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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   舞う綿毛も見ず


孫尚香──言わずと知れた孫家の姫君。

原作では孫家三姉妹の末っ子で、おませな娘。

呉ルートのマスコットガール的な存在。

姉の孫策に近い性格だが、戦闘狂の一面が無い分、その人懐っこさが存分に魅力として働く。

勿論、人によっては、それが気に障る事も有るが。

客観的に見れば、決して嫌な印象は持ち難い。

そんな“みんなの妹”的な可愛らしさが有る。


好奇心旺盛で、似たポジションに馬岱が居る。

二人が絡むシーンは無かったと思うが…曖昧。

ただ、ガッツリ絡んでいたら印象的なシーンなので記憶に無いという事は、そういう事なんだろう。

原作で積極的に主人公を食いに行く肉食系小悪魔。

馬岱以上に、その容姿も相俟って似合うから困る。


何だかんだで馬岱は周囲への気遣いが出来る。

だが、原作の孫尚香は「シャオが一番だよね?」を地で行く我が儘姫の一面も持っている。

…あの姉と、この妹に挟まれている孫権の気苦労を考えると心底労いたくなりますからね。

本当…貴女は頑張っていますよ。


──という話は置いといて。

孫尚香は原作では数少ない非性別逆転のキャラ。

そして、ある意味では三国志で最も代表的な女性。

もし、三人を挙げるなら、確実に一人は孫尚香。

そう言い切れる位に、三国志では有名な女性。


また史実に置いても女性であるのは“真”では彼女だけだったりもする。

勿論、それは知っている(・・・・・)事が大前提の話だが。

それ故に、ちょっとした付加価値(・・・・)でもある。

稀少・レアっていう言葉に人は弱いですからね。


因みに、孫家内では孫策と孫権にスポットライトが当たりますが、史実だと他にも兄弟は居るそうで。

妹も孫尚香以外にも居たとか居ないとか。

まあ、時代が時代ですからね。

全てが全て判明しているという訳では有りません。

其処が歴史研究の面白さであり、醍醐味。

未知に対する挑戦であり、過去という足跡を辿って目指して行く宝探しの様なもの。

だから、ワクワクするし、楽しいんでしょうね。

研究自体は物凄く地味で地道な作業だとしても。


ただ、真実の究明を妨げるのは常に人の欲。

偽物の作ったり、掴まされたり。

研究資金の調達、歴史的な快挙への執着。

そういった事が原因で、自ら汚す人も少なくない。

それだけに、残念だと思わずには居られないのも、歴史研究に関わる人々の一つの真実の姿。

そういったドキュメンタリーを作れば、世界各地にネタは存在している事でしょう。

しかし、それを公にする事は、その裏側(・・)を見せる事でもある訳ですからね。

先ず、実現する可能性の無い話です。

国際的な批難を受ける可能性が有る以上はね。

政治家や研究者も人ですから。

己の保身を考える事は仕方が有りません。

真実の究明の前に、自分達の潔白を証明する。

その覚悟や度胸は…まあ、無いでしょうから。

だから、“真実は過去()の中”、なんです。


──という現実逃避は終わりにして。

案内されて応接室に遣って来た少女を見る。

原作とは違い、南部の出身者ではなくても結構多い褐色の肌は晒されていると健康的で目を引く。

容姿は原作の姿と殆んど変わらない。

一目見て、彼女が誰なのか。

誰の妹なのか。

