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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   華やぐ春の訪れ


戦場の片側で始まった孫家との決戦。

選局は中盤へと入っている。

稟の指揮する部隊の前進に合わせ、孫権・孫尚香の姉妹が部隊を率いて迎え撃つ。

諸葛亮に趙雲・文醜と原作の将師は使い切った。

だが、呂納の様な有能な家臣は孫家にも多い。

勿論、一段格落ち(・・・)するのは仕方無いが。

それでも梨芹と恋を相手に出来無い訳ではない。

勝てる可能性は皆無だとしてもだ。


稟が上手く調整し、梨芹達も手加減している。

その為、端から見ると一進一退に思えるだろうし、孫家軍の兵士達は「あれ?、これって戦えてる?、俺達戦えてるよな?」「意外といけるんじゃ…」と軽く遣る気を刺激している。

遣ろうと思えば拮抗している様に見えても現場では一様に「無理だろ…」「もう終わらせてくれ…」と一向に手応えを感じさせない様に仕向ける事も可能だったりしますからね。

これ位なら宅の皆になら楽勝な事です。


そう遣って意識と共に戦況を誘導。

孫尚香の部隊と同時に相対する形に持っていきつつ孫権の部隊を然り気無く間延びさせる。

正確には、そうなる様に押し引きしていくのだが。

まあ、その過程に関しては一々語る必要は無い。

稟にしても、「これ位は出来ませんと…」と苦笑を浮かべるしかないのが宅の基準ですからね。

──とは言え、ちゃんと俺は評価しますし、後から褒めたりはしますから。

「出来て当たり前だろ」という事は言いません。

自分が言われたら腹が立ちますから。

まあ、激励や挑発という意味でなら、態と遣る事は有りますけどね。

それには、きちんとした意図が有ってですから。

一緒にして貰っては困ります。


そんなこんなで、両軍の打付かり合う戦場の中を。

孫家の兵士達を適当に倒しながら、直進(・・)

