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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
202/238

   歌う様に言祝ぐ


大局という意味では既に決着している。

だが、まだ終わった訳ではない。

本来なら有り得無い事。

不要であり、無意味である戦い。

何の必要性が有って行われるのか。

一般的な感覚では、先ず理解出来無い事だろう。


両軍の大将──主君同士の一騎討ちなど。


余程の因縁が有り、ただ討ち取るのでは不足。

自らも命を懸け、その上で相手を討つ。

そういった様な理由でもない限りは。

普通は、この状況で一騎討ちなど遣らない。


軍師からしたら、「何故だ、訳が解らん…」と頭を横に振り、「非合理的です…」と呆れるだろう。

男同士、という訳でもないしね。

寧ろ、もう直ぐにでも夫婦になる男女なんです。

本当、戦う意味が解らないでしょうね。


でも、少なくとも俺達には必要な過程なんです。

日常的な戦い──手合わせとは違う。

御互いに背負う立場であり、示さなくてならない。

譲れず、退けず、曲げれず、避けれず、対峙する。


まあ、否応無しに、という訳ではない。

御互いに望んで、だ。

だから余計に他者には理解し難いだろう。

ただ、少なくとも俺の妻達だけは理解している。

こうする事で、御互いを確かめ合い、語り合う。

真剣だからこそ、今しか出来無いという事を。


そんな孫策と戦っているのだが。

様子見する気など微塵も無くフルスロットル。

アクセルベタ踏みでエンジンを唸らせる様に。

激しく攻め立てて来ている。


孫策の本性──本人にさえ制御不可能な獣性。

原作では“熱”という感じで表現されていたが。

その果てしない昂りというのは、異常な渇き(・・)

それが何に起因する渇望なのか。

本人にも、周囲にも、見極められないまま。

今日にまで到っている。


ただ、分析しようとすれば情報が無い訳ではない。

孫策の渇望は四六時中疼いている訳ではない。

勿論、根本的には常に燻っているのだが。

それが一気に燃え上がるのには別の要因が有る。

戦闘──特に血が多く流れ、血の臭い、死の気配が色濃く漂っている様な状況になると、だ。

しかし、それは殆んどの場合で、全てではない。

極々稀に、孫策の渇望が激しく反応する場合。

それが、今の様な状況だ。



「アハハハハッ!、良いわね良いわね良いわねっ!

貴男って本当に最高だわっ!

思ってた通り──いいえ、期待以上よっ!

強くて逞しくて激しくて素敵よっ!」


「それは嬉しい言葉だな」


「──でも!、まだまだ足りないわよっ!

もっともっと──こんなものじゃないんでしょ?!

まだ貴男は全然余裕なんでしょうからっ!」


「物事には順序や段階というものが有るだろ?」


「それはそれっ、これはこれよっ!

