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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   その声が勇気


華琳と共に一仕事終えて本隊に合流する。


本隊は相手側に適度に負傷者──生活等への支障が出ない程度の傷を負わせた──を出して、頃合いを見計らって砦に撤退出来る様に態と穴を作る。

追い掛ける()で、ギリギリで、見逃す。

まあ、流石に恋には難しい調整なので、其処は稟と詠に任せる形で、ですけど。


相手が砦に籠城したら、少しだけ攻めさせて。

上手く(・・・)孫策達が駆け付けた形を作る。

ええ、ぶっちゃけると今は獲る気は有りません。

そういう風に見せたかっただけですから。


──で、今度は宅の撤退戦です。

殿は恋と、補佐に華琳。

本隊の指揮は詠に、俺が補佐(おまけ)で。

稟には先行して貰い、念の為に退路の確保を。

詰めを誤って戦う事になるとか笑えませんからね。

そういう所まで、きっちり手を抜かずに遣ります。


そんな訳で殿は任された恋なんですが…うん。

何か、人影が宙を舞ってるんですけど?。

もしもし、恋さんや?。

貴女、ちゃんと手加減(・・・)してますか?。



「………あの、忍様……宜しいのですか?」


「おー…何か気合いが入ってるなー…」


「忍様、棒読みの台詞で誤魔化さないで下さい」



現実逃避する様に、打ち上げ(・・・・)人影花を見る。

花火とは違って爆発はしませんし、散り咲くという事も有りません。

ええ、不殺ですから鮮やかな血花は咲きません。

だから、見た目の美しさというのは有りません。

ただ、だからこそ恐怖心を掻き立てます。

──という事を考えていたのを察したのか。

詠に丁寧な言い方で注意されます。


いや、でもね、詠さん?。

アレはアレで凄い事なんですよ?、マジで。

俺達も遣れば出来ますけど、恋は素で上手い。

獲物を仕留める為に、鮮度を損なわない為に。

本当に綺麗に内部破壊を出来るんです。

生きる為、食べる為に習得・研鑽した技ですが。

本当にね、その精度は俺を除けば圧倒的に一番。

尚、俺には転生特典(チート)が有りますからね。

その御陰で兄としての面目は保てています。



「んー…不安が無い訳じゃないけど…

恋も成長してるしな、大丈夫──な筈だ…多分…」


「止めて下さい、不安に為りますから!──って、そうではなくて、彼女(・・)の件です」


迷子(・・)を家族の元に送り届ける

その何が問題なんだ?」


「……………はぁ~……こういう人なのよね…」



盛大な溜め息を吐く詠。

此方等が今の普段の話し方。

先程の丁寧さは遠回しな批難を含んだもの。

そういう事をしてくれるだけでも随分と距離が縮み気を許しているのを実感出来ます。

そして、やはりツンデレが似合う貴女は可愛い。

苦労性な薄幸さも保護欲を擽りますしね。

正直、早く思う存分に貪りたいものです。


まあ、それは兎も角として。

詠の立場からすれば「またそんな面倒な事を…」と愚痴りたくなる事でしょうからね。

だから、その点を指摘したりはしませんよ。

公の場での事という訳でも有りませんから。

其処まで御堅い事は言いません。

俺自身、そういうのが好きではないですから。


さて、その詠が気にしていた事なんですが。

彼女というのは孫尚香の事です。

まあ、詠の立場なら気にしない方が可笑しな話。

だから何も不思議な事は有りません。


──で、その孫尚香なんですが。

今、例の砦の中で御休み(・・・)中です。

ええ、それはもう、スヤスヤと安眠状態で。

尤も、孫策達は勿論、まだ砦の兵士達も気付いてはいませんけどね。

だってほら、まだ宅と交戦中ですから。

如何に籠城状態には持ち込めていて孫策達が来て、宅が撤退している最中という状況でも。

絶対的に有利・優勢では有りません。