それを直ぐに察する事が出来る。

それ程に特徴的なのだから。


部屋に入り、俺が着席を促すと対面に座る。

きちんと一礼し、立場を弁えた態度からは、報告で聞いていた印象は窺えない。

その所作や雰囲気は見事な御姫様なのだから。



「初めまして、貴男が徐子瓏?」


「ああ、そうだ、それで君は?」


「孫幼企(・・)、“孫家の弓踊姫”っていうのはシャオの事なんだから!」



──と言って、「どう?、可愛いでしょう?」と。

自信満々で、堂々とする姿は正に怖いもの知らず。

この場に華琳を同席させなくて良かった。

如何に俺が彼女の言動を許容しようと、華琳が許容するとは限らないからな。

後々の事を考えると変な禍根は要りません。


それはそうと彼女の言動のギャップが凄いな。

さっきまでの印象が一瞬で一転するんだからな。

大胆不敵と自信過剰は言葉にすれば全く違うけど、実際には区別する上では実は微妙なグレーゾーンを含んでおり、基本的に触れはしない。

明確に線引き出来無いし、面倒臭いから。

だから、今の彼女もグレーゾーンに立っている。

本人は全く気付いていないんだろうけどね。


ただ、胸を張っている姿は背伸びしたい御年頃感が満載で非常に可愛らしい。

孫策の名を出さず、「孫家の」と強調しているのも自己主張と承認欲求から来る発言。

「私の名前は“孫策の妹”じゃないの!」と。

噛み付くよりも早く威嚇している仔犬の様で。

思わず手を伸ばして頭を撫でたくなります。

「へぇ~、君が有名な…会えて光栄だよ」と言って軽くヨイショしながら、ですが。


尚、子供扱いされて怒ったら揶揄うだけです。

ええ、それはもう遠慮無く、躊躇無く、容赦無く。

先の明命の美以に対した時の様にね。

心を、ポッキリと折りに行きますとも。

勿論、それは“たられば”の話です。

実際には遣りませんよ。



「ふむ…確かに彼女の事は話には聞いているが…

君は自分が本物の孫尚香だと証明出来るのか?」


「ちょっと~、シャオが偽者だって言いたいの?

それとも嘘を吐いてるって思ってる訳?」


「普通に考えれば、先ず有り得ない事だろう

噂に違わぬ、可愛らしさだしな」


「ふふん、そうでしょ~?」



疑われて不機嫌になったかと思えば、少し褒めれば機嫌を良くし、嬉しそうにする孫尚香。

単純と言うか、子供と言うか。

まあ、そういう所も彼女の魅力なんですけどね。

ただ、俺が兄だったら滅茶苦茶心配しますよ。

その純粋さ故に傷付けられる可能性が高いので。

如何に「傷付く事も成長には必要だ」と言ってても傷付かずに済むのなら、その方が良いので。

そう為らない様に色々と(・・・)頑張る事でしょう。


それはそれとして。

俺自身、言葉とは裏腹に疑ってなどいない。

知っている(・・・・・)という事も有るが。

ちゃんと事前確認は遣っていますからね。

目の前の彼女は間違い無く、孫尚香です。

ただ、それは飽く迄も俺個人の認識でしかない。

だから、ある意味では証拠としては不十分。

状況証拠からの推測みたいなものなんです。



「しかし、もし仮に君が本物の孫尚香だとするなら孫策は一体どういうつもりで君を寄越した?

まさか、「妹を贈るから赦してくれない?」とでも言うつもりなのか?」


「そんな事、御姉様が遣る訳無いんだから!」


「だが、この状況から考えれば、そうなる

そして何よりも孫尚香が此処に居る事が問題だ」


「むっ…何でよ~?」


「判らないか?

