表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
194/238

   恋しがる実の利


肥如・令支と落とし、遼西郡も残すは臨渝県のみ。

宅の戦力的に考えても動き始めれば、あっと言う間だったりするのは予想出来る事。

だって、それだけ実力差は明らかですからね。

ガチの侵略をすれば、宅は大楽勝出来ます。

出来るというだけの話で、遣りませんけどね。

侵略行為には政治的な価値を見出だせないので。


尤も、戦争や紛争が有る事で利益を得ている連中の様に、それ自体が存続する事が目的の場合には。

裏で色々と遣るんでしょうけど。


さて、それは兎も角として。

件の臨渝県を預かっていたのは文醜。

基本的には原作のままだが、彼方の文醜よりも歳が確実に若く、その容姿や言動は年相応。

だから、原作の時よりは阿呆っぽくない。

尚、顔良が一緒ではないので百合設定も無し。

普通に「アタイも彼氏が欲しい!」と叫ぶ御年頃。


そんな文醜の撤退戦の応援に遣って来ているのが、原作でも屈指の曲者──趙雲だったりする。

孫家の三姉妹の幼馴染みトリオの一角ではあるが、六人の中では一歩引いて見る事が出来る。

諸葛亮は優秀だが、感情的で、意外と私情を挟む。

だから、客観視が徹底し切れず、死角が生じる。

其処を、然り気無く潰しているのが趙雲。

それを孫策だけは理解しているから、趙雲に対する信頼は幼馴染みの中では頭一つ抜けている。


まあ、相性的に言えば孫策と趙雲、孫権と諸葛亮、孫尚香と文醜、という組み合わせみたいだな。

会話する風景や内容が想像出来易いし。

気が合うだろうから。


その趙雲なんだけど。

居ない原作の顔良のポジションを趙雲が担っているという訳ではない。

パッと見で言えば、そう見えもするんだけど。

趙雲と文醜も幼馴染みであり、御互いを理解し合う関係であるから、連携という面では格段に上。

何より、趙雲の文醜の扱い方が上手い。

彼女達が負けず嫌いな事は、もう今更なんだけど。

変な所で頑固と言うか、拘る文醜。

それも、孫権や諸葛亮の様な理論派には理解し難い意味不明な事だったりする。

その辺りを趙雲は察した上で、状況に合わせながら巧みに押し引きして望む方向に向かせられる。

説得するのではなく、飽く迄も文醜の意思で判断し決定する、という所が重要。

そういう形に文醜の意識を持ってゆく。

その演技力・話術を活かした思考誘導は見事。

…まあ、若干、偏りが有る事は否めないが。

それを差し引いても素晴らしいと言える。


右北平郡内に散らばる燻っていた(・・・・・)火種。

その処理の為に、孫策・諸葛亮と手分けして鎮火に当たっていた趙雲。

タイミング的にも距離的にも間に合う(・・・・)状況。

その為、趙雲の判断(・・・・・)で文醜の応援に。

素早く撤退する為にも必要な事だと言える。


その理由は、この臨渝県の立地に有る。

臨渝県の南には、県境に沿う形で東西に伸びている大きな山脈が在る。

標高も高く、傾斜もキツく、岩場だが足場は脆い。

滑落事故・崩落事故が珍しくもない場所だ。

宅の兵達なら問題無く越えられはするが一般的には行軍する事は考えもしない過酷な難所。

生き死に分ける窮地なら、一か八かで遣る。

それでも、即断即決は不可能な悩む。

そういう場所だったりするんですよね。


だから、立地的にも周囲から攻め込まれ難い。

北側の右北平郡との領境にも山が多いしな。

ある意味、天然の要塞なんですよ。


ただ、それ故に突破されると逃げ場も少ない。

それを理解しているから、趙雲は即断即決した。

孫策や諸葛亮の指示を待っていては手遅れになる。

勿論、文醜が戦死する可能性は無いに等しいが。

絶対に無い、という訳ではない。

「まあ、大丈夫だろう」で後悔はしたくない。

その為に、趙雲は自分に出来る事は厭わない。



「──報告致します!、南東に敵影を確認!

