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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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プロローグ …で窮地!?


綺麗な空色のキャンバスに、滴る程に染み込ませた筆で乱雑に描いた白い雲。

はっきりとした濃い雲から、減り掠れ薄れて融ける様な微かな雲まで。

一筆で描き出した様に。

心地好い晴れ渡る青。

ただ眺めているだけでも、心が洗われてゆく。


…空や海って偉大だよな。



「──ねぇ?、私が傍に居るというのに貴男は一体何処を見ているのかしら?

教えて貰えるかしら?」



そんな丁寧な口調ながらも、みゅぎゅぅぅ〜っ…と引っ張り抓られてゆく我が左耳。

「痛い痛いっ!」だなんて言おうものなら御機嫌は曇天ではなく雷雲と為り俺の耳を容赦無く襲う事は容易く予想出来る。

だから、決して言わない。


慌てず、騒がす、ゆっくり顔を左隣へと向ける。

咎める様な鋭い眼差しが、普段以上に迫力を増す。

しかし其処に宿る想いが自分に対する嫉妬と思うと不思議と恐怖心は霧散し、愛しさが込み上げる。



「仕方無いだろ?、ずっと(太陽)を見続けていたら俺の眼は潰れてしまう…

それでも後悔はしないが、俺はもっと見ていたい

俺は欲張りだからな

まだまだ知らない君の事を見ていたいんだよ」


「──っ!?、そ、そう…

なら、仕方が無いわね

太陽を見続ける事なんて、無理な事なのだし…」



そう言って頬を朱に染め顔を逸らす姿を見ていると抱き締めたくなる。

──と言うか、我慢出来ずに外套から左腕を出して腰に回すと抱き寄せて、強引に振り向かせる。

晴れてはいても、肌寒さがまだ残っている。

だから、こんな風にしても可笑しくはない。



「ちょっ、ちょっとっ…」



普段なら先ず遣らない事を遣ってくる俺に対して、彼女は明らかに焦りを見せる。

戸惑いから冷静さを欠き恥じらいに身を捩らせる。

完璧な彼女が唯一俺にだけ見せる女の子らしさ。

それだけで俺は戦える。



「嫌か?」


「…何を言ってるのよ

そういう事じゃ──」


「ちゃんと、言ってくれ」


「…嫌な訳ないでしょ…」



恥ずかしがりながらも俺に身体を預けて真っ直ぐに目を見詰め、囁く様に答えてくれる。

その一言が一気に気持ちを昂らせ、思わず、「俺は世界で一番幸せな男だぁーっ!!」と彼女を抱き上げて叫びたい衝動に駆られる。

勿論、遣りはしないが。

心の中では大絶叫だ。


だがしかし、それだけでは俺は満足はしない。

まだ止まるには早い。

此処では止められない。



「本当に?」


「…何よ、疑う訳?」



一転して不機嫌になるが、それは当然の事だろう。

誰でも自分の本気(想い)を疑われたなら。

しかも、羞恥心を抑えての真剣な一言だったなら。

腹も立つだろう。


そんな彼女と視線を重ねて睨み(見詰め)合いながら。

外套の中に抱き寄せた手を然り気無く腰から離すと下へと移動させる。



「──っ!?」



指先に、掌に感じる感触は布地の物ではない。

温かく、僅かに汗ばんだ、弾力の有る──素肌だ。



「…あっ、貴男ねぇっ…」



顔を更に紅くしながら。

羞恥心と憤怒に染め上げて睨み付けてくる彼女。

その眼差しにゾクゾク…と変な興奮を覚える。

しかしだ、此処で勘違いをしないで頂きたい。

俺に痴漢趣味は無い。

また、M気質でもない。

では、何故なのか。

それは彼女の表情に対してS気質が昂るからだ。



「どうかしたのか?」