君が本物の孫尚香だと言うのなら、その事実自体が宅と孫家との対立する理由になるからだ」


「……え?」


「姉である孫策達、親い者達は兎も角としてもだ

孫家に仕えている者達、支持している民達の多くは大切な姫君を拐われた(・・・・)と思うだろう

そうなれば、徹底抗戦…そうでなくとも、無意味に犠牲を増やし対立を長引かせる事になる

宅は言い掛かり(・・・・・)で犯人扱いされるな

当然、そうなれば、捕虜とする事も難しくなる

無理に捕まえ様として負傷者が、最悪犠牲が出れば捕虜にする考え自体を止める事になる

それはつまり、鏖殺(・・)を意味する

戦場に立つ者だけではない

後々、火種(・・)となる可能性は全てだ

そうなった未来を、御前(・・)は想像出来るか?」


「…そ、そんな……そんなつもりじゃあ…」



浅慮な言動は否めない。

だが、決して全てが愚かな訳ではない。

こうして具体的な話をして遣れば、きちんと聞き、そして想像して、理解する事が出来る。

そういう素直さは姉達よりも幼いが故のもの。

姉達は姉達で背負っているが故に簡単には自分達を変えたり、曲げたり出来無い。

特に孫権の方はね。


まあ、それを変えるのが男としての腕の見せ所。

──なんて強気な発言は考えても出来ません。

迂闊に言おうものなら、教祖に利用されますから。

俺の意図しないカリスマ性は要りません。

それはもうカリスマ性ではなく、プロデュースされ人工的に装飾された偶像(イメージ)ですから。

そんな物を押し付けられても迷惑なだけなので。

あと、カリスマ性を求めてもいませんから。


それは兎も角、花が萎れた様に元気が無くなる。

考え方によっては、「やっと静かになったな」等と思うのかもしれないが。

俺としては、その萎れている姿に好感が持てる。


自分の事しか考えられない者との大きな違い。

それが、他者を慮り、慈しむ事が出来るという事。


まだ幼く、考えや言動も稚拙だが。

それでも、彼女は生まれながらの上位者。

人々の上に立ち、支配するのではない。

人々を上に立ち、傘や屋根の如く守護する存在。


今は若木──いや、幼木かもしれないが。

姉達が、父母が、祖父母が彼女を守っていた様に。

彼女自身も軈て、その大樹となる事が出来る才器。


だからこそ、今、一つの痛みを知った事が大きい。

自らの過ちを理解し、後悔出来るのなら。

それを反省(・・)へと繋げ、成長出来る。

その可能性を、こうして見せているのだから。



「もう一度だけ聞く、君は(・・)孫尚香か?」


「……………違います…」



声を絞り出す様にして答える孫尚香。

自尊心を優先すれば否定したくはないだろう。

だが、此処で「だから、そう言ってるでしょ!」と言えば決して消えない大罪と傷痕を刻んで遣る事になっていただろうが…。

まあ、正直、その心配はしていなかった。


彼女は上っ面だけの御姫様ではない。

その性根には姉達にも負けず劣らぬ優しさを持つ。

自分の我が儘の為に民を犠牲にはしない。

民の為になら、自分を犠牲には出来てもな。


実際の所、今回の行動は無益な戦いを回避し和睦を結ぶ為に単身遣って来たんだろうから。

その意味では、評価出来る。

遣り方が稚拙で、状況が見えてはいないが。

それは彼女自身の経験不足が故の事。

だから俺の評価は下がりはしない。

寧ろ、上がった位だ。



「そうか、まあ、あんな風に言いたくなる気持ちも理解出来無い訳じゃない

君の年頃なら背伸び(・・・)をしたりしたくなる

だから、ちょっとした悪戯(・・)なんだろう

ただ、軽々しく言ってはならない事でもある

その辺りは反省し、繰り返さない様にね」


「………はぃ………」


「君は君らしく、君に出来る事を遣ればいい

君にしか出来無い事というのは必ず有るからな」



そう言って孫尚香の頭を撫でる。

数々の妹達を育て上げている兄ですからね。

こういう時の年下への対応には慣れています。

勿論、慣れてはいますが、誰でも全く同じ遣り方をしているという訳では有りませんよ。

ちゃんと一人一人に合わせて、ですから。

兄は妹の為には手を抜きませんし、惜しみません。