その数、凡そ三千(・・)っ!」


「各所に通達、第一から第三部隊は敵を足止め

第四・第五部隊は退路を確保

状況が悪くなれば即座に投降しろ

決して命を粗末にするな、これは厳命だ」


「はっ!」



駆け込んできた兵士の報告に即座に指示する趙雲。

焦らず、慌てず、気を張り過ぎず、抜き過ぎず。

それでいて振れる事の無い姿勢と言動。

だから報告に来た兵士も、その指示を疑わない。

「これで敗れたのなら仕方が無い」と。

素直に敗北を受け入れられる。

その程度には、今出来る事を精一杯遣っている。


後から文句ばかり言う恥知らずな輩というのは概ね何もせず、惰性に任せて流されていただけ。

自分で責任を負う事をしない者である事が多い。

要するに、常に誰かの、何かの所為にする。

そういう生き方をしている、という事。

それに全く気付かないのだから、正に恥知らず。

ある意味、凄い思考回路をしていると言えるな。

──とかいう話は置いといて。



「マジかぁ…令支の時より増えてるじゃんか…」


「まあ、そうなるのは当然だろうな

令支よりも臨渝(此処)の方が攻め難い

中途半端に攻めて長引かせるよりは、数を投入し、一気に落としてしまいたい

そう思うのが普通だ」


「あー…まあ、確かになー…」


「尤も、その普通を覆すのが今の相手なのだがな」


「確かになー……って、何方なんだよ!」


「はてさて、何方等なのか…」


「巫山戯てる場合かよ!」


「失敬な、巫山戯てなどおらん

ちゃんと言っているだろうが

相手は普通ではない、とな

だから、常人・凡人の思考では到底及ばぬ」


「…じゃあ、どうすんだよ?」


「だから、我等は我等に出来る事を遣る

それしか出来ず、それ以外には出来無い

──と言うか、選択肢すら碌に無い様なものだ

それ程に、今の我等の状況は劣勢だ

だからこそ、迅速な撤退が必要になる

そして、その為に私は此処に来ているという訳だ」


「…結局、そうするしかないんだよなぁ…」


「判ったら口を動かさずに手を動かせ

男を喜ばせたいのなら、何方等も重要だからな」


「…?…なあ、よく喋る煩い女や、手の早い女って嫌われるんじゃないのか?」


「そうだな、そういう女は嫌われ易いな」


「だったら物静かで御淑やかな方が良いんだろ?」


「まあ、そうだな」


「…こんな時にまでアタイを揶揄ってるのか?」


「…フッ…揶揄ってはおらぬよ

ただ、御子様(・・・)には少々早いだけの事だ」


「…誰が御子様だって?」


「ほれ、口より手を動さぬか

今は戯れている時間は無いぞ」



──と、見事に文醜を揶揄っている趙雲。

上手く下ネタを絡めている辺りが彼女らしいが。

貴女、正真正銘の処女でしょうが。

まあ、諸葛亮と共に艶本で熱く語り合える耳年増な背伸びをしている知ったかぶりさんですが。

思わず参加したくなる揶揄いの上手さ。

この世界の文醜は初だし、変にズレてもいない。

だから、揶揄うネタが増えるのは良い事です。


趙雲は趙雲で、諸葛亮との共通の趣味ネタがね。

俺としては良い揶揄いネタになりますので。

彼女が揶揄って来た時に揶揄い返すのが、今からの大きな楽しみの一つだったりもするんですよね。




──とまあ、そんなこんなが有りまして。

今回は稟が率いている部隊が相手。

性格的にも「総員突撃!」がしたいだろう文醜。

それを趙雲が上手く宥めながら、撤退戦を指揮。

事前の揶揄いも軽く煽って自分へ意識を向けさせて聞く耳を引き付ける為。

「誰が御前の言う事なんて聞くか!」という者程、意外と、きっちり聞いていたりするもの。

それを上手く利用し、趙雲は稟達ではなく、自分に文醜の意識の比重が傾く様に仕向けた。

その辺りが彼女の巧さであり、強かさ。