私は今っ!、貴男の本気を感じたいのよっ!」


「やれやれ…せっかちな奴だ…」



狂喜しながら求愛する様に叫び、剣を振るう孫策。

原作の様な露出度が高く防御力の無い戦装束という見た目ではないが、それでも彼女の戦い方に合わせ軽装であり、動き易さ重視。

盾は不要、頑丈で重々しい鎧も邪魔。

本当に必要最小限の致命傷を避ける為だけ。

だから原作とは違うが、孫策は動き易い格好。

チャイナドレスでも、スカートでもなく、ズボン。

それなのに、戦う中で態々自ら太股が露出するまで裾を裂き、踏まない様に切り落として。

剣だけでなく、蹴りも混ぜてくるのが…困る。

だって、俺も男ですからね。

綺麗で見るからに弾力も有る美味しそうな生足が、目の前に有れば噛み付きたくなるもの。

何より、深いスリットが捲れる度に視線が向くのは男としては仕方が無いと思います。

見えそうで、絶対に見えませんけどね!。


それは兎も角として。

妹の孫権の戦い方は理詰めだし、基本に忠実。

読み易いが、崩れ難さも有る。

一方で孫策は野性的で読み難いが、崩し易い。

ただ、そう簡単には崩せない。

不規則で無型だが、獣以上に鋭敏な危機察知能力が此方等の仕掛けや崩しの意図を嗅ぎ取っている。

恋の天賦の勘とは似て非なるもの。

しかし、それが今日まで孫策を生き残らせてきた。

それ故に、孫策の自身の勘への信頼は厚い。


──とは言え、それに頼りっ切りになられる様では成長出来ませんからね。

此処で、天狗になった鼻を折らせて貰おう。


孫策の勘は解り易く例えれば殺気や死気(・・)を感じ取り危険を回避している。

それ以外にも勘が働く場面は有るが。

事、戦闘に関して言えば、超高性能な危険感知力。

そして、それに瞬間的に反応出来る身体能力。

勘だけではなく、それを活かせる肉体(スペック)が有る事。

実は、其方等の方が重要だったりするのだが。

孫策の場合、あまりにも、その勘が摩訶不思議で、理解し難いが故に注目され、それで終わり勝ち。

本来評価されるべき身体能力は注目されない。


尤も、それを意図的にではないのだろうが。

孫策自身も気にしない事で、気付かせ難くしているという一面も少なからず有る。

その為、孫策に関する戦闘情報を集めると真っ先に出てくるのが、その勘に関する逸話。

次いで、その武勇という事になるのだが。

その情報──客観的な評価というのは、どうしても理解出来無いが故に「天賦の武」「麒麟児」の様な具体性を欠いた内容に為り易い。

だから、結局は自分の眼で確かめる事になる。


──あ、勿論、宅の隠密衆は別ですからね?。

ちゃんと自分達が見た具体的な評価を、報告として上げてくれますから。

ただまあ、それでも孫策の勘自体は「意味不明」と評価されていましたけどね。

そうなるのも無理も無い事です。

解る者にしか解らない。

そういう感覚的なものだったりもしますから。

俺のした例えだって、飽く迄も例えです。

それが正しい訳では有りません。

間違い・的外れ、という訳でもないでしょうけど。


まあ、要するに孫策の勘を正しく理解し、伝える。

その為の言葉や理屈、概念という物は無い。

そういうしかないんですよ。



「──くっ…このっ、っ!?、またっ…」


「どうした?、動きが悪くなっているぞ?

さっきまでの威勢は何処に行った?」


「あら、心配してくれるの?