悠々と歩きながら、真っ直ぐに目指します。


流石に戦場に突如として生じた俺の参戦(異常事態)が兵士から報告された様で此方等を向いた。

驚愕し──忌々しそうに睨み付ける眼差し。

味方ではないのだから、そうなるのは仕方が無い。


ただ、それはそれ、これはこれ。

此方等の狙いが自分だと判断すると直ぐに周囲から兵を遠ざける様に指示を出す。

「何れだけ数が居ようと無駄だ」と言わんばかりの即断即決は御見事。

水面の油膜に洗剤を落とすと、あっと言う間に端に避けていくみたいに、ポッカリと戦場には不相応な空間が出来上がった。


其処を堂々と歩いて進めば、彼女も同じ様に歩いて進み出て来るのだから、相当な負けず嫌い。

その気迫は虎と呼ぶに相応しいものだ。

俺の歩幅で三歩、彼女だと四歩の所で立ち止まる。



「さて、一応、名乗ってから始めようか

初めまして、孫仲謀、俺が徐子瓏だ」


「──っ!!」



そう言うと彼女──孫権は驚いた。

流石に居ないとは考えてはいないだろう。

ただ、対峙するのは姉の孫策になるだろう、と。

そう考えていたに違いない。


ククッ…残念だったな。

こう見えて俺は天の邪鬼なんだよ。

…え?、「いや、見たまんま天の邪鬼だろ」?。

何を仰有いますか。

こんなにも優しい皆の御兄さんな俺ですよ?。

見るからに好い人っぽいでしょうが。

まあ、本人が何と言おうとも、他人の印象や評価は他人が決めるものですからね。

結局は無駄なんですけど。

それを何とかしたがるのが人間という生き物。

実に面白い性質だと思いませんか?。


──なんて事は置いといて。

これが空気の読めないラブコメなら。

さっきの俺が名乗る所に狙った様に被せる格好で、孫尚香が「徐子瓏様~~~~っ!!」と叫ぶだろう。

そして、孫権と二人で顔を向ければ、嬉しさ全開の笑顔で手を千切れんばかりに振っている姿が有り。

「…その…妹が済まない…」と謝られ。

「いや、謝られる事ではないから…」と俺も困る。

そして、緊張感を欠いた微妙な空気に。

此処からシリアスに戻れ?。

いやいや、どんな無茶振りだよ、無理だよ!。

シリアルになら持っていけるかもしれないけど。

──なんていう展開になるんだろうね、きっと。

うん、今のは飽く迄も俺の瞬間妄想劇ですから。

現実とは無関係で……もないけど、違いますので。



「……貴様が徐子瓏か…妹が世話になったな」


「さて、何の事(・・・)かな?」


「──っ…まあいい、こうして会った以上、互いに遣る事など一つしかないからな」


「そうだな、だが、俺としては衆人環視の中ではな

出来れば、二人きりで静かな方が好ましい所だ」


「………?、何を言っている?」


「何って…御前との夫婦の営みの話だが?」


「ナァアッ!?、な、なな何でそんな話になるっ?!」


「男と女が出会って遣る事など一つしかないだろ」


「然も当然の様に言うなっ!!

この状況で何を考えているんだ貴様はっ?!」


建設的な(・・・・)将来の話だが?」


「だからそれが────っ!?、~~~~~っ…」



いきなりな話題に動揺し、思考が単調になっていた孫権だったが、俺が言いたい事に気付いた。

気付いたから、何も言えなくなった。


そう、孫権達は最初から判っていて臨んでいる。

この戦いは形式的な決着の為のものであり。

既に事後処理(・・・・)の一環であると。


ただ、孫権は当主ではないし、大将でもない。

だから、何処か他人事な意識も少しは有るだろう。

だが、孫権自身は孫策の妹で、第一位の継承者。

つまり、他の者以上に孫権には選択肢は無い。

そして、孫策と共に俺の妻になる事は決定事項。

その事実を、今、こうして改めて突き付けられ。

孫権は自身の認識の甘さを悔いている。


因みに、孫策なら、「そうね~、一回位だったら、そういう経験も有りかもしれないわね」と。

逆に「今からしてみる?」と挑発し返すだろう。

そんな事は遣らないという確信が有ってだが。

その場合は、超乗り気を装って遣り返します。

ええ、思いっ切り積極的に迫ってね。

困りに困らせて「え?、じょ、冗談よね?」からの本気の涙目で「御免なさい」をするまで。

容赦無く追い詰めますとも。

だって、そんな孫策が可愛いから。



「少しは理解出来たか?」


「………くっ…私に大人しく投降しろと?」


「そう聞こえたか?」


「………………」



少し揶揄う様に言うと眉間の皺が深くなった。

ただ、睨み方が子供が拗ねた時の様に変わった。

自分が子供扱い(・・・・)されている。

そう感じたのだろう。

まだまだ青いな、孫権よ──正解!。

滅茶苦茶揶揄ってますとも。

今揶揄わないで、何時揶揄うの!。

今しか出来無い事なんだから今遣りますとも。


──とは言え、ただ戯れ合う様にイチャつきながら揶揄って終わりじゃ有りませんから。

ちゃんとした御仕事(・・・)も遣りますよ。



「そんな顔をするな、美人が台無しだぞ?」


「──なっ!?、クッ…また心にも無い事をっ…」


「御前は鏡を見ないのか?