そういう意味では集中力は切らせられませんから、砦の中の確認なんて遣りませんよ。

遣ったとしても侵入されない様に、そういう場所を限定的に確認する程度です。

砦の主君や重臣の使う部屋は無視です。

ですから、誰も気付きはしません。


そんな孫尚香を運び込んだのは俺と華琳です。

ええ、とっても大事な御仕事(・・・)でしたよ。


恋達本隊が気を引いてくれている内に砦に侵入。

華琳が同行していたのも念の為です。

俺一人でも特に問題は有りませんけど。

一応、何が起きるかは判りませんからね。

見付かる可能性も、孫尚香が起きる可能性も無いに等しい事だったとしても。

それ以外の何かが起きる可能性は否めません。


その為に、華琳を傍に置いていた訳です。

華琳と二人でなら、大抵の事は何とか出来ます。

何しろ、最強の兄妹で夫婦ですからね。

…え?、「自分で言うのかよ!」って?。

仕方無いじゃないですか。

事実なんですから。


──という惚気は置いといて。

孫尚香を手元には置けません。

それはまあ?、最終的には俺の妻になる訳ですから少し早く唾を付けても(・・・・・・)いいんですけど。

それはそれで彼女自身の、孫策達の成長する機会を阻害してしまうので。

今回は御帰り(・・・)頂きました。


「結果的には同じなんだから…」と思う人も居る事だとは思いますけどね。

ゲームと違い其処で終わる訳じゃないんで。

その先を考えると、数少ない機会を活かさない事は大きな損失でしか有りません。

だから彼女は返却したんです。


尚、眠らされたとは彼女は思っていないでしょう。

普通に案内された部屋で過ごしていたので。

ちょっと眠くなって横になった。

その程度にしか思わないでしょう。

一服盛った訳でも有りませんしね。

ええ、ちょっと氣を使っただけです。


その彼女なんですが、数日を一緒に過ごしました。

「孫尚香ではない」と否定した後、右北平郡出身の迷子(・・)の少女という体で保護。

ある意味、側に置く事で管理・監視下に。

流石に「二度と遣ったら駄目だよ?」と口頭注意で済ませて無罪放免には出来ませんからね。

別に軟禁したりする気は有りませんでしたけど。

宅の領内で彷徨かれても困りますし、抑、彼女には此方等に頼る相手は居ない訳ですからね。

変なのに引っ掛かっても後が面倒なだけです。

だから、出来る限り接触する人物が少なくなる様に配慮しながら、でしたが。

基本的に良い娘でしたよ。

ちょっとばかり突飛な事を遣りはしましたけど。

それも彼女なりに考えての事でしたからね。

其処まで責めたりはしませんよ。


ただまあ、そうは言っても簡単に済ませられる様な話でもないですからね。

その辺りは此方等としても慎重になります。

「いや~、御転婆な妹さんですね、あははっ」等と笑いながら堂々と送り届ける訳にはいきません。

それで片付けられるのなら、どんなに楽か。

俺達や孫策達が納得出来ても、世間は納得しない。

負債という意味での有名税(・・・)だろうか。

下手に隠すと要らぬ憶測が一人歩きし始める事に。

そうなったら手に負えなくなりますからね。

そうならない様に煙すら立たせません。


──とは言え、全てを晒すのも不味い。

孫尚香だけではなく、これまでに捕虜となった者も存命だと判れば安堵や、奪還する遣る気を出させる程度であれば問題は無いんですが。

「それってさ、殺されはしないって事だよな?」と思われる事は避けなければならない。

宅は兎も角、孫家側の緊張感を殺ぎますからね。

緊張感の欠如は思わぬ事故を引き起こす要因。

人為的なミスの多くは、集中力や注意力の低下から引き起こされるものですからね。

そういう要らない不安要素は潰します。


また、孫尚香が無事に戻る、というのも孫家内部に無用な火種を燻らせる事に繋がり兼ねません。

「何かしらの密約を結んだのでは?」という疑念を懐かせる事は勿論、「所詮、奴等は男に尻を振った卑しい女達でしかない」等と言われ兼ねない以上、予期出来る問題は回避します。


