

そういった意図による取引や交渉で裏金を使う事は決して間違った選択肢だとは思いません。


まあ、この辺りは何を念頭に置くのか、でしょう。

それにより手段の良し悪しも変わりますからね。

ただ、よく有る事でもありますけど。

手段と目的が入れ替わったり、本懐を見失う様では全ての意味が無くなりますからね。

そういう立場に有るという事は、それだけの大きな責任を負っている自覚を求められます。

だからメンタル的に殺られると外れて堕ち(・・)ます。

そうなる可能性は俺や皆にも有ります。

だからこそ、支え合い、繋ぎ止め合う訳です。

誰だって愛する人を手に掛けたくは無いです。

…まあ、かなり歪んだ純愛の持ち主は別ですが。

その手の方の場合、そういう価値観ですからね…。

其処を破壊しない限りは変わらないものです。


──と、話が逸れましたが、攻略は順調でして。

無慮県を落とした部隊は事後処理を引き継いだら、そのまま北上し、番汗県・沓氏県と陥落させ。

袁家の逃げ場を素早く潰しました。

まあ、どの道、彼等に退路も活路も有りませんが。

それでも万が一の可能性は有り得ますからね。

余計な被害や犠牲者が出ない様にはします。

出来る事を遣らずに後悔したくは有りませんから。

俺は遣って後悔する方が良いと思う方なので。


──で、三県共、手古摺る事も滞る事も無く制圧。

まあ、遼東郡の民の視点から言えば、どの家庭でも徴兵されていた男性が亡くなり大変でしょうけど。

生きていく為には悲哀に暮れている暇は無くて。

子供が居るなら、働かなくてはなりません。

そして、その働き口は宅に縋らなくては無い。

つまり、怨恨を懐いていては死ぬしかない訳です。

まあ、それも逆恨みですし、宅に責任は無い。

だって、悪いのは暗愚な袁硅達ですからね。

宅の対応は全て正当防衛(・・・・)です。


…え?「過剰防衛にならないのか?」って?。

個人の喧嘩や揉め事の規模じゃないんですから。

戦争(・・)に、そんな概念は有りません。

遣り過ぎない戦争が有るとすれば侵略戦ですかね。

余計な戦いさえ起こさせずに敵の中枢を制圧する。

先に動けばこそ、出来る事ですから。

だから少なくとも、後手に回ってからは犠牲も無く終わらせるには相応の理由や価値が必要です。

攻められた側として納得出来るだけの利がね。


それ以外で手加減する事が有るとすれば、勝者側の事後処理に対する考え方でしょうね。

今回の袁家に支配され過ぎた遼東郡の民とは違い、普通に徴兵された兵士達が相手なら、鏖殺までせず抵抗・反抗する気力や意思を殺げば十分。

期限付きの懲役刑として囚労しては貰いますが。

食事や健康維持は保証しますしね。

反省し、理解してくれさえすれば。

その後は宅の民として受け入れますからね。

まあ、今回は違う訳ですが。


序でになりますが、事後処理の遣り方に付いて。

戦争を経て勝者は正当化の為に敗者を悪とします。

この場合、多くの勝者は侵略者です。

侵略され、反撃──返り討ちにした場合には当然、侵略した敗者が悪ですから正当化する必要すら無く明白である為です。

ですから、正当化は侵略者の勝手な言い分で。

自分達の侵略を正義と称しているだけ。

何を言おうとも、その事実は変わりません。


だから、勝者は歴史を紡ぐ(・・)訳です。

後世に置いて、自分達が悪と断じられない為に。

そう遣って記されたのが数多の国や地域の歴史。

それらは決して真実や事実であるとは限らない。


いや~、本当に人間の独善的で利己的な思考と行動というのは罪深いものですよね~。

少なくとも、宅は仕掛けて正当化はしていません。

飽く迄も、仕掛けられてからの対処ですから。

最初から戦いに正当性の有る立場なので。

どんなに殺しても基本的には必要犠牲(・・・・)