御前を美人と称さなければ、世の中の大半の女性に俺は「では、美人とは?」と詰め寄られる」


「~~~~っ、そ、その様な世迷い言をっ…」


「…はぁ~…なら、此処で証明して遣ろうか?」


「しょ、証明?………っ……ど、どう遣って?」


「今、御前が想像した(・・・・)様に」


「~~~~~~~~っ、キキききき貴様はーっ!!」



売り言葉に買い言葉の引っ掛け(・・・・)ですけど。

効果覿面で孫権は耳も首も真っ赤っか。

もう一押ししたら頭に血が上り過ぎて鼻血ブーか、振り切って気絶するかもしれません。

そんな結果は流石に遠慮しますけど。


それにしても…孫権さんや。

貴女、過剰に反応し過ぎですよ。

褒められ慣れてはいないのは知っていました。

ただ、此処まで初だとは少々予想外でしたね。


──と言うか、何?、この娘、滅茶苦茶可愛い。

もう、今直ぐに御持ち帰りして愛でたい。

一月後には妊娠させられる自信が有ります。

勿論、氣とかを一切使わずにです。

それ位に俺の男心を刺激してくれてます。


ただまあ、これで終わりには出来ませんから。

意識を切り替える為にも腰に佩く剣を抜きます。

「御前が遣ったんだろ」とか言わないで下さい。

そういう流れだっただけなんですから。


孫権も孫権で軽く頭を左右に振って切り替える。

まだ顔が赤い事には触れてはいけません。

触れたい気持ちは、それはもう滅茶苦茶有りますが遣ってしまったら最後、色々台無しですからね。

後で皆に怒られてしまいます。


剣を抜き、一息吐いて直ぐに踏み込む孫権。

向かって来ていた時の俺の様子を見ているだけでも彼我の実力差は判っているでしょうから。

守る・粘るという考えは棄てている。

この場では、それが正解。

攻める以外の選択肢は愚の骨頂。

身を以て、自らが示さなくてならない。

自分自身の価値というものを。


孫権の攻撃を受け、捌きながら時折、攻撃。

言外に「ほら、此処が甘い」と指導する様に。


そんな俺の攻撃を凌ぎながら、少しずつだが孫権は戦う中で動きを洗練させてゆく。

本人は勿論、見ている周囲も気付いただろう。

力強くも、荒々しかった孫権の動きが。

今は優雅に舞うかの様に動きを変えている。


──とは言え、これは俺の意図した流れが故に。

孫権自身が自力で出来ているという訳ではない。

その事は孫権自身が一番理解している。

抗いたくても抗えない。

俺の導く様にしか動く事が出来無いのだから。

それ以外の選択は即、敗北を意味する。

「貴男に踊らされる位ならっ…」と。

自決する様な覚悟で敗北しようと思えば別だが。


孫権も筋金入りの負けず嫌い。

そして、生真面目な努力家だ。

だから目の前に高み(・・)への道が有る。

それは一時だけ垣間見える景色かもしれない。

それでも、見た事が有るか無いかは雲泥の差。

それ故に、孫権は俺の導きに抗えない。

「まだっ…」「もっとっ…」と。

少しでも長く、少しでも多く。

今、見えている景色を。

今、感じている感覚を。

自分に刻み込み、糧にしようと貪欲に求める。

一人の武人としての向上心が孫権を突き動かす。


俺からすると、必死に食らい付く幼子の様で。

昔の華琳達に指導していた頃を思い出させる。


だからなんだろう。

気付かぬ内に笑みが浮かび。

孫権もまた、意識せずに楽しそうに笑っていた。


それでも、永遠に続く事は無い。

孫権の体力が尽き、膝から崩れ落ちる。

それを抱き止めれば、握っていた剣が地面に落ちて終了の音を響かせた。

足が震え、自力では立つ事も出来無い孫権。

出し尽くし、悔いは無いが──恥ずかしさは有る。

それを煽り、忘れられぬ様に。

御姫様抱っこで抱き上げて、戸惑う隙にキス。

衆人環視の中、その唇を奪って、決着とする。


文句を言いたそうに睨むが、敗者としての矜持。

俺の服を握り、胸元に顔を押し当てて隠す。

そういう所も可愛いから困る。


チラッと視線を向けた先には不機嫌な孫尚香が。

「御姉ちゃんだけ狡いーっ!」と言う様に。

此方等を睨んでいたので苦笑。