それが愛妹紳士()という生き物ですから。


此方等を見上げる孫尚香。

安心させようと笑って見せると──顔を背けた。

「どうした?」なんて言いませんよ、ええ。

経験から、この反応がどういう意味なのか。

それが判らない程、鈍くは有りませんからね。


でもね、孫尚香さん?。

貴女、ちょっと簡単に落ち過ぎじゃ有りません?。

もう少し頑張って下さい。

……え?、「それは無理です、御兄様」って?。

「御兄様の偉大な愛の前には逆らえません」って、そんな訳無いと思うんだけどな~…。

──と言うか、我が愛妹よ、遂に電波による会話も可能な域に到達したか…。

いや、冗談ですよ、冗談。

現実逃避する為の雑念です。


ただ、華琳なら本当に言いそうだとは思います。

知っているからこそ、その想像も現実的。

……いや、華琳なら孰れは本当に念話が出来る様に成りそうですから、怖い。

だって、華琳の原動力は俺への愛であり、俺からの愛なんですからね。

その愛は不可能を可能にします。

冗談でも大袈裟でも贔屓でも妹馬鹿でもなくて。

愛は偉大なんですから。





 孫策side──


何とか各地の鎮火(・・)を終わらせ、合流。

蓮華達が無事に帰還していた報告は受けていた。

ただ…コレは流石に予想外だったわ。



「シャオが一人で臨渝県に、ねぇ~…」


「姉様!、直ぐに兵を集め向かいましょう!」


「はわわっ、落ち着いて下さい、蓮華様!」


「いや、何方も落ち着けって」


「御主は少しは緊張感を持った方が良いぞ?」


「えー…そっか~?

でも、どうしようもないだろ?」


「まあ、確かにな」


「星!、猪々子!、貴女達も真剣に考えてっ!」


「だがしかし、蓮華様、ある意味、シャオ様は最も安全な場所に居るのでは?」


「でも、それはシャオの命は、でしょう?

シャオが無事(・・)とは限らないわ」


「それならそれで好都合では?

シャオ様が寵愛を得たなら、悪い話ではない」


「なっ!?、星っ!、貴女は──」


「はいは~い、二人共、其処までよ

此処で言い争ってたって仕方無いでしょ?」


「──っ……それは…そうですが……でも!」


「判っているわ、見捨てるつもりはないもの

ただね、蓮華、星の言ってる事も最もな話よね?」


「………はい」


「それに、この幽州に今や徐恕以上の男が居る?

少なくとも私には彼以上の人物を挙げられないわ

だから、もし、彼に要求されれば私は拒めない

──と言うか、私から彼を求めるわ」


「姉様ッ!?」



私の発言に声を裏返らせて驚く蓮華。

生真面目な娘だから仕方が無いんでしょうけど。

もう少し頭も心も軟らかくしないとね~。

その胸や御尻みたいに。

──という余計な一言は言わない。

言ったら、更にカッカするだけだもの。

それに、今のは羞恥心から来る反応だし。

下手に煽らない方が意外と鎮火は早いのよ。



「そんなに驚く事じゃないでしょ?

私にしろ、貴女にしろ、女として生まれたのなら、自分が選んだ男の子を産みたいもの…

私の場合、他には考えられない、というだけよ」


「……そうかもしれませんが……シャオは…」


「シャオの場合は自業自得ね

まあ、そう為っていたら、っていう話だけど」


「ふむ…雪蓮様は違うと?」


「私が彼なら、シャオに手を出すなら、蓮華を先に捕まえて手を出すわ」


「────ッ!?」



そう言ったら、蓮華が反射的に両腕で自分の身体を抱き締める様にして隠した。

あのね?、私が襲う訳じゃないのよ?。

そういう話をしてるだけだから。



「ああ、確かに…私や猪々子にしても同じですな

シャオ様よりも子を孕ませるにしても良い年頃…

蓮華様や我等を見逃し(・・・)はしませぬか」


「そういう事、だから先ず大丈夫よ

寧ろ、問題は此方側だもの」


「……此方、ですか?」


「シャオの一件で騒ぐ輩が出てくるわよ、必ずね」


「「「…ぁ…あー……」」」


「成る程、それは確かに問題ですな」


「ええ、本当にね」




──side out



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