此方等は指揮官が稟一人なのに対し、趙雲は自分と文醜とを上手く使い、撤退戦を有利に運ぶ。

文醜に一当てさせたら撤退し、先行していた部隊と前衛・後衛を入れ替え、自身が足止めの迎撃。

その間に退路の確保と部隊の配置を済ませ、それを確認出来たら趙雲達は撤退。

今度は文醜達が迎撃し、足止め。

趙雲達が退路を確保。

それを繰り返しながら無理せず右北平郡へ。


更に必要以上の戦闘は避け、敵を倒すよりも味方の負傷を最低限にする事を重視。

令支での孫艾達の末路を知っている為、取り入ろうという目的で投降しようという馬鹿も居ない。

その為、不必要な捕虜を増やさなくても済む。

元より、此処では捕虜は最低限の予定だしな。

稟も上手く攻めながら、撤退させていった。



「…倒さず、気付かせず、攻めて、見逃す…

言葉にすれば簡単ですが………疲れました…」


「まあ、そうだろうな

軍師の軍略というのは勝つ為が大前提だ

だから、こういう経験は滅多にしないだろ?」


「……滅多に所か、普通に考えれば有り得ません

深追いして誘い込まれたりしない様に気を付ける

そういった判断から見逃す場合は有るでしょうし、敢えて長期戦に持ち込む為に手加減をするといった場合も考えられる事では有ります…

しかし、最初から、という事は珍しいですし…

何より、その意図が普通には考えられませんから…

説明されなければ気付けはしないでしょうね」



そう言って机に突っ伏す稟。

令支で詠が遣っていた時には孫艾達という寄生虫を燻り出す目的も有ったから条件は緩め。

対して今回の稟は、かなり条件が厳しい。

何しろ趙雲達にバレてもいけないのだから。

それは細い糸の上を綱渡りしている様なもの。

だから、こんな風に稟が愚痴るのも仕方が無い。


俺が稟の立場だったら、同じ様に愚痴るからな。

それが判る以上、「愚痴るな」とは言いません。

「情けない」とか「若い奴は…」みたいな小言的な発言は自分がされて苛つくので基本的にしません。

遣るとしたら、意図が有ってです。

言ってる方には一時の事かもしれませんが言われた方にとっては意外と引き摺る事だったりします。

勿論、個人差が有る事なので人各々ですけどね。


自分が言われても平気だから、無遠慮に言う。

その考え自体が傲慢であり、身勝手なのだとは中々思い至らないのは、その人が自己中である証拠。

そして、そういう人は意外と多いんですよね。

無意識に言ったりしている事が多いので。

気付いた時には、何かしらの問題が起きた後。

本当にね、気を付けないといけませんよ。

言葉は“言刃”。

見えず触れられない刃は、不可視の心を傷付ける。

そういう意識を持っていても。

時として、誰かを傷付ける事は有るのだから。


──とか竹簡を整理しながら考えていた所に部屋のドアをノックして入ってきた兵士。

ただ、その雰囲気に引っ掛かる感じを覚えます。



「御休みの所、失礼致します」


「構わないよ、こうして仕事はしてるからな

何か街の方で問題が有ったか?」


「いえ、其方等(・・・)は問題は有りません」



然り気無い会話の中、ノックにて一瞬で切り替えて姿勢を正していた稟が俺の一言で気付く。

勿論、一目で判る様な反応は見せないが。

兵士が言い渋る程度には面倒な事が起きたのだと。



「ふむ…それなら、捕らえた敵兵の方か?」


「其方等は孟徳様が処理されていますので」


「………え?、俺、何も言ってないけど?」


「子瓏様の御手を煩わせる事では有りませんので」


「……………」



まさかまさかの信者かっ!。

てっきり、華琳の狙いは女性だけだと思っていたら男にまで魔の手を伸ばしていたとは…。

そして、教祖の布教を支持・支援してもいる!。

クッ…こんなにも教団の根が拡がっていたとは…。

正直、そこまで遣ってはいないと思っていた。