でも大丈夫よ、ちょっと休憩しているだけだから」



そう言って笑みを浮かべて見せる孫策。

だが、それが強がりである事は自他共に判る事。

何しろ明らかに孫策の動きは鈍り、積極果敢だった猛攻勢は今では見る影も無い。

攻めあぐねている、というだけではない。

天衣無縫とも言える戦い方の代償。

消費効率や省エネ思考なんてガン無視する戦い方は否応無しに体力を削り、疲労を蓄積させる。


今までは、それを感じる程に疲れる事は無かった。

それも当然の事だろう。

どんなに昂ろうとも、結局は格下が相手。

孫策に敗北は無く、多少疲労が有っても勝利による高揚感や達成感が上回り、感覚を緩和していた。

だから、今の様に劣勢になる経験は皆無。

そして、焦りと共に襲い掛かる急激な疲労。

其方等に意識が傾いてしまうと立て直し難い。

一度集中力が途切れてしまうと再び集中状態に入るというのは容易ではない。

距離を取り、時間を要する。

──が、当然、それを許す訳が無い。

「ちょっと位待ってくれても良いじゃないの!」と身勝手な文句を言いたそうに睨んでくるが。

言った所で自分が恥を掻くだけ。

戦場で「待った」が通用する訳が無い。

その事を理解しているから、黙っている。

視線や表情は雄弁だったとしてもだ。



「そうか、それなら俺としても安心だ

まだ(・・)俺も全然足りないからな

もっと(・・・)楽しませてくれ」


「ええっ、そんな事言えなくしてあげるわ!」



──と、売り言葉に買い言葉。

挑発に挑発を返す意地は有るが、現実は厳しい事を誰よりも孫策自身が理解している。

「ぁあ゛ぁ゛ーっ、もうっ!、ムカつくわねっ!」と叫びたそうな苦虫を噛み潰した様な表情の孫策。

まあ、そうなるのも仕方が無い事だろうな。


孫策の戦い方は確かに未知数で予想し難い。

ただ、対処出来無いという訳ではない。

先ず思い付くのは、殺気・闘気を消す事。

単に抑える程度では死気を感じさせないというのは不可能に近い。

死気とは結果の(・・・)気配。

一種の未来予知に近い。

極めて限定的な範囲での、というだけで。

常人離れしている事だけは間違い無いと言える。


だから、殺気・闘気は消さない(・・・・)

寧ろ、抑えもせず、隠しもせず、剥き出しで。

けれど、その感覚とは真逆に言動や表情は淡白に。


殺気・闘気を感じ取らせ、死気を悟らせ誘導(・・)

孫策にとっての生命線を一転、死線(・・)に変える。

そうする事で拠り所を奪い、ジワジワと追い詰め、今まで使えた選択肢(手札)を全て潰す。

そうして、強制的に()を破らせる。


孫策自身、不本意だろう。

だが、戦い続ける為には選ぶしかない。

「こんな中途半端で止められないわよ!」と。

逆ギレしそうな勢いで睨んでくるのだから。


ただまあ、先に孫権()の戦いを見ている。

見ているから──絶対に退けない。

彼女もまた筋金入りの負けず嫌い。

事、武に関しては原作でも一、二を争う貪欲さ。

──であればこそ、自分の可能性を知りたい。

まだ見ぬ高み(・・)への渇望が手を伸ばす。


勘頼りだった自分との決別。

今までの経験を基にした、自らの予測と取捨選択。

本来であれば、誰もが先に身に付ける筈の方法を。

圧倒的な才能により必要としなかった孫策が。

屈辱を噛み締めながらも、考え抜いて辿り着く。


俺が仕向けた事だとは言えど。

口に出して教えた訳ではない。

孫策自らが考えて見出だした新たな可能性。

それが目の前で。

一合撃ち交える毎に蕾が膨らみ、花開く様に。

瞬く間に成長してゆく。

その光景は見ている方も楽しくなる。


歓喜する様に。

動きが活き活きとして良くなる。

天衣無縫ではなくなるが、そうして培われた動きは確かに孫策の武の中に息衝いている。

より高く、より大きく、より強く。

経験や苦悩を糧へと昇華し、更なる才花を重ねる。

内から外に幾重にも繋がり咲き広がるかの様に。

孫策の動きは変わり、微調整する様に成長しながら一瞬毎に精錬されてゆく。

一鎚、一鎚、と。

精魂込めて打ち鍛えられているが如く。

孫策という刃が、強く靭やかな姿を見せる。



「──嗚呼っ、もうっ!

貴男って狡過ぎるわっ!、こんなの知らないっ!」


「そうか?」


「そうよっ!、こんなのを知ったら他の男になんて微塵の興味も懐けないわよっ!」


「それは求愛と受け取っても良いのか?」


「ええっ!、もう貴男に夢中よ!

他の男の事なんて見えもしないわっ!