だから、こっそり来たので、ひっそり送る。

誰にも気付かせない事で、事実は有耶無耶に。

「拐われた?、実は勘違いでした」と。

そういう方向に落ちが付く様にね。

そうすれば戦いに出る影響は最小限で済みます。

面倒臭いですけど、こういった小さな配慮が後々に差として出てくるものなんですよ。



「…でも、彼女が喋ったら意味が無いでしょ?」


「それは大丈夫だな、話すとしても相手は限られる

姉の孫策・孫権、幼馴染みの趙雲達、一部の重臣…

これからも(・・・・・)孫家を支える者達

孫家と深い関係に在る者達だからな」


「……本当、怖い人だわ…」



「俺は優しいぞ、特に閨の中ではな」とか。

思わず言ってしまいそうになるチャラ男な俺。

いやまあ、そういうキャラじゃないんだけどね。

その場のノリで出てくる奴って居るじゃない?。

此奴もね、その類いなんですよ。

まあ、出ようとした所で他の俺達に袋叩きにされてポイッと放り投げられましたが。

ええ、君は御呼びじゃないんで。


そんな戯れ言は無視するして。

ベラベラと孫尚香が話す可能性は低い。

彼女は馬鹿ではないし、周りが見えない程、視野が狭いという訳でも有りません。

寧ろ、視野の広さ、観察力の高さは彼女の長所。

それを活かせずに問題行動を取ったのは経験不足。

純粋な実力・潜在能力でなら文句無しの逸材。

だから今の彼女に対する心配は少ないでしょう。


ただまあ、「何も無い」とは言い切れませんが。

それは現生の経験上、そして前生の知識上。

彼女が本気で手段を選ばないなら。

有りもしない事実を捏造し、吹聴する可能性だって十分に考えられる事ですからね。

尤も、そんな真似をするとは思ってはいません。

僅か数日間とは言え、共に過ごして彼女も俺の事を多少は理解したでしょうからね。

それが自滅(・・)に繋がる事は判る筈です。


はっきり言って、孫策と孫権を妻に出来れば彼女に妻となる必要性は有りませんので。

孫家の血筋としては二人が俺との子を産めば他家に政略結婚で嫁いでも俺は何も言いませんから。

そして、その逆は有り得ません。

ええ、孫策・孫権は絶対に俺の妻になって貰う。

それ以外の選択肢は死だけです。

つまり、唯一、他の選択肢を与えられるのは末妹の孫尚香だけ、という事なんです。


──で、それが理解出来無い彼女では有りません。

なので、可能性自体は無いに等しい訳です。



「…所で、アレは止めなくていいの?