自己防衛の為の不可抗力になりますから。

その事に対する謝罪や賠償・補償の必要は無し。

それを俺は歴史から学んでいますので。


──と言うかね、なんで判らないんでしょうね。

戦争も喧嘩も先に手を出した方が悪なんです。

それが武力行使でも経済政策でも変わりません。

どんなに批難・罵倒されようが、根拠が無い事なら好きに言わせて置けばいいだけの事。

しかし、実際には根拠が有り、疚しい事だから。

多くの場合、武力行使や衝突、そして戦争へ。


つまりね、前世の政治家というのは概ね、忍耐力と理解力が乏しい人達だって話です。

頭の可笑しな主張をしている馬鹿が居れば。

他の皆が一丸となって潰せばいいだけの話。

そんな世界の粗大塵を放置する理由なんてない。

民の事は後でもいい。

一緒に心中したければ、させてやればいい。

それで満足でしょうから。


その結果、国が一つ消えたとしても。

世界という規模で見たなら悪腫瘍が無くなる訳で。

世界にとっては良い事であるのは間違い無い。

そうはしない理由は、何処かに見えない利害関係が絡んでいるからに他ならない。


人が集まり、群れを成し、社会や国と膨れれば。

避けられない問題は次から次に生じるもので。

完璧に解決する術は無い。

その事を忘れず、常に改善を継続し努力してゆく。

それ以外には無いのだから。





 袁硅side──


窓が無く、僅かな日の光も一切届かない部屋。

何重にも壁と廊下により囲まれた小さな小部屋。

闇夜よりも深く暗い中、油皿の灯火が溜め息により小さく音を立てて揺れる。

赤く照らされる机に、広がる様に俯く影が落ちる。


一体何が悪かったのか。

何処で間違ってしまったのか。

誰か、答えられるものならば、問い掛けたい。

そして、出来る事ならば遣り直したい。


全てが始まる前に奴を探し出し、始末する。

そうすれば、自分の未来は輝かしくなるのだから。



「………いや、そんな事は不可能だな…

奴の過去に関しては何も掴めてはいない

精々、公孫家の娘の客将となる所から…

到底、排除出来るとは思えない…」



その時には政治の地盤(・・)が無かっただけ。

個人の能力ならば、既に備わっていた。

雲を纏い天へと翔け昇る龍の様に。

時代は奴を選び、望み、必ずや現れる。


そう、自分の様な凡庸な存在とは違う。

真に人々の上に立つ存在。

英雄や英傑とされ、後世に永く謳われる存在。

自分ごときが立ち向かっていい相手ではない。


それを──今になって漸く理解した。

…もう、遣り直す事も出来はしないがな。



「………奴が私を生かす理由も無し…

逃げ道も無い以上、最早自決する他無いか……」



一息吐き、身を起こすと右手で机の引き出しを引き中に入っている小瓶を取り出す。

自決すると言っても剣で自害する気概は無い。

──と言うか、自分の技量や膂力では死ねない。

痛いだけで意味が無い。

……いや、まあ、血を流し続ければ死ぬだろうが。

そんな死に逝く間際を味わいたいとは思わない。

だから、こうして用意してある。

一息に飲みさえすれば、眠る様に死ねる毒だ。

奴の手に掛かる位ならば、毒を呷る方が増しだ。

死んだ後、死体を利用されても構わない。

もう死んでいるのだから。

よって、後は自分にとって重要なのは死に方だけ。

それだけは自分で決める。


──と、部屋の扉が叩かれた。

「誰も近付くな」と言って置いたのだが。



「………誰です?」


「伯泳です」


「…入りなさい」


「失礼致します」



扉を開けて入って来たのは文官の李刊。

信頼まではしていないが…今や立場は同じ。

自分だけではなく、残る手勢は皆同じ末路を辿る。

裏切って自分を殺しても助かりはしない。

その程度の事は理解出来る。

そういう意味では、優秀だと言える。



「何か有ったのか?」


「…大事な御話が有って参りました」




──side out



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