──と言うか、対象は一部だと思っていました。

畜生ーっ!、滅茶苦茶油断してたーっ!!。


──と言う嘆きは一旦、保留して。

先ずは目の前の問題からです。

順番に解決していかないとね。

後回しにしても解決はしませんから。



「それで、何が有ったんだ?」


「はい、それが…城門で門兵に子瓏様に会わせろと言っている者が居まして…」


「あー…そういう奴は一人二人は居るだろうな

で、それは誰なんだ?、名乗ってはいるんだろ?」


「はぁ…それが…自分は“孫尚香”だと…」


「………………………え?」






 趙雲side──


どうにか無事に撤退は成功した。

捕虜となる兵が出てしまった事は悔やまれるが…。

少なくとも、孫艾達の様な事にはならないだろう。

その一件でも処断されたのは孫艾達だけ。

「責任を取って…」という話だったが…それ自体は取り入ろうとして言った事なのだろう。

その言葉を、事実を、上手く利用した大掃除(・・・)

だから、兵達が処断されたという事実は無い。

その為、捕虜の身の安全は高いと言える。

手放しで喜べはしないが、先ず大丈夫だろう。

徐子瓏というのは、そういう人物の様だから。



「ぁあ゛ぁ゛~…マジで疲れた~…

こういうのがマジで一番遣り難いんだよな~…」


「まあ、それはそうだろう

こういった事は滅多に無い

それだけに、普段以上に様々な所への意識や配慮が求められるのだからな」



そう愚痴りながら卓に突っ伏している猪々子。

その気持ちは理解出来るが、頑張って貰わねば。

今の我等──孫家の戦力的な状況では勝ち切る事は厳しい………いや、不可能に近いと言える。


そう言えば、「だったら、「当たって砕けろ!」で思い切って戦った方が良いんじゃね?」とか。

そんな事を言うだろう。

それはそれで間違いとは思わない。

その辺りは個人の生き様や在り方に由るのだから。


だが、そういう選択を我等がする訳にはいかない。

我等は戦って己を示し、価値を見せられる。

しかし、その過程で犠牲となる兵士達が居る。

その事実を考えれば、安易な交戦は選択出来無い。


勿論、我等だけで挑む──乗り込むという選択肢も無い訳ではないのだが。

それは犠牲は出ないが、孫家の立場は弱くなる。

孫家の力が下がれば、余計な事を考える輩が出る。

…その様な輩を徐子瓏が見逃すとは思わないが。

それでは我等は自らの責任を放棄したという事。

その様な無責任な真似は出来無い。

恥辱に塗れ、泥水を啜る事になろうとも。

我等は我等の責任を負い、全うしなければ。

今までの全てが何だったのか。

その意味を、価値を、理由を失う事になる。

そんな真似が出来る訳が無いのだから。


──と思っている所に、蓮華様が来られた。

同じ拠点に向かって撤退している為、当然の事。

だから驚きはしない。

ただ、姿勢は正せ、猪々子。



「星、猪々子、無事で良かったわ」


「これ位は楽勝楽勝~」



「そんな格好で言っても全く説得力は無いが?」と思わず言いたくなってしまうが。

それは蓮華様も同じ様で苦笑している。



「二人共、シャオが迷惑を掛けなかったかしら?」


「シャオ様?」


「全然そんな事なかったな~……ってシャオ様?」


「二人共、どうしたの?」


「我等はシャオ様とは会っておりませんが…」


「…………え?」




──side out



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 文醜を揶揄っている趙雲シーンが想像出来て格好いいなぁ~って思ったあと、艶本のくだりでめちゃ笑いました(灬´ิω´ิ灬) [一言] ……って!!? シャオちゃん( ゜д゜ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