さっきまでよりも確実に打ち上がってる(・・・・・・・)人影の数が増えてるわよ?」


「そうだな…まあ、大丈夫だろ」


「その根拠は?」


「華琳が付いている以上、問題なら止める

華琳が止めていない以上、まだ(・・)大丈夫だ」


「そういうものなのね…」


「そういうものだな」



普段は華琳も恋には甘い。

出逢った時には辛酸を舐めさせられた相手だったが家族に迎えてからの恋の可愛さには圧敗している。

それに、何しろ華琳にとっては初めての妹だ。

基本的に何でも許容する梨芹。

口では小言も多いが、結局は甘い愛紗。

そんな姉二人に対し不満は無かったが、自分自身が姉の立場になった事による新しい自尊心の芽生えは華琳の成長に深く影響している。

だから恋には甘くなる。

勿論、それは俺達にしても同じなんだけどな。


ただ、それ故に厳しさは俺達よりも一枚上。

そして、その厳しさの意味を恋も判っている。

だから、華琳の言う事に逆らったりはしない。

我が儘を言って怒らせもしない。

──と言うか、恋の場合は許容出来無い様な内容の我が儘を言わないし、甘え方も可愛いもの。

そういう意味でも、しっかりと線引きされている。


だから、華琳が止めていないのなら問題は無い。

余所見(・・・)して放ったらかしでもないしな。


詠からしたら、まだ見えない(・・・・)部分だろう。

ただ、それは詠と麗羽達との関係でも同じ事。

共に在った時が、積み重ねた想いが。

築き上げ、確かなものにしてゆく事。

だから、直ぐには判らなくても構わない。

詠自身が、そういうものだと理解していて。

それを大切に出来るから。


どんなに優れていようとも。

人の心を見る事は出来無い。

だからこそ、想いと時を重ねる。





 孫策side──


何処かの馬鹿の所為で始まった徐子瓏との戦い。

ただまあ、それ自体は避けては通れない事。

だから、時期的な問題は有っても、その戦い自体は何も可笑しな事だとは思ってはいない。

寧ろ、個人的には楽しみな位だったりする。


──んだけどね~…アレは無いわ~…。

何?、人が御手玉(・・・)してるみたいにポンポンと空中に舞ってるって…。

あんな娘が要るなんて想定外過ぎるわ。

ただ、見た目は可愛いのよ、物凄く。

何て言うか…こうね?、ぎゅ~ってしたくなる。

そういう小動物的な可愛らしさ。

まあ、だから余計に吃驚させられたんだけど。


取り敢えず、死者が一人も出ていない事から考えて手加減はされていたんでしょう。

腕や足、肋骨を折ってる兵士は少なくないけど。

命に別状は無いし、後遺症も無さそうだから。

…刻まれた言い表せない恐怖心は別にしてもね。



「──え?、シャオが見付かった?」


「はい、砦の奥──雪蓮様達が御使いになられます御部屋の一つで眠っていたそうです」


「朱里っ、シャオに怪我はっ?!、何かをされていた様子や痕跡は有ったのっ?!」


「はわわわっ!?」


「落ち着きなさい、蓮華」



朱里の言葉を聞き、飛び掛かる獣の様に詰め寄った蓮華を朱里から引き剥がす様に抱き寄せる。

直ぐに蓮華も自分の焦りに気付き、朱里に謝る。

こういう素直さは蓮華の良い所よね。

…私?、私はほら、言い訳が先に出ちゃうから。

だって、怒られるの嫌だし。

その辺りは小さい頃の影響よね~。


──という話は置いといて。

改めて聞いた朱里の説明によると、私達が砦に入り使用する部屋を整える為に向かった侍女が発見。

驚きながらも、ざっと確認した所、特に外傷も無く気持ち良さそうに眠っていた、という事。

侍女という立場が故に起こすのは躊躇われたけど、自身が知っている姿・雰囲気と変わり無い。

その為、朱里に報告をして、というのが経緯。



「まるで、最初から(・・・・)此処に居たみたいだと…

発見した侍女の方は言っていました」


「そう…まだシャオは寝てるの?」


「はい、ぐっすりと」


「姉様、何かしら薬を盛られたのでは?」


「何の為に?」


「それは……………」


「何もしないのに、薬を盛るとしたら、理由は?」


「…………………し、静かにさせる為?」


「騒げば、それも有り得るでしょうね

でも、シャオが単身乗り込んでいた理由を考えれば騒ぐ方が可笑しいとは思わない?」


「……………そう、ですね…」


「だとすれば、シャオは薬を盛られてはいない

下手に薬を盛ってシャオの身に何か有ったら?

それなら、さっさとシャオに手を出すわよ

その方が黙らせ易いもの

本人が望んでいる事でも有るんだから」


「……なら、どうしてシャオを?」


「簡単よ、邪魔(・・)だからよ」


「邪魔って…」


「政治的に、じゃないわよ

今、目の前に迫っている戦いに、よ

シャオが無事な方が戦い易いでしょ?」


「それは………え?、まさか?」


「そのまさかよ、多分ね…本当、怖いわよね~」




──side out



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