「…〜~~っ…このっ…」



素知らぬ顔で訊ねながら、左手は彼女を求める。

睨み付けるが…その眼力はあまりにも弱々しい。

僅かに身悶えながらも声を殺している様子に自然と嗜虐心が掻き立てられる。

小さく漏れる苦悶の吐息が妙に艶かしい。


それなら逃げればいい。

そう思う事だろう。

だが、それを許さない様に俺も仕掛ける時と場所を選んでいる。

人混みの中ではない。

しかし、周囲には目が耳が多数溢れているのだ。

迂闊な真似は出来無い状況なんだという事を聡明な彼女は判っている。

だから、堪え忍ぶのだ。


……自分で遣っておいてから、こんな事を言うのも何なんだが。

くそっ!、エロいなっ!。

畜生っ!、何で今居るのが街中なんだよっ!。

今直ぐ持ち帰りたいっ!。



「──っ!?」



──なんて思ってたら、その手が有っては為らない場所へと掛けられた。

そう、彼女の反撃だ。


…不味い、非常に不味い。

つい先程までの余裕は消え嫌な汗が流れてくる。

この状況で注目を浴びれば、先ず“変質者”の烙印を受ける事に俺は為るだろう。


そっと左手を引っ込めて叶うなら赦しを請いたい。

だが、恐らくは…不可能。

何故なら此方を見詰める彼女の眼差しからは完全にS気質全開であると物語る愉悦が窺えたからだ。


…あっ、コレ、間違い無く駄目な奴だわ、うん。

俺は素直に諦めた。

もう“俎の上の鯉”だ。



「…全く…貴男ときたら…

…昨夜は、あんなにも私の事を苛めてくれたのに…

…まだ満足しないだなんて絶倫過ぎるわよ?…」



囁く様に言いながらも手は容赦無く責め立てる。

あ、あの…自業自得なのは判ってますから。

だからですね?、もう少し手加減をして頂けると、俺的に有難いのですが?。



「…フフッ…嫌よ♪…」



──ですよねー…はぁ…。

これはもう“変質者”の烙印を背負わない様にだけ気を付けるしかないか。

やっぱり、慣れない言動は遣るものじゃないな。

そんな心とは裏腹に身体は正直な訳ですが。

…うん、仕方無いよな。

こればっかりは健全な男の証なんだからさ。


──と腹を括った時だ。



「──兄様ーっ!、やっと見付けたのじゃーっ!」



そう叫びながら俺の背中に飛び付いてきた存在。

決して弱くはない衝撃。

しかし、それを全力で以て俺は歓迎し受け止める。

俺の小さな愛妹(救世主)に心から感謝します。

よくぞ、来てくれたっ!。

お兄ちゃん、感激だよ!。


「…チッ…」と俺以外には聞こえない小さな舌打ちには気付かない振りです。

同時に互いの矛を収めます。


舌打ちが誰の物なのか。

それを知るのは二人だけ。

決して他言してはならない事は承知しております。



「あら、公路、久し振りね

何時此方に来たの?」


「おおっ、孟徳義姉様!、久し振りなのじゃ!

此方等に着いたのは少し前なのじゃ!」



俺の首に両腕を回しながら“おんぶ”する形で俺に抱き付いている少女と二人彼女が言葉を交わす。

彼女の言葉には若干の棘が含まれているのだが。

残念な事に天然が相手では効果は無いに等しい。

いや寧ろ、自分の器量の小ささを感じさせられる為言った方が傷付くのだ。

だから彼女も直ぐに一息吐いて切り替えている。

元気一杯・天真爛漫な俺の愛妹──今は従妹殿は、気付かずに彼女との再会を喜ぶ。


少女の名は袁術。

そして、彼女の名は曹操。

俺の──袁紹の許嫁だ。


そう、俺は【恋姫†無双】世界へと転生した。

それも袁紹に、だ。

“原作”では噛ませ犬所か踏み台以下の残念振り。

キャラ的には憎めないがリアルだと嫌われるだろう縦ロール大(袁紹)である。


勿論、転生した当初は単に“三国志関係の異世界”