これから益々賑やかになる事だろう。


そう思いながら、見計らった様に傍に来た梨芹へと孫権を預け、一言。

「結末を、しっかりと見ておけ」と。


そして、背を向け、再び歩き出す。

潮の満ち引きで出現する海中歩道の様に。

最後の戦場へと繋がる一歩道が現れる。


孫権との戦いの間に、東西の戦場も決着済み。

そして、今は残った孫家軍は完全に傍観者に。

もう誰一人として邪魔をする輩は此処には居ない。


歩いて行った先に待つのは既に剣を抜いた孫策。

今にも飛び掛かってきそうな殺気と闘気を、抑えも隠そうともせずに昂らせている。



「一応、初めましてよね、私が孫伯符よ」


「徐子瓏だ、宜しくな」


「私、弱い男には興味が無いの」


「そうか、なら、俺以外には靡きもしないな」


「あら、凄い自信ね

勿論、貴男の実力は見させて貰っていたけど…

その所為でね、私、抑え(・・)切れないの」


「抑える気は無さそうだが?」


「あはっ、判っちゃった?

それじゃあ──しっかり責任取って頂戴っ!!」



そう言って孫策が疾駆。

闘いが始まる。




 孫権side──


徐子瓏に関する情報は多い。

しかし、個人を特定出来そうで出来無い。

数多有る情報は正しくもあり、欠落もしている。

意図的に広められ、作為的に掴まされる(・・・・・)

だから結局の所、どんな人物なのか定かではない。


それ故に初見では判らなかった。


ただ、戦場で悠然と歩きながら此方等に向かう男が居るのだと知らされた時。

兎に角、自分では勝てない事だけは判った。


男と徐子瓏が結び付かなかったのは、その為。


彼の武勇に関する情報は記憶になかった。

政治手腕や女性理解という面の印象が強過ぎて。

見事なまでに、そういう人物だとは思わなくて。

だからこそ、有りの侭の彼を見る事が出来て。

下手な印象や思い込みは綺麗に打ち砕かれた。


私や姉様の使う物と同じ長さ、身幅の直剣。

それを手にして、私を容易く凌ぐ力量を見せて。

更には、導く様にして剣を合わせて。


最初は見えていた周囲の景色は、どんどん狭まり。

騒々しい程の剣戟や叫声は遠い彼方へと離れて。

彼の一挙手一投足に、その姿だけを見詰め。

彼の吐息、僅かな視線の動きすらも見逃さず。

他の一切を削ぎ落とし、私の全てを彼に傾ける。

或いは、全身全霊で彼を感じ、彼を染み込ませる。


そんな感覚に、無意識のままになり。

我に返ったのは、精根尽き果てて、自力では立つ事でさえも出来ず、彼に抱き止められてから。


そのまま抱き上げられて──唇を奪われた。

多くの人に見られている中で。

言い表せない程の恥ずかしさに声も出なくて。

だけど、その一方で胸を高鳴らせる私が居る。

「御前は俺の(もの)だ」と。

「この女は俺の女だ」と。

見せ付けながら、宣言されている様に思えて。

少女の様にキャーキャー言って騒ぎ。

物凄く喜んでいる自分が居て。

何とも言えない幸福感と恥ずかしに彼の胸元に顔を埋める様にして隠すしかなかった。


それから、一人の女性──軍将で妻だと思う──に受け渡され、彼は姉様の待つ場所へ。

その背中を見送るのが少し切なくて。

でも、とても楽しみにも思えて。

複雑な気持ちを懐かされる。



「………あの人って、普段から、ああ(・・)なの?」


「ええ、とても優しく(厳しく)、大胆不敵

何より、愛情深い(・・)です

貴女も直ぐに溺れる(・・・)程に判ります」


「……恐い話だわ…」



そう言いながらも。

もう手遅れなのだと理解している。

既に深淵(・・)を見て、魅入られてしまった。

姉様やシャオが惹かれている様に。

私自身、彼を知りたくて仕方が無いのだから。


そして、困った事に、この欲求には満足が無い。

それを現時点で感じてしまうのは。

きっと、私を抱えている彼女を見てしまった為。

今も尚、彼に夢中で。

この夢は醒める事は無いのだと。



──side out



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