堪らなく貴男が欲しい!、貴男が恋しい!、誰より何よりも──私は貴男を愛してるわっ!!」


「そう言う割りには物騒な殺気だけどな」


「殺したい程、愛してるからよっ!」


「成る程な、それなら納得だ」



付け加えるなら、「誰にも渡さない為に」、か。

其処まで言ってくれるのは素直に嬉しいが…うん。

少しは周りを見て欲しい所だ。

愛紗達が若干不機嫌だし、つい先程、初キスを俺に奪われたばかりの孫権(妹さん)が睨んでますよ?。

まあ、そう忠告した所で無駄だろうけどな。


それに、俺としても不粋な真似はしたくはない。

孫策自身の意識が俺以外に向けば気が散る。

今、これだけの成長が可能なのは集中している為。

孫権の時と同様、俺だけに全身全霊を向けさせる。

そうする事で集中力を極限まで高める。

こんな風に会話をしていても問題無い程に。

今、孫策の集中力は最高の状態に有る。

それを俺が終わらせる訳にはいかない。


──と言うか、勿体無さ過ぎるからね。

俺も、この一時を楽しみたいんですよ。

きっと、これが最初で最後。

此処まで激しく孫策と殺し(愛し)合う事は無い。

…まあ、違う意味でなら有りますけどね。

それは本質的には別物(・・)ですから。

だから、今という人生で只一度限りの物語を。

この生命が躍動する大舞台で。

二人の激しい求愛で染め上げて魅せよう。

この先、幾年、幾十年、幾百年。

後世に語り継がれる程に。





 孫策side──


徐子瓏との一騎討ち。

結果は私の負け。


まあ、そうなる事は遣る前から判っていた事よね。

勢力としては勝ち目なんて無かったし。

蓮華との一騎討ちを見て個人でも無理って判った。

ただ、それはそれ、これはこれ。

戦わずに降参するなんて有り得ないわ。

そんなの──勿体無さ過ぎるもの。


だから、最終的には私の体力が尽きた。

それはもう、蓮華と同じ様にね。

彼に──()に寄り掛かる格好で。

それを抱き抱えられて──私から口付けした。

だって、我慢出来無かったんだもん。

仕方が無いじゃない。



「──聞いてますかっ、姉様っ?!

一体、どういうつもりなんですかっ?!」



──が、それが不味かった。

余程気に入らなかったのか、腹が立つのか。

蓮華が滅茶苦茶怒ってる。

言ってる事は正論だけど…感情的には別物よね。

絶対、嫉妬からでしょ、コレは…。

あんなにグジグジ言ってたのは蓮華なのにね~…。

自分が惚れたら、コロッと変わっちゃってまぁ…。

まあ、そうなる気持ちが判るから言えないけど。


そりゃあ、自分と同じ様な流れなのに、結果的には私の方から求めちゃった訳なんだけど~…。

そんなに怒んなくたっていいじゃない。

どうせ、姉妹仲良く、頂かれ(・・・)ちゃうんだから。



「────姉様っっ!!」


「はーいはいっ、私が悪かったから~

そんなに叫ばないの、蓮華も疲れてるんでしょ?」


「それとこれとは──」


「明日から新しい生活が始まるのに?」


「──ぅぐっ…~~っ……ですがっ…」


「私も勢い任せで遣っちゃった事は軽率だったわ

ただ、自分に嘘は吐けないもの

それとも、蓮華は嫌々渋々仕方無く?」


「そんな訳有りませんっ!!…──っ!?」


「ね?、そういう事よ

だから今日はもう休みましょう?

忍にも、そう言われたでしょ?」


「………判りました」


「それとね、改めて言うのも恥ずかしいけど…

御疲れ様、有難う、よく頑張ってくれたわ、蓮華

貴女が妹で良かったわ、御休みなさい」


「私も姉様の妹で良かったです

色々と苦労はさせられますけど」


「ぁ、あははは…」


「姉様、御疲れ様でした、御休みなさい」



どうにか誤魔化──ゴホンッ…宥めて、終わり。

一礼して部屋を出て行った蓮華。

私の方が身体にキテるから仕方無いのよ。

でも、取り敢えず凌いだわ。


──なんて、ああは言ってはみたものの。

本音を言えば、顔から火が出そうよ!。

勿論、あの時の気持ちに嘘偽りは無いけど。

アレは…まあ、アレよ…つい、勢いでね。

思ったまんまを口走っちゃった訳なのよ。

忍には受け入れられたし、ちょっと先走っただけで結果的には変わらないんだけど…。



「…………~~~~~~っっ、っ、っ~~っ……」



枕に顔を押し合て、抱き締めたまま身悶える。

恥ずかし過ぎて悶絶死しそうだわ!。

それなのに、嬉しさや喜びが有るから困るの!。

ああぁーーっ、もうっ、何なのよ、コレはーっ!。

放って置かないで今夜は一緒に寝てよねっ!。

忍の馬鹿ーーっ!!。



──side out



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