という事しか判らなかった訳なんですがね。

程無くして彼女に出逢った訳なんですよ。

袁紹と因縁深い曹操に。

其処で気付いた訳だ。

そして俺は悲惨な未来を回避する為に本気で真剣に頑張ったんだ。

特に曹操との敵対する関係にだけは為らない様に。

そうしたら──何故なのか曹操が許嫁に為りました。

──と言うか、ええまあ、実質的な妻なんです。

とっても、深い仲です。

真名も交換してます。

超ラブラブです。


──と、そんな感じの回想に瞬間的に浸っていたら此方に遣ってきた者が居た。



「もう〜…お嬢様、少しは落ち着いて下さい

人混みでははぐれ易いと言ったじゃないですか…」



そう言って顔を見せたのは少々お疲れ気味の張勲。

しかし、腹黒くはない。

息を乱す事は無いのだが流石に人混みの中を縫って護衛の対象でもある袁術を見失わない様にしながら移動するのは大変だ。

俺の愛妹は可愛いからな。


ああ、因みに袁術の口調は祖父様の影響だ。

原作を知っている俺的には特に違和感は無いのだが張勲的には矯正したいらしい。

「女の子なのに…」と常々愚痴を溢してるしな。

だが、可愛いのだから仕方無いだろう。

可愛いは正義だ。

そう言ったら「そうやって貴男が甘やかすから…」と猛抗議されました。

うん、ごめんさない。

苦労掛けて済みません。

でも、可愛いんです!。


一つ咳払いをして、姿勢を正すと張勲は一礼する。


流石に街中で仰々しい礼は遣らないからな。

そういう真似をされる事を俺が嫌う事を知っている為合わせてくれている。

本当、優秀なんだよな。



「旦──本初様、孟徳様、御無沙汰しております」


「ええ、久し振りね張勲

元気そうで何よりよ」



一瞬、張勲が俺を見ながら“旦那様”と呼び掛けると曹操の目が鋭く為ったのは仕方が無いだろう。

何故なら袁術は側室筆頭の許嫁で、張勲も同様。

──と言うか、張勲の方は既に孟徳同様に実質的な妻だったりする。

立場上、袁術の側仕えだが実際の所は既に御手付き(・・・・)に為っている。

だから、正妻である孟徳の視線が鋭くなる訳だ。

まあ、他にも理由が有る訳だけど其処は追及しても誰も徳をしない。

だから、触れはしない。

俺は英傑ではない。

臆病者で小市民な袁紹だ。


──なんて思っていたら、孟徳の居る左とは反対の右腕が素晴らしく柔らかい弾力の有る何かに包まれ鼓動と温もりを感じ取る。



「捕ま〜えたっ♪」



そう言って下から見上げる様に俺の顔を覗き込んで無邪気な笑顔を浮かべる猫の様に気分屋な奔放さを宿す双眸で見詰めてくる。



「──っ、伯符…」



忌々し気に呟く孟徳。

その言葉通り俺の右腕を抱き締めているのは孫策。

彼女も俺の許嫁です。

…妹の孫権もです。

え?、末妹ですか?。

流石に一桁の幼女を許嫁に迎えるのは勇気が…。


「何人許嫁居るんだ?」と思うでしょう。

それなりに、です。

公孫賛・馬超・董卓・荀或・関羽に夏侯姉妹、と。

他数人です、はい。


そんな俺が思う事。

【恋姫†無双】の世界って、実は“天の御遣い”は不要だったりするよね。

袁紹一人、男なだけで大乱は起きないんだもん。

しかも転生者で加えて原作知識有りだったら。

漢王朝を内部浄化しつつ、繁栄させられる。

つまり、「袁紹、凄ぇよ…半端無ぇ…」だ。






──という感じの意外と悪くない夢を見ていたのは今は良い思い出です。


何故、【恋姫†無双】かは俺にも判らない。

他にも好きな作品なら多々挙げられるんだが。

勿論、好きな事は確かだ。

まあ、実際には【真】と【萌将伝】しか知らないしアニメや漫画・小説辺りは判らないんだけど。

因みに、俺は白蓮党だ。

キャラとしては大好きだ。

リアルな公孫家勢力入りは御断りするだろうがな。


さて、そんな俺ですが。



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!!!」



今現在、全力疾走している真っ最中だったりします。

田舎という程ではないけど、自然の多い地方出身の俺が見た事も無い位の深い森を一生懸命に駆け抜ける。

「風に為れ俺っ!」とか巫山戯た事を言ってられる余裕なんて有りません。

生きるか死ぬかの瀬戸際に立っているんだから。


所で、皆知ってるかな?。

本当に追い詰められてて必死に逃げてると叫ぶ余裕なんて物は無いって事。

兎に角、逃げる事だけしか考えられないから。

「ぬぅあぁああぁーっ!!」なんて叫べないから。

──と言うか、叫んだりしたら呼吸が乱れる原因に為るし自分で居場所を教えている様な物なんだから。

悪い事の方が多い。

だから本当に必死に為って逃げようと考えるなら、ただただ黙って一心不乱に逃げる事だけに集中。

それ以外には無い。



(──って言うか、こんなハードモードスタートな転生ライフ有りなのかっ!?

遣り直しを要求するっ!!)



──結論、世の中そんなに甘くないって事です。

異世界チートライフ?。

そんなのは物語の中だけの御都合主義だって事。

現実は常にクライマックス状態だって訳だ。


──だから誰かっ!。

誰か俺を助けてえぇええぇっっっっっっ!!!!!!!!